第12話 「マジですか、あざす!」

 映画の感想を言ってもいいっすか?

 控えめに言って……最高でした。どれだけ最高だったかと言うと


「わたしも……わたしもあんな恋がしてぇよぉ」


 目の前に居る後輩が、映画を見終わってからコラボカフェに到着したのにも関わらず、ブレた口調でこんなことしか言わないくらい。

 俺も同じくらい最高だと思っているので似たような言葉を言いたくもある。

 だがしかし、この後輩はリア充に対して厳しい。

 彼女持ちである俺が自身と同じ言葉を吐こうものなら、ほぼ確実に噛みついてくることだろう。

 故に俺はあんな恋がしたいだの口にしない。無用な争いは好まない。

 ……何か後輩の目がこっちに向いたんだけど。敵意はないけど力強い瞳をしちゃってるんだけど。


「先輩!」

「どした」

「どうやったらあんな恋が出来るんですか!」


 その問いにどうして俺が答えられると思うんですか?

 確かに『あた好き』は、ヒロインが主人公に「君はあたしを好きになる!」って宣言して、なんやかんやあって軽い感じで付き合い始める。

 そこだけ見れば、俺とリンダのケースに似ている部分がないとは言えない。

 でもさ、俺とリンダは付き合い始めてから今日に至るまで大きなケンカはしていない。付き合うに当たって大きな障害にもぶち当たってない。進んでるペースとしては今時の若者達よりも遅いかもしれないが、順調と言えば順調と言える。

 それだけに『あた好き』のふたりのように自分達は本当に相手のことを好きなのか、とか自分とは別の相手に気があるんじゃないか……みたいな葛藤がない。

 そういう葛藤がなければ勘違いやすれ違いも起きないわけで。

 それ故にユッキーの質問に明確に答えられるわけもない。


「知らん」

「後輩の真剣な言葉をバッサリ切り捨てるとかサイテーです。なので何か言ってください。少しは考えてください」

「何で俺がお前のためにあれこれと悩まないといけない?」

「それは風間先輩がわたしの先輩で、憎たらしくなるほど美人な彼女が居るリア充だからです」


 先輩だから後輩の相談に乗るべき、みたいな部分は良いとして。

 彼女が居るリア充だから相談に乗れってのは理由としては不適切なのでは?

 お前、俺とリンダが付き合った経緯知ってるよね?

 日頃どんな接し方してるのかも知ってるよね?

 俺達の恋愛に『あた好き』みたいな切なさや胸キュンをお前は感じてる?

 絶対感じてないよね?

 まあこんなこと言っても、目の前に居る後輩は逆ギレして噛みついてくるだけだから答えてやるけど。


「……まずはお前のお眼鏡に適う男を見つける」

「え、そういう話になります?」

「適当に言ったらお前は具体的に話せって駄々をこねるだろ」

「別に駄々はこねません。ただ小言を言うだけです」


 それを俺は駄々をこねてるって言ってるんですが。


「まあいいです。話を続けてください。とりあえず最後まで聞いてあげます」

「そいつはどうもありがとう。お目当ての男を見つけたら次は告白だな」

「ちょちょちょちょッ!?」


 最後まで聞くって言ったくせに即行で制止された。

 もう少し自分の言った言葉に責任を持って欲しいものだ。


「何?」

「何? じゃないですよ。何で見つけた後が告白なんですか。普通はデートに誘って仲良くなる、みたいな感じでしょ」

「俺は大きな段階となる部分だけ話してるんだ。そのへんはお前のたくましい妄想力で補完しとけ」


 細かいところまで話すとおそらく……

 デートにはどういうところに行くべきだと思いますか?

 こういうときはどんな服を着るべきだと思いますか?

 手とかってどんなタイミングで握るのが男性的にはグッと来るんですか!

 みたいになって話が進まなくなるし。そういう話はお話し好きで恋バナ好きなお友達を作って、その人と気が済むまでしてください。


「話の続きだが……無事に付き合うことが出来たら、次にそいつに気がある奴を見つける。そうすることで三角関係に状況が変化、無事にそのステップを乗り越えることが出来たならお前は切なさと胸キュンのある恋が出来たと言えるんじゃないか」

「んなわけないでしょ!」


 即行で否定された。

 そんなの100%ないって顔で否定されたんですが。


「何でだよ?」

「何でって普通に考えれば分かるじゃないですか」


 先輩はバカなんですか?

 としか思えない顔してるな。よくもまあここまで精神を逆撫でするような顔が出来るもんだ。ある意味尊敬する。

 もういっそこいつは、役者にでもなればいいじゃないだろうか。

 個人的に悪女役とかやらせたら結構ハマると思う。


「超絶に段階と話が端折られてる点については目を瞑ってあげます。ですが常識的に考えてですよ。自分が良いなと思った相手と付き合えたとして、何で自分から三角関係なんて作って破滅の可能性を作らないといけないんですか」

「あた好きみたいな恋がしたいと言ったのはどこの誰ですか?」

「それはわたしです。でもあの作品の三角関係は自然と発生したものであって、自分達で意図的に作り出したものではありません」


 いやいや、主人公達の恋愛を盛り上げるために制作サイドが意図的に作り出したものじゃないですか。

 とは絶対に言えない。

 そんなことを言おうものならユッキーは激怒する。

 何なら過去最高レベルで激怒する。何故ならユッキーはオタクだから。純粋に作品を愛し、楽しむ者として聞き捨てならないはず。

 また俺もオタク。

 好きな作品に対してこんな言葉を言いたいとは思わない。

 それだけにここは大人しく黙ってユッキーの言葉を聞こうと思います。雰囲気からしてまだまだ続きそうだし。


「意図的に別れる要因を作るとかバカのすることです。というか、それを実行して別れることになったら……『あの人は絶対わたしのこと選んでくれるの!』みたいな自信を持っていたのに負けた傲慢系ヒロインみたいで立ち直れません」


 こういう時にさらりと二次元な例えを出すあたりオタクだよね。

 ちなみにあの人は絶対にどうたらって部分では、ちゃんと気持ちを入れて声まで作ってくれたよ。相手に伝える努力を怠らないのはこの後輩の良いところだよね。罵倒とかしてる時は心底ウザいと思うけど。


「邪魔者が自然発生して……付き合ってた人がそっちに流れたとかならまだ諦めがつきますけど」

「その割には顔があれだな」

「付き合ってた人に他に好きな人が出来たから、って言われて別れたとして平然と笑えるほど人が出来ていないんで。女として魅力で負けたって言われてるようなものですし。多分悲しくて泣いちゃいます……何ですかその顔は」


 いや別に何でも。

 と言っても引き下がりそうにはない顔だ。ならば素直に答えてやろう。

 ただし、大声で罵倒を返してきたらオコだ。だって今居るのはコラボカフェだから。他の客にも迷惑だし、オタクとしてお店に迷惑を掛けたくない。

 それ以上に……男女比が圧倒的に女性に偏ってるからってのもあるんだけど。

 具体的に言えば2:8。圧倒的に男性が少ない。

 それでいて場所が場所だけにオタク気質な人も多いようで、映画館の時と少し違った視線を感じる。

 周囲の皆さん、俺とユッキーは同じ部活の先輩と後輩ってだけです。

 断じてカップルではありません。なのでどこでもイチャコラするバカップルなんて思わないでください。


「ユッキーが泣くとかウソ泣きっぽいな、と」

「風間先輩はよく相手の目を見て平然とそういうことが言えますね。ここが部室かゲーム内だったら盛大に罵ってるところですよ」

「そういう配慮が意図的に出来るんならさ、日頃から罵倒する際の声のボリュームだけは下げてくれませんかね」

「だったら罵倒されるようなことをしなければいいんじゃないですかね」


 俺からユッキーにケンカを吹っ掛けることってそんなにありましたっけ?

 基本的にそっちから絡んできてバトルが始まってる気がするんですけど。

 無視したら怒るし、余計にウザ絡みするし、返事したらしたで変にマイナスに受け取ったり、妄想力を働かせて嫉妬したり……

 イベントでもないの逃げられないバトルを強いられる俺の方が被害者なのでは?


「まあそれはいいとして。ユッキーは泣いた後どうすんの?」

「そうやって適当に流してばかりいるといつか痛い目に遭いますよ」


 俺は俺よりも先にお前が痛い目に遭うと思うけどね。

 猫被らなかったら息をするように棘のある言葉を口にするんだから。

 俺以外には言ってなさそうだから大丈夫だろう?

 おバカ、俺以外には気を付けていたとしても俺も人の子。

 故に我慢の限界はきっとあります。だからこの後輩にプッツンときちゃってガチオコする日が来るかもしれないでしょ。


「泣いた後どうするかなんて決まってます。わたしを不幸に追いやったそのふたりを破滅に追い込むだけです」


 冗談っぽさが微塵も感じられない真顔と真剣なトーンで言い放つ後輩を僕はどうしたらいいのでしょう。皆さん、どうか教えてください。


「何か急にユッキーと……丘野さんとの付き合い方を見直してみようかなって思えてきたよ」

「返しの内容だけでも失礼なのに他人行儀にまでなるとか、二重の意味で失礼なムーブしてくれますね!」

「いややっぱり距離感って大切かなって思って。さすがにそこそこな頻度で顔を合わせる以上、ゼロからのスタートは出来ないけど……先輩と後輩としてイチからのスタートをしてみてもいいんじゃないかなと」


 この後輩が恋愛のもつれで何か起こした時、親しくしていた知人として取り調べとか受けたくないし。


「互いが納得するペースで距離を縮めていく方が、今みたいな衝突も起きずに平和な時間が過ごせると思うんですよ。丘野さんもそう思いませんか?」

「それは思いますけど! それ以上にさらりとですます口調やら丁寧語にして距離を広げるのやめてくれませんかね。今更わたしと先輩の関係をリセットするとか出来ないですから!」


 大きな声で関係をリセットできないとか言うのやめてくれませんかね!

 店内の視線が凄まじく集中しちゃってますから。嫉妬めいた視線だけでなく、何やら妄想して楽しんでる人までいらっしゃるみたいだから。


「大体……わたしが何度もユッキーって呼ぶなって言ったのに気にせずユッキーって呼んで距離感を縮めてきたのは先輩の方じゃないですか」


 まあ確かにやめろと言われてもユッキー呼びを続けたのは俺ですが。

 でもさ、その言い方だとまるで俺がユッキーに気があってアタックし続けたみたいに聞こえるんですが。

 周りの人もそういう風に解釈しちゃってると思うんですが。

 何か店に入った時よりも聞こえてくる会話が減ってるし。中には露骨に聞き耳を立ててる人までいるし。


「俺達の距離って言うほど縮まってたっけ?」

「それを言われると……微妙なところではありますが。顔を合わせる度に罵倒や嫌味を言い合ってますし」


 その言い方からして俺から罵倒や嫌味を言われてるだけでなく、そっちも俺に対して罵倒や嫌味を言ってる自覚はあるんだな。

 なら俺達ってもう少し関係性を変えることも出来るのでは?

 世間一般で言うところの良い先輩後輩の関係に近づけるのではないだろうか。


「でも考え方によっては、距離感が微妙な相手とそういう言い合いは起きないわけで。そういう意味では、わたしと先輩の距離は縮まってると言えないこともないのでは?」


 そう言われると……そうかもしれない、と言えなくもない。

 ただですよ、ユッキーから距離が近い的な発言が出るとは思ってませんでした。

 もしかしてこの後輩、俺が思っているよりも……


「あの、その何とも言い難い顔は何ですか。わたしのことバカにしてるんですか」

「いやバカにはしてない」

「じゃあ何なんですか」

「ユッキーは意外と俺に対してデレてるのでは? と思ってあれこれ考えてました」

「は?」


 何でわたしが風間先輩にデレないといけないんですか。ふざけたこと言ってるとぶっ殺しますよ。

 とでも言い返しかねない顔をしていたユッキーだが、俺の発言に自身が発した言葉が関係していると思い当たったらしく、急速に顔を赤く染めていく。


「かかかかかか勘違いでもらえますか。べ、別にわたしは先輩と何でもボロクソに言い合える関係に特別なものとか感じてませんから。特別な関係だとか断じて思ってませんから!」


 俺もそこまでとは言ってないんですが。

 単純に毛嫌いされてるわけでもないんだな、くらいで意外とデレてるって言っただけで。

 だからさ……

 そんな顔を真っ赤にして必死に言い訳されたら誤解しそうなんだけど。俺がじゃなくて俺達の話を聞いている周囲の人が。

 周囲の方々、俺とこいつは断じてそういう関係じゃないから。

 友達以上恋人未満みたいな甘酸っぱい関係とかじゃ絶対にないから。俺にもこいつにも迷惑だからマジで誤解しないで。


「ま、まあ……こいつって俺には何でも言ってくるし、もしかして俺に気があるんじゃないか? って考えたくなる思春期特有の男子高校生の気持ちは分からなくもないですよ。わたしって可愛いですし」


 女子高校生のお前が男子高校生の何が分かる。

 お前の思考は女子ではなく男子寄りとでも言うのか……そういやこいつ、リンダに対してノリでしかやらなそうなオタクじみた言動してたな。それでいくと意外と男子よりの思考をしているのかもしれない。

 でもそれ以上に……

 何でこいつって自分で自分のこと可愛いとか言っちゃうんだろうね。

 いやまあ外見は可愛いんだけど。大抵の人は可愛いって答えると思うけど。可愛い人が謙遜ばかりしてると癪に障る人も居ると思うんだけど。

 でもでもこいつの場合、「自分は可愛いです!」って感が強すぎるんだよね。

 自分が可愛いから先輩があれこれ考えるのも分かります。あぁ~わたしって罪な女って感じでさ。

 そういうのは上位互換であるおシズさんを倒してからにして欲しい。

 そしたら俺も多分こいつのこういうところをもっと素直に受け入れるし、癪に障ったりすることもなくなるから。


「でもだからってわたしは、先輩に対して恋愛感情とかこれっぽっちも抱いてないんで。そういう感情を持つ可能性とか今現在だと微塵もないんで。だからマジで勘違いしないでください」


 そんな真顔で言わんでも勘違いなんてしません。

 というか、そもそもの話ですよ。

 何で話の方向性が俺がユッキーのこと恋愛的な意味で好きみたいになってんの?

 そんで何で俺がフラれたみたいになってんのよ?

 俺はお前って意外と俺にデレてる? って言っただけじゃん。

 それくらいでここまで話を膨らますことが出来るなんれある意味才能ですよ。

 もしくは妄想力がたくましい。そのへんの男子高校生よりも上かも。


「安心しろ。そんなこと絶対ないから。お前にそんな感情を抱くなら先にシズに抱くだろうし」

「あはは、先輩ってこういう時の返し天才的ですよね。ぶっ殺しますよ」


 笑顔で殺人予告されちまったぜ。

 まあそんなことよりもスマホが振動したんでそっちを確認しちゃうのが俺なんですが。

 おやおや、おシズさんからメッセージが届いてますね。

 このタイミングで送ってくるとか真の天才は彼女なのではなかろうか。


『フウくん』

『良いのが撮れたからお裾分けしちゃう!』


 何かおシズさんテンション高……おっふ。

 何が送られてきたのか説明するぜ。

 まず最初に脳裏に過ぎったのは『ボイ~ン♡』だった。だって画面の大半が女性の胸部だったから。

 でもこれだけじゃないの。

 そのボリュームたっぷりなお胸を鷲掴みにしている手があったんですね。

 この手の主はおシズさん。

 誤解がないように言っておくが別に俺は手だけで人を判断できる手フェチではない。単純に追加で送られてきた写真に引いた構図のがあったから分かっただけだ。

 全体的な構図としては、リンダにセクハラしてるおシズさんって感じ。

 顔を真っ赤にして慌てているリンダさん可愛い。リンダさんのお胸を触ってるおシズさんが羨ましい。

 妬ましくないのかって?

 そんなの妬ましいに決まってるじゃないですか。

 でもさ、おシズさんはわざわざリンダさんのお胸を強調されるように写真を編集して送ってくれる人ですよ。俺の知らない時間・場所のリンダさんを教えてくれる人なんですよ。

 その労力を考えたら妬ましさよりも感謝の念が強くなるよね。


「先輩、このタイミングでスマホ見るとか度胸ありますね」

「まあ俺の中でのユッキーの優先度ってゲーム部のメンツで考えると最下位だし」

「マジでぶっ殺されたいんですか。まあリンダ先輩から連絡なら無視するわけにもいかないので許しますが。わたしのせいで返信遅れたとか言われたら最悪ですし」

「お前の中での優先度はリンダが最上位なのな」

「当然ですよ。ちなみに風間先輩の優先度はリンダ先輩より限りなく低いです」

「そんなのは言われなくても分かってる。あと俺が今連絡してる相手はリンダじゃなくておシズだ」

「なるほどなるほど……ちょっと裏に行きましょうか」


 だからそういうのは笑顔で言うことじゃないと思う。

 というか、裏に行こうと提案するってことは俺をボコすって考えてるんだよね。

 何でこいつは小柄な方なのに俺のことボコせると思ってるの? 身長差で考えると20センチ以上あるんだけど。

 まだ体育系の部活動に入ってるとか理解できる……もしや格闘技の経験者?

 いやそれはないか。

 だって俺の知る限りこの子ってパッと見は清楚系に見えるけど、中身はなかなかにゲスなことも考えるオタクだし。ボコせる腕力あるなら今日に至るまでに俺はすでにボコされてる。


「断る」

「逃げるんですか怖いんですかこのチキン野郎。断るって言うなら『だが』を付けるべきです」


 このオタク、とても面倒臭いんだけど。

 お客様の中にこの子に少しでも魅力を感じる方はいらっしゃいませんか?

 いらっしゃるなら喜んで俺はこの席をお譲りします。


「何ですかその面倒臭そうな顔は」

「そう思うなら話しかけるなよ。これでも見て興奮しとけ」

「そこは普通落ち着けだと思うんですが。というか、公共の場で女の子を興奮させようとするとか先輩はどんだけ変態なんで……え……こ、これは」


 俺のスマホをガン見するユッキー。

 目が血走っているあたり、俺のスマホに映し出されている写真のお胸がリンダさんのものだって分かってるようです。

 あ、目がクワってした。

 これはリンダのおっぱいを揉んでるのがシズだって理解したんでしょうね。

 でもここはユッキーが言ったように公共の場。もしもユッキーが奇声でも上げようものなら俺が口を塞がなければ。でもそれが何かしらのプレイに思われて出禁にされたら最悪だな。

 なんて考えていたらユッキーが自分のスマホを取り出しました。

 そこからは……


『せんぱいせんぱいせんぱい』

『このおっぱいはどう見てもリンダ先輩ですよね!』

『何ですかこのおっぱい!』

『最高ですか!』

『先輩だけこんな写真もらえるとかずるいです。あとでわたしにもください!』

『ただ……』

『リンダセンパイノオッパイヲ』

『モテアソブ』

『コノメギツネダケハ』

『ユルセマセン』

『処す処す処す処す処す処す処す処す処す処す処す処す処す処す処す処す処す処す処す処す処す処す処す処す処す処す処す処す処す処す処……‼』

『ネェセンパイ……ドウヤッタラコノメギツネヲ……』


 こんな感じ。

 実際はこの数倍の情報量だったけど、それを全て伝えると俺もみんなも疲れるから要約しつつ自主規制をかけておきました。

 コラボカフェに迷惑を掛けないやり方で感情を爆発させるのは偉いけど……

 もしもユッキーが誰かを好きになったとして、その時に相談相手に選ばれた際には絶対直接会って話そうと思いました。

 じゃないとスマホの通信料がやばそうだから。それ以上にこの子と文字で会話するのは面倒臭いから!


「なあユッキー」

「ナンデスカ」

「いい加減さ俺のスマホ返して」


 別にユッキーの握力でどうにかなるとは思ってません。

 けど……今のユッキーは内に秘めた感情に任せて床に叩きつけてもおかしくない。そしたら画面が割れる可能性は大いにある。そしたら修理やら必要になるわけで。

 出来ることならそういう手間暇は掛けたくない。物は大切に。


「女狐ヲ処す方法ヲ教えてクレルナラ返しマス」

「そういうのは自分で考えろ。俺を悪の道に引き込むな。つうか素直に返してくれるならBIGサイズのパフェを追加で奢ってやるぞ」

「マジですか、あざす!」


 おシズさんへの怒りよりも食欲ですか。

 食欲は人間の三大欲求のひとつだから仕方ないとも思うけど。

 それ以上にウザいムーブをかまさず素直に返してくれたことに感謝するけど。

 でも……あんまり勢い良く返されるとさぺシーン! ってなるわけ。

 叩きつけられた側の俺はとても痛い。非常に痛い。そこだけは謝罪が欲しいって思っちゃうな。

 まあ思うだけで要求はしないんですけど。だってユッキーと過ごす時間はまだ続くから。似たような感情はきっと抱くことでしょう。

 だから……


『さっきバカが変な写真送ったかもしんないけど保存とかするなよ』

『消さないとオコだから』


 って連絡をくれたリンダさんにはこう返しておこう。


『嫌です』

『だって俺、今ユッキーとデート中だから』

『家に着いた時にこの写真がないと癒されない』


 ……あ、既読になった。


『何でそうなってるのかよく分かんないけど』

『まあ頑張れ』


 消せって言ってこないってことは、保存しててオッケーってことだよね。

 いやはやリンダさんって優しい。普通はノリでも他の女子とデートしてるって言ったら怒られてもおかしくないのに。

 まあこの結果から逆説的にリンダさんが、ユッキーにどんな感情を抱いているか読み取れるわけですが。

 おや……またリンダからメッセージが


『ほんとにヤバい時は電話』

『つうか電話する』


 これを要約すると、あんたのことが心配だから夜に電話する。

 ということだけなら可愛さだけで終わるんだけど、正しくは……

 シズとあれこれあったから愚痴を聞け。その代わりあんたの愚痴も聞いてやる。

 ってことになるんだよね。

 ま、ありがたいことに変わりはないんですが。

 それに元気の塊たる写真を消さずに済む許可ももらった。

 だから俺は、今日という日を頑張れる。やっぱりおっぱいって大切だよね。



  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る