この幼馴染と付き合うということ 1
深夜までゲームに勤しみ、おかげで若干寝不足なままに、アラームか、酷いときは布団を剥がされて起きる。学校行きたくねーと思いながら、歯を磨いて寝ぐせ直して制服を着る。俺の朝の準備は、十分かかるかどうかって感じだ。時間があれば朝飯を食うけど、大抵ギリギリまで寝てる。
なんなら寝すぎてたまに遅刻もする。
今までならそれで良かったけど、最近は、本当にごくごく最近は違う。
まあ、待たせる相手が居れば、相応に行動しなければというのが俺の中での常識と言うか、気を付けていることの一つである。
学校の遅刻は俺が困るだけだけど、待ち合わせの約束を破るのは、相手も困らせることになる。
人として当然のことではあるんだけど、だからこそ気を付けている。
眠いなりに早めに起きて準備して、飯もちゃんと少しでも口に入れる。
そうしていると、インターホンが鳴る。面倒なことに母が飛びついて出た。
ここでのやり取りはクッソ不毛なので割愛するとして、母の声に送られて、玄関を出る。ちなみに父はとっくに仕事に出た。
玄関先で待つのは一人の少女。
幼馴染である烏丸卯月。
高校で幼馴染がわざわざ自分の家にまで迎えに来てくれるとか、これなんてギャルゲとか思うが、一応意味はある。
「おはよ」
「……おはよう」
学校内に俺達の関係を知らしめるためにと始まった、日課のようなもの。それは登校の通学路から始まる。
どれくらい続けるのかは分からない。
彼女のペースに合わせるせいで、起床からして今までより三十分以上早く動いている為、まあまあしんどい。
「クソ、あのオカン。あらあらうふふ、って朝からメンドクセエ」
「親同士が知り合いってのは考え物ね、そこは卯月も計算外だったわ」
「それにしても、コレ続ける必要ある? もう勝手に広まるんじゃね?」
「馬鹿。ただでさえクラス内じゃあんたと私じゃ絡みにくいんだから、登下校くらいは一緒に居るアピールが必要でしょーが」
「まあ、教室でのそっちのグループのテンションには合わせられねえからな、俺」
単純に混じる勇気が無いだけだろとかは言わないでほしい。
「私も学校で
当然である、俺は陰キャ。彼女は陽キャ。本来なら交わることの無い相反する立場にある生徒。
幼馴染はその垣根を取り去って付き合う大義名分になったのやもしれないが、それでお互いの性質がひっくり変える訳でもない。
素の卯月は、割とゲームやアニメ等、所謂オタク話、サブカルもがっつりいける口の女子だが、学校での“烏丸卯月”は確かにそんな柄じゃない。
アニメなら、ジブリとかその辺の大衆に受ける大ヒット作ならともかく、まかり間違っても深夜アニメの話題を喜んでするようなキャラじゃないのは確かだ。
俺達の家から学校までは少し距離がある事もあって、二人そろって路線バスや、電車で通学をしている。
チャリという手もあるが、朝から汗かいての通学は御免被るので、両親には悪いが金のかかる方を選んだ。
なので、朝、俺達が素で話せるのは、交通機関に辿り着くまでの徒歩の時間と、車内にウチの学校の制服を着た人間がちらほら見えてくるまでの短い時間だ。
隣を歩く卯月がまじまじと覗き込むように俺の方を見てくる。
なんだよ。顔面偏差値高いお前にそんな風に見られると、こっちは戸惑うんだけど。
「……なに」
「いや、今更だけどあんたって、視力悪いの? 中学の時眼鏡なんかしてたっけ?」
「あーこれ。まあ別にそんな悪くないけど、高校入ってとうとう視力1切ったから、一応な」
あと、意外とレンズ越しというのは人からの視線に守られているようで落ち着くのだ。そしてなにより、ペ〇ソナっぽい。かっこいい。
「もうちょっとフレーム細いのにしたら? 色も黒縁じゃなくてちゃんと選んでさ。はっきり言ってすっごいダサいわよ」
「うっせ」
「まさに陰キャって感じ出てて、見てる分には面白いけど。ちょっと貸してよ」
「あ、おいっ」
ひょい、と少し背伸びをして俺から眼鏡をさらっていく。一瞬近づいたときに、仄かに香る甘い匂いに思わず、心臓が跳ねる。
足を止めて、すちゃっと眼鏡をかける卯月。一度、その長く流麗な髪を指でかき上げる。
「……どう?」
長い黒髪に黒縁眼鏡は合っていて、黙っていれば物静かな文学少女感ある。自分で言っててめっちゃ安易。
知的。けど、眼鏡かけるだけで知的って思うのは知性に欠けるよね。
まあ、かける人間がいいのだろう。
彼女曰く、俺がかけているときはダサいらしいし、ファッション性の薄い縁の太いダサ眼鏡すら、美少女がかければ立派なオシャレアイテムに早変わりという訳だ。
「……可愛いんじゃないでしょうか」
「ふふーん、当然の感想ね。……ふ」
「人の顔見て鼻で笑うんじゃねえよ、なんですか、喧嘩売ってるんですか戦争ですか」
「ごめんごめん。いやだって、漫画とかで地味な眼鏡キャラが眼鏡を外すと、美人だったり、イケメンだったりってありがちじゃない?」
「まあ、よくあるパターンだな。それで急に周囲の見る目が変わるとか。それをヒロインとか主人公だけ知ってるとか」
「そうそう。でも、やっぱフィクションなんだなあって」
つまり、俺の顔を見てそれを実感して笑ったのか失礼な奴め。
そりゃそうである。
長めの前髪を上げたり、眼鏡を外した程度でいきなりイケメンに早変わりできるならな、俺は毎日教室でおもむろに眼鏡外してやるわ。
「……悪かったね、普通で」
「卑屈にブサイクとは言わないのね、少し見直したわ」
「期待込みで。え、てか気になるんだけど、女子的な目線で俺ってどうなの?」
ふと、烏丸卯月の慧眼から見て、俺という男子が、客観的にどう映っているのか気になった。
誰に聞いても気を遣われたり、個人的な主観が混じってしまいそうなものだが、彼女ならそこら辺フェアに判断してくれそうだ。
ほかの男子では、まあまず聞くことも出来ない相手。
それにこいつ相手に恥とか、ある意味運命共同体なのだから、今更である。
「ぱっと見の印象だけなら、普通ね。別に一目見て引くような子も居ないだろうけど、惹かれる子も居ないだろうなって感じ」
「あ、そんなもん?」
「そんなもんよ。猫背直して、歩き方もしゃんとすれば、それだけでも案外印象は変わるし、今からどうとでもなる範疇よ。良く見せようと、その程度の努力もしてないあんたが、自分の外見の評価だけは気にするなんて、まして私に意見求めるなんて億万年早いわよ。気にしてたんかいって感じよ」
「そりゃ、ちょっとは気になるだろ一応お年頃なんですよ金木君は。諦めてただけで」
「じゃあ努力をしなさいよね努力を。芸能界でもあるまいし、容姿だけで言えば、一つの高校のモテる男子とモテない男子の差なんて、そう開いちゃいないわよ。諦めるなんて笑わせないで。ウチのクラスで言うなら、綾峰くんくらいになると、流石に生来のものの差ってのを感じるけど」
「まあ、あれはちょっと物が違うのは俺でも分かる」
思い浮かべるクラスの爽やかイケメン。あれで、運動も出来て勉強面の成績もいいらしいのだから、神様のエコひいきが凄い。
それを言ったら目の前の少女もそうだったりするんだけどさ。
「でも、だからって誰も彼もが彼のことを好きになるわけじゃないでしょ、人気あるけど。現に私は別に綾峰くんのこと異性としては好きじゃないし」
「なるほど一理ある、いや百里ある」
俺の顔を見て難しそうな顔をする彼女。
「……週末にでも眼鏡買いに行きましょ、選んであげる」
「え?」
「拒否権は無いわよ。仮にも卯月の彼氏なんだから、それなりではいてもらわなくちゃいけないんだから」
「んな無茶な」
「それに、私と週末の予定が入るとか朝からテンション爆上げものよ。どう、やる気でたでしょ?」
いや、自分で言うなし。
「……ちょっとね!」
俺の答えに卯月は笑った。
眼鏡返せよ。まあ普通に見えてるしいいんだけどさ。
少し早足に前を歩く彼女の後に続く。
ウチの生徒が目に付くようになれば、自然とこんな素の会話はしなくなって、卯月の振る舞いも変わって個人的にはちょっと息苦しくなる。
やっぱりこの関係はどこかおかしい。
でも、こんなことが無ければ、彼女の隣を歩いて、こんな風に会話することさえなかったのだと思うと、変な気分である。
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