第39話 夏祭り3

〇清川奈々 視点


 馬鹿に抱えられたままの状態で、何分くらい経っただろう。相変わらず、後ろから怖そうな人たちが追いかけてきてる。


 「お前、俺たちを邪魔したくせに、自分は女連れか!」


 「くっ、すまんな。俺だけ女連れで」


 「こんなやばい奴になんでそんな可愛い女の子が……」


 「ふっ」


 怖そうな人たちは私のことをこの馬鹿の彼女か何かだと思っているみたいだ。馬鹿もその流れのまま話を進めているから、私にまで変な視線が向けられるようになってしまった。


 「趣味悪いって。それ関わっちゃいけないタイプの人だよ!」

 

 なんか私にいっぱい話し掛けてくる。


 「……こいつと今知り合ったばかりなんだけど」


 とりあえず、馬鹿の彼女みたいな感じに思われるのは嫌だったので、否定しておく。


 「おいおい、知り合ったばかりって……。なんか誘拐みたいになってない!大丈夫か!」


 あれ、なんか心配されてる。もしかして、私今危険な状態?


 初対面でなぜかいきなり抱えられて、そのまま怖い人たちと追いかけっこ。


 ううん、よく考えるとちゃんとおかしいかも。


 私のそんな気持ちが伝わったのか、怖い人たちがよりいっそう活発になった。


 「今助けてあげるよ」


 なんか息遣いが疲れた感じのハアハアから、生温かい感じのはぁはぁになったような気がする。これはこれでなんだか気持ち悪いかも。


 助けてもらっても、助けられなくても、どっちも最悪な状況っぽい。


 「……ねぇ。どうなるの私」


 馬鹿に問いかけてみた。


 「あー、そうだな。まぁ、ゆっくり話しながら考えようや」


 「……ゆっくりできる雰囲気になりそうもないけど」


 「じゃあ、そろそろ撒いちゃうか」


 撒こうと思えば撒けるんだ。


 「……それじゃあ、やって」


 「やるかー、ちょっと本気出すぜ。おら、ヤニカス高校生どもついてこられるものならついてこい」


 本気って……、ぬぉわぁ、これやばい、酔う。




 馬鹿は祭りの楽しさをぶち壊すような勢いで走りに走った。途中で気持ち悪くなったので、ほとんど状況はつかめなかった。


 そして、いつの間にか普通に撒いちゃった。


 今、馬鹿はベンチに座って私が買った焼きそばを勝手に食べている。まぁ、振り回されてぐちゃぐちゃになってるし、いいかな。身軽になったことを思えばむしろ良かった。


 照人を探しているつもりが、随分とおかしなことになってしまった。そろそろ頑張って探そうかな。私はそう思い、立ち上がる。


 「……それじゃ、」


 「お前さぁ、あの姉ちゃんの妹ってことは、あれか。もしかして、照人の言ってたやつか」


 照人が言ってた?何のことだろう。立ち去ろうと思ったけど、足を止めてしまう。


 「……何言ってた?」


 「ああ?えーっとな」


 はじめて、馬鹿が困った様子を見せた。でも、すぐに元に戻る。


 「まぁいっか。あのなぁ、えー…………。ん」


 なんか口パクパクしてる。おかしくなった。


 「あー、これはあれだわ、言えないってやつか。あらら、俺も巻き込まれたか。あいつの……に。いや、目の前のこいつのせいか。うーん、まぁどっちでも変わらないか」


 「……何言ってんの?」


 「あー、なんかなぁ。この世界の神々にさぁ、俺も目を付けられたかもしれねぇ。だから言えないってわけよ」


 どうしよう。全く分からない。どういうこと、神々とか。本格的におかしくなったのかもしれない。


 「まぁ、お前もいつか分かる時が来るだろ、知らんけど」


 「……もういいよ。なんか分からないし」


 どうせ理解できない。というかこいつと会ってから、今までの行動何一つ理解できなかったし。 


 その後も、馬鹿は何かを試すような感じで私に向かって口をパクパクをやり続けた。怖かった。逃げたかったけど、逃げても捕まえられそうだったので、じっとしていた。


 「あれ、奈々ちゃん。……それと、わぁ、春斗君だ」


 私の恐怖が限界に達しようとしていた時、聞き覚えのある声が聞えた。その方に目を向けると、倉橋香澄がいた。


 いつも通りの可愛らしさに加えて、浴衣を着ている。可愛い。


 香澄の横を見ると、私よりも一回り大きい男の人がいた。多分、高校生くらいだと思うけど、誰なんだろう。


 「香澄も来てたんだ」


 「奈々ちゃん来ないと思ってたよ、来てるなら声を掛けてくれれば良かったのに」


 夏休み中、香澄とは何度か会っていた。私が家に引きこもっているのを心配してくれたのか、何度か家に来てくれた。優しい。


 「……来るつもりじゃなかったけど、なんか来た」


 「あはは、そうなんだ。それで、大丈夫?横の化け物に何かされてない」


 香澄が来てからずっと馬鹿は黙っていた。そんな馬鹿に香澄は話し掛ける。私の気のせいかもしれないけど、どこか気安い感じがした。


 照人と香澄は同じ小学校だと聞いたことがあるし、もしかしたらこの馬鹿もそうなのかな。


 香澄が問いかけているにも関わらず、変人は全然喋らない。


 「春斗君、久しぶり。相変わらず元気そうだね」


 「あぁー、うん?久しぶり……」


 どうやら馬鹿の名前は春斗というらしい。春斗は香澄を見て不思議そうな顔をしている。


 それに構わず、香澄は春斗から目を逸らして、私に向き直る。


 「これ、私のお兄ちゃん」


 隣の背の高い男を紹介してくれた。


 「どうも」


 香澄のお兄さんは低い声で一言返す。何も意識しないで話している時の私と同じくらい無愛想だった。


 そっぽを向いていた顔をわずかにこちらに向けた。私もじっとその目を見つめる。


 そして、香澄のお兄さんは目を見開いた。私の顔に何かついていたのかな。


 「君、名前は?」


 「及川春斗です」


 馬鹿、じゃなくて春斗が真っ先に返事をした。


 「いや、君じゃなくて……。そっちの子」


 「……清川奈々、です」


 「あぁー、そうかぁ」


 なんか頭を抱えながら、お兄さんは香澄の方を睨む。この人もまた変な人なのかな。


 「お兄ちゃん、どうしたのよ。奈々ちゃん、びっくりしてるよ」


 「この子、お前の友達?」


 「そうだよ」


 香澄は私を友達だと思ってくれてるんだ。香澄にとっては何気ない発言かもしれないけど、私は嬉しかった。


 私がほっこりしている間に目の前の兄妹は嫌な感じの雰囲気になっていた。もしかして、私何かしたかな。


 「俺がダメって言ったこと、全部やるよなぁ、お前」


 「分かってるでしょ。そんなこと」


 「はぁー。ないわぁ。……もう、なんか疲れたから帰る」

 

 香澄のお兄さんは普通に帰っていった。え、なんだったの。


 「……私、なにかした?」


 「ううん、私が悪いことしてたみたい。なんか私に怒ってたし」


 「……変な、ううん、変わってる人だね」


 「そう変な人なの」


 私たちが話していると、今まで静かにしていた春斗が口を開いた。


 「俺も、ちょっと行くわ。じゃあな。焼きそばサンキュ」


 春斗は気づけば焼きそば2パックを食べ終えていた。小銭が入ったビニール袋を私に手渡して、走り去っていった。あいつも本当に変な奴だった。なんとなくだけど、また会いそう。


 「奈々ちゃん、あの人、春斗君だけど、ちゃんとやばい人だから補足されたら逃げたほうが良いよ」


 「……手遅れだったかも。次会った時、頑張る」


 二人で歩きながらそんな会話をする。中学生になる前はこんな風に話せる友達は居なかったから、少しだけドキドキ気分で私は歩く。


 香澄の浴衣を見ていると、私の格好は女らしさないなぁと思う。


 照人はTシャツとショートパンツの私を見て、身軽さを意識した良いセンスだとわけの分からない感じで褒めてくれたけど、どうせ適当だ。


 華やかに着飾っている香澄を横目で見ていると、それに気づいたのか、微笑みを返してくれた。


 「奈々ちゃんは今日は一人で来たの?それとも誰かと来てはぐれちゃったとか?」


 「……照人と来たけど、すぐはぐれた」


 「え、照人君?」


 香澄は驚いているみたいだった。


 「……私のおつかいの付き添い。なんか私の家に来たからその流れで一緒に来た」


 「……そうかー、奈々ちゃんは照人君に好かれているもんね。私、小学生から照人君のこと知ってるけど、そんな風に女の子と出かけるなんてことなかったよ」


 「……そうなの?」


 「そうだよ。……なんかちょっと嫉妬しちゃうかも」


 悪戯げに香澄は笑う。


 「……もしかして香澄は照人のこと好きなの?」


 「内緒」


 内緒にするってことは好きってこと?嫌いだから内緒なのかな?あれ、どっちなんだろう。


 私の周りの人たちは謎かけみたいに話す人ばかりで、私には難しい。


 「あー、困らせちゃった?」


 「……うん、困ってた」


 「ええとね。まぁ、本音を言うとね。私は恋愛とかそういうの分からないんだ。好きとか嫌いとかそういうのね。奈々ちゃんは分かる?」


 「……全然わかんない」


 「ね、そうでしょ。難しいんだよ」


 私がそれを理解できる日は来るのかな。こうやって身近な人の恋愛話を聞くのは楽しい気がしたけれど、自分が同じような立場で恋愛話を語っている光景はまるで想像できない。


 「それで、あれだよね。照人君とはぐれちゃったんだよね」


 「あ……、そうだった。探すの忘れてた」


 「多分だけど照人君は見当違いのところ探してるか、それとも寄り道してるかのどっちかだと思うから、私たちも遊びながら探そうか」


 「……分かった」


 香澄についていけばすぐ解決しそうだ。




――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

〇佐藤照人 視点


 みやけん先輩から清川が誘拐されているという話を聞いた俺はすぐさま春斗に鬼電。


 春斗は意外にもすんなりと電話に応答してくれた。話したいことがあるから一人で来いと言われた。なぜか、いつものおふざけではなく真面目モードだった。


 そこに違和感を感じつつも、とりあえず後回しにして、後ろにいる柳谷とボスのことを考える。


 ちなみにみやけん先輩は清川を探すのを手伝おうかと言ってくれたが、誘拐犯は俺の友達なんで大丈夫ですと言うと安心してくれた。


 そこで、みやけん先輩とは別れたのだが、二人の少女はそこで別れることなく俺の追跡を続けている。


 一人で来いという春斗の言葉もそうだし。このまま、二人を春斗と引き合わせても碌な事にならないと思う。二人の食って掛かるような性格を考えると、常軌を逸した春斗との相性は最悪だと言えるしな。どうにかして撒かなければ。


 「あのさぁ、俺そろそろ行くわ。じゃあな」


 とりあえず、正当にさよならバイバイを切り出してみる。


 「は?ついてくわよ。ねぇ、柳谷さん」


 「そうね。清川さんも心配だわ」


 「大丈夫、大丈夫、俺たちに構わず祭りを楽しんで」


 「なに、あたしたちに付いてきてほしくないわけ?」


 「どうやら、そうみたいね。これは意地でもついていきたくなったわ」


 この通り、正攻法ではだめみたいだ。むしろ状況が悪化した。


 心苦しいが、ここは嘘を付いて撒くしかない。


 「あー、分かったよ。じゃあ、ちょっと俺いったんトイレ行ってくるから、ちょっと待ってて……」


 「……」


 「……」


 ダブルジト目だ。どうしたらいい。


 「……それじゃあ、照人。スマホ貸しなさい」


 「あ、はい」


 なんか怖いので、ボスにスマホを献上。何をするつもりだろうか。


 「うん、できた。はい、あたしを登録しておいたから」


 返されたスマホを受け取ると、ご愛用のチャットアプリに会澤美沙という名前が追加されていた。


 「ついてきてほしくないんでしょ?いいわ、今日はこれで勘弁してあげるわよ。私がメッセージを送信して、1分以内に見なかったら殺すから」


 「りょ、了解であります」


 顔をほんのりと赤らめながら下を向いているボス。その姿は可愛いのに、言ってること怖いですよあなた。


 なんとなく柳谷の方を確認してみる。ちょっとしょんぼりだ。仲間外れが寂しかったに違いない。


 「ちなみに柳谷さんはスマホを持ってないから無理よ。あらら、残念」


 先ほどの愛らしい姿はどこへ行ったのか、渾身の煽り顔で柳谷へマウントをとるボスである。


 「……」


 能面のような表情になってるよ柳谷さん。


 これは不満げな感じだ。あまり表情が変化しない柳谷だが、ちゃんとボスにイラっとしてるわ、これ。


 「まぁまぁ、柳谷もスマホ買ったら、俺とボスと交換しよう」


 すかさずカバー。やべぇ、気を抜いてボスって言っちゃった。


 「……うん」


 そっぽを向きながらも、柳谷は答えてくれた。


 「なによ、照人。あたしにはそんな風に頼まなかったくせに、柳谷さんには自分からお願いするんだ」


 ボスはスルーしてくれたみたいだけど、細かいところをネチネチと責めてきた。


 「あと、今度ボスって言ったら殺すわ」


 全然スルーしてなかった。


 「あなたはいつも強引だから、佐藤君も話を振りにくいのよ。もっと人の気持ちを考えたほうが良いわ」


 「一人だけ仲間外れな柳谷さんの助言なんて聞きたくないけど」


 この二人といると、ギャルゲー主人公になった気分になるから、興奮するわ。


 伝統芸能も始まったことだし、ヌルっと抜け出そう。


 「それじゃ、また機会がありましたら」


 「うん」


 「また」

 

 一人は不満げ、もう一人は僅かな微笑みを添えて答える、対照的な二人だとつくづく思う。





 春斗との待ち合わせ場所に到着すると、呑気な顔をした春斗が地面で寝ていることに気づいた。加えて、清川がどこにもいないという事も気づいた。


 「おい、魔王」


 「おお、来たか。勇者よ」


 春斗は地面から飛び上がるようにして起き上がる。


 「お前、清川と一緒居たんじゃないの?」


 「あー、倉橋香澄にパスした」


 「はぁ?倉橋に」


 「そうそう。ちょっと不安が残るが、お前と話したかったから預けることにした」


 倉橋のもとに清川がいると知って、俺は心底安心した。


 「それで話したいことってなんだ?なんかやらかしたのか」


 「お前のことだよ、お前の」


 「はぁ?」


 なんだ俺の事って、俺なんかやらかしたの。心当たりがありすぎて分からない。


 「お前ちょっと前に聞かせてくれただろ。転生云々の制限についての話だ。俺にも多分同じ制限が掛かってる」


 「うそぉ、まじで」


 「まじ。清川妹で色々実験してみたからな。間違いねぇよ」


 「まじかよ」


 清川、あいつ無事なの。こいつの実験とか超怖いんですけど。


 「転生云々の話、あいつに話して見ようと思ったんだけどな、言葉を発せなかった」


 「口パクパクして話せないって光景は実際に見たことあるけど、俺自身はその経験ないんだよな」


 「お前も清川妹で色々試してみろよ。それでな、気づいたことがあるんだよ」


 そういえばヒロインには試したことなかったな。春斗に普通に喋れたから、そういう制限はないと思ってた。あとで試してみるか。


 「前、お前が俺に転生云々の話をしてくれた時は問題なく話せただろ。だけど、俺が清川妹に話そうとしたときはダメだった。これがどういう事か分かるか?」


 「……制限のかかるタイミングがおかしいってことか」


 「そうだ。多分、お前は制限が掛かっている理由を自身の行動の妨害だと思ってるだろ。だとしたら、お前から俺に伝わる前の最初の段階で制限で話せないって状況にしたほうが制限を掛けている奴からしたら都合がいい。その方がお前に味方を作らせないようにするために効果的だった。でも、そうじゃないってことは制限の理由はそれじゃないっぽい」


 なんか俺よりも春斗の方が制限に精通し始めてるな。数日前にちょこっと話しただけなのに、行動力がありすぎて戦慄する。


 何のための制限か。俺は勝手に俺が死ぬように仕向けるための妨害的なものだと思っていたが、そうではないのか。引き続き春斗の考えに耳を傾ける。


 「これは勘だけどな、その制限の本質は物語の自然な流れを崩さないようにするってことだと思うんだよ。お前の行動を積極的に封じ込めたりするっていうのが第一目的じゃないからそんな風にガバガバになってる」


 「なるほど、流れを崩さないようにか」


 「それこそ本当にゲームのキャラを操作してるみたいな感じだ。ゲーム上のキャラがそのゲームの攻略本を持って登場するキャラたちにあれこれとこれらかの出来事を教えたりしてる絵面を考えてみろ、おかしな話だろ」


 春斗が導き出したこの考えはほとんど勘だと思う。だけど、こいつの勘は結構当てになるんだよな。


 「この例えは大袈裟だったけど、今のお前の状況に近いだろ。お前の脳内にある転生云々も含めたゲームの知識をゲームに登場するキャラには話せないってことだ、そんな知識をいきなり得てしまったら不自然に行動が変わるだろ。たぶんそれを防ぐためだけの制限だ。それが巡り巡ってお前の妨害をしちゃってるって話だ」


 確かに、おかしなことになると思う。


 「流れに関係ない俺みたいなモブには表面上は問題なさそうだから話す分には構わないんだろうな。でも、そのモブが流れを崩そうとしたら許さないってことで、制限が掛かっちゃう」


 「なるほど」


 「まぁ、欠陥だらけには違いない」


 「とりあえず、制限がガバガバな事だけは分かった」


 行動に対する制限はないのか、それとも緩いだけで存在自体はあるのだろうか。確かめようはあるのだろうか。


 おっさんとも制限についての話をしたことはあるけれど、春斗の考えと一致する部分もあれば、そうではないような部分もあるような気がする。理解の足りない部分を二人の考えが補完し合ってやっと説になるみたいな感じだな。


 まぁ、どちらの考えにしても推測だ。個人的な気持で言えば春斗の説を推したいところではあるけれど、結局は神のみぞ知るって話になっちゃうんだよな。


 

 

 「そんな感じでガバガバなんだけどな、一応アドバイスをしようと思ってな。お前はむやみに転生云々の話を他人にすべきじゃない。まぁ、俺と転生者のおっさん以外には言ってないと思うから、念を押す意味で言っておこうと思っただけなんだけど」


 おっと、俺、昨日、鏡花さんに話しちゃったけど。


 「あー、はいはい」


 「お前だって一応ゲームの友人キャラで登場人物だからな。俺みたいにモブじゃない。てことは、あれだ。例えば、昨日会った清川姉とかいるだろ、確かあの人はヒロインとかじゃないんだよな。あの人に転生云々の話をしたらさ、俺みたいに制限に掛かるわけだ」


 「うんうんうんうん」


 「攻略本を持った状態の清川姉の出来上がり、俺と清川妹との関係は攻略本とゲームの登場人物の関係だったから制限発動。同じように清川姉とお前は攻略本とゲームの登場人物の関係になるだろ。そしたら同じように制限が発動して清川姉はお前に妹の情報を伝えることができなくなる」


 「あー、はいはい」


 そういえば、思い返してみると、俺が転生者って告白した時から、鏡花さんに制限の兆候が見られだしたような気がする。こうやって理論立てて考えると色々と分かってくるもんだな。


 俺やらかしたかもしれない。


 もしかして、むやみに話したりしなければ、清川奈々ルートに関係する話について聞くことができたんじゃないか。


 いやいやでも、俺の転生云々の話をしてからじゃないとその話には持っていくのは難しかったはず。結局言うしかなかっただろ。いや、でもあれか、どうにでもやりようはあったか。


 また制限のせいで話を聞けないのかーと、適当に考えていたけど、普通に俺のせいだったのかよ。


 やらかしたわ、これ。


 「俺やらかしたかもしれんわ」


 「はぁ?何を」


 「重要な情報源を失った」


 「……あ、やったのお前」


 鏡花さんのことだから、勝手に話していいものか。


 まぁ、もういいや話しちゃえ。怒らんだろ。


 鏡花さんとの出来事を春斗に全部喋った。




 「あー、それはやらかしたかもなぁ。でも、なんかお前らしいわ。相手がパラレル系の話を暴露してきたら、自分も負けじと特大の暴露を返しちゃったんだな」


 「オートでギブアンドテイクしちゃうんだよ」


 「まー、何とかなるべ。お前、突発的にメンタル弱くなる時あるから、いつでもお姉さんキャラに慰めてもらえるようになったって前向きに考えろよ」 


 「まぁ、確かに、そう考えるといいかもしれんわ」


 こいつのポジティブシンキングを学んで、過去は振り返らないようにしよう。


 「まぁ、どこの誰が重要な情報を持っているか分からないから、これからは慎重になった方が良いかもな」


 「そうするよ」


 春斗に慰められる俺であった。


 

 




 


 


 




 

 

 


 


 




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