第2話 「私はリンダちゃんと友達やめるよ?」
「……というのが昨日今日のフウくんだよ」
どうもおシズさんこと新海静香です!
私の本名をみんなはちゃんと覚えてくれているかな?
まあ別に覚えてくれてなくてもいいんだけどね。こうやって語りかけているのも半ば現実逃避のためだったりするし。
何で現実逃避しているのか。
そこが気になった方のために説明しますと、先ほど私に電話がかかってきて遊びに来ていたフウくんに帰ってもらったじゃないですか。
その電話の相手はリンダちゃんです。
何やら相談したいことがあるとかで私を呼び出してきたんです。なので今はファミレスで合流してお話をしている最中だったりします。それで先ほどまでの経緯を教えていたというわけです。
いやはや、さっさと話を切り上げて家に帰りたい。
「あのさ……」
「うん?」
「何であたしは会ってすぐに頼んでもないあいつの話をされたわけ?」
え、本気で言ってます?
リンダちゃんの相談なんて二次元抜いたらフウくん関連のことくらいなのに?
「いや、まだそこはいいや。あいつがどうしてるかちょっと気になってはいたし」
ちょっと?
いやいや、すんごくの間違いでしょ。
昨日今日とずっとフウくんのこと考えてて、ひとりじゃ考えがまとまらないって結論に至ったから私を呼び出したんでしょ。
リンダちゃんってこういうところが素直じゃないよね。まあ可愛いところでもあるんだけど。でも面倒臭いところでもある。
「だけどこれだけは言わせて。何であたしはあんたの想像したあいつの内心まで聞かれないといけなかったわけ?」
「その方が状況が分かりやすいかな、と」
おいおい、リンダちゃん。
その顔は何なのかな?
「もしかして私が適当なこと喋ったって疑ってる? 大丈夫、語尾とかそのへんはズレてるかもしれない。でも8割くらい絶対当たってるはずだから」
何たって私とフウくんはソウルメイト。もうひとりの自分。
それくらいのレベルで同じようなこと考える仲だし。
「私とフウくんのオタクとしてのシンクロ率を信じて!」
「信じるも何もあんたらの波長が近しいことは知ってるから。これといってそこまであんたが言った内容に疑問を抱いてはいないから。単純にあいつの昨日今日を知る上で蛇足な情報だなって思っただけで」
蛇足なんて失礼な。
フウくんのリンダちゃん愛を具現化した言葉は余計な情報ですか?
オタクにとってもおっぱい談義が余計な情報だとでも言いたいんですか?
そっちだってフウくんとおっぱいについて語り合うくせに!
「リンダちゃんにとってフウくんの心の内はどうでもいいことだって言うの!」
「誰もそんなことは言ってない。あんたが捏造してるから余計だって言ってるだけで。あいつの考えていることはあいつに直接聞くから」
ほほぅ、フウくんに直接聞くとな。
「ならば私は帰るとしよう」
「は?」
「え? だってフウくんに直接あれこれ聞くんでしょ?」
なら私がここに居る意味ないよね。
ぶっちゃけ転校生の存在って私にとっては今のところどうでもいいことだし。当人たちが話し合うならそれが最も問題解決の近道。私は帰ってオンリヴしよ。
「待て待て待てッ!」
「リンダパイセン、そんなに力強く掴まれると腕が痛いっす。私の腕もげちゃう」
「なら帰ろうとするな。私は話は終わってないどころか始まってすらいない」
それはそうだけど。
私からすればその話は聞くまでもなく終わってるんだよね。
「えぇ~それ本当に聞かないとダメ?」
「どんだけあたしの話を聞くのが嫌なんだよ。話を聞いてくれるからここに来てくれたんじゃないのか」
「いや聞くつもりでは来たけど……」
正直に言えば来たくはなかったというか、こういうときのリンダちゃんは丘野さんとは違った意味で面倒臭いから相手したくなかったというか。
「覚悟を決めて足を運んでみたものやっぱりいざ始めるとなると嫌になることってあるじゃないですか」
「あたしの話を聞くのに覚悟って必要? あんたにとって友達の話を聞くのに覚悟って必要なことなのか?」
ん? 答えてみろや。
って顔で威圧するのやめてもらっていいですか。そんなことされても私の優位性は崩れないし、その程度の威圧じゃ私は怯んだりしないから。
「必要なのことだよ」
「この野郎……」
「暴力反対! 大声も出したらダメ。お店と周りのお客さんに迷惑だから!」
てめぇのせいだろうが!
と言いたげな顔をしておりますがそれで済むあたりリンダちゃんの理性は保たれているようです。
まあここで本能に従って他人に迷惑をかけるようなタイプなら人気者になったりはしないだろうし、私やフウくんとも仲良くなれてなかっただろうけど。仲良くなれたとしても今よりも格段に劣る関係だったはず。
「というか……リンダちゃんはもう少しこういうときの自分について理解を深めるべきだよ。単刀直入に言ってマジで面倒臭いから」
「お前には言葉を選ぶとか思いやりってものはないのか。近しい関係でもそれだけストレートに言われると傷つくんだけど」
「いやいや、時としてズバッと言ってあげるのも優しさだから」
マジで今のリンダちゃんは面倒臭い。
リンダちゃんが現状で出来ることなんて限られているのに余計なことまで考えて。それで不安になって迷宮入りして、その解決のために私の時間を奪う。
友達だし、フウくんのためにも時間は割いてあげますけど。
でもどうせ割くなら最短で終わらせたいと思うのが人の性ってものでしょ。
最短で終わらせたいなら最初から素直に話を聞けばいいのでは?
って思った人、それは違うよ。だって真の最短での解決はこの場から去ることだから。リンダちゃん自身で解決させることだから。
いやほんとマジでこういうときのリンダちゃんって面倒臭いのよ。
「正直に言いましてですね……今おシズさんはバレンタイン頃のリンダちゃんを思い出しております。フウくんへあげるチョコのために何度も何度も相談され……一度決めたのにも関わらず作ろうとした直前で不安になり、私に再度相談してきてですよ。最終的にはリンダちゃんを励ましながらフウくんへの友チョコを作っていた時の記憶が脳裏を駆け巡っております」
あのときのリンダちゃんは交流を持ち始めてから最も面倒臭かった。
あの頃はまだ恋する乙女なリンダちゃん可愛い精神で頑張ることが出来たけど。今となっては無理な話ですわ。冷静になって思い出せば思い出すほど面倒臭いって印象しか出てこないし。
何でリンダちゃんって普段はカッコ可愛い系を素で貫けるのにフウくんのことになるとポンコツになるんだろうね。
それが乙女ってこと?
それだけフウくんのことが好きだってことなの?
なら今回の件もフウくんを信じて自分の気持ちを信じればいいだけでは?
「そ、そのときほど思い悩んでは……ないから」
「うそ、絶対に嘘。何ならあの頃とは違った意味で、別のベクトルで同じくらい思い悩んでる。だってリンダちゃん、あの頃よりも今の方がフウくんのこと好きだもん。絶対にあの頃より好きになってるもん」
好きな人の好きって言われたからってそんなに顔赤くなります?
そんなに照れちゃいます?
そういうのやめてもらっていいですか。
あまりの可愛さに全てを許しそうになるんで。普段カッコいいとこういうときのギャップが凄まじくて本当にずるい。部室や誰かの家の個室じゃないから写真を撮って永久保存することもできないし。
こんなことならリンダちゃんの家まで足を運ぶんだった。公共の場で相談事に乗るのは今後控えよう。
「そ……そこまで言い切るなら相談に乗ってくれてもいいでしょ!」
「あたしはあいつに嫌われたくないの!」
「勝手に人の気持ちを捏造すんな!」
いやいやいや、捏造とかしてないから。
むしろ素直に言うことができない本人のために代弁しているだけだから。
「今の否定するのなら何で私に相談なんかするの?」
「そ、それは……その……あの子の入部の意思は固そうだったし。入部したらしたで何か起こる可能性はあるわけで……そうなったら部長として解決に尽力しないといけないというか」
クソデカ溜め息。
そうとしか表現できない溜め息が思わず出ちゃいました。
マジでこのポンコツさん面倒臭い。
「あの子が入部したら問題が起こるかも? 入部しなくても問題は起こってると思うんだけど。リンダちゃんを除いたメンツが日常的に騒がしくしてると思うんですけど。それにリンダちゃんは部長として解決に尽力したことありましたっけ?」
私の記憶が正しければ、そんなことをしているリンダちゃんの姿は見た覚えがないんだけど。放置しているか小言を言うくらいだったと思うんだけど。
「あのさ……相談する気があるならもう少し自分の気持ちを素直に打ち明けてくれませんかね?」
どちらかといえばリンダちゃんってクーデレ寄りなんだし。
ツンデレでも別に構いはしないけど、どうせツンデレするならもっとツンデレらしくツンデレしてくれないと。そうじゃないと見る側の人間は楽しめないよ。
「リンダちゃんはさ……自分の知らない頃のフウくんを知っているあの子にもしかしたらフウくんが取られる、とか。もしかしたらフウくんが浮気しちゃうかも、って不安なんでしょ?」
「べ、別にそういうんじゃ……」
「でもだからって現状ではあの子が悪い子だって分かってない。だからフウくんに近づくなとか言うわけにもいかなくて。そもそも、そんなこと言ったらフウくんから嫌われるかもって考えちゃったりしてるんだよね?」
「そ……それは」
そこまで露骨に言い淀むなら素直に「はいそうです」って言った方が楽だと思うんだけどなぁ。
いったいリンダちゃんの中には何のプライドがあるんだろう。
というか、何ですでに付き合っているのにこういう反応をするんだろうね。
まだフウくんと付き合う前で恋敵かもって存在が現れたら不安になるのは分かるし、今後どうやってフウくんの心を射止めるか考える。
その結果、自分だけじゃ上手くまとまらなくて私に相談してくるってのなら分かるよ。それだったら私だって面倒臭いとか思わず真剣に相談にも乗るよ。まあ茶化したり発破を掛けるために脅すようなことを言うかもしれないけど。それはそれ。
「ただね、現状でリンダちゃんが出来ることなんて限られているわけですよ」
「というと?」
「フウくんとイチャコラする」
は? こいつ何言ってんの?
こちとら真面目に聞いてるんやぞ、みたいな顔をされております。
「あのさ……相談している身で言うのもなんだけどもう少し真面目に」
「こっちは凄まじく真面目です。ポンコツのダメダメになっているリンダちゃんのために答えなんてひとつしかないくだらない相談に真面目に乗ってあげてます」
「ポン……くだら……」
「だってそうでしょ」
分かる人には口にしなくても分かるんだろうけど。
目の前に居る手間の掛かる友人のためにあえて言葉にしてあげることにします。
「出会いがあれば別れがあるのがこの世の常。あの子が悪女でふたりを貶めるようなやり方で破局させ、自分がフウくんと結ばれる。そんなことを考えているのならボコボコにすれば済む話。でも現状だとフウくんに好意を持っていそうな転校生かつ後輩でゲーム部に入ってくる。それくらいしか分からないわけじゃん」
「は、はい」
「なら必然的にリンダちゃんが取れる行動は限られるわけですよ。フウくんから物理的に遠ざけたいなら入部を拒否する。まあこれは正当な理由がないと難しいし、フウくんに嫌われるリスクとか来年以降のゲーム部のこと……丘野さんのことを考えるなら取るべき選択肢じゃない」
「そう……ですね」
「であるならばリンダちゃんが出来ることなんてひとつじゃん。あなたがフウくんと別ゲーで結婚していたとか知るか。今は私がフウくんの彼女なんです。あなたの入り込める隙間とかない状態なんです! ってアピールするだけでしょ」
それが理由であの子がゲーム部をやめるって展開になるかもしれないけど。
でもそれは起こるべくして起こること。リンダちゃん達やあの子の今後の学校生活を考えるならさっさと起きた方が良いこと。だって立ち直るまでの時間が必然的に早くなるわけだし、あの子は次の恋に進んだりもできるわけだから。
「というか……私は何でリンダちゃんがそんなにも不安になっているのかがさっぱり分からない」
みんなもそう思わない?
だってさ、フウくんってどう見てもリンダちゃんにゾッコンじゃん。
自分で言うのもなんだけど私だってそれなりに可愛いわけですよ。
綺麗だとかも言われてきたし、今でも言われたりする容姿をしているわけです。方向性は違えど総合的に見ればリンダちゃんと同等くらいのスペックはあったりするわけですよ。
そんな私とあれだけスキンシップを取っていてだよ。
おっぱいを押し付けたり谷間を強調したりしてみせてもフウくんが本気で私に手を出したりしたことないじゃん。時と場合によっては私には女としての魅力がないのかなって思うくらい間違いが起こったりしないわけじゃん。
それなのにここまで不安を抱くってことは、見方によってはフウくんのことを信じていないってことだよね。
そこが私は気に入らないというか腹が立つわけです。この相談に乗りたくないって思う最大の理由なわけですよ。
「リンダちゃんは自分の中にあるフウくんへの想いよりもさ、あの子のフウくんへの想いの方が上かとかバカみたいなこと考えてるの? いやまあ考えるのはいいよ」
私は恋人なんて出来たことがない恋愛初心者だし。
本気で誰かを好きになったこともないからリンダちゃんの考えることとか、不安に思うことに完全には共感してあげられないから。
「でもさ……自分の想いが不安に思うのならフウくんからのリンダちゃんへの想いを信じればいいだけなんじゃないの? そこまで思い詰めて考えるのはフウくんに対する裏切りじゃないの?」
「それは……」
私はリンダちゃんの友達だしフウくんの友達。
だからふたりが末永く付き合えたら良いとは思う。
でも人間関係なんてふとしたことが変わったりするわけで……
もしもリンダちゃんやフウくんが他人を本気で好きになって、別れたいって相談してきたら別れたいって意思を尊重する。好きだっていう気持ちがなくなったってことでも尊重する。
だってそれは感情が動いた結果だから。
関係性を壊してでも先に進みたいと考えての覚悟を伴った発言だから。
好きだって気持ちがなくなってしまう何かが起こってしまったということだから。
でも私はあくまで中立。
逆に別れたくないって相談されたらそちらにも真剣に話を聞く。
間違いだと感じることをしようとしなければ協力する。だってもしかしたら単なるすれ違いで仲たがいしているだけかもしれないから。。
「極論を言ってしまえば、恋人であるフウくんかよく知りもしないあの子。そのどっちを取るかって話。そんなの私に相談するまでもなく明らかだよね?」
「…………」
「ま、決めるのはリンダちゃんだし。もしかしたら別の選択肢が出てくるかもしれないから考えたければ好きにしたらいいよ。私はこれで帰らせてもらうから」
自分が注文していた分の代金を置いて席を立つ。
するとリンダちゃんはどこか納得しているよう……でも何か言いたげな不安そうな顔で私を腕を掴んできた。
そんな彼女に私は盛大に溜め息を吐きながらはっきりと告げる。
「自分が幸せになるってことは誰かを不幸せにする。今回の件はそれに該当するってだけでしょ。迷うのは分かるけどどういう選択をするかは最後は自分だけで決めなよ。私はリンダちゃんの友達ではあっても家族じゃないんだから」
他人に任せた選択で事態が嫌な方に転がったら最後に納得とか割り切ったりできない。それはリンダちゃんも分かってるよね?
「これ以上さ、このくだらない話を続けるようなら……私はリンダちゃんと友達やめるよ?」
少しずつ私の腕を握っている力が弱まっていく。
やることは決まっている。それはリンダちゃんも分かっている。
でもどう転ぶか分からない。だからリンダちゃんの中から不安は消えない。それを私は分かっている。
けれど今の状況でどれだけ議論を行っても答えなんて出やしない。これ以上続けても互いの時間を無駄に浪費するだけ。
本気で答えを出すのならリンダちゃんが取るべき行動はひとつ。
フウくんに連絡を取るか直接会うかして自分の想いをさらけ出すこと。そして、ふたりであの子にどう対応するのか決めること。
と言ってもポンコツ丸出しの我が友人がその行動を取れるとは思えないわけで。
クラスメイトとか知り合い程度の相手だったら何も気にしないでさっさと立ち去るんだけど……。
「また相談するにしても実際のあの子と関わってみて……あの子がフウくんとどうなりたいのか分かってからにしてくれないかな。そうじゃないと私も具体的なこと言ったり協力とかできないから」
こうやって不安そうな友人に追加で言っちゃうあたり……私は自分の中にある甘さが嫌になる。何が中立だって問い詰めたくなる。
こんなんだから自分自身をエサにするようなやり方で他人を破滅させよう、なんて考えてしまうのかもしれない。
フウくんに自分のことを大切にしろと言われてしまうのかもしれない。
でも仕方がない。だってそれが私だから。そんな私も私なのだから。
「ほんと……私って可愛くない」
一芸特化な俺と彼女(嫁) 夜神 @yagami-kuroto
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
フォローしてこの作品の続きを読もう
ユーザー登録すれば作品や作者をフォローして、更新や新作情報を受け取れます。一芸特化な俺と彼女(嫁)の最新話を見逃さないよう今すぐカクヨムにユーザー登録しましょう。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
関連小説
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます