校内一の不均整カップル誕生! 1

「ちょっとあんた。さっきのあの態度は何? あんたみたいな陰キャが私みたいな美少女の彼女が帰ろうって誘ったら、もっと喜ぶのが道理でしょう? ちゃんとやってよね!」


 俺の部屋で、客人が部屋の主よりもなお、主らしく横柄に横暴に声を荒げた。


 烏丸卯月は憤慨していた。机の下では足を組んで、椅子に深く腰掛けて背もたれにわずかに反れながら、若干見下すような姿勢で腕を組んで、その人差し指先は苛立ちを隠す気も無くトントントントンと腕を叩く。


 それは、学校で見せる、容姿良し、勉強良し、運動良し、性格良しから、最後の一つを抜き取ることを即座に審議させられかねない姿だった。


 清楚でおしとやかで優等生と評判の少女は、目の前にはいなかった。


「なんだよ? ちゃんとついてったんだしいいじゃん」


「いい? 私たちは付き合ってるの? 付き合ってるカワイイ彼女が自分の席にまで来たのに顔を青ざめさせる彼氏がどこにおるかー!」


「だから言ったじゃん、俺じゃ無理だって。俺はRPGで言えば村人Aなの、そんな作りこまれてないの! 勇者に話しかけられても同じ言葉しか返せないの!」


「それはあんたの努力が足りないんじゃー!」


「もう、やっぱ俺じゃなくて他の男子に頼めば良かったじゃん、お前のとこのグループの綾峰くんとか! もうマジ無理、気が重い、リスカしよ。ああ、もう皆が俺の奇異の目を向けているような気がする」


 俺達が、クラス内で公認のカップルとして付き合い始めてまだ数日。俺は早くもこの環境から挫折しかけていた。


 一度は憧れた華やかなるカーストトップの世界。俺が触れているのは、その一端でしかない。


 学校では、“あの”烏丸卯月がクラスメイトの男子と付き合い始めたらしい、と専ら噂が立っており、事情に詳しくない者たちでも、金木緑朗とは何者ぞ、と探る輩が居る段にまで来ている。


 無論、クラス内の人間は皆、俺の事を知っている。


 あの教室内での公開告白は、目立つことがあまり好きではない俺にとっては公開処刑に他ならなかった。


 烏丸卯月と今、共にいるということはそれだけで、色んな意味を含んだ視線を浴びる対象になる。


 今日も帰り道に、俺と彼女が他の生徒たちからどれだけの視線を受け、話題の対象になったことか。


 学校のアイドル的立場の彼女は耐性あるだろうが、ああいうものに慣れず、嫌いな俺はぶっちゃけ既に気疲れしてしまっていた。


 日陰の者にはあの視線はつらい。


「やっぱ断っときゃよかった……」

「そんなこと言わないでよ……仕方ないじゃない、こんなこと頼めるの、私のこと昔から知ってるあんたしかいないし」

「まあ、そうなのかもしれないけどさ」


 有体に言って、学校での彼女は猫をかぶっている。


 目の前で見せている彼女の姿を知る者は多くない。俺たちの通う高校内では俺くらいだろう。


 だから、俺にとって学校での彼女は猫かぶっていると評している。


 学校での彼女は、それに見合ったよほどの事態でなければ怒鳴らないだろうし、声も大きくしない、こんな横柄な態度もとらないし、間違っても自分の事をカワイイなんて言わない。


 男子が理想とする女子の在り方の一つの具現。そんな生徒を演じて、人気者になっている。


 彼女の二面を知る俺が評するに、声のトーンからして、その印象は真逆だ。


 今の彼女のそれは、少しきつめで勝気で気の強い印象を受ける。学校でのおしとやかで清楚な人好きする愛想の良いイメージのそれとは相反する。


 なぜ、校内でも特に秀でた何かを持たず、特に接点も無いはずの、中堅に位置する俺が彼女のそんな一面を知っているのかと言うと、家が近所で親同士の付き合いもあったことから、小学校以前からの古い腐れ縁だからだ。


 所謂、幼馴染というやつだった。


 昔はよく遊んだものだが、互いに成長するにつれ、クラスが違ったり、そもそも平凡な俺とハイスペックな彼女ではお互いの立場の差もあって絡むことはなくなっていたのだが、今になってこんな風になるとは、運命の悪戯とでもいうのだろうか。


 一応、言っておこうと思う。


 俺達は付き合っている。

 けれど。

 好き合っているわけではない。


 だから――そんな俺達が付き合っているのにはわけがある。


 事の始まりは、およそ一週間前になる。

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