第43話 一つの結論

【十二月二十七日 午前10時40分】

かおるくん好き。これからもずっと側にいて……。」


 雨のような、けれども温かな雫が彼女の瞳から溢れる。美夜みやの告白はまるで電光石火みたいな告白だった。俺の用意していた言葉はどれもこれも意味がなくなって。なさけないことこの上ない。あまりのダサさに口から笑みが溢れる。


「ふふ。」

「ええ、どうして笑ってるの?」

 美夜は上に乗ったまま不意に笑った俺にきょとんとしている。大粒の涙が目尻に溜まったまま首をかしげる。キラキラと光が反射して、勝手だけれどもとても綺麗だと思ってしまった。

 その水晶みたいな欠片が間違ってこれ以上に降り注いでしまわないように。美夜の涙を指先で拭いさる。彼女の頬はたしかに冬の風で冷たくなっていたけれども身体の中から溢れ出した涙は確かに彼女の体温が感じられる。


「いっぱい言葉、考えてきて来たけれど美夜の勢いに全部取られちゃったなって。」

「え?」

 俺の言葉に不思議な顔をする。察しのいい彼女ならいつもなら汲み取ってしまいそうだけれども、今はそんな余裕はないようだ。だからはっきりと口に出す。


「美夜、好きだよ。俺もずっと一緒に居てほしい。」


 彼女の手は俺の頬に添えられている。その手に俺の掌を重ねるようにして、もう片方の手は美夜の頬に添えて。冷たい風が少しでも和らぐようにそっと守る。


「あれ、茉莉まつりちゃんは……。」

 ぐっと俺の頬に押し当てている彼女の手により一層の力がこもる。

「茉莉は……ん、家族…妹みたいな、そんな感じ。」

「でもこの前にバイト先に来た時は……恋人みたいな。見せつけてきて……。」

 真っ赤で小さな唇は細やかに震えている。ちらりと覗く歯も同じ様に震えている。

「色々あったから、でも、美夜が好きだったから、茉莉とは色々話し合って……。そんな形に……してもらった。」

 彼女の震えは一段と激しさをましていく。堪えていた気持ちが溢れていく。

「それで……薫くんはいい……。」

 多分彼女の言いたかったのは、こんな形で良いのかってことだと思う。

 でもそれは決めたことだった。それを言葉にして何度口にしたってきっと完璧に伝わるには時間がかかりすぎる。


 だから、これは決して彼女から急にキスをされた仕返しじゃない。


 そっと起き上がって美夜を抱き寄せる。逃げないように彼女がしたみたいに両の頬を抱え込みながら。


「……ん。んぅ。」

 

 2回目のキスはこちらから。涙に濡れるその唇は少しだけしょっぱい。でも彼女の香りとか色々が合わさって口を離すときには結局甘さだけが残った。最後にダメ押しで言葉でも伝えておく。

 

「美夜がいい。」

「……。」

 

 彼女を自分の胸へと押さえるように抱きしめる。ぎゅっとその身体を離さないように。自分の気持ちが少しでも伝わっていくように。


「寒くない?」

「うん……。寒くない……。もう。寒くない。」

 美夜はどこか惚けた声を出す。その声は必死さとか、震えとか、そういうのが抜け落ちていた。


 ほんのしばらくだったと思う。そうして時間が流れた後に彼女がぐっと起き上がる。

「やっぱりずるい……。」

「なんでさ。」

 彼女はまたさっき言ったような言葉を繰り返す。睫毛の先はちょっとだけまだ涙に濡れていて綺麗な切れ目を細めて。だけれども俺の大好きな笑顔だった。


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