第7話 幼馴染とクラスメイトとの日常
美夜と出会い、猫に櫛を通しながら彼女の練習を眺めることが夜の散歩担っていた。ギターの練習に付き合い始めた俺だったが、何分楽器は演奏できない。美夜と素人同士、進捗は芳しくなかった。
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ここは楽器に慣れている人にアドバイスを求めようと、クラスメイトでご近所の守野さんに手助けを求めることにした。
「守野さん。ギターってどうやって弾けるようになったの?」
切り出し方が難しかった俺は、とりあえず彼女の楽器との馴れ初めから聞いてみる。
「ああ、五十嵐くん。私と一緒にバンド始めてくれるのね……!」
しかしどうも勘違いされてしまった。間違って伝わっているような気がするが、気にしない。後回しにする。そう考えている間にも彼女は話をドミノのように進めていく。
「エレキ?アコギ?まだ買ってない?」
「いや、うーんそうまだ買っていない。というか俺がやるんじゃない。」
「ええ、じゃあ茉莉ちゃんなの?」
まるで茉莉以外の友人がいないとでも思われているのだろうか。彼女に守野さんの勘違いに関して被害が及びそうだ。
「えっと、この動画と、このサイトと、えーっとどこかにブックマークしてあったはず。あーと。うーんと。」
早速レッスン用のサイトを送ってくるようだ。手元の作業に夢中になった彼女はちょっとまって、ちょっとまってとしきりに言ってくる。
「いいレッスンサイトとかあるの?」
「うん、やっぱ人の練習方法は参考にしたほうが良いよ。天才だったらね、我流でもいいかもね。」
そう答えながら彼女は熱心に探索を続けてくれた。あまり話したことはなかったがかなり優しい子だ。茉莉の友達なのだからあたりまえではあった。
「途中でまた今度でもいいよ?」
声をかけたが生返事が何度か返ってくる。一度スイッチの入った彼女には届かないようだ。
「はい、五十嵐くんのアカウントに送りました!」
少したった後、元気よく守野さんから報告を受け取る。これには感謝しかなかった。
「ありがとう。いやほんとに。」
大量のURLがメッセージとして送られる。クラスメイトの隣の席に座る女の子から送られる最初のメッセージは、青春の甘酸っぱいメッセージではなく、事務的な英数字の塊でしかなかった。問題はないはずだが少し残念だ。これをきっかけに彼女とも気軽に話しかけられる友達に慣れたら良いと思う。
彼女は引き続きギターについての講義を開いてくれた。
「いっぱい教えたいことはあるんだけどね。何がいいかな。そうまずはそう、こうじゃーん左手はギターに添えるだけ。弦は何も抑えずにって弾いて、ああ綺麗な音だなロックだなって思ったらそれが一番大事。あ、右利きだよね。ね。」
キラキラとした目で彼女はその口からとめどなく言葉を溢れ出させる。熱心にロックについて教えてくれるようだ。そういえば彼女が文化祭で歌っていたのもロックの曲だったと思う。
「うん、右利きだよ。」
美夜はの利き手を思い出しながら答える。言っていることの大半が付け焼き刃で覚えた単語ばかりだったため、手にすくった砂のようにぽろぽろと落ちていきそうだ。次の休み時間に復習をしようと必死に頭に詰め込みながら聞き入った。
「茉莉ちゃん途中入部でも気にしないよね……。あ、料理部どうするのかな……兼部してくれうるのかな……?」
この後どういう風に誤解を解くかはまだまとまらなかったが、とりあえず報告はしておかないと後で面倒になりそうだ。
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”今日は部活あるから先に帰っておいてもいいんだからね”
幼馴染からのヒロインのようなッセージを受け取る。この文面を受け取って返ってしまったらどうされてしまうのだろう。目を通した俺は文面から安易に読み取れる"待っていて" の意図を汲み取り待つことにする。とりあえず図書館で時間を適当に潰し待つことにした。
図書館についた俺は、入り口にある目立つ棚に出してあった貸し出しランキング人気No.1のポップがはられた小説を適当に手に取る。夕暮れが窓から差し込んでいる。試験のための勉強をする生徒や俺のように暇をつぶす生徒などがパラパラと椅子に座っている。入り口から近い窓の近く、夕日が差し込む席に腰掛ける。
人気なだけあって読みやすい小説だったが、どうも集中が仕切れなかった。目を通すだけ通しながらふと考える。
「美夜ってどこの学校なのかな、ていうか何歳なんだ。聞いていいのか……?」
また次に会ったときに話題が無くならないように色々と考える。年は近く見えるが彼女のことはあまり知らない。私服姿しか見ていないので学校もわからない。一度それらしい話題にはなったが、それとなく冗談で話しを逸らされた。どうも色々な事情があるのかもしれない。聞きすぎないように親睦を深めよう。
夕日は地平線ギリギリまで沈み込み、窓からは太陽はもう見えない。校庭には部活の片付けをする生徒がまばらに見える。試験が近いため長い間は活動できないようだ。時刻は午後六時半。そろそろ茉莉の部活が終わる時間帯だ。
「いえーい。薫待っててくれた~。」
「待っててって言われたからな。」
「え~。言ってないんだから~。」
今日はツンデレが流行りなのだろうか。若干テンションく応答をし合う俺達を微笑ましく他の料理部の部員が見守る。顧問の先生からの視線も生暖かい気がする。下手にからかわれないうちに撤退をすることとする。茉莉の荷物の片付けを家庭科室の外で待つことにした。もう廊下も随分と暗くなってしまった。
「今日はねー。きのこをふんだんに使ったホワイトシチュー作りました。栄養たっぷりだよ。」
最寄りの駅に付き、改札を出た頃に彼女は今日の活動について教えてくれた。
「お、秋らしいね。何茸?」
ふわっと香っていた香りを思い出し、お腹が空いてきた。親父と過ごしているだけだとあまり栄養が良いものは食べられていない。
「しめじに、エリンギに、なんかこうわしゃってしたやつ。」
「ちゃんと食べれるきのこだよな?」
曖昧な説明をしてくれる彼女に念を入れて確認しておく。冗談だったが。
「食べられるよ~。皆で買い出し言ったんだよ。あ、荷物持ちいつでも募集してるから、今度ちゃんと活動に参加してね?」
「ちゃんと手間賃はでるんだろうな。」
「じゃじゃーん。薫の分も作ってタッパーで持って帰ってきたの。二人分。」
茉莉はぽんぽんっと自分のカバンを叩いてみせる。夕飯が温かい手料理になった。
「前払いじゃんか。それは今度必死に働かせていただかないとな。」
「いつでもお待ちしてるよ~。」
俺もテンションが上り二人で並びながらワイワイと帰っていく。足取りは軽やかだった。駅前の商店街を抜けて、マンションのある郊外へと進む。
茉莉の両親は仕事が忙しいらしく、片親の俺と同じで小学生の頃から夕飯を一人で食べることも少なくなかった。隣同士、仲が良い俺たちは自然と生活をともにしている。おそらく親同士が自分達の子供を気にかけてくれて裏で良いようにしてくれているのいるのだろう。茉莉の両親と親父は偶に連れあって飲みにでかけてもいるようだった。
「ただいまー。」
誰もいないだろう家に声を一応かける。茉莉は着替えに自分の家に戻っている。
学校のカバンを所定の位置に置き、夕飯の準備をする。親父の分も合わせて三人分のご飯を炊けばいいだろう。白米を洗い炊飯器へとセットしてソファへ座る。
「お邪魔しますよ~。」
茉莉が着替えて来たようだ。リビングのドアを開けて隣へすっと座る。
「ご飯炊いてくれた?」
「ああ、それくらいならできるさ。」
「ならよし!炊けるまではお暇だね~。」
親父にご飯だけは炊いておいたことをメッセージに送っておく。
「何かゲームするか?」
「うん。一緒にレースゲームでもしようか。」
彼女はわりとどんなゲームでも得意だ。というか、レースゲームになると七割は茉莉の勝ちになってしまう。手を抜いているわけではないのでいつも悔しい。
ご飯が炊けるまで何度か勝負をしたが、本日の戦績は二勝四敗だった。
「またね薫。また明日。」
午後九時、友人からのチャットに誘われた茉莉は手を大きく振り、自分の家に帰っていった。その直後に親父がすれ違いで帰宅してくる。
「ご飯は炊いてくれたんだな。今日は何食べたんだ?」
洗い場にあったタッパーを指差しホワイトシチューを食べたと伝える。茉莉の手料理だと悟った親父は洗い物を羨ましそうに見つめながら半額の惣菜を温めていた。
いいもの食べてすまない親父。
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