幼馴染とショッピング 2
ぱっと見ていって、そう時間は掛らずに陳列されものの中から、とりあえず二種ほど選んでみた。
「こんなんでどうっすか?」
おずおずと差し出す二着。センスが問われる瞬間である。
一つは、裾の広がるフレアエプロン。余計な装飾も無く、黒と白のバイカラーのシックなデザイン。媚びすぎずエレガント、しかしながら、しっかりかわいらしさもある。
もう一つは、形だけなら男でもつけられるようなシンプルなもの。ただデフォルメされた大きな黒猫のイラストが特徴で、まあちょっとファンシーすぎるというか少女趣味っぽいが、俺に言わせれば、だがそれがいい。
どちらも黒色を基調としたものなのは、彼女のイメージに合致するのもあるし、俺自身の好きな色が黒なのもある。
「へえ、ロクローはこういうのが良いんだ、それとも“私に”こういうの着てほしいの?」
受け取った二つを見てから、半目で、こちらをニヤリと笑って見つめる卯月。
キッチンにそれらを着用して立った彼女の姿などを妄想しながら選んだ次第であるからして、それは彼女に合わせたものだ。そのことが見抜かれたようで、居心地悪くて視線を逸らす。
「なんだよ、俺の好きに選べって言ったのはそっちだからな。気に入らないやめたらいいし――」
「どう?」
二つを手に持って、それぞれを自身にあてがう。俺から見る分にはどちらもイメージ通りで、個人的には卯月がさっき手に取ってたものよりは俺好みだった。そりゃ俺が良いと思って選んだわけだし、当然なんだが。
「いやあ、まあ俺からはスゲーよく似合ってるとしか言えない」
選んだ張本人だし、そう答えるほかない。
実際に合わせてみた姿は、妄想超えてそれはそれは可愛らしい姿があった。調理中に後ろから悪戯とかして、ちょっとーもう、仕方ないんだから、とか言われたい。
まあ、目の前の少女が相手とあっては下手な事をして邪魔すれば、華麗な後ろ回し蹴りが返ってくるのがオチだろうが。
選んだエプロンを見比べる卯月は何気なく。
「あんたってさ、もしかして女子の部屋着。もこもこのパーカーとかに萌えるタイプ?」
「ぶ。え、なんで?」
なぜバレたし。もしかして今ので分かったの、エスパーかなんかよお前。
ぽわぽわふわふわもこもこした服とか着て部屋でダラダラしてるのとかいいじゃん。そんでこっちの趣味に理解示してくれるタイプならサイコーじゃん。
男なんてみんなそうでしょ。いや知らんけど。
「ふーん……。へえー」
動揺が表情に出ていたのだろう。それが真であると察した卯月の顔は、面白いおもちゃを見つけたと言わんばかりで、捕食者のそれだった。
「あーもう、なんですか別に良いでしょ、誰に言うでも無し」
しっしっと手を払うように振る。
「別に、何も言ってないじゃない。そうね、折角だから両方買うことにするわ」
「え、マジで」
即断即決過ぎない?
金持ちかよ。
ちなみに俺の場合は交際費というものが存在しないせいか、ろくにバイトもしてないのに財布にそこそこ金はある。
客が忙しなく行き交う通りの方に出て待っていると、卯月は手早く会計を終えて、袋を手から提げて出てくる。物を買ったことで射幸心を満たしたようで、その表情は心なしか満足げだ。
自分のチョイスしたもので満足してもらえたのかと思うと、嬉しいような恥ずかしいような、なんとなくむず痒い気分になる。
そっちがいいならいいんだけどね。
「済んだか?」
「ここらで今日見たいものは見れたわ。ありがとね、付き合ってくれて」
「まあお互い様だし、ほい」
前に立った彼女に向けて、手を差し出す。
差し出された手を見て、卯月はキョトンとする。その手の意味するところをどう勘違いしたのか、ほのかに頬を染める。
どしたし。
「え、なに? ……手、つなぎたいの?」
少し、上目遣いでこちらを見る卯月に、心臓が高く跳ねる。
その目はわずかに揺らめいて、見ているこちらまで緊張する。
「ぶっ。いやちがうからっ。荷物持ちっていったのそっちだよね!?」
予想外の質問が飛んできたせいで、こちらも慌てて否定する。
凍り付く場、俺の意図を説明されることでやっと理解した卯月。
「あ、あ~。そっち、そっちね、いやゴメン勘違いした、ははは………………もう」
ぷしゅーと、自身がとんでもない勘違いしたことに気づいた卯月は、顔を真っ赤にしてうつむく。俺に対してというより、自分に言い聞かせるような言葉は尻に向かうにつれ声が萎んでいき、最後の方はもう聞き取れないくらい小さかった。
湯気が出そうとはまさにこのことだろう。
この子がこうも分かりやすく、本気も本気で恥ずかしがっているのは、意外に久しぶりに見た気がする。普段は演技かどうか分かんないとこあるからなあ。
おかげでこっちまで顔が熱い。
ふと、出した手を引っ込めて、自分のおててを見つめる。
なるほど、なるほどね。確かにそういう見方もあるね。
一応付き合ってるんだもんな。
今のは俺が悪いね。
わざわざ恋人っぽいことをやる、と切り離して考えなければロクにそれっぽいことはしない俺達だ。あーん、とか膝枕とかしておいて、並んで歩くのに腕くみどころか、手すらつないだことないのは、我がことながらおかしいと思った。
「ほら、持つよ」
「ん」
改めて手を差し出すと、今度こそ袋を手渡される。その際に少し触れた指先に、ドキッとして殊更その綺麗な指先をした白い手に意識が向くのも、いまだ顔の熱が引かないのも、全部俺の錯覚だ。錯覚に違いない。
だから、視線を合わせるのが気恥ずかしいのも気のせいに違いない。
ぎこちない間が出来たのを誤魔化すようにわざとらしく口に手をあてて咳払いする卯月。
「じゃ、じゃあ、次はあんたの用済ませましょ。いい感じの選んであげるわよ」
「……あい、お願いしますよ先生」
「大船に乗ったつもりでいいわよ」
全く頼りがいのある言葉である。その頬がほのかに染まっていなければだが。
照れたのを誤魔化すように、卯月がひらっと身体を回転させて歩き出す。
その足は眼鏡店へと向かっているんだろう。だろう、というのは俺はゲーセンとフードコートくらいしか、この施設内のどこにどの店があるのか全く把握していないからである。
そんな俺だから、勇み気味の卯月の足取りに続くわけだけど。
次があるなら、ちょっとは事前にリサーチしよう。
そんなことを、少し前を歩く俺には出来過ぎた彼女を見て思った。
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