第13話 クラス交流
興奮状態から正常状態に戻ったということで、時計を確認してみると、ちょうど昼休みが終わりそうな時間になっていた。
あまり気の休まる昼休みではなかったが、これもまた青春というやつなのだろうか。いや、なんか違うよな、俺の青春。日常でロッカーに隠れるとかおかしいもんな。
自分の日常にげんなりしながら、のろのろと自分の教室に戻る。
とそんな感じで廊下を歩いているわけだが、あることに気づいた。
どのクラスの一年生の教室も騒がしいのだ。もうすぐ授業始まる時間なのにも関わらず、うるさいくらい騒がしい。
お祭りでもやるのだろうか。そんなことを思いながら、ほかの教室と同様騒がしい我が教室へ突入していく。
何事もなかったように自分の席について、何事があって騒がしいのかクラスの声に耳を澄ましてみることにした。
ガヤガヤしていたせいで情報を選別するのには苦労したが、なんとなく状況は理解できた。
この学校には一年に何回か生徒たちが自由に使える時間が設けられている。キャンプファイヤーでも鬼ごっこでも教室で花火でも特に危なくないことであればなんでもやっていいらしい。いつだったか教師がそんなことを言っていたような気がする。今回はその時間を使って何やらするらしい。
聞いた感じだと一年生のクラス同士で授業時間を使って交流会的なものをやるとのことだ。何それ俺聞いてないんですけど。俺だけ情報が回ってこなかったとかあるんだろうか。うん、なんか普通にありそうで困る。
まあ、多分俺が聞き逃してたんだろうな。基本的に関係ない情報はシャットアウトしているからな。クラスのイベントとか正直どうでもいい。
しかし、どうでもいいとは言ってもこういう系のイベントの参加は強制だから困っちゃうんだよな。
自由参加だったら、喜んで参加を断る自信がある。
こんな考えを持っている奴は俺以外にもごまんといるだろう。ただ隠れているだけだ。交流会をワイワイと楽んでいるのは俗にいう陽キャのような目立つような奴ばかりだから、相対的に楽しさも目立ってしまう。そして、俺たちのような小物は塗りつぶされ、さも楽しさ一色のように見えてしまうのだ。まさに弱肉強食の社会である
そんなこんなしているうちに、クラスメイトたちは学校指定のダサいジャージに着替えだした。
どうやら体を動かすような交流をするらしい。字面だけ見たら卑猥だと抗議する紳士がいるかもしれない。
俺もクラスメイトに右に倣えで状態で、とりあえずジャージに着替えることにした。
女子たちも着替えのためか、別教室に移動していく。しかし女子たちが移動しなければならないというのは、なんというか可哀そうである。男が発情してサルになってしまうという可能性を持っているばかりに、彼女たちは逃げざるを負えないというわけだ。フェミニストも激おこである。
そんなこんなしているうちに、教室に残っていたサル……ではなく男たちが大移動を始めたので、俺も彼らの尻を追いかける。
どうやら体育館に向かっているようだった。スポーツでもするのだろうか。
たぶんこんなにも何をするのか分かっていない生徒はいないと思う。興味ないにしてももうちょっと把握くらいしろよと、自分で自分にツッコミを入れたくなった。
目の前に小松君だったか小島君だったか忘れたが、顔を知っている生徒が歩いているが、初めての会話が後を引いてか話しづらいので情報を交換はできない。それに小島君、友達的な人と話している。
自分と同レベルと思っていた人間が自分より高いレベルにいるということに今気づいてしまった。
ぼっち仲間が減って、最終的に一人になってしまったぼっちはレジェンドぼっちにランクアップするのだろうか。いや、ランクダウンですね。
幸い俺のクラスにはぼっちが後何人かいるのでまだそこまでのランクに達することはないだろう。小島君の離脱は悲しいが、それも必然と言えば必然だったのだ。小島君は天へ旅立つ素質を持っていた、それだけ。
体育館は体育の授業ではよく使うが、基本的に自分から立ち寄ることはない。だがそれは俺の場合で、昼休みは遊びスポットとして結構な人気を誇っているようである。
昼休みは休みであるからにして、運動などせずにみんな爆睡していればいいのに。
俺はしっかりとロッカーの中で休息をとっているから、その点でいえば優等生と言えるだろう、多分。
そんなこんなどうでもいいことを考えながら、一人で時間を潰しているとちらほらと体育館に人口が増え始めた。
ぼちぼちその交流会とやらが始まるだろう。俺は体育館の隅のほうに移動して、その時を待つことにした。
クラス委員的な人たちが点呼をとり始めたので、体育館の端から移動して、ぼっそと返事をしておいた。
あたりを見渡してみると、教師陣もジャージに着替えているのを確認できた。交流会に参加する気満々である。良きかな良きかな。
クラスのリーダーポジションたちが集結し、交流会についての説明を始めた。
ドッチボールをするらしい。
クラスをバラバラにしてチームを組んで他クラスとの交流を深めて仲良く対戦しましょうとのことだ。ルールとかはたぶんガバガバだろう。
チーム分けが始まり、俺も適当なところに振り分けられていく。
一年生クラスの数はABCDの4つだけなので、チーム分けされても自分のクラスの生徒をちらほら確認することができた。
一応知っている奴として俺のチームには寺島がいた。
なんとなくここで寺島と交わるのがゲームのストーリー通りに進むための必然の流れなんだろうなと感じた。不可抗力的かつ強制的に起こる主要人物との関りは大体がゲームの流れを作るための重要な関節となっていると考えたほうがいいだろう。
そう思うとなんだか気が引き締まってくる。寺島に何か言われたら基本的にイエスマンに徹するようにしよう。下手なことをしなければ問題なく進んでいくだろう。
様々な決心しながら、ほかのクラスメイトを確認していく。ヒロインが紛れている可能性もあるしな。
そう思いながら見渡し始めると、知っている顔を見つけた。
ボスである。いやこんな風に言うとあれだな、俺のボスみたいだな。
昼休みの女ボスである。
ボスも俺を発見してしまったのか、ちょうど眼が合ってしまった。俺の体は自然に頭を下げて会釈していた。内に秘めた下っ端根性が情けない。
頭を上げるとボスはもう俺を見てはいなかった。こんなもんだろうと、特に腹を立てるというようなことも興奮することもなかった。
この嫌な偶然は必然の流れからもたらされる偶然だろうか。深く考えすぎると、なんでもかんでもそうではないかと思ってしまう。
考えるのは止めにして、またチームメイト確認に戻ることにした。
そして多分ヒロインだろうなという美少女を発見した。
茶色に近い髪色でショートカットの女。その特徴と一致するのは、沖田夏来(おきた なつき)というヒロインである。
性格的に言えば、清川や柳谷よりはまだ普通な性格だ。
では、彼女の抱える問題はいったい何かという話になってくる。とりあえず、今言えることは彼女の問題はまだ問題として形を成していないということだ。二年後、つまり俺たちが中学三年生になった時に彼女の日常は様変わりしていくことになるだろう。これ以上思い出すのは疲れるから今はやめておこう。どうせ先になる話だ。
そんな憂鬱気分の俺を世界が待ってくれるはずもなく、俺を引きずりながら時間は進んでいく。
何やら内野と外野、どちらに分かれるかチームで決めているらしい。
「内野やる人ー」
どこかのクラスの奴がそんなことを言った。俺はそれに答えることなく、黙って流れに任せることにした。ここで張り切って挙手しても何の意味もない。残り物には福がある戦法こそ志向である。
「照人君、一緒に内野やらないか」
「ん」
俺の名前を呼ぶ奇妙な人間がいたので、何かと思いながらもそちらに顔を向ける。
そこにはイケメン、寺島がいた。
まぁ、想定内の声かけである。これの流れが必然であるのなら、どこかで寺島と会話が生まれるのも必然だったのだ。まぁ、俺の名前を憶えられていたのは意外だった。俺なんかクラスメイトの名前ほとんど覚えないぞ。
「おっけー、やるよ」
とりあえず、イエスマンになっておく。俺としては内野でも外野でもどちらでも構わなかったからな。
「よかった。同じBクラスだから心強いよ」
「ぁぁ」
そういうことを言われると、なんかこっちが恥ずかしくなってくるよ。本当に主人公キャラって感じだなこいつ。
というか、初めて話したのにもかかわらずなかなかフレンドリーな感じで来よる。これが素でやっているのならびっくりである。
ゲームでは寺島を操作するわけだが、当然プレイヤーの選択によって行動は様々になる。だからというか、プレイヤーに手を付けられていない本来の寺島はどんなもんか良く分かっていないんだよな。どのルートでも共通して分かっていることと言えば、ただただ正義感が半端ないってことだけだろうな。
親しくなれば彼の本質に気づくこともできるのだろうか。
「佐藤君はドッチボール得意?」
「まぁ、できなくもないって感じ」
「そうなんだ、意外だな」
もしかしたら俺は運動音痴に見えるのだろうか。確かに客観的に見たら、部屋に引きこもってそうな雰囲気は持っているかもしれない。自分で言って悲しくなってくる。
「そうかー」
そのことについて問いただすと、微妙な雰囲気になりそうなので、いつも通りのそうかを叩き込む。そうかと言っておけば、たいていのことはどうにでもなる。一切話を聞いていない状態で何か話を振られるような場面でも有効である。
とは言っても受け身ばかりで会話をするのもあれだな。今後のためにもこちらからも何か話を振ったほうがいいだろう。
「俺以外のBクラスの男子には声をかけないのか?」
「あー、みんな楽しそうにしてるし邪魔したら悪いなと思って……。あ、照人君が楽しそうじゃなかったとかそういうわけじゃないよ」
寺島はどこか焦ったようにそう補足する。どうやら一人でいる俺に気を遣ってくれたらしい。人に気にかけてもらうというのは、同情であれ何であれ、そこまで悪いものではないと思った。
「ごめんな」
「ううん、僕こそ」
初めての寺島との会話は思っていたよりも悪くはなかった。一瞬惚れた。
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