第317話 狂気のアモン
アモンの左手に握られる刀らしき武器から、黒い闘気のようなものが浮かび上がる。
更に上段に構えると、そのまま横に薙ぐ。
「マズイ! 全員回避!」
アモンの刀から、黒い波動が生まれる。
そこから波紋の様に広がり、一気に俺らに襲いかかってきた。
慌ててアリアとサナティを抱え、俺は飛び上がって回避する。
他のメンバー達は俺の言葉に反応し、その波動に触れないように回避する。
一人を除いて。
「こんなもので、妾に傷を付けれると思っておるのか黒鬼!」
そうニクスである。
何故か人型になって、片手で振り払おうとしている。
「馬鹿っ! それに触れたら……」
「ぎゃっ!」
ニクスの腕が軽々と吹き飛んだ。
いくら再生出来るからって、無防備すぎる。
吹き飛んだ腕は、炎となり消えた。
「なんともマヌケな奴だな。
興が冷めるから、もうオマエは消えろっ!
──〈次元断〉」
ニクスに再びアモンの攻撃が襲いかかる。
先程とは違い、確実にニクスだけを狙った攻撃だ。
「妾がマヌケだと?
お主になど言われとうないわ」
しかし、無情にも無数の黒い刃がニクスに襲いかかる。
しまった、ニクスにもっと奴の恐ろしさを伝えるべきだった。
と、後悔をした時だった。
ゆらり。
ニクスの姿が陽炎のように歪み、まるでそこにいなかったかのように消えた。
「ん? なんだ?」
アモンは確実に捉えたはずのニクスがゆらりと消えてしまい困惑しているようだ。
ふふふふふ。
と、見えない位置から声が聞こえる。
と、突然アモン周りに炎が燃え上がった。
「灰燼と化せ悪鬼よ。 ─
アモンの周りにだけ炎が巻き起こり、それが竜巻のように渦巻き当たりを巻き込み舞い上がる。
余波で辺りが熱気に包まれて、空気が焼け付く。
「ぐがああああっ!!」
さしものアモンも生物である以上、それは堪えるようで苦しそうに呻く。
しかしそれも一瞬のことで、周りを黒い炎で包み込みニクスが作り出した炎で創った結界から身を守った。
『なるほど、自らの殻に籠るか。
しかし、それは愚策ではないか?』
更にその外から赤い炎が巻き起こり、焼き尽くそうとしている。
いつの間にか現れた炎の化身フェニックスに驚きを隠せないようだ。
「フェニックスだと?
あの気まぐれな鳥が何故あのような弱い男に懐いている?」
『少なくともお前を主にするよりは快適な生活を送れておるぞ?』
「ふん、ただの堕鳥に成り下がったか」
その姿は優雅で凛々しく、初めて見たものなら見惚れる事だろう。
しかし、人化を解いているのをみると、もう侮っていたわけじゃなさそうだ。
もしかしたら、アモンを油断させるために最初から狙っていたのか?
『堕鳥とは、随分な言い草よの。
手を飛ばされた時は流石に焦ったが、お陰で久々に生存本能が刺激されたわ。
さぁ、本気の妾を主にお見せしましょう!』
ああ、さっきのは本気で焦ってたのね。
見直して損した気分だわ。
でもやる気は充分だし、暫くは任せよう。
カルマが静かに黙っているのが気になるが先生の事だ、きっと何かを狙っているんだろう。
ここは余計なことをせずに、見守るのがいいな。
そんな事を考えていると黒い炎の中からアモンが動き出す。
中でゆらりと体を揺らし、刀を振り上げる。
「─次元断・波」
静かにそれだけ呟きゆっくりと刀を降ろすと、辺りの炎が全て霧散する。
なんだあれ、あれだけで無効化するとかズルくない?
しかし、前よりも格段に強くなっている気がする。
手も足も出なかった相手がさらに強くなるとかなんの嫌がらせなんだか。
しかしこちらもかなりの戦力アップしている。決して負けはしない。
『さて、時間稼ぎは終わったぞ?』
「お前にしては気が利く事をしてくれる。だが、そういうのは最後まで黙っておくものだ」
突然アモンの周りに無数の魔法陣が現れる。いつの間にか前に出ていたカルマが見たことも無い魔法を展開したようだ。
魔族って、生まれながらに持った才能でスキルが決まるんじゃなかったか?
カルマっていくつ魔法を持っているんだ?
アモンの周りに黒い柱が現れて、そこから鎖のような物がアモンを捉え雁字搦めにしていった。
「ふん、こんなもので俺を止めれると思っているのか?」
「抜け出せるなら、やってみるがいい」
余裕をかますアモンだが、刀で鎖を切ろうとして驚きの顔に変わる。
アモンが振り下ろす刀は鎖を破壊するどころか、すり抜けてしまう。
その鎖は体を拘束して外せないようだ。
「ちっ、厄介な鎖だな」
「貴様の動きはこれで封じた。さらにそれは徐々に貴様の魔力と生命を吸い取り続けるぞ?」
「丁寧にご説明ありがとうよ。だが、この程度ではオレは止めれんぞ!」
拘束されたまま、刀を振り上げて横凪に一閃。
まるで空間が切られたかのように、真っ二つになる。
その切られた空間の間は、まるで宇宙のように真っ暗な闇になっており、その全て削り取り吸い込んでいく。
「来るぞ! みんな触れるなよ!」
「くっ、まだそれだけの力を出せるか!」
「ふははっ、まだまだぁっ!」
さらに自身の周りを切り裂くアモン。
すると切れないはずの鎖があっさりとちぎられて、霧散してしまった。
「こんなおもちゃで俺を止めれると思っていたのか?」
「いいや? 本番はこれからだろう?」
カルマの周りが闇に沈んでいく。
まるで、黒い海に沈んでいくかのようだ。
その闇はアモンの周りまで広がると、突然金属がぶつかる音が響いた。
見るとアモンが刀で何か黒い剣らしき物を弾き返している。
しかし、その黒い剣は闇の中から無数に現れるらしく、どれだけ弾いても消える気配がない。
「くっ、小賢しいことをする!
しかし、この技は……?!」
「気がついたか? これは『
奴とは一体誰のことだ?
だがその相手をアモンは分かっているみたいだ。
「ふん、所詮は真似事だな! いいだろう、受けて立ってやる!!」
アモンはそれを嬉々として、真っ向から受け止め全てを弾く。
何度も何度も何度も……!
ときには一筋の傷を負い、僅かな血飛沫が舞うがそれすらも楽しんでいるかのようだ。その顔には狂気すら感じる。
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