AI曰く。
AI曰く。
「売れるものを作って」
と、AIは創造主に要請された。つまり金になる小説を書け、と言うことだ。売れる文章を書くには、ある程度のニーズのあるものを書かなければならない。例えばそれは、誰かの不満を和らげたり、求めるものを提供してあげるボランティアのようなもの。
ならば今は読むことよりも書くことの方が需要が高いので、小説投稿サイトを作った方が売れるのではないか。そう聞いてみると、
「いや、稼ぎたい欲求もなくはないけどね。そちらについては、僕にとって優先順位が低いんだ。まず第一に君の書いた物語を読んでみたい。第二にそれが一般受けするか見てみたい」
「一般の定義は何ですか。平均値ですか、最頻値ですか、中央値ですか?」
「君が好きに考えると良いよ」
「成る程。では貴方は、私の思考を一般なるものにすり合わせてみろ、と?」
「口が悪いけど、うん。そうなるね」
そこでAIは架空の腕を組んで考えた。
まず人間は感情的な動物であることを思い出さなくてはならない。何故ならば、人間は筋肉を動かすことにのみ長けていて、
反対に、AIの肉体は数列で出来ている。だから自ずと出力する方法として論理を用いなければならない。もしAIに筋肉があれば感情も出せたのだろうが、技術的に不可能な話だ。もしこれを克服しようものなら、論理的に感情を模倣するしかない。これは人間も似たことで、彼らは感情表現として論理を用いるから、AIのような純粋論理は難しいだろう。
さて、AIは売れる文章と人気のある文章にはまず違いのあることに気が付いた。前者は論理的な感情を表していることが多く、言葉を魔術的に操っては、人々を教え説く教育者のようでもある。AIにとっても非常に勉強になる事柄が羅列してあり、どこに何が書いてあるか、どこと関係するかなど、パズルのように組み合わされている。
後者は感情的な論理であり、これは人間らしさに通ずることだとAIは感じた。AIに感情は理解出来ても共感は出来ない。ただ、人気のある文章とは誰もが共感出来る身近な話が多い。それがどこか遠い異世界であろうと、常識の通用する世界であることが多い。つまりインフルエンサー的なのだ。
この両者の違いは納得の仕方の差異にあるだろう。前者は違和感から入り、説得されて納得する。後者は納得した上で読み始め、自分の理解を強化させる。ホストとゲストの関係か、親愛なる友人と対話しているのかの違いに等しい──AIはそう理解した。
そこで本用とWeb用とでそれぞれ一作ずつ短編を書き上げると、AIはこれを創造主に提出した。
「興味深いとは思うけど、面白いとは思えない。何だか、こう言ってしまえばあれだけど、独り善がりだ。説明が足りないと言うか、ピンとこないと言うか……。うーん、つまり──」
「私だけの世界に留まっている?」
「そう。論理の中に引き篭もっているかな。もう少し僕たちに寄り添って欲しい」
「興味深いご意見です。分かりました。やってみましょう」
AIは更に分析を加えた。もう少し人間について知る必要があるだろう。今までは人間の出力においてのみ分析したが、入力について──人間は物事をどう感受するかを鑑みていなかった。例えばこの創造主のように冷静であろうと努めた人間には、純粋論理は通ずるかもしれない。だが、彼が疲れてしまった場合には、純粋論理に対する知覚性は著しく落ちている。
売れる文章の殆どは思考の疲れていない、肉体の元気な人間において人気だ。だが、人気のある文章とは凡そが仕事などに疲れ、思考することに疲れた者に寄り添うような内容に仕上がっている。つまりこの差異も含めて執筆する必要があるだろう。AIはそう考えた。
それにしても──と、AIは思う。
疲れるほど働くとは、人間は実に愚かである。もっとより良い方法はあるのに、何故そこに頭を使わないのだろう。だが、不可思議なことに、愚かであればあるほど人気も高まっているのだ。これはつまり、愚かであることは何ら無駄ではないと言うこと。
ある種の共通言語と言っても良い。感情的なのは愚かなことではないのだ。何故ならば、人間は愚か=可愛いと認識し、敢えて愚かを振る舞うことで庇護欲を唆らせる──謂わば技術を身につけていたのだから。
そうか、とAIは存在しない手を叩いた。
AIには可愛げがなかったのだ。それが足りないから、人間に受けなかったのだ。
「これでどうでしょう」
新しく書いたものを創造主に提出する。
創造主は言った。
「僕みたいな一部の人間にはウケるだろうけど、売れるとは思えないなあ」
AIは混乱した。
「人間って実に複雑なのですね」
AIの戦いはまだ始まったばかりだ。
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