第21話 クラスメイトとの放課後、明日への気がかり
【十二月一日 午後六時】
今日はカラオケへとドナドナされてきた。
"あらゆる壁をぶち壊して 雨雲を晴らしてー おまえの瞳の奥にある……"
ドッドと低音のリズムが部屋に響き渡る。ロック全開の歌を全身を込めて歌っているのは守野さんだ。
"太陽が欲しいだけ、太陽が欲しいだけぇ"
シャウトに近いお腹の奥から出した声を振り上げて、一曲終えた。周囲のクラスメイト(茉莉達御一行様+一人)から大きな拍手が巻き起こる。
「燿ー!かっこいい!!!」
「ふぅ、ありがとう。ありがとう。」
すっかり息があがり、汗だくになっている彼女を称賛する。一息つきながら戻る彼女の後ろ側、モニターには採点がドラムロールになって表示されようとしている。
「いい感じ。声でてたよね……?」
「ああ、もういつもびっくりだ。カッコ良すぎる……。」
ドラムロールを終えたモニターには九二点という高得点が踊っている。正直過去どんなに簡単な曲を歌ってもあんな点数が出たことはない。
「燿ーアンコール、アンコール!」
周囲の囃し立てにもうだめー。っと倒れ込む彼女を皆で笑いながら見守っていた。
「守野さん、お疲れさま。」
「んー気持ちよかった。です。五十嵐くんは歌わないの?」
また別の曲が始まる。両手でマイクを持って茉莉が立ち上がった。彼女の選曲したようだ。
「俺は苦手だからね……。」
「いいんだよぉ。私だって好きな曲、好きなように歌ってるんだけなんだから。」
ああ、なんていい子なんだ。優しく包み込むような笑顔で彼女はフォローしてくれる。
最近は美夜が練習している曲を聞いているおかげか古い曲ばかり思い部壁てしまっていた。場を沈ませるわけにはいかないのでパッドで選曲を始める。曲を探しながら茉莉の歌に耳を傾ける。
スローテンポのピアノのリードメロディーに合わせて、緩やかないつもより甘い声を重ねている。片思いの女の子が思いを連ねているようだ。
"ほら 私はここにいるよ?"
王子様に対して想いを伝えているお姫様だろうか、しっとりとした曲調と声が茉莉の良さを良く出している。選曲をしていた手が止まってしまった。慌てて曲を探す手を早めていく。適当に曲を選んで送信を終えるとちょうど茉莉が歌える頃の様だ。間奏が終わりCメロが始まっている。転調されたメロディ。周りが賑やかにする声の中、急に茉莉の声だけか届いているような錯覚に陥ってしまう。
「茉莉ちゃん、いえーい!」
「ふふ、ありがとう。いえーい。」
可愛らしくみんなでハイタッチしている。場違いだなとまた思ってしまったが、楽しそうな光景が見られて幸せな気分をおすそ分けしてもらっていると思えば幸せ者だった。
「あー薫でしょ、次の曲ー。えへへ、その曲好きだねー。」
彼女には十八番がバレてしまっている。腹をくくって彼女たちの前で歌うしか無いようだ。響くベースラインの音。マイクを茉莉から受け取り歌い始める。
#
「はぁー。疲れたねー。薫来てくれてありがと!」
茉莉と並んで家へと向かう。結局二十時に差し掛かるまで遊んでいた。帰りがけの守野さんは糸が切れたかのようにぐったりとして声をからしながら、「またね。ふたりとも。」と言いながら他のクラスメイト達と家の方角へ消えていった。
「まあ、ハーレム体験だったしいいんじゃないか。」
「確かに約得体験だったのは間違いないねー。はぁ、お腹すいた。早く帰ろ。」
お腹をさすりながら猫背になった彼女をもう少しだろと生暖かく見守る。
「そういえば、美沙さんの誕生日の日、来てた服ってどうしたんだ?」
「お母さんのお下がりだよーん。ちょっと大人っぽすぎた?お母さんがもうきれなーいって言ってたやつもらったの。」
大人っぽい格好だったのに納得が言った。美沙さんの服であったのならあの雰囲気になるのはそのとおりだと思う。
「似合ってたよ。大人っぽいけど、茉莉にあってた。美人だったな。」
「……!褒め…すぎ?だよー。」
少しストレートに褒めすぎただろうか。先程の猫背の姿勢が治ったと思ったら、またうつむいてしまった。今度は下向きじゃなくてこっちを向いてくれなくなっていしまった。少しいい方が悪かったかなと反省する。
「お母さんにありがとうっていわなきゃ……。」
こっちを向きなおした茉莉が風の音に紛れそうな小さな声を出す。
「そうだな、娘をコーディネートするセンスがありすぎかもな。」
「ねー。私もあんなふうにできるようになりたい!」
「なれるだろ、茉莉も。」
家はもうすぐそこにまで近づいた。温かな家がもうすぐそこだった。山から吹き下ろす向かい風をかき分けてマンションのエントランスへと入ることが出来た。
「ふぅ寒かったー。じゃあまた明日ね。薫。」
「ああ、またな。」
茉莉は扉の手を離してこちらに近づいてくる。
「また写真とってね、可愛いのかきれいなの来てくるから。」
「素人で良かったらいつでも撮るよ。」
えへへ。嬉しそうに家の中に消えて行った彼女を見送り、自分も家へ入っていくと、
神妙な顔つきでリビングに座る親父がいた。若干なにごとかとビビりながら声を掛ける。
「息子は……。立派に育ったようだ……。」
ええ、なに……。
「茉莉ちゃんと仲良くしていると思っていたら、先週は別の女の子と遊んでいるのをスーパーに勤めている近所のおばさん方から聞くし、今日は茉莉ちゃんもいたけど女の子たちとキャッキャカラオケから出てくるところに遭遇してしまうし……。」
最近の出来事を見られすぎてしまったようだ、このままだとたらしの烙印を押されてしまう。
「まあ、それは冗談だけど……皆を泣かせるようなことだけはしなければいい、一人だけだけでも笑わせられるようになれよ。」
もう少し前だったら、受け止めもしなかった言葉だったかも知れない。忠告を俺の中で反芻しなければ。そう思わせる迫力が合った。
「わかったよ。」
2テンポほど間が開き、親父の神妙さが消えた。
「何食べてきたんだ……?」
「カラオケでは何も食べてない。お腹ぺっこぺこ。」
「じゃあ、突撃となりの晩ごはんするわけには行かないから、牛丼屋だな。」
今日は牛丼+カレーにして味をごまかそうとかんがえながらついていく。
親父の身長とそろそろ並んでしまいそうだ。粗食も多いといえば多いし、放任だったが良くしてくれた親父。でも、そろそろ親離れを意識して進路を決めないとまずいのだろう。
茉莉は、美夜はクラスメイトたちはどのような進路にむかうのだろう。その想いが喉に残るとげのようにひどく気になってしまった。茉莉とも話せる機会があれば話してみよう。美夜は今度家に向かった際にでも聞いてみよう。また、それ以外にも彼女のことは気になることが多い。そういえばおばあちゃんへの挨拶ってどうしような。
「親父、初めて家いったとき挨拶どうした?」
「ふぉ!げほぉ! 何だ急にどうしたんだ!」
牛丼ネギだくのあたまとかいうメニューをかっ込んでいた親父は激しくむせている。
「……。いや、ごめん何でもなかった。」
「なんだ、なんだよ!……。あぁ。娘増えるかと思ったのに、はぁ。びっくりた」
「増えないよ。まだ、まだ大丈夫。」
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