第2話 「嫌なのかなって思っちゃうじゃん」

 ゲーム部で買い物に行ってから1週間。

 え、買い物に行った日のことを語らないのかって?

 うん、語らないよ。

 だってこれといって何も起こらなかったし。ゲーム買ったらすぐに解散して、それぞれの家に帰ったし。そこからは各々ゲーム三昧。ね、語る必要なんてないでしょ?

 ちなみに俺達が買ったゲームの名は


《オンリースタイル・オンライン・リヴァイヴ》


 通称オンスタ、もしくはオンリヴ。

 今回はオンリヴの方が分かりやすいだろうからそちらを使って説明しよう。

 オンリヴはVRMMORPGの先駆けとして発売され、過去に爆発的な人気を得ていたオンリースタイル・オンライン、オンスタのリメイク兼パワーアップ版である。

 俺とリンダは初代オンスタをプレイしたこともあり、このゲームの発売を楽しみにしていた。

 オンリヴはそのタイトルにあるようにプレイヤーがそれぞれのスタイルを目指すことが出来る。

 その理由としては、ダブルジョブシステムが採用されているからだ。

 基本的に今発売されているVRMMORPGは、ジョブがあったとしてもメインとサブのように分かれ、メインのジョブのスキルは全て使えるがサブのスキルは一部だったり、ステータスに補正を掛ける役割だったりが多い。

 だがオンリヴは、ふたつのジョブをメインとして扱うことが出来る。

 それ故にステータスに掛かる補正も高く、普通なら出来ないようなスキルの組み合わせも可能。オンリーワンなスタイルを作りやすくなっている。

 ちなみに俺がどんなスタイルかで遊んでいるかというと……すまない、メッセージが届いてしまった。この話はまたあとでするとしよう。


『先輩、もうインしてます?』


 俺にオンリヴ内でメッセージを送ってくる。

 俺のことを先輩と呼ぶ。

 この条件に当てはまる人物はただひとり。

 我がゲーム部の後輩にして丘野雪葉、プレイヤー名《ユッキー》さんだけだ。

 インしてる。中央広場の北口。

 と簡潔な情報だけ入力して返信し、待つこと数分。

 俺の方にフワッとした印象のコートを着た女性プレイヤーが走ってきた。


「よ」

「よ、じゃありませんよ! 先輩はバカなんですか? アホなんですか? それでも彼女持ちのリア充さんですか? 何でこんな微妙なところで待つんですかね。地味に探しにくかったんですけど!」

「そうか」

「そうか……って先輩を一生懸命探したわたしに何か一言ないんですか!」

「お前って走り方もあざといのな」

「そういうこと言って欲しいんじゃない!」


 我が後輩はプンスカ! という擬音が似合いそうな顔で両腕を振り回してくる。

 だが俺が頭を押さえていることもあり、その攻撃は届かない。

 というか……どうして俺は、後輩とこんなコントのようなやりとりをしているのだろう。


「落ち着けユッキー。そんなんじゃ可愛いと思ってる顔が台無しだぞ」

「と思ってる、って必要ですか? 必要ないですよね。先輩、わたしにケンカ売ってます? 売ってますよね? いいですよ買ってあげますよ、決闘じゃコラアッ!」


 うわ……こいつマジで《決闘》の申請してきたんだけど。

 そりゃあ親しいプレイヤー間の腕試しとか、揉め事の解決で《決闘》は使われるよ。互いに合意の上でのPvPだからPK扱いもされませんよ。

 でもさ、こんな簡単にやるものでもなくない?

 こいつ、俺がリンダと付き合ってるって分かってから遠慮がなくなってきたよな。まあ最初からなかったと言えばなかったけど。


「ちょっ何で拒否ってんですか!?」

「お前とバトる理由がない」

「ザコだって言いたいんですか!」

「誰もそんなこと言ってないだろ」


 だから声を落とせ。

 いくら仮想世界と言ってもそのへんを歩いているプレイヤーは、現実に生きている人間だ。

 だから感情がある。騒いでいたら視線を向けてくる。中には嫌な顔をする者だっている。

 ここが駆け出しの街……いや規模的に都市か。

 何にせよ、この世界を攻略する上で多くのプレイヤーが拠点にする《アイゼンブラッド》ではなかったならば、これほど気にする必要はなかったかもしれない。


「いいから落ち着け。どうどう」

「わたしは馬じゃないんですけど……というか、ナチュラルに人の頭を撫でるやめてもらえます? 何か子供扱いされてる気がしてならないんで」

「年齢的には子供だろ」

「あ、そういうこと言っちゃいます? ならセクハラで訴えますよ」

「それだけはやめてくれ」


 ゲーム内でも運営に報告されたらアカウント停止処分とかなるから。

 現実でされたら学校生活どころか社会的に抹殺されかねないから。

 謝るからマジで勘弁してください。


「おい、そこの黒ずくめ」


 聞き慣れた声に意識を向けると、動きやすさ重視の革装備で全身を固めた格闘家の姿があった。チラリと見える谷間や太ももが実にエロい。


「あ、リンダ先輩。おはようございます」

「おはようユッキー……んでフウマ」


 あれれ、何か睨まれているんですけど。


「なあリンダ」

「うん?」

「今にもお前が俺をボコしそうに見えるんだが?」

「ボコそうと思ってますが」

「何故に?」

「待ち合わせ場所に来てみたら彼氏が可愛い後輩に浮気してたから」


 なるほど。

 それは確かに一般的に彼氏が彼女にボコられてもおかしくない理由だ。

 しかし……


「浮気なんてしてませんが?」

「ユッキーの頭撫でてたろ」

「興奮する後輩を宥めていただけです」

「え、ユッキー発情してたの?」


 このタイミングでこのノリ。

 いやはや、リンダさんのこういうところ素敵だね。

 突然の展開に後輩の表情も凄いことになってますわ。


「してませんよッ!」


 その必死なところが怪しい。


「何でフウマ先輩が疑うような目をしてるんですか? あなたはわたしが興奮してた経緯知ってますよね。発情じゃなくて怒りでテンションがハイになってたって分かってますよね!」

「ああ……だが怒りながら発情していた、という可能性は捨てきれない」

「は? そんなことになってたなら先輩を押し倒して犯してますが」


 やっべぇ、うちの後輩マジでやべぇ。

 キレ顔が怖いこともさることながら純粋に発言がやばい。

 ただ考え方によっては、この後輩を発情させることが出来れば童貞卒業も夢ではないということ。

 綺麗な思い出となるかは分からないが、少なくとも童貞というパッシブスキルは捨てることが出来る。それなりに可愛い女子と初体験できた、と他人に言うことはできる。

 誰かにこいつを紹介して欲しいと頼まれた時、必要な場合はこの情報も伝えることにしよう。


「おいこら後輩、そいつ一応あたしの彼氏だから。ノリでもそういうこと言うな」

「リンダ先輩……そうですよね、フウマ先輩にわたしの大切な初めてをあげるとかないですよね」

「そういう言い方されると賛同しづらいというか……フウマの彼女であるあたしまでディスられてる気分になるんだけど」

「え、ということはまさかすでにおふたりは……! いや、そうですよね。いくらぱっと見リア充オーラのないおふたりでもすることはしてますよね。わたしの知らないところでヤることはヤっちゃってますよね。性欲旺盛な時期ですし」

「この話やめよう、今すぐやめよう! 普通に恥ずいし、気まずくなるから」


 リンダが珍しく顔を赤らめている。

 仮想世界は現実よりも感情表現がオーバーになりやすい傾向にあるが、さすがは最新VRMMO。初代の時よりも顔の赤みのバランスが良くなっている。

 つまり何が言いたいのかというと、うちの彼女が可愛いってことだ。

 それ以上に聞きたいことがある?

 リンダとはどこまでしているのかって?

 いいか、俺達は高校生だぞ。

 なら高校生らしい付き合いをしてるに決まってるだろ。

 付き合いを突き合いとか変換した奴、お前は発情しているからいったん自家発電でもして落ち着け。

 というか冷静に考えてもみろ。

 俺とリンダが交際に至った経緯は先日説明されただろ。

 だから大切な一線は越えていない。それだけは越えちゃいけない。越えていいのはリンダが本気で望んだ時だけ。もしくは……リンダが本当に恋をして、心の底から好きになった相手だけだ。


「照れ顔のリンダ先輩……超絶可愛い!」

「ちょっ、そういうこと言うのやめい」

「もっと辱めていいですか!」

「ダメに決まってんでしょ!」

「ふあ~」

「おい! あんたどういうタイミングであくびかましてんだ。彼女が辱められそうになってんだぞ。下手したら寝取られるかもしれねぇんだぞ。彼氏なら守れや!」


 守れと言われても後輩がじゃれてるだけだろ。

 寝取られるとか被害妄想ひどすぎだ……気のせいかな。何か後輩の目が捕食者みたいになってんだけど。

 彼氏が出来たらどうとか言ってたから恋愛対象は男だと思ってたけど、もしかして同性もイケちゃう系ですか?

 もしそうだとしたら……彼氏じゃないとしても守らないといけない気になるな。お互いが合意してるならともかく、現状ではリンダは嫌がってるわけだし。


「ハァハァ、リンダたそ……もう辛抱堪ら――ぅゲェ!? ……何するんですか先輩! リンダたそが襲えない。わたしの首根っこ掴むのやめてください!」

「なら落ち着け。そして今自分が言ったことを冷静に考えろ。犯罪者の後輩なんか持ちたくない」


 そこは後輩を犯罪者にしたくない、だろって?

 いやここでそんな言葉言う必要ないでしょ。だってこいつ、見た目は清楚系なのに中身こんなだぞ。犯罪者になれる素質持ってるでしょ。

 なら同じ仮定の話をするならこれからなる的な方向じゃなく、もうなった的な感じでやるべきだと思うんだ。

 とはいえ、首根っこ掴んで小言を言った程度で止まる後輩ちゃんでもない。

 なので俺はそっと後輩ちゃんにこう耳打ちすることにした。


「ここで大人しくするならあとでお前にリンダの寝顔の写真をやろう」

「……マ、マジですか?」

「マジだ」

「フウマ先輩、好き好き大好き愛してる~♪」


 猫被りボイスで言われても嬉しくねぇ。

 つうか抱き着かないでくれるかな。仮想世界でも技術の進歩で痛覚以外の感覚って現実に近しいものになってるし。

 そんで俺も男の子。

 女の子に抱き着かれると女の子特有のお山に意識が行きそうになるんですわ。


「おい黒ずくめ、今その後輩に何て言った?」

「リンダは俺の彼女だから手を出すな」

「ぜってぇ言ってないだろ」

「何故そう言い切れる?」

「そこの欲望まみれな後輩がそんな言葉で納得するわけがない。あんたのこと好きだって言うわけがない!」


 そんなの分からないじゃないか。言うかもしれないじゃないか!

 と反論してもいいのだが……頭も心もリンダの言っていることが正しいと思ってしまっている。その状態で嘘なんて吐いてもバレて終わり。

 そもそも、この件に関しては嘘を吐きたくない。欲望まみれの後輩が欲望にまみれてないとか死んでも言いたくない。


「そう言われてしまっては何も言えんな」

「ならさっさと白状しな」

「……俺が過去に可愛いと思ったリンダさんエピソードを話すと言いました」

「は? はああぁぁぁぁあぁぁぁぁッ!?」


 リンダさん、まさかの絶叫!

 と思った矢先、目にも止まらぬ速さで胸倉掴まれました。多少息苦しさを覚える程度には強く掴まれております。


「リンダさん、暴力良くない」

「先にあたしを精神的にぶん殴ったのはそっちだろ! 何だよあんたがあたしを可愛いと思ったエピソードって。後輩に惚気話とかやめろ。というか、いったい何をしゃべるつもりだ」

「それは」

「あれか、それともあのことか、もしかしてあの日のことを……!」


 あれ?

 あのこと?

 あの日のこと?

 おそらくリンダが恥ずかしがったりした日のことを言っているのだろう。

 が、そんなに多くあっただろうか……もしや俺とリンダの間でズレが?

 まあ同じ出来事でも互いの視点で見れば主観と客観。何を感じたか、どう思ったか、そのへんに違いが出るのは不思議じゃない。

 なんて結論を出して終わることも出来るが……マジでリンダはどのことを言ってるんだろう。


「おいフウマ、もしあたしを辱めるような話をユッキーにしてみろ。最低3日は口利いてやらんからな」


 3日……3日ね……まあ3日くらいなら。


「3日くらいなら許容範囲だな、って顔してんじゃねぇ! あんたはあたしと3日も口を利けなくて平気なのか」

「平気だな。長い連休とか互いに好きなことやってて話さない、とか割とあった気がするし」

「……それもそうか」


 あ、ちょっと冷静になった。

 そんで俺から目線を外して髪の毛を弄り始めた。これはリンダが何か恥ずかしいと感じた時に自分を落ち着かせる癖。

 多分「3日も口利けなくて平気なのか」発言あたりに羞恥心を刺激されてしまったのだろう。こいつのこういうところ可愛いよね。


「……とにかく……ぜってぇ話すなよ」

「話さねぇよ。そんなこと話すなんてあいつには言ってないし」

「は? つうことはさらっと嘘吐いてたのか。それ以上に本当は何て言いやがった? さっさと答えないとぶん殴る」

「お前の寝顔の写真をやる、と言いました」

「なっ……」


 隠すつもりでいたが言ってしまった。

 だがユッキーとリンダ、どちらを優先するかと言われたら後者。

 だからユッキーには嘘を吐くことになるかもしれない。が、ここでリンダに罵詈雑言を受けてデータを消されたとか言えば納得するだろう。

 故に俺の直近での問題は……罵詈雑言だけで済むかだ。すでにリンダは俺の胸倉を掴んでいる。今にも鉄拳を撃ち込んでもおかしくない雰囲気を醸し出している。


「お前な……人の寝顔を他人に渡すとか正気か? あたしの寝顔を人に見せたら性的興奮でも覚えるのか! つうか何でそんな写真を持ってる?」

「あなたの彼氏だからですが?」


 彼女の寝顔の写真を撮れる。

 それは彼氏の特権のひとつでは?

 俺はそれを行使しただけに過ぎません。何も悪いことはしておりません。


「彼氏だからって人の許可なく写真撮ったらダメだろ!」

「撮っていいかと聞いたらダメって言うだろ?」

「当たり前じゃん!」

「なら隠れて撮るしかないじゃん」

「そもそも撮ろうと思うな!」

「は?」


 何言ってんの?

 何を言ってくれちゃってんの?


「えっと……フウマ、何か顔が怖いんだけど」

「あのさリンダ」

「は、はい」

「お前さ、俺が割と我慢してるって知ってる?」

「え、我慢?」


 あ、この顔は何ひとつ分かってませんわ。

 マジでこいつと付き合ってて良かった。他の男子の心が弄ばれずに済むんだから。


「そう我慢。この際だから言っておくがお前無防備過ぎ」

「は? 別に無防備じゃ」

「いやいや、無防備だから。マジで無防備だから。俺がゲームしてたら平然と後ろから抱き着きながら覗き込んでくるし。ノースリーブにショーパンみたいな薄着で平然と人のベッドでゴロゴロするし」

「別にいいじゃんそれくらい。あんたはあたしの彼氏なんだから」


 そうですね、俺はあなたの彼氏ですね。

 でもさ……


「俺は確かにお前の彼氏だ。他人に言ったら驚かれるくらい彼氏感のない彼氏だ」

「そのセリフ必要?」


 必要か必要じゃないかで言えば必要ではない。


「ただ流れで言っただけだ。だから気にするな。続きだが……俺はお前の彼氏である前に思春期の男子高校生。性欲だって人並みにある。エッチなことに興味だってあるんだ」


 お前は何を言っているんだ、と言われかねないが今は気にしない。

 これは大切なことだ。だから最後まで言う必要がある。言っておかなければならない。


「それなのに……お前みたいな美人な彼女に抱き着かれたりしてみろ。ゴロゴロされてチラリズムが発動したりしてみろ。はっきり言って悶々だよ!」

「へ……」

「ぶっちゃけ、もうひとりの俺が覚醒しかねない。お前のこと押し倒しかねない」

「なっ……」


 お、これまでにないくらい赤面した。

 これはもうひとりの俺の覚醒や押し倒された後のことを想像したな。今の一瞬で妄想しやがったな。リンダ、このむっつりさんめ。

 こちらとしては、少なからず異性としての意識は持っていただけているようで安心です。


「でも強引にするのは倫理に反する。人としてそれは良くない」

「あ、あああ当たり前じゃん! 無理やりとか……そんな……でもその……」

「言いたいことがあるならはっきり言え」

「何でもねぇよ! 続けろよこのバカ!」


 バカは要らんだろバカは。

 ま、そこに触れたら脱線しそうだから続けますがね。


「というわけで、俺は非常に我慢している。我慢するが故に目の前でお前が寝ていたら『付き合ってるんだし、キスくらい良いのでは?』と考えたりもする」


 お試しで付き合う?

 みたいな流れで付き合い始めたわけだし、後輩からは付き合ってんの? みたいに言われたりする俺ですが……はっきり言っておくぞ。

 俺はこいつが好きだ。

 付き合い始めの頃は友達としての好きが強かったよ。

 でもこいつが彼女だって意識はいつも隅っこにはあったわけ。そしたら自然と異性として好きになるよね。だってこいつ良い女だし。


「だがさっきも言ったが強引にするのは良くない。つまり俺は胸の内に芽生えた欲望をどうにか毎度鋼の精神で抑え込んでいる。なら……お前の寝顔くらい撮っても罰は当たらんだろ!」


 よし、言いたいことは言った。

 すっきりした。隠し撮りは悪くない! って強引に認めさせようとしているだけかもしれないけど……これくらい許して欲しいよね。マジで俺、こいつに対して割と我慢してるんだから。

 ……現状を説明するぞ。

 赤面してアワアワしてたリンダさんに再び胸倉掴まれたわ。

 今は顔を俯かせてるからどんな顔をしてるか分からんけど、鉄拳が飛んでくる可能性は否定できないとだけ言っておこう。


「あの、リンダさん?」

「……良いよ、撮れよ! 寝顔くらい好きなだけ撮れよ。別に減るもんじゃないし、あたしもあんたの寝顔とか色々と撮ってるし!」


 逆ギレされた!?

 いや、この場合はただヤケクソになってるだけか。

 でもおかげで寝顔を撮っていいと言質が取れ……こいつ、今何か俺に対してとんでもないカミングアウトしなかった?


「おいお前、今何て言った? お前も俺のことを隠し撮りしてるみたいな発言が聞こえたんだが」

「そう言いましたが何か?」


 何か?

 じゃないと思うのは俺だけですか?

 まあ俺も同罪なところがあるだけに強くは言えないんだが……こいつ、寝顔以外にも撮ってるみたいな発言した気がするんだよな。もしそうなら俺よりも罪は重いわけで……うぐっ!?


「力強く引っ張るのやめなさい。衝撃がやばいでしょうが」

「うるせぇ。あんたの話は聞いてやったんだから次はあたしの話を聞きやがれ」


 それはいいんですが……

 少しでも前に出たらキスできそうな距離でしないとダメですかね。

 あなたの綺麗な顔が目の前にあると、時と場合に合ってない欲望が脳裏を過ぎっちゃうんですが。


「いいか? あたしにキスしたいと思ったんならやれよ! 勝手にされたらそりゃあ怒るかもしんないけど……別にそれで別れるとか言わないから」


 急にしおらしい顔に。

 この上げ下げは反則だよ。可愛さが天元突破だよ。

 もしもここがどっちかの部屋だったらキスしてたと断言できるくらいに俺のハートにクリティカル。


「つうか……したいならしたいって言って欲しいんだけど。そういうことする時って大体あたしからだし。あんた、あんまりそういうことしたいって素振り見せないから……嫌なのかなって思っちゃうじゃん」


 何この可愛い生き物。

 つうかマジ? マジですか?

 俺が思ってた以上に俺の彼女って俺のこと好き? 俺が我慢してたことで逆に我慢させて……近くから凄いドス黒いオーラを感じる。

 気のせいかな?

 気のせいだと良いな……


「センパイタチ、ワタシノコトワスレテマセン?」


 忘れてないよ。

 本当だよ。

 だからそのリア充を滅ぼす死神のような目、やめてくれない?



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