第22話 解決?


 「俺と付き合っても何一つ楽しくないと思うんだが、その辺大丈夫か?」


 「そんなの付き合ってみなきゃ分からないでしょ。あとつまらなかったらすぐ捨てればいいだけの話じゃない」


 そんな使い捨てのコンタクトみたいなノリで、捨てられるのか。

 

 「俺付き合ったことないんだが、付き合ったら何をするんだ?」


 どこまで知識を持っているのか一応確認しておこう。


 「……手を繋いだりとか」


 ボスはどこか恥じらいながら、そんな風に言葉を発した。


 それだけかいと思ったが、よく考えてみると小学生上がりの中学生のカップルなんてそんなもんなのかもしれない。今の中学生が果たしてどこまで進んでいるのか、俺には分からないけれど、少なくともボスの知識はそこらへんの可愛らしい所で止まっているらしい。


 堂々と性交渉に決まってるでしょとか言われていたら、なんとも言えない気持ちになっていただろうから、これでよかったな。


 「もしかしてだが、会澤も誰とも付き合ったことないのか」


 半ば確信しながら、俺はそう問いかけた。プライドの高そうな彼女からしたら嫌な質問だろう。


 「……どうでもいいでしょ」


 さっきまでの恥じらいモードは幻覚だったのだろうか、今は普通にピキってる。


 「そうだな、どうでもよかったな」


 「ふん」


 プイっと俺から視線を逸らして、ボスは屋上の出口に向かって歩いていく。俺の発言が不快だったのだろうか。


 考えてみても良く分からないので、とりあえずは見送っておこう。


 ボスが扉の近くまで進むと、突然こちらを振り向いて悪い顔をした。そして、口を開いてこういった。


 「はやく開けなさい」


 イエス、ボス。


 「はいー」


 そんな気の抜けた返事を俺は返して、扉の前まで小走りで近づいた。


 命令されるのは好きではないけれど、この頑固者は俺が開けなければ、一生ドアの前で仁王立ちしそうな気配をだしていたので仕方がない。


 ドアを開けながら、どこかの執事にでもなった気持ちでレディーファーストの構えをとる。


 ボスが出たのを確認して、俺も屋上を出る。


 うん、これって付き合っている人たちの関係じゃないな。主従関係の方がより近いというか、それそのものだな。


 この場合は、俺が無能な行動をし続ければ、主従契約が解除されるということで良いのだろうか。


 いいや、もしそんな風にして契約が解除されたら、そのあとに執拗ないじめが始まりそうだな。


 ボスが飽きるまで、待つ。たぶんそれが答えなんじゃないかと思い始めてきた。


 まぁ、性格は多少歪んでいるが、顔は綺麗だし、言葉も一応通じているようなので、付き合うことに対してそこまで拒絶感はないし、余裕だ。


 「俺もう帰るんだが。いいか」


 あまり喧嘩を売るような発言はしたくはないが、定時には帰らせてもらいので、俺は素直に発言する。


 「あたしも帰る」


 ということはボスも帰宅部ということだろう。運動部に所属してそうな容姿をしているが、実際は運動が得意ではなかったはずだ。文化系の部活にしても、このボスのことだ、ダサいとか言って入らない感じがする。残ったのは更にダサい感じがする帰宅部だが、結局一番楽ではあるし、妥協したのではないだろうか。


 昇降口までの道は同じなので、そんなどうでもいいことを考えながら、ボスとの無言の時間を潰した。


 

 ある程度の時間が経って、帰宅部連中はすでに帰り、部活の連中も活動を始めたからだろうか。いつもよりも昇降口は静かな感じがした。


 俺はその雰囲気にホッとしながら、靴を履き替えた。


 ボスもまた靴を履き替えているが、俺はそのまま一人で帰宅していいのだろうか。


 昇降口に棒立ちしているのもあれなので、外でボスを待ち様子を伺った方がいいかもしれない。


 そんな感じで昇降口から出たのは良かったんだが、まずい人影を発見した。昇降口の大きな扉に背を預けながら、目を瞑っている、綺麗な黒髪の女。


 柳谷瑞姫である。


 まだ帰ってなかったのか。もしかしたら、俺を待っていたのかもしれない。申し訳ないことをしたという気持ちが半分で、待たずに普通に帰っても良かったんだけどなという気持ちが俺の心を圧迫する。


 俺が長いこと視線を向けてしまったからだろうか、番犬ガオガオもびっくりな俊敏さで目を開いた柳谷と目が合ってしまった。


 変に目を逸らすと逆に相手に不自然さを感じさせてしまうので、俺は目を逸らさずに無言でその時を待った。


 「待ってたわ」


 「ごめん」


 「遅かったわね」


 「色々とあってな。まぁ、すぐその理由も分かるんじゃないか」


 柳谷にとりあえずそんなことを言っておく。この後の展開で俺の心の支えになってくれ。


 コツコツと後ろから足音が聞こえる。


 「柳谷さん。そいつと知り合いなの?」


 はい、ボスの登場だ。


 柳谷はその登場に対して特に動揺している様子はない。流石である。


 「そうね」


 「ふーん」


 ボスが俺を優しい表情で俺を見つめてくる。これは優しい表情であってるよな?


 すぐに俺から目を逸らして、ボスは柳谷に向かって口を開いた。


 「あたし、この人と付き合ってるから、あまり近づかないでもらえる?」


 おっとさっそく爆弾が放り込まれたぞ。帰ってもいいですか。


 柳谷が目を細めて俺を見つめてくる。多分だが、色々と考察しているのではないだろうか。


 俺とボスのカップルはあまりにも不自然だからな。


 「どういうこと?」


 結局、確信の持てる答えに至らなかったのか、柳谷が小声で俺に問いかけてきた。


 「俺も良く分からないんだが、なんか付き合っちゃったんだ」


 俺も小声で正直にそう答えておく。


 「一つも理解できていないのだけど」

 

 「大丈夫、何とかなる」


 そんな風に二人で話していたのが、まずかったのだろうか。俺はボスに頭をはたかれた。


 「何話してんのよ」


 「ちょっとした日常会話だ」


 その瞬間ボディブローが飛んできたので、しっかりと腹筋を固めて受け止める。ボスの柔らかい拳には大ダメージ。


 「っ、あたしたち帰るから」


 痛みを隠しながら、ボスは俺の腕をつかんでそう言った。


 「私は彼と同じ帰り道なのだけど、あなたも一緒の帰り道なのかしら?」


 「いつもあっちの道から帰ってるけど」


 「私と彼の帰り道とは逆だけれど」


 「こいつ言えば付いてくるから、別に構わないでしょ」


 ボスは俺のどM体質を考慮して物事を考えているようだ。怪しまれないようにしっかりと、どMしておこう。


 「そうなの?」


 「そうだな」


 「……」


 柳谷にまで変な風に思われてしまうかもしれないが、まあ仕方がない。色々と察してくれることを願う。


 すこし逡巡したようだが、柳谷は再び口を開く。


 「遠回りになるけれど、私も一緒に帰るわ。せっかく待ったのだし。いいわよね」


 柳谷は何やら強気な表情でそう言った。


 「柳谷さん、さっき近づかないでって言ったの忘れたの?」


 ボスは小さい子供にでも話しかけるような丁寧な口調で柳谷に問いかける。お手本にしたくなるような煽りだった。


 「それはあなたの勝手でしょ。佐藤君が嫌だと言うのなら素直に一人で帰るけど、そうじゃないなら私も一緒に帰るわ」


 二人は無言で睨み合う。俺の返事などどうでもいいようだ。このまま帰ってもいいかな。


 「ここはいったん落ち着いて、ばらばらに帰るというのはどうだろうか」


 「黙れ」「静かに」


 この人たち実は仲が良いのではないだろうか。そんな風に思う今日この頃だった。


 ここは素直にこの熱いバトルを見守るとしよう。


 

 二人はしばらくの間、良く分からないことを言い合って、ひたすらに喧嘩した。


 感想としては、どちらもただただ頑固者なだけといった感じだ。今は互いに言葉の粗を見つけては突っかかるということを繰り返している。


 ちなみに俺と一緒に帰る帰らないの話から、普段の生活態度の話になっている。まぁ、もともとその辺のことでいがみ合っていたようだから当たり前と言えば当たり前なんだけど。


 流石に暇になってきたので、少しくらい茶々を入れてもいいかもしれないな。


 「白熱してるな」


 ボソッとそんな呟きをしてみた。すると、静かに二人の目がこちらを向いた。


 「あんたはどっちが正しいと思う?」


 茶々を入れるんじゃなかった。


 「どっちも正しいんじゃないか。みんな違ってみんないいみたいな感じだ」


 「答えになってない。あたしとこの女どっちの味方なの?」


 「そりゃ、ボスですよ」


 「ボスって誰よ。……もしかしてあたしのこと?」


 やばい、うっかり間違えた。彼女に三股したことがばれたときの男の気持ちは多分こんな感じだろう。はい、そんなこと言ってる場合じゃない。


 「あたしを陰でそう呼んでるわけ?」


 「ボスってなんかカッコ良くないですか。あ、癪に障ったのならごめんなさい」


 「次そう呼んだら殺すわ」


 ボスは苛立ちマックスといった感じでそう吐き捨てた。だが、すぐに冷静になりしばし何かを考えるような素振りを見せる。


 「あんた私の事馬鹿にしてる?このラブレターとかも」


 なるほど、突然鋭くなっていくタイプか。姑息ないじめをするだけあって、わりと賢いのかもな。いや、もとから違和感を感じていたというのもあり得えなくはない。というより、俺からラブレターとか違和感しかない。


 「ラブレター?」


 柳谷は疑問を隠しきれない様子だ。


 「これよ」


 ボスは何故持ち歩いているのだろうか、俺のラブレター軍団の登場である。


 柳谷は興味津々のようで、ボスからもらって目を通し始めた。ボスもなんで素直に渡してるんだよ、こういう時だけ、団結しないでくれ。


 俺は思わず目を逸らして介錯の時を待つ。


 「これは気持ち悪いわね」


 柳谷がそう呟く。


 「はあ?ロマンチックじゃない」


 「どの辺がロマンチックなのかしら?」


 「あなたのためなら死んでもいいのとことか」


 「最高に気持ちの悪いところじゃない」


 ラブレターの添削が始まった。もうやめてくれ。恥ずかしい。


 「佐藤君が何を考えて生きているのかさっぱり分からなくなったわ」


 「あたしは良いと思ったんだけど」


 柳谷には酷評されているが、多分これが普通の反応だろう。ボスはちょっとぶっ飛んでる。でも、ボスが褒めてくれるおかげで、俺の心はぎりぎり持ちこたえることができる。ありがとうボス。


 「で、柳谷さん。これあたしを馬鹿にしてると思う?」


 「どうかしら。内容はどうであれ、馬鹿にするためだけにこんなにもたくさん書くかしら。一通ごとの文字数も異様に多いわよね」


 「だよね。やっぱり本気ってことよ」


 「……そうかしら」


 ああだこうだ二人は話し合っている。なぜだろう、心なしか君たち仲良くなってないか。


 柳谷は当然のようにぼっちだし、ボスも本当の意味の友達はいないからな。頑固の度合いも同じくらいだし、タイプは一致しているように思える。もしかしたら、二人を友人関係に導くことができればすべて解決するのかもしれない。


 この二人がクラス内でどのように言い合っているのかは分からないけれど、今回のように腹を割って言い合ったのはたぶん初めてだ。だからこそ、互いに見えてくるものがあったのだろうか。


 いや、これは綺麗な解釈だな。実際は俺という黒歴史を紐解くために協力し合っているだけか。


 まぁ俺を生贄にして仲良くなってくれるのなら、全然よろしい。むしろ俺が想定していた、いじめに対する苦手意識を抱かせるという作戦よりも良い感じだ。


 「そもそも、なぜあなたのような人に佐藤君は告白しようと思ったのかしら?」


 柳谷は独り言のように、下を向きながらそう呟いた。そして、慌ててボスの方を確認する。柳谷のしまったというような表情は初めて見るかもしれない。


 「それってどう意味?」


 はい、またまたギスギスし始めました。


 「あなた少し変わっているから」


 「あんたには言われたくないわよ」


 全然仲良くなってないわ。俺のことを色々と探るところから始まり、結局自分たちの喧嘩に持っていく。このループはいつまで続くのだろうか。


 これは俺も話に加わった方が良いのかもしれないな。


 「なぁ、二人はなんでそんなに仲が悪いんだ」


 「私は彼女に対して特になんとも思ってないわ」


 俺の問いかけに対して、最初に反応したのは柳谷。


 それを聞いたボスは、不快感を隠そうともしない。


 「そういう態度がイラっとするのよ。あんたも分かるでしょ」


 「まぁ、言いたいことは分かる」


 「でしょ」


 無関心を態度で示されるのは、誰だって何かしら心に嫌なものを感じるはずだ。それは間違いないだろう。


 「そうなのかしら」


 「お前は本当に興味がないからこそ、そう言っているんだろうけどな」


 「そうね。でも、確かにもう少し興味を持ってみても良いのかもしれないわ」


 思い当たる節がるのだろう、柳谷は少しだけ罰の悪そうな顔をする。


 だが、反論せずに自分の悪いところを素直に認められるというのは美徳だと思う。


 ボスはそんな柳谷の態度に少しだけ驚いている様子だ。言い返すことを探しているのだろうが何も出てこない、そんな感じの表情に思える。


 「こんな風に二人で真正面から喧嘩して、互いに色々学んでいけばいいんじゃないか。何が正しいのかなんて誰にも分からないが、二人が好き勝手に言い争えば見えてくるものもある」


 「あたしに悪いところあるっていうの?」


 ボスが俺に不服を申し立てる。


 「人を貶めるところとか」


 「それが悪いなんて言われたことないわ」


 「それは周りの人に恵まれなかったってことだな。お前も、そして柳谷もか」


 そんな風に思春期を過ごしてしまえば、成長なんてできない。誰も本来の自分を見てくれないということなのだから。


 ゲームの不幸なエピローグは、二人が互いの成長を阻害することで生み出しまった悪循環が招いてしまったものなのかもな。ボスのエピローグは描かれていないが、柳谷が自殺という形になってしまうのだし、最悪な結末になっていると考えたほうがいい。


 二人が何の理解せず、ただ執拗にいじめの関係を続けるよりも、仲が悪かろうが正直に言い合えるような関係の方が良いはずだ。


 「そんなこと言われても良く分かんない。あたしには友達だっているし」


 「でも、こんな風に正直に言ってくる奴いないだろ?お前も言わせないような空気感を作るだろうしな。その点においては、柳谷は最高の物件だぞ。正直すぎてびっくりするくらいだ。お前が取り繕うとしてもお構いなしだぞ」


 柳谷から、勝手な紹介をするなという意味が込められていそうな視線を浴びせられているが、俺は動じない。柳谷が口をはさんでこない限りは、俺は続ける。


 そして、俺はボスの心に踏み込んでいく。


 「このまま何も成長しないままだったら、柳谷の魅力にはいつまで経っても勝てないぞ」


 ボスが大きく目を見開く。


 俺にするような単純な悪戯ではなく、クラスを巻き込みながら柳谷の評価を下げるようないじめをしたのは多分そういうことなんだろう。


 自分と似通っている部分がありながらも自分よりも魅力があるようにみえてしまう柳谷。それよりも上に自分がいくためには、強引な手で柳谷を落してしまえば良い、いじめを糧に生きてきたボスは容易にその考えにたどり着く。


 「あたしは……別に」


 いつも強気なボスにしては珍しく口ごもる。


 「お前にはお前の魅力があるんだ。だけど、柳谷を落とすような手段をとってしまえばその魅力はなくなっていく。お前は強がっているように見えるが、結局のところ自分自身に自信がないから、勝手に柳谷を上に見ていじめたんじゃないか?自分に自信があるのならいじめたりはしないだろう」


 「っ……」


 柳谷に対するいじめだけに言えるわけではない。他の奴に対するいじめも自分が上位であるという自信を実感するための不安を隠すためにおこなれている気がするのだ。更に深読みするのなら、彼女が自分の周りに対して、自らの情報をひけらかさないという話だった、それもまた誰かに付け込まれないようにするための防衛策ではないのだろうか。


 「だから、馬鹿なことは止めて、もっと自分を伸ばせるような行動をすればいい。その方がお前のためになる。それでも、誰かをいじめたいと思うのなら、俺をいじめればいいさ」


 個性なんてものは人の数だけある。特定の一人に固執して可能性を閉じてしまっては何にもならないのだ。


 「馬鹿でしょ。あんた」


 少しだけ笑いながら、ボスはそう呟く。


 馬鹿にならなきゃやってられないこともある。最近はずっとそんな感じだ。


 「お前は柳谷に負けてるわけじゃない。少なくとも俺はそう思ってる。俺の一票じゃ足りないかもしれないが、少しは自信を持ってみても良いと思うぞ」


 「……あたしの事ほとんど知らないくせに、よく言うわ」


 「確かにそうだな」


 「でも……仕方がないから、少しは自信を持ってみる。あんたに乗せられたみたいで嫌だけどね」


 「それは良かった」


 俺の言葉がどこまで響いているのか、本当のことは分からないが、少しは考える余地があったんだろう。結局のところ人はすぐには変わることはないが、しっかりと口に出して変わろうと言っているのなら期待はできそうだ。


 ボスは俺から視線を外して、柳谷を見る。


 「柳谷さん」


 「何かしら」


 「色々と悪かったわね」


 ぶっきらぼうな口調だったがボスは柳谷に謝った。これには全米が驚いた。流石の柳谷もびっくりしている。


 俺の言葉が思った以上に響いていたということなんだろうか。だとしても、元来のプライドをへし折りすぎているように思える。だとしたらこれも、変わっていくためのきっかけにしようという単なる魂胆に過ぎないのかもしれない。


 でも、謝ったという事実は変わらないから、とやかくは言う必要はないだろう。


 「そ、そう。私も悪いところがあったから。ええと……、気にしなくていいわ」


 珍しく柳谷もたじたじである。


 「そう、なら私も気にしない」


 「ええ、それで良いわ」


 まさかの仲直りイベント?である。


 俺の黒歴史ラブレターから、ここまでの展開に持っていくことができた。どう転んだらこうなるのか、いまだに理解できない。



 「照人」


 「ん、ああ。なんだ」


 ボスからの急な名前呼びに驚く。こいつとかあんた呼びだったから、てっきり俺の名前知らないんじゃないかと思っていたが、知っていたらしい。


 「ラブレターやっぱり嘘よね。実際のあんたはラブレターみたいに甘い言葉なんて一切言わない、こうやって話して良く分かったわ」


 まぁ、こうなるのはしょうがないよな。


 半ば確信したような表情で、ボスは続ける。


 「多分、ラブレター以外にも私に対して何かしてたんでしょ。今思えば、岡崎の様子も明らかに変な時があったし。あんたが何かしてたなら辻褄もあう。ね、そうでしょ?」


 岡崎はやはりだめだめだったようだな。まぁ、もうどうでもいいけれど。


 根拠に欠ける確信、ただの勘、そんな風に何とでも言い返すことができるが、俺もこれ以上騙すのは気分が良いものではない。多分、この状態なら白状しても大丈夫だろう。岡崎も無駄な被害を受けることはないはずだ。


 「そうだな。色々としてた。お前に対する被害はラブレターだけだろうが色々と迷惑をかけた、すまん」


 「もういい。お互い様でしょ」


 まぁ、確かに俺の方が実質被害は大きからな。


 「俺が何をしていたか聞かないのか?」


 「聞いても、どうせ良く分からないことなんでしょ。全然気にならないわ」


 「私には後で聞かせて」


 ボスは本当は聞きたいのに我慢している風にも見えるが、ここはお言葉に甘えるとしよう。


 柳谷の場合は俺だけに聞こえるような声で、器用に伝えてきた。


 「でも、ラブレターが嘘だとしても、あたしたちは付き合ったままよ。良いわね」


 「え、なんで?」


 「あたしと正直に言い合える人は柳谷さんだけじゃない、あんたもよね。関係がなくなれば、それがなくなっちゃうじゃない」


 「なら友達くらいでちょうど良いんじゃないか?」


 俺は一歩身を引きながら、そんな提案をする。


 「逃げんな」


 最高に意地の悪い魅力的な笑顔で、ボスは俺に囁く。早速俺はいじめられているのだろう。


 「柳谷、助けてくれ」


 「……」


 柳谷からはぷいっと目を逸らされた。


 「まぁ、冗談はさておき、そろそろ帰ろうじゃないか。中々に良い時間だぞ」


 話を変えるために、俺は適当なことを言う。中々に良い時間とはいったいなんぞや。


 「そうね。帰りましょう」


 柳谷もそれに同調する。こうなってれば後は本当に帰るだけである。可愛らしい女子に囲まれて下校とは、なんともリア充している。いつか天罰が下りそうだな。


 いつもの帰り道につこうとすると、靴のかかとを踏まれる。振り返ってみれば、ボスの怒っている顔がそこにあった。


 「あたしの帰り道、逆方向」


 「ああ、そうだったな」


 反論する気力はもう残されていなかったので、素直に従い、俺は方向転換する。


 すると、今度は腕をつかまれる。


 「彼は本当は早く帰りたいと思っているはずよ。もう彼女ではないのだから、我儘は止めなさい」


 「付き合ってるわ」


 「佐藤君は冗談と言っていたじゃない。そういうことよ」


 「照人、この女、腹が立つと思わない」


 俺を巻き込むな。というより、また喧嘩ループ入った感じだろうか。もう本当に勘弁してくれ。いつかじゃんけんという画期的な勝負を紹介してあげようかしら。


 「ちょっと用事思い出したから、帰るわ」


 俺は一人で駆け出した。サヨナラ青春。


 「あ、待って」


 「逃げんな」


 二人が何か言っている気がしたが、怖いので振り返らない。二人で仲良く帰ってくれ。


 

 とりあえず、これにて柳谷のいじめ問題とその他もろもろは一件落着ということでいいだろうか。結論としては、みんなで仲良く頑張りましょうってことだな。いじめなんてものはそもそも何の意味もないのだ。


 彼女たちがこれからどうなっていくのか、未知数の塊って感じだが、こればかりはもう彼女たちに期待するしかない。


 一人のヒロインの問題を解決するにあたって、ある程度苦労するだろうとは思っていたが、最初からこんな感じだと先が思いやられる。


 でも、これで確信した。俺の思うように現実は動いてはくれないが、何かしら行動すれば何かが少しづつ変わっていく。


 俺がちょっと格の高いモブだから、そんなことができるわけじゃない。誰にだって何かを変える力はあるんだ。


 だからこそ、俺はひたすらに奔走するしかないのだ。


 はぁ、しんどい。

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