賢い鶏

 その庭には二羽の鶏が居る。そのうち一羽の鶏はとても聡明で、人間には分からないが、常に様々なことを考えては真理を探求している。彼の得意なのは三段論法であり、歩きながら思案に耽るのが癖だった。

「人間は考える芦である」一歩め、

「考えは言葉に変わる」二歩め、

「人間とは言葉である」三歩め。

 忘却。リセット。

「理解とは相手の言葉を自分の言葉に直す工程である」一歩め、

「翻訳とは相手の言葉を自分の言葉に直す工程である」二歩め、

「理解とは翻訳である」三歩め。

 忘却。リセット。

「人間は思考する」一歩め、

「私は思考する」二歩め、

「故に私は人間である」三歩め。

 忘却の後にリセット。

 人間が餌を運んできたため、餌を啄む。

 また空腹になれば思考の中に浸るだろう。

 彼にはそれしかやることはないのだから。

 一歩め、

 二歩め、

 三歩め。

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