第10話 「ぐうたらな彼女で悪かったな」

 皆さん、今日は我が家にリンダさんが遊びに来たよ。

 ちなみに我が家というのは現実世界の俺の家という意味だからな。まだオンリヴ内にマイハウスなんて用意できてないから。現時点でそんなものを持っているのは廃人や重課金勢だけです。

 というわけで話を戻します。

 リンダさんが今何をしているかというと……俺のベッドの上でゴロゴロしながら漫画を読んでいるよ。

 そう言われてエッチなこと考えた人。

 残念だったな。今日もリンダさんはパンツスタイル。パンチラなんて起こらない。

 だがしかし。

 スキニージーンズなのでお尻から足先までのラインが際立っております。これはこれでエロいよね。上は半袖なんで普通ですけど。でもでもお胸が大きいからエロさがないわけではない。


「……何でそんなに見てるわけ?」

「エロい身体してるなって思って」

「堂々とセクハラすんな」


 そう言う割には必死さや怒りのようなものはない。

 いつもどおりの自然体。会話の流れとして言っただけ。そんな感じである。

 まあ今日が特別機嫌が良いというわけではなく、第三者がいなければ割といつもこんな。ユッキーやシズのせいで忘れているかもしれないが、リンダさんは基本サバサバ系なのだ。


「そっちが理由を聞いたのにそれはひどくね?」

「そういう返しをされてもおかしくない言葉を選ぶ方が悪い」


 それは一理あるけど。

 でもさ身体の曲線美について懇切丁寧に語るのは悪手でしょ。俺はリンダさんに引いたような目で「キモい」とか言われたくないもん。


「リンダさんの身体がエロいのは誰もが認める事実だと思うんですが」

「わざわざエロいなんて言葉を面と向かって言うのは、フウマさんを含めた一部の人間だけなんですが。一般的にこの手の言葉はセクハラに入ると思うんですが」

「なら俺はどうやってお前の身体を褒めればいいんだ?」

「お前はあたしの身体にしか興味がないのか」


 そういうわけじゃないけど。

 だけどそれ以上に……ノリだとは分かっているし、怒っていないことも顔を見れば分かるんですが。

 でもだからといって、手に持っている漫画を投げようとするな。

 お前もオタクなら二次元に関わるものは大事に扱え。それを抜きにしてもそれはお前のものではなく俺のものだ。他人のものを乱暴に扱うんじゃありません。

 なんて思っていたら部屋の扉が開いた。


「お待たせ~」


 お気楽な声と共におぼんを持って入ってきたのは俺の母親。

 というわけではなく俺とリンダの友人代表とも言えるおシズさんである。

 おシズさんはラフなリンダさんとは対照的にノースリーブにミニスカでザ・お出かけスタイル。肌色成分も多めでリンダさんとは別の意味でエッチぃです。


「お菓子とジュース持ってきたよ」


 おぼんにあったお菓子とジュースをテーブルに移すおシズさん。

 そのときの姿勢が前かがみなせいか胸元がチラチラとしちゃっております。

 そうなると必然的に見ちゃうよね。

 だって俺は男の子だし。おシズさんってリンダさんには劣るけど、十分な大きさのお胸をお持ちだもの。


「フウくん、どうかした?」

「谷間が見えそうで見えないな、と」

「あー、ならもうちょっと首元が開いた服を着てくれば良かったね」


 そう言って首元を指で引っ張るおシズさんエロ過ぎ。サービス精神が強すぎだよ。


「おいこら」


 咎めるような声の主は、言うまでもなくリンダさんです。

 のしかかるように肩にあごを乗せ腕を回してきました。

 つまり密着状態であります。

 綺麗な顔がすぐ横にあると思うと普通は緊張しちゃうよね。緊張感を覚えず背中に感じるお胸の感触を楽しんでしまっている俺はある意味アウトかもしれないよね。

 でもさ、仕方がないじゃないか。

 だってこういう距離感ってよくあるんだもん。人間って慣れちゃう生き物なんだもの。ここからキスするってなったらさすがに緊張するけど、引っ付かれたくらいじゃドギマギしません。


「何ですリンダさん」

「つい今しがたあたしはお前に何て言った?」

「おいこら、って言いました」

「直近すぎるわ。堂々とセクハラすんなってさっき言ったろ」


 確かに言われた。

 でもそれってリンダさんに対してじゃないの?


「シズもこんな奴にサービスしない」

「別にサービスしてるつもりはないんだけど。遊びに来させてもらってるわけだからその対価を払うというか」

「その考え自体は否定しないけど。どう考えても払う対価が高過ぎ」

「そうかな? たかが谷間を見られるくらいなのに」


 リンダさん、今の発言にまったく共感できていないご様子。

 でもこれが普通だよね。

 だって普通の女の子は、彼氏でもない男に谷間を見られたりしたら恥ずかしいとか思っちゃうはずだもの。


「あんたにとって胸を見られることは害じゃないわけ?」

「別に害じゃないかな。見られる相手もフウくんだし」


 おいおい、おシズさんよ。

 その言い方だとまるで俺が貴方様にとんでもないレベルで異性扱いされていないように聞こえるんですが。

 もしかして俺のことそのへんに落ちてる石ころレベルに思ってる?

 そうだったら悲しい。とても悲しい。

 だって俺はおシズさんのことを友達だって思っているのだから。ちゃんと女の子だって思っているのだから。


「あ、でも誤解しないでね。フウくんだから見られても害に思わないだけでよく知らない人に見られようものなら確実に不愉快だから」


 もしリンダさんが独占欲の強い人だったら今の発言はアウトなのでは?

 誤解しないでねって言ってるのに別の誤解を生みかねない発言なのでは?

 そう思ってしまった俺は間違っているのだろうか? いや間違ってないだろう。


「フウくんが何か言いたそうな目でこちらを見ている」


 別にこれといって言いたいことはないんですが。

 ただ考え事をしていただけで。

 でも会話のために返答しちゃいなよ、って顔でおシズさんが見ている。

 言いたいことがあるならこのバカにはっきりと言ってやれ、と言いたげな顔でリンダさんも見ている。

 このまま黙っているとふたりから小言をもらう気がする。それだけに早めに何か言わなければ。けど急に何か言えと言われても……


「……ふと思ったんだが」

「うんうん」

「ここまでの流れを第三者が見た場合、俺と付き合っているのはリンダではなくシズの方に思うのではなかろうか?」


 お菓子やジュースの準備には食器類が必要。

 それを用意するいうことはキッチンを利用しなければならない。

 故に俺の部屋でゴロゴロしていたリンダと俺の部屋以外も気兼ねなく動き回っていたシズを比較した場合、彼女感が強いのは後者なのでは?

 なんて適当に口にしたことをそこそこ真面目に考えていると、肩に回っていたリンダさんの腕が動きました。

 空いていたもう片方の腕も動いて……もう少し力を込められると首が絞められる状態になっちゃった。


「ぐうたらな彼女が悪かったな」

「リンダさん、その笑顔は笑ってない。あとそんなこと一言も言っておりません」

「暗に言ってんだろうが」


 失礼な。

 俺がいつお前のことを人の家に来るなり俺のベッドを占領して漫画を読みふけってばかりなゴロゴロ彼女、だなんて言ったよ。


「というか、ここはあんたの家だろ。何でシズにお菓子やら用意させてんだ」

「お菓子やら持ってきたもらった手前、俺がすると言いましたよ。でもおシズさんが自分がやる、女子力アピールしたいって言って聞かなかったんだもの」


 おシズさんがそこまで頑なにやりたいって言ったっけ? と言いたげな笑顔を俺に向けている。

 が、ここはあえて無視だ。

 あんな笑顔を見ているよりも背中に感じる大きなお山に意識を向けていた方が幸福感を覚える。


「そのおシズさんが何か言いたそうな目であんたを見てるけど」


 ちょっリンダさん!?

 人が触れないでおこうと思ったものを強引に誘導するのは卑怯じゃないかな。あなたも目の前の大和撫子が怒ったら誰よりも怖いって知ってるでしょ!


「う~んそうだなぁ……まあ正直どうでもいいと言えばいいけど、フウくんが言うには私は女子力をアピールしたいらしいし。ならご期待に応えてアピールするのが筋ってものだよね」


 どうでもいいと思うなら期待になんて応えなくていいと思います。

 ねぇ、何でそんな笑顔で近づいてくるの?

 怒ってるなら素直に怒った顔をしてよ。二次元文化に触れる時間が長いオタクだからって笑ってない笑顔を習得して使用するのはやめてよ!


「はい、あ~ん♪」


 ……何故に?

 いやまあ肉体的ダメージが一切ない展開なのでありがたいよ。

 おシズさんの指にホールドされているのもクッキー1枚。馬鹿げた大きさのものを口にねじ込まれる心配もないから安心ですよ。

 でもでも、だけども……これって女子力アピールなの?

 もしかして女子力って俺が思っているよりも複雑かつ深いものなのか。

 あ~ん♪ ひとつとっても女子力が問われるものなのか。

 分からん、俺にはまったく分からん。

 俺が女子だったならば、これを理解できたのか。


「ねぇシズ」

「何かなリンダちゃん?」

「何故あんたは最後の最後でこいつを甘やかすようなことをする?」

「別に甘やかしてはないよ」

「どこが?」

「将来的に見ればフウくんの弱みになるかもしれないじゃん」


 笑顔でそんなことを言う友人に俺は恐怖を覚えた。

 咎めるような態度だったリンダもどこか引いたような顔になっている。

 今のが冗談などではなく心からの言葉だった場合、俺達の今後を考えるとシズとは距離を取るべきなのではないだろうか。もう少し付き合い方を考えるべきではないのだろうか。

 そんな疑問が脳裏を過ぎった俺はきっと多分悪くない。


「というのは冗談で」

「ほんとでござるか?」

「ほんとでござるよ。私はリンダちゃんに変わってフウくんに『女の子』成分を補充しているだけです」


 この人、よく分からんことを胸を張って言い切ったよ。


「シズ、あんた私にケンカ売ってる?」


 あ、リンダさんがちょいオコだ。

 おシズさん、早めに謝った方が賢明だよ。じゃないと……リンダさんの怒りのボルテージが上がるにつれて俺の首が絞まっちゃうから。

 それに比例してリンダさんのおっぱいもより強く押し付けられるわけだけど。

 でも俺は童貞のまま死にたくないです。というか、他人への怒りを肩代わりして死にたくないです!


「私は女の子じゃないってそう言いたいわけ?」

「そんなこと言ってないよ。そのへんの男の子よりも格段に男前で腕っ節もありそうだなとは思ってるけど」


 ねぇフウくん、みたいな顔でこっち見ないでください。ここでの同意は死を意味するから。

 え、本音はどうなのかって?

 そりゃあ俺はリンダさんの彼氏ですよ。そのへんの野郎よりもリンダさんのこと分かってます。なので今のおシズさんの発言に関しては全面的に同意します。


「でもそういう部分があるからこそリンダちゃんは可愛い!」

「男前と腕っ節って言葉のどこに可愛さがあんのよ?」

「それに可愛さはないよ。でもそれがあるからこそ、リンダちゃんにはギャップが生まれるわけじゃないですか。サバサバしているように見えて意外と自分の部屋ではあんなことやこんなことを」


 あんなことやこんなことってどんなこと?

 もしかして……あんなことやこんなことなんですか!


「その話、詳しく」

「フウマ、もしもシズが今の話について説明を始めたら……あたしはあんたの首に掛けてるこの腕に思いっきり力を込める」

「おシズさん、何だか話が逸れてると思うんだ。今は女の子成分がどうのって方に集中しよ」


 今の話に関しては、あとでふたりっきりで話しましょう。


「それに関してはそのままの意味だよ」

「そのままとは?」

「リンダちゃんってエロい身体だけじゃなく、ギャップ萌えっていう武器を持ってるよね。でもそれをあんまり使わないじゃん」


 まあそれはそうだけど。

 でもリンダさんが意図的にギャップ萌えを使うとそれはもうリンダさんらしさってものが失われるのでは?

 サバサバしているように見えて意外と初心な反応をするってのがリンダさんの魅力なわけですし。ギャップを自在に扱えるようになったらサバサバ系から小悪魔系にクラスチェンジしちゃうよ。


「加えて丘野さんが入部してからは、フウくんに女の子らしいスキンシップをあんまり取ってない気がするんだよね。私の前だと今みたいに平然と引っ付いてるけど」

「そ、それは……」


 後輩の前でイチャつくのは恥ずかしいし。

 と、リンダさんが思っているならば……いや多少は思っているかもしれないが、言い淀んでいる理由は他にあるに違いない。だって顔に赤みが差してないから。

 これは俺の予想ですが、ユッキーの前で引っ付いてこないのはジェラったユッキーの相手をするのが面倒臭いからだと思う。

 あの後輩、リア充に夢を見ているくせに目の前で見るとジェラるから本当面倒臭いよね。


「どうせデートだってろくにしてないんでしょう?」

「そんなこと……」


 ない。

 とは言えないリンダさん。だってこの場には俺も居るし。

 何より俺もリンダさんも前にデートしたのいつだろう、って普通に考えちゃうレベルでデートした覚えがない。

 まあでも仕方ないよね。

 没頭できる趣味が出来ちゃうとそちらを何よりも優先しちゃうのが俺達オタクっていう人種だから。


「……て、てかあたしらがデートできないのはあんただって理由のひとつでしょうが。レベルアップのためか知んないけど、こいつのこと独り占めして」

「そこを言われると弱くもあるけど……でも根本的な理由はリンダちゃんにあるよね。だって私、フウくんに予定がないのを毎度確認してから付き合ってもらっているし」


 そうなんだよね。

 毎度のように「今日リンダちゃんとの予定はないの?」って感じにスタートしていたし。その度に可愛い後輩とデートしてるとか返していた気がする。


「丘野さんが可愛いのは分かるけど、もう少し彼氏であるフウくんを大切にするべきでは?」

「そ、それは……でも先約は先約だし。それを破るのもどうかと……」

「それはそうだけど。仮にこんな調子が続いたとして、リンダちゃんがフウくんからフラれたとする。そうなったとしても今の感じだと、私はリンダちゃんを一切慰める気は起きない」


 おシズさん辛辣。

 そのせいかリンダさんが不安そうな顔でこちらを見ているぞ。


「まあ、一般的に考えれば蔑ろにされた彼氏が彼女と別れるという話は十分にありえるよな」

「なら……あ、あんたはあたしと……その」


 気分が落ちているのか俺を拘束していた力が弱まる。

 このまま黙っていれば聞きたくもない質問をされるのは明白。それを回避しリンダの気分を元に戻すには先手を打つしかない。


「別れたいとか思うわけないだろ」


 すぐ横にあるリンダの頭に手を持って行き、軽い力で撫でる。


「俺はお前がそういう奴だって分かって付き合ってるんだから。仮にデートしようってなったとしても、先約があったらそっちに行かせるに決まってる。たかがデートでお前を約束を破る人間にさせてたまるか」


 あ、何かリンダから感じる熱が上がった。

 密着してるからはっきりとは見えんが、これはそこそこ照れているだろう。

 可愛い照れ顔を見たいと思うが、見ようとすれば両腕に力を入れられて動きを封じられる可能性が高い。また機嫌を損なう可能性がある。

 ならば俺はただ静観するのが正解なのではないだろうか。

 でも……超絶見てぇ。

 だって目の前に居るおシズさんの顔は「ムフフ……♡」って感じになってるもん。

 ごちそうさまです! って言いたげな雰囲気出してるもん……シズの野郎、今さらっと写メ取りやがったな。

 角度的に俺ごとなのかリンダだけなのか分からない。が、撮ったのは間違いない。あとでデータを送ってもらおう。


「な、何だよその顔は」

「いえ別に。ただごちそうさまです」

「その顔はそれ以外にもあんだろ。言いたいことがあんならはっきり言えばいいでしょうが」


 こういう時のリンダさんって若干ポンコツなのでは?

 と思わずにいられないフウマさんです。だって自分からもっと攻撃を受けに行ってるようなものだもの。

 まあ考え方次第では、ここでとことんおシズさんを満足させることで忘れた頃に今日の話を持ち出されしにくくするという作戦かもしれない。

 ふたりの頭の中ではどんな心理戦が行われているんだろうね。俺の考え過ぎと言われたらそうかもしれんけど。

 でもこれだけは言える。

 リンダさんのお胸の感触がさっき以上に感じられると。

 何故かって? それはだな……

 嬉しさやら照れやらを表に出さないようにしているのか、癪に障る笑顔を向けるシズから少しでも自分を隠そうとしているのか。

 そこははっきりせんがリンダさんが凄く密着してきているからだよ。


「そこまで言うなら言っちゃうけど」

「何よ」

「リンダちゃん……」

「溜めんではよ言え」


 リンダさん、ツッコミを入れたくなる気持ちは分かるよ。

 シズの奴、何か無駄にクルクルし始めたし。そんなのいいからさっさと話を進めて欲しいよね。

 スカートの中身が見えそうで見えないから凄くもどかしいし。角度を変えようにもリンダさんにホールドされてるから無理だし。無理に見ようと動こうものなら感づいたリンダさんがオコ……って可能性は十分にある。

 まさか……まさかシズの奴、これを理解した上であんな無駄に洗練された無駄な回転をしているのか!?


「フウくんに愛されてるね♪」


 キュートな笑顔いただきました♪

 いや~作ってるって分かってるのに可愛いですわ。

 本当おシズさんはあざとさの加減が絶妙だよね。

 まあでも今はおシズさんよりもリンダさんの方が可愛い顔してるんですが。


「なっ……ああああんたね、いい言うに事を欠いて!?」


 自分から言えと言ったのにこの動揺っぷり。この赤面っぷり。

 露骨にアワアワしちゃってさ。俺の彼女さん可愛い過ぎでは。

 でも……アワアワしちゃった故に俺から離れちゃった。もう少しおっぱいの感触を楽しみたかったなぁ。


「ちょっフウマ、あんた何か言いなさいよ!」


 冷静じゃないからってここで俺に頼るとは。

 ある意味では頭は回っているが、ある意味では頭が回ってませんな。普段のリンダならこういう時の俺が何て言うか予想もできるだろうに。


「リンダ」

「何よ」

「お前って……俺に愛されてるね」


 あ、リンダさんが声にもならない声を漏らして固まった。

 その横でおシズさんは「フウくんのイケボいだたきました!」ってテンション上げてます。

 確かに声は作った。自分なりにイケボを出した。

 でももしもおシズさんみたいな反応がなかったかと思うと……恥ずかしさのあまりこの部屋から出ていたかもしれない。だってリンダだけに声を作って愛を囁くとか無理。恥ずかしさのあまり死にたくなるもん。


「……あ……あああ、あんたは!」


 あ、これは不味い。

 羞恥心から怒りに変換され、固く握り締められたリンダさんの拳が飛んできてもおかしくない。

 そう心から思えるくらいには不味い状況です。


「助けてシズえもん」

「りょーかい!」


 やったね!


「……あのーおシズさん」

「何かな?」

「何で俺のこと抱き締めてるんですか?」


 それも両腕を使えないようにするような形で。

 これじゃあ、まるで俺をリンダから守るというよりも俺をリンダから逃がさないって感じになっているんですが。


「フウくん……あなたのことは忘れない。3分くらい」


 カップ麺作ったら終わりやん。

 というか、さりげなく俺の背中に移動しないでもらえます?


「俺を盾にしてもそんなに持ちませんが?」

「大丈夫、貫通や粉砕でもしない限り盾にはできるから」

「お前サイテーだな」

「まあまあ、頑張る分だけ報酬はあるから」


 報酬?

 そんなのどこに……あったわ。

 さっきまで感じていたものよりは小振りだけど、十分な弾力と柔らかさを感じるお山を背中に感じる。

 これが盾になっている間はずっと感じていられるのか。

 確かに男としては十分な報酬かもしれない。


「おいフウマ」


 あれれ、おかしいぞ。

 さっきまで照れが入った声だったのに、今のにはそれをまったく感じなかった。

 正直リンダさんの方を見たくはない……けど、見たい方がヤバい気がするので勇気を振り絞って見たいと思います。


「あんた、よくもまあ愛してるって言った女の前で別の女とイチャコラできるな」


 違うよ。

 俺はおシズさんに盾にされているだけ。イチャコラなんてしてません!

 なんて言ってもすんなり話が進む雰囲気じゃないな。

 よし、俺も男だ。ここは覚悟を決めよう。


「暴力反対。やるにしてもせめてヒップドロップでお願いします」

「黙れ変態!」



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