第5話 「面倒臭い」

 鉱山内。

 ここは序盤に訪れることが出来る故にダンジョンとしては規模が小さい。

 それだけに鉱山内の道は狭く、モンスターと戦闘では動きが制限される。

 ただ……


「手順はこれまで通りってことで」

「了解です。フウマ先輩、死なないでくださいね」


 そこは頑張ってくださいって言って欲しいんですけど。

 だってユッキーは火力面に貢献できないから。死んだらテイムできないから安全な後方で待機が基本だから。

 負傷すれば回復魔法で支援してくれる手筈になってるけど……テイムするのにもMPが必要。つまり回復魔法の使用回数が増えると、それに比例してユッキーの機嫌が悪くなる可能性が高い。

 機嫌が悪くなくても遠慮のない言葉を吐くのがユッキーだ。俺は罵詈雑言を浴びて興奮する変態ではないので、そういう事態に陥ることだけは回避したい。


「がんば」


 リンダさん、マジでやる気のない応援ありがとう。

 何でリンダさんがこんななのかって?

 それはテイムする関係で全力攻撃できないから不完全燃焼状態なのだよ。

 物好きなプレイヤーの検証によると、適正レベルかつ極振りしていない状態でのテイム成功率は約2割らしい。

 しかし、俺達は目の前の個体で9体目。

 検証が嘘ではない場合、ユッキーのリアルラックが一般以下なのではないかと思える数字に差し掛かっている。

 それだけにリンダさんがやる気のない顔をするのも仕方ないよね。


「へいへい……んじゃ凸ってきますわ」


 正直に言おう……俺もやる気はなくなってきてる。

 だって即死させてしまう可能性がある以上、弱点を狙うことができないから。

 敏捷性にガン振り故に被弾率も低く、武器が斬属性でダメージも期待できないということで囮役ばかりやらされているから。

 効率を考えればこの役割分担が最適解なのは分かる。分かるけど……気持ちよくはないよね。

 この個体で終わらないかな……って凄く思う。

 でもこんなことばかり考えると萎えそうなので、後輩のために先輩魂を爆発させることにしよう。

 というわけで、プチゴーレムにちょっかいを出す。

 嫌な思考を吹き飛ばすくらいの全力でちょっかいを出すことにしよう。せっかく背後から近づけることだし。別の楽しみを見つけないとマジ萎える。


「よっこら……せい」


 プチゴーレムの膝を使って肩まで登り、正面に向かって宙返りしながら身体を捻る。その勢いを利用して頭部に横一閃。プチゴーレムを正面で捉えられる位置で着地し、攻撃が来る前に後方へと下がる。

 注意を引くだけなら普通に斬るだけでいい。

 だがここは仮想空間。

 見た目は現実から大きく変えられないとしても、ステータス補正によって現実では出来ない動きが出来る。

 単なる暇潰しと言われてしまえばそれまでだが……そういうツッコミはなしでお願いしたい。今は嫌な現実から目を背けたいんだ。


「リンダ先輩、リンダ先輩の彼氏さんが無駄にスタイリッシュな動きをしていらっしゃいますよ」

「無駄って……まあヘイト稼ぐだけなら確かに無駄だけど」


 何やら悪口を言われているような気が……

 ま、あいつらのことだ。無駄なことしてんな、とか人のやる気を削ぐことでも言っているんだろう。なので気にしない気にしない。


「ああでもしてないと気が紛れないんじゃない? 同じことの繰り返しって飽きるし」

「う……すみません。リアルラック低くて」

「え、いや、別にユッキーを責めてるわけじゃなくてッ!? 一般論を言ってるだけというか、人って同じことしてると飽きるだけというか」


 何を話しているのか分からんが、ユッキーが気落ちしているように思える。

 リンダも必死にフォローしようとしているし……悪気のない発言がユッキーのハートにクリティカルでもしたのか?

 いやいや、待て待て。

 別に話すなとは言いませんよ。

 でもさ……時と場合を考えてくれないかな!

 リンダ、お前は今すぐこっちに来い。全力で突っ込んでプチゴーレムに一撃入れろ。それがお前の役目でしょ。


「リンダ、リンダさん、リンダ様。もしかして俺ひとりで体力削れと?」

「いやそういうわけじゃ……! でもその」

「いいですよリンダ先輩。フウマ先輩の方へ行ってください。わたし、どうせ最後以外これといって何もできないんで」

「そういう風に言われると逆に行きにくくなるんだけど!?」


 あたふたしてますな。

 さてさて、リンダさんは俺とユッキーのどちらを優先するんですかね。

 俺としてはこっちに来てもらった方が楽できるから嬉しいんだけど。でもユッキーを取るなら取るでさっさと決めて欲しい。

 というわけで、リンダのことを急かしてみよう。


「リンダ、俺は別にひとりでやってもいいぞ。ただし……あとで膝枕な」

「はあ!?」


 わ~お、大きなリアクション。

 キスとかしたいって思ったら言えと言ったのは、俺の記憶が正しければリンダさんだったと思うんですけどね。

 それにキスに比べたら膝枕くらい簡単だと思うんだけどな。

 彼氏彼女の関係にあるんだから膝枕くらいしても問題ないと思うんだけどな。

 これまでだって……リンダにしてもらうよりも俺がリンダにしてね?

 あいつ、すぐ俺のこと背もたれにしたり枕にしたりするし。即死を狙ってはいけない今の状況下でひとりで頑張る労力を考えると、もっと良い要求をしても罰は当たらないのでは?


「何であんたにそういうことしなくちゃなんないのよ。今すぐ行くから。すぐにそいつボコすから。だからちょっと待ってろ!」


 皆さん聞きました?

 リンダさん、俺に膝枕したくないんだって。

 顔が赤くなってるから照れ隠しで言ってるんだろうけど。

 でも一般的な彼氏なら彼女にそういうこと言われるとへこむだろうな。

 そうすると……これといって何とも思ってない俺は彼氏失格? それともリンダが彼女失格? それともそれとも俺達両方が失格?


「なあプチゴーレム、お前はどう思う?」

「ゴゥ……」


 もしやお前、俺の問いを考えてくれているのか?

 なんて夢は見ません。だって俺のこと叩き潰そうと両腕振り下ろしてきたから。

 やれやれ、所詮はプチゴーレムということか……


「だらっしゃあぁぁぁッ!」


 プチゴーレムの背中が爆ぜた。

 ドガン! みたいな音と共に火花が舞った。

 プチゴーレムに感情はないだろうけど、痛そうに「ゴッ!?」って声が漏れてた。

 リンダさんの怒りの鉄拳もとい火拳が炸裂したのだろう。

 何度も見た光景だけど、今回はプチゴーレムがリンダに八つ当たりされているように見えてちょっと不憫になった。

 もしもさっき俺に攻撃せず、俺の問いかけに答えようとする素振りを見せていたならば悲痛な叫びを上げていたかもしれない。

 プチゴーレムゥゥゥゥゥゥッ! なんて心の中で叫んでいたかもしれない。

 つうか一撃でHPの7割くらい持って行くとかマジ馬鹿火力。紙装甲の俺がもらった確実にワンパンだな。


「はい、あたしの仕事終わり」

「ギリギリまで削った方がテイム率上がるぞ」

「あたしに微調整が出来るとでも?」


 出来なくはないのでは?

 と言いたくもあるが……こいつはワンパンしたいところを我慢している。

 その反動からとっさにスキルを使われたらプチゴーレムは確実に死ぬ。そうなっては元も子もない。

 故に微調整するなら俺がすべきなのだろう。リンダが今見せている握り拳をチラつかせながらの笑顔も怖いし。

 ただ……俺はリンダよりも火力は劣るがクリティカル率は高いわけで。

 クリティカルが入れば必然的に火力が上がる。

 微調整している時にクリティカルが入ろうものなら殺してしまう。

 なら現状でテイムさせるのが最も安全なのでは?


「ユッキー、テイムよろ」

「え、もうですか? まだ赤ラインにもなってないんですけど」

「大丈夫だ。HPを赤ラインにしようが今のスキルレベルではテイムできる確率なんてさほど変わらん」

「すみませんね、あんまりやりこんでなくて!」

「誰もそんなこと言ってないだろ」


 というか、高校生の身でありながら高確率でテイムできるほどやり込んでたら異常だろ。はっきり言ってそうなっていたら俺は引いてる。

 それ以上にユッキーが不登校気味なのか、重度の課金しているんじゃないかって心配になるわ。

 ゲームが仕事というのなら文句は言わんが、そうでないなら健康を崩さない範囲でプレイしなさい。


「とにかく、いいからやれ。確率がさほど変わらないのならHPをちまちまと調整するより数をこなす方が楽だ。安心しろ、俺もリンダもテイムできるまではとことん付き合ってやる」

「それ、良いこと言ってるように見せかけて実は貶してますよね!」


 貶す?

 いったい何のことですか?

 俺はただ事実と意思表明をしただけなんですが?


「何言ってんだこいつ? みたいな顔しないでもらえます! どう考えても今回も失敗する前提みたいに話してたじゃないですか。そりゃあ悪いのはわたしのリアルラックのなさですよ。先輩方には申し訳ないって思ってますよ。でももうちょっと言い方ってものがあると思うんですが!」


 言い方ね……

 俺が爽やかなイケメンっぽい言い回しをしたところで、この後輩から返ってくるのは今以上の罵詈雑言が気がしてならない。

 つうかこの後輩、リンダの何気ない一言には傷つくくせに俺の言葉にはまったく傷ついた感じしないよね。傷つきましたとか言いたげな言葉使うくせに実際は超元気だよね。俺に罵詈雑言ぶつけ始めると本当元気になるよね。

 やれやれ、俺って損な役回りだわ。

 構って欲したがりな後輩に持つとマジ大変。甘えん坊とでも思ってないと可愛いと思えなくなりそう。


「仕方ないな……オネガイユッキー♪」

「可愛くない! 別にフウマ先輩に可愛さとか求めてないですけど、やるなら中途半端じゃなくて全力でやってくれませんかね!」


 前でヘイトを稼いでる先輩に全力でやれとかこの後輩鬼畜だな。

 まあでも全力でやれと言うのならばやってやろう。これ以上ちょっかいを出さないと決めた以上、ヘイトをリンダから奪くことも出来んし。

 安全性を高めるならリンダのフォローに意識を割くべきだが、リンダのプレイヤースキルは低くない。というか、レベルの存在しないVRMMOでも人並み以上に戦えるだけに高いと言える。

 加えて火力全振りだがジョブの補正で敏捷性は下がっていない。プチゴーレムくらいの攻撃ならば、回避に専念すれば一撃をもらうことはないだろう。

 というわけで……


「なら……ゲーム部副部長たるこのフウマが命じる。愛しの後輩ユッキーよ、あやつをテイムせよ!」

「誰が愛しのですか気持ち悪いッ!? わたしはフウマ先輩のものになった覚えとかないんですけど。というか、リンダ先輩とか本来なら付き合えないであろう美人な彼女がいるのにその目の前で堂々と浮気しないでもらえますか!」


 は?

 浮気なんてしとらんわ。

 ちゃんと後輩って付けただろ。愛しのって部分だけ切り取ってんじゃねぇ。お前、本当自分に都合の良い耳してんな。つうか先輩に堂々と気持ち悪いと言うな。やるなら全力でやれって言ったのはそっちだろうが。


「グダグダ言ってないで早くテイムしろ」

「振ってきたのはそっちでしょうが! いいですよ、分かりましたよ、やればいいんでしょやれば!」


 プチゴーレムの足元に魔法陣が浮かぶ。

 そこから発生する光がプチゴーレムの身体を足元から包み込み始める。

 ほとんどのモンスターは、足元、膝、腰、胸、頭といった感じでテイム完了までのパーセントを計ることが出来る。腰まで到達すれば50パーセント。頭まで到達すればテイム完了ということだ。

 これまでは腰あたりで光が砕けてしまっていたが、今回はすでに腰を超えている。このまま順調に進めば目的達成……なのだが。


「あとちょっと……あとちょっと」


 ギリギリで光が砕けることも十分にありえる。

 それだけにユッキーが心から願うのも無理はない。

 テイムにもいくつか種類があるが、序盤で使えるのは基本技のみ。テイム成功率に補正はなく、テイムを使えるのも一度だけ。

 何回かトライできる仕様にしてくれてもいいだろう。

 と思いもするが、その仕様だからこそレアモンスターをテイム出来た時、そのプレイヤーは歓喜し、他のプレイヤーは嫉妬する。

 そういう感情の動きがあるからプレイヤーは努力または課金するわけだ。

 ならば受け入れるしかあるまい……俺はモンスターをテイムしたりしないし。正直この仕様で直接困ることないから。

 なんて思っていたらテイムが完了していました。テイムしても経験値がもらえるのは良い仕様。運営さんナイス。


「……やった? やった、やりました!」


 後輩ちゃん歓喜。

 まあようやくだもんね。はしゃぐのも無理はない……何かこっちに駆け寄ってきてるんだけど。


「見ましたかフウマ先輩! プチゴーレム、テイムしましたよ!」

「そうだな」

「何ですかその淡白な反応は。もう少し喜んでくれてもいいんじゃないですか。お祝いの言葉とか労いの言葉をかけてくれてもいいんじゃないですかね!」


 レアモンスターをテイムしたのならしてやってもいい。

 が、こいつが捕まえたのはプチゴーレム。このエリアには割かし出るし、魔物使いの割と壁役としてテイムするモンスターだ。

 何度も失敗した後だから気持ちは分からなくもないが……

 まずは俺やリンダに感謝の言葉を言うべきでは? ここまで付き合ってくれてありがとうございますってさ。


「おめでとう。そんでお疲れさん」

「フウマ先輩、わたしは頭まで撫でろとは言ってないんですけど。子供扱いされてる気がして不愉快なんですが。というか、気軽に女の子に触……あいたっ!?」


 超絶痛いんですけど!

 みたいに両手でおでこを押さえながら恨めしそうな目を向けないでもらえます?

 指2本で軽くおでこをこついだだけでしょ。衝撃は感じても痛みなんてほぼないレベルの力だったでしょ。そもそも、ここ仮想空間だから痛みなんてほぼ感じないでしょうが。そういう嘘のリアクションはダメだと思います。


「女の子に暴力とかサイテーです」

「だったらもう少し口数減らせ。構ってもらおうとするな」

「別に構ってもらおうとかしてませんけど。大体どうせ構ってもらうならリンダ先輩に構ってもらいます。徹底的に構ってもらいます」


 そうですかそうですか。

 なら次から徹底的に無視してやろうかこの野郎。

 お前は位置的に見えてないだろうけど、お前がリンダに構ってもらうって言った時、リンダのやつ「うげ……」みたいな顔したからな。

 多分というかほぼ間違いなくだけど、お前はリンダにも面倒臭いって思われてるからな。下手したら俺がお前に対して思ってる以上に面倒臭いって思われてるからな。


「そうか。なら目的も達成したし、ここからは自由行動ってことで」

「待て待て待て待て、ちょっと待て!」


 この場から離れようとしたらリンダさんが全力疾走で迫ってきて首根っこ掴まれちゃった。


「リンダ、俺にそういう趣味はないんだが」

「あたしにもそんな趣味あるか。あんたがどっか行こうとするからでしょ」

「プチゴーレムは捕まえた。後輩はお前に構って欲しい。ならお邪魔虫な俺はどこかに行くべきでは?」

「あたしひとりにあの後輩を押し付けようとするな」


 顔近づけて小声で言うとか超マジじゃん。

 今の発言が聞こえた挙句、その顔をユッキーが目撃しちゃったら泣くかもよ。憧れのリンダ先輩に嫌われたとか言って喚くかもよ。

 まあ、あの性格を改善するためにはそうなった方が良いのかもしれんが。今くらいなら対応できるが、これ以上悪化したらさすがに暴言を吐きかねないし。そうなってはお互いに嫌な気分になるだけだ。


「今日はみんなで遊ぶ日でしょ。それに捕まえたプチゴーレムを育てないとユッキーが戦えない」

「なるほど。また付き合わされるのは面倒だから今日の内に済ませようってことだな」

「誰もそんなことは言ってない」

「でも思ってはいるだろ?」

「……少しは」


 だよな。

 うん、そう言ってくれて良かった。

 もし全然思ってないとか言われてたら俺は多分発狂してたもん。ならお前があいつの面倒見ろ! って絶対口に出してたもん。最悪お前の常識を疑ってたね。


「先輩方、何を話しているのか分かりませんが。ふたりだけで話したいことがあるのも分かりますが……これ見よがしに目の前でイチャコラされると不愉快です」


 ごめんユッキー。

 俺ら別にイチャコラしてたわけじゃないんだわ。お前に対する愚痴とか言ってただけなんだわ。

 というか……


「ユッキー、近くで話していただけでイチャコラだと? ふざけるな、お前は日頃ゲーム部の部室で何を見ている。いくら付き合ってる感が普通のカップルと比べて薄い俺とリンダでもな、イチャコラする時はちゃんとイチャコラする。これくらいでイチャコラしてるとか言うな」

「お前は後輩に何を言っとるんじゃあッ!」


 鋭い回し蹴り。

 だがしかし、俺はここで直撃をもらってハァハァする変態ではない。故に回避。

 くっ……リンダの装備がスカートなら今の回避で下着が見えていたのに。どうしてリンダはいつもパンツスタイルが多いんだ。露出するにしてもショートパンツしか履いてくれないんだ!


「避けんな! つうか何だその顔は!」

「リンダってスカート履かないなって思ってるだけです」

「何で今そういう発想してんだッ!?」

「今度履かない? いや履こう」

「履くかッ!」

「何故に?」

「恥ずいからに決まってんだろ!」


 そこが良いんじゃん。

 たまには思いっきり恥ずかしそうにしているお前を。落ち着かなくてソワソワしてるお前を見せてくれてもいいじゃないですか。

 大丈夫、リンダならスカートも絶対似合うって。後輩も褒めてくれるって。

 何ならお前の写真を撮るまくってフィーバーまでする。俺は思うね。ほら、みんな幸せになるじゃないか。

 なんて言おうものなら火拳が飛んできそうなのでやめておこう。こういうのは加減と引き際が肝心。やりすぎは良くない。


「分かった分かった。最後までちゃんと付き合う。あの面倒臭い後輩の世話も俺がしてやるよ」

「おい、その言い方だとあたしまでユッキーのこと面倒臭いって言ってたみたいになるだろ。今すぐ取り消せ!」

「大丈夫ですリンダ先輩、わたしはリンダ先輩がそんなことを言うとは思ってませんから。フウマ先輩がリンダ先輩を利用してわたしを貶めようとしているだけだって分かってますから。プチゴーレムを捕まえた今、わたしに敵なし! 今度こそボッコボコにしてやりますよ!」


 こいつのリンダへの信頼、無駄に高過ぎて困るわ。

 言葉にはしてないけど、リンダは面倒臭いって思ってるんだけどな。

 というか……また《決闘》の申請が来たんだけど。確かにモンスターを捕まえてからにしろとか言ったけど、何でこのタイミングで来るのかね。

 どんだけこの後輩、好戦的な性格してんの。そんなに戦いたいのならもっとオラオラなジョブを選べば良かっただろうに。


「あ、またもや拒否った!? フウマ先輩、それでも男ですか。何でわたしの決闘を拒否るんですか!」

「面倒臭い」

「本気の顔と声で言わないでくれます! わたし泣きますよ!」


 怒りながら泣きますよって言われても泣くとは思えないんですが。


「それ以上喚くなら俺は別行動するどころか今日は落ちるぞ」

「く……ログアウトで脅迫なんて汚い。大人気ない」


 汚くて結構、大人気なくて結構。

 それで休めるなら安いものだ。だって今日という日はまだまだ続くんだから。

 最後まで心が一線を越えないことを祈っております。



  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る