第23話 彼女の家族
同日の続き。スマホの回線契約を進めていく。
「カードは持ってないから、なしでできるところがいいな。」
さすが未成年でカードを持っているのは珍しいだろう。美夜はアルバイトをしているし一八歳なのでなにか方法はあるのかも知れないが現実的ではない。
「コンビニでプリペイドカードを買えば、この会社なら支払いできるよ。」
「へー。元々知らないけど、便利になったのかな。」
公式サイトを見せて説明していく。
「これで薫くんに連絡とる時楽になるねー。もう駅前から電話しなくても良いや。」
「それはそれで味はあったんじゃない?」
夜の駅前から古びた電話を使って誰かを呼び出すなんて、ノスタルジックな気がする。
「なにー。好きだったの?じゃあたまには使ってあげるねー。」
スマホを渡し、彼女に必要な事項を埋めていって貰う。スマホの操作は忘れていないようだ。
「ちゃんとバイト先でもタブレットとか使うんだよー。」
「レジだけじゃないんだな。」
昨日にレジ打ちをしていた彼女の姿を思い出す。髪がくくられていて帽子に押し込まれていたのか目元以外の印象が大分違う。
「裏方してるとそうだねー。……バイト中の制服はそんなに可愛くないから思い出さないの!」
スーパーだからカフェ店員のように可愛さ重視ではない。彼女の言いたいことも分かる。
「はいはい、思い出さないから。……入力できたか?」
「もうちょい。まってね~。」
「はいよ。……美夜は、ぬいぐるみとか好きじゃないのか?」
「あんまり持たないよね。子供の頃はよくもってたけど、引っ越しするときにほとんど捨てちゃった。……茉莉ちゃんは好きそうだね。燿ちゃんは、まあ、それよりも楽器飾ってそうだけど。」
ちゃんと二人のことを見て分かっているようだ。その印象は間違っていないはずだ。
「よく分かるな、茉莉のこと。」
「私にも随分優しくしてくれる薫くんのことだからね、茉莉ちゃんにはもっと甘いはずだよ。いや、甘くされているのかなー。」
そこまでのつもりはなかったが、他人から見るとそういったのが漏れているのかも知れない。
「そこまでじゃ?……そうみえるか。」
「ふふ、いじわるいい過ぎたね、はい、後はおばあちゃんにこれ呼んでもらってボタンポチッとするだけー。」
入力を終えた画面を見せてくれる。ほとんど最後の工程だ。
「たぶん、キッチンでテレビ見ているからあっち行こうか?」
「案内してちょーだいな。」
二人立ち上がり部屋を後にする。元の玄関を超えてキッチンとリビングの部屋へと移動した。
「おばあちゃん。最後にこの画面ポチッとして。」
「あらあら、どれどれ。」
「ここだよ~。」
多分画面を拡大しているのだろう。おばあさんが画面を老眼鏡をぐっと近づけて目を凝らす。
「美夜、バイト代から出すのかい?」
「そうだよ~。」
「もっと私に甘えてもいいんだよ。別に遠慮することないんだ。ああ、五十嵐くんにはわるい話しだねえ。」
「薫くんにはほとんど話してるから大丈夫だよ。」
「仲がいいだねぇ、ありがとうね、美夜と良くしてくれて。」
「いえ、こちらこそ良くしてもらってるので……。」
「バイト、しすぎたらダメだよ。前から言ってるけどね、美夜は頑張ってるけど、勉強もするんだよ。」
「えへへ、はーい……。少し減らして勉強がんばるね。」
「うん。まあ元からダメなんて言うつもりはないけどね。……おばあちゃんはその小さなボタン押すのがしんどいから押しておいて。」
目がつらそうなので残りの操作は美夜に任せたようだ。
「ありがとう、おばあちゃん。」
「気にすることはなんもないさぁ。さぁ、おわったら三人でお昼ごはん食べようね。」
椅子から立ち上がったおばあさんは調理台の方へ向かう。
「これで完了?」
「あとは小さなカードが郵送で届くと思うよ。初回の料金だけはあとでコンビニに寄ってカード買おうか。」
「お昼食べたら出かけようか。ギター、昼間に弾きに行くのもいいよね。」
「ここで弾いてても良いんじゃないのか?」
「近所へ響くのが少しきになるんだよね~。聞こえないとは思うんだけど。」
たしかにアコースティックギターなので壁が薄いと聞こえるかも知れないが、家と家が離れているので平気な気もする。ただ、俺が決めて言うことでもない。また神社まで歩いて行こう。
「ほら、二人共ごはんだよ、こっちおいで。」
おばあさんに声をかけられた。ご相伴に預かろう。テーブルに三人でかけながらテレビを見る。
「いただきます。」
二人手をあわせて感謝を伝える。
「おばあちゃん張り切った?」
テーブルの上には色々な煮物やかやくご飯、なめこ汁、それに加えてだし茶碗蒸しや甘露煮など品目が多い。
「そりゃ、美夜の大事な友だちが来るっていうから頑張らないとねぇ。……まだ友だちだかい?」
「お友達!ね?」
「ああ、そうだな。」
「そりゃいいさね、不良みたいに夜中出歩いて変なのに捕まらないか心配だったけど、良い子見つけて私は安心したね。」
手間を掛けて作ってくれたのだろう。どの料理も美味しい。ここまでしっかりとした和食を普段食べていないので新鮮だった。出汁だってわざわざ一からとっているかも知れない。
「いっぱいおたべ。元気なのが一番だよ。」
「ありがとうございます。おばあさんも身体、大事にしてください。」
「あら、美夜はなんでも話してるんだねえ。ありがとうねぇ。二人の様子みてたらあと五年くらいは頑張って生きていないとねって思ったのよ。大丈夫、もう元気だからね。」
安心させるように元気な姿を見せてくれている。俺の祖母も生きていたらこんな感じだったのだろうか。母方の方は存命だが、もう一〇年以上は会っていないので記憶にはなかった。
「おばあちゃん、ご飯おかわりできる?」
美夜はお腹が空いていたのか、ぱくぱくと食べ進めている。俺よりもずっといっぱい食べていそうだ。
「普段遠慮して食べないのにねぇ。今日はいっぱいつくってあるから、炊飯器から取りなさい。」
「えへへ、はーい。」
「美夜、俺も食べたい。」
彼女についていって二人でご飯をよそう。後ろからおばあさんはじっとみまもってくれている。なにか、大人になったらこの恩返しをしたい。美夜がバイトして家にお金を入れているのもきっとそういう考えなのだろうか。
「あら、明日は雨がふるのねぇ。お洗濯物取り込んで置かなきゃ……。」
「お邪魔しました。ご飯ありがとうございます。」
「また顔みせにきてね。美夜の友だちならいつでもおいで。」
「おばあちゃん、行ってきます。」
ギターケースを背負って二人で神社へと向かう。陽射しは頭の上から降り注ぎ、冬の寒さを和らげてくれる。風も止み、そよそよとした微風だけが道端の草を揺らしている。
「明日には届くかなー?」
「さすがに週末くらいまではかかるんじゃない?」
「そうか~。あ、連絡先入れておかないとね。」
「回線が繋がったらメッセージアプリのアカウントも送るよ。」
「うん。待ってるね。」
冬ではなく春のように温かい。二人並んでトボトボと目的地へと向かっていく。
#
「んゃーお」
神社に到着すると、猫主様がお待ちだった。
「みゃーこ、久しぶりだったな。ごめんよ。」
「ふにゃぁ。にゃぁ。」
「そうだにゃ、罰としていっぱい撫でると良いにゃ。」
美夜が自動翻訳をしてくれる。あっているわけはないが、ワシャワシャとみゃーこを撫でてやる。撫でるとぐるぐると喉とお腹から声を出してすぐに腹を見せる。無防備になったその身体をヒョイッと持ち上げて、社の裏へと向かった。
「ふぅ、さぁ始めよっか。」
「そのセリフは俺が楽器が弾けたら映えるんだけどなあ。」
猫を楽器のように抱いているだけで、ないもハーモニーは産まない。
「あはは、猫バンド始まるよ~。」
タッタッ、チャッチャチャラ……
彼女は小気味よいリズムを腕の中から響かせる。音を聞いたみゃーこがじっと腕のなから美夜を見つめている。リズムに合わせてお腹をわしわししてやると目を閉じて気持ちよさ良さそうにしている。
“毎日毎日吹雪吹雪 氷の世界……”
小さく歌う美夜。歌詞は今日の雰囲気とは大分と違い冷たい曲を歌っているが、力強い曲だった。ふふっとギャップに笑ってしまた。
「え、なんか間違えた?」
「いや、合ってるよ。なんでもない。ふふ。」
はてな顔を浮かべつつ彼女は練習へと戻る。もちろん吹雪は吹いていない。ただ、気持ち良い空気が二人の間を流れていた。
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