第316話 ロンド オブ ジ・エンド

 塔を駆け抜ける事、数十分。

 改めて仲間達の実力をこの目で見る事が出来た。


 まずは、リンとクロ。

 Sランク相当の実力を獲得したリンとクロは、そのコンビネーションも相まって凄まじい戦果を挙げた。


「クロ!行くよ!」

「任セロ!」


 フェンリルに進化させられてから、流暢になった口調もそうだが、その戦闘力もちょっと前のカルマ並みに上がったクロ。

 リンを乗せて壁を飛び回り、リンが飛び掛かった相手に間髪入れず追撃を行う。

 その結果、殆どの敵が一瞬で灰になっていた。


「ふむ、クロもやるようになりましたね。特訓を続けさせた甲斐があったというものですね。

 これならもっと厳しくしても良さそうだ」


 と、カルマが感慨深げにそら恐ろしい事を言っている気がしたが、俺の管轄ではないので気にしないでおく。

 頑張れよクロ!


「これで仕留めるよ!─『紅鈴の舞こうりんのまい』!」


 そして少女から乙女に成長したリンは、まるで天女が舞うかのように空を舞い、その刀で相手を細切れにしている。

 前までは、その動きに体がついてこれてなかったが、肉体が成長しその可動範囲が広がった事でより動きが洗練されていた。


 下手をすると、カイトよりも強くないか?

 こりゃあ、カイトもうかうかしていると抜かれてしまうなぁ。


「彼の者達に天の恩恵を与えたまえ! ─<天啓>!!」


「水の精霊よ、その力を皆に与えよ! ─<活水>!!」


 アリアとサナティも、前に出ない代わりにとステータス向上スキルで皆を支援する。

 『聖女』スキルがあるおかげでMPもSPがかなり回復していくので、ほぼ消費しないでスキルが仕えている状態だ。

 そのおかげで常時バフが掛かった状態で戦闘が出来るので、より効率良く進んで行ける。


 しかし、MPとSP消費節約と回復があるパーティーなんて普通に考えて無敵だよな。

 余程の格上に当たらない限り、負けるわけが無い。

 そんな余裕もあって、自由に戦っている人がいる。


「はああああああああぁ!!!突き抜けろおおっ!! ─〈スパイラルチャージ〉!!!」


 うねる槍を抑え込み、その旋回する力をダイレクトに与えて相手を粉砕する。

 食らった敵はドリルで削られたかのように、穴が空いて吹き飛んでいく。

 殆どが一撃で灰となっていった。


「うん、セツナも元気だな」


「しばらく子守ばかりで鬱憤が溜まっていたのでしょう、主様。

 久々に生き生きとしたセツナを見ましたね」


 俺は錬気術オーラで作った矢で空中にいる敵を射抜きながら、ニケはその羽根を武器にしたフェザーアローで同じく射抜きながら移動する。

 ちなみに、俺はニケに乗っている状態だ。

 久々にもふもふを堪能している。

 やっぱり、この羽毛を直接触る感触はふわふわしててとっても気持ちいい。


 カルマは殿を務めつつ、アイツの場所を探っている。

 全く喋らないほど、かなり慎重に探っているみたいだな。


 ヘカティアとディアナは珍しくカルマの近くで戦っているようだ。

 カルマが邪魔されないように、守っているのか?

 入る前に何か話をしていたみたいだから、打ち合わせしていたのだろう。


 そしてニクスはというと、人型になったまま俺とニケのやや後方で欠伸をしつつ、たまにファイヤーアローの魔法で迎撃している。

 初級の魔法で一撃とか、あいつも大概だな。

 もっと本気を出してくれればいいのだが。


 だけど、彼女は『フェニックス』の化身だけあり死んでも蘇生するという特性があるため、なかなか本気になる事はない。

 もちろん、蘇生迄には数日とかの単位で時間が掛かるのでおいそれと死んでも貰うわけにはいかないのだけどね。


 ちなみに、塔に入る時にニクスとこんな話をした。


「死んだら、その場に置いていくからな?」


「ふふふ、妾が死んでも復活する事をご存じでしょうに。

 まぁ、妾を倒せるものなど殆どおらぬでしょうが」


「確かにお前は強いけど、緊張感が足りないんだよなぁ。

 ちなみに、復活までしばらく掛かるんだろう?

 その後俺らに合流出来なかったら、暫らく美味い物食べれなくなるなぁ…」


「!!?」


「光の塔を攻略し終わったら、暫らくは屋敷で休養するつもりだ。

 勿論、宴会もやるぞ?

 でもなぁ、この道中で死んだら戻ってくる頃には宴会終わっているだろうなぁ…」


「それは困る!せっかく、東大陸の食材や北大陸の食材が手に入って新しい料理が出来るとルガー殿が言っておったのに妾だけ食せぬなどとっ…!!

 主殿、妾は決してこの旅で負ける事なぞありませんから、ご安心を!

 ほっほっほっほ」


 ─とまぁ、食い意地全開ではあったけど、少し緊張感を持ってもらえたと思う。

 予想だと、50階層くらいまではA~A+ランク程度の敵が殆どだろうから問題は無いだろう。

 ボスだけはSSランク以上がありうるので、そこだけは気を引き締める必要があるだろうけどな。


 そんな感じでまずは肩慣らししつつ、順調に進んでいたのだった。



「ここは広いですね、主様」


「そうだな、真ん中以外はだだっ広いフロアになっているだけのようだな」


 25階層に到着すると、そこは壁がないフロアになっていた。

 多分中心に位置するであろう場所に、大きな扉を備えた部屋があるようだ。


「主よ、一旦ここで整えましょう」


「どうしたカルマ?

 何かあるのか?」


「あの部屋の中に、…ヤツがいます!」


「え?あそこってどう見ても、ボス部屋だよな?」


「どうやら、あの中でそのボス級と戦っているようです。

 多分ですが…、ボスと遊んでいるのでしょうな」


 ボス級の魔物と遊んでいるってどんだけだよ!って通常ならツッコミを入れる所だが、カルマが勝てなかった相手だ。

 それもさもありなん。

 そして、カルマが言うのだから間違いなくいるだろう。


 幸いにして、ボス部屋から出てくる気配は無い。

 そして、次の階層に行くには俺らもその部屋に入るしかない。

 分かっていて陣取っているのだろうな。


「よし、ここで小休憩。

 その後、全員戦闘態勢を整えろ!

 あの部屋に入ったら、魔王がいると思って準備しろ!」


「「承知!!」」

「「はい!!」」


 全員にアイツについては話をしてある。

 絶対に侮れない相手で、俺も死に掛けたと。

 そして、次に会う時は必ず勝たなければならないとも。


 前は手も足も出なかった。

 しかし、今なら戦える筈だ。

 …いや、勝つんだ!絶対に!



「よし、準備はいいな?いくぞ!」

「「おー!」」


 ギギギギギギギギ・・・・

 重い音を立てて、扉が開いていく。

 どうやら封鎖されて入れないとかは無いようだな。


「!!?」

 

 扉を開いた瞬間、凄まじい圧が襲い掛かってきた。

 一瞬攻撃されたと勘違いされたほど、その衝撃は凄まじい。


「オラアアアアアアアアアアア!!!どうした、まだまだ遊び足りないぞおおお!!」


『グオオオオオオオオオオオオオオオオオ!!いつまで遊んでいるつもりだ!この魔族風情ガアア!!』


 ドカッドガッ!!と鈍い音が部屋中に響き渡り、その衝撃がこちらにも伝わってくる。

 魔族の男は、なんと素手で攻撃しており対する巨大な天使は既に全身の防具や武器がボロボロになるなで破壊されつくしていた。


 あの状態で生きているのが不思議なほどだが、わざと生かしているのがハッキリと分かる。

 なぜなら、負傷マークがついているのにHPが半分くらいまでしか減っていないからだ。


「本当に遊んでいるな」


「アヤツはそういう奴です。

 きっとあの時も…」


 苦い思い出が蘇るが、それどころじゃないな。

 臨戦態勢を取りつつ、こちらに気が付くのを待つ。


「はっはっはっはっは!!弱い、弱いなお前っ!

 …おや?やっと来たのか?」


 巨大な天使を圧倒しながらも、こちらに気が付き視線を送る魔族の男。

 次の瞬間だった。


「この時をずーーーーっと待っていたぞ!

 そうとなれば、お前は用済みだ。

 塵となり消えろ。─<次元断>!!」


 無数の黒い刃が浮かび上がり、それらが巨大な天使に襲い掛かる。

 ほんの一瞬だった。

 次に見た時、巨大な天使は灰となっていた。


「「…!!?」」


 初めて見た者は驚きのあまり声にもならなかったようだな。

 そう、これがアイツの実力。

 それもまだ片鱗でしかない。


「久しいな、カルマ!また会えると信じていたぜ!」


 髪の色は漆黒で、長髪。

 耳は先のほうが少し尖っている。

 そして、肌がグレーに近い黒色をしている魔族の男。


 忘れる筈もない、この光の塔で出会った初めての強敵。

 そして手も足も出ず、カルマとニケを一瞬で死に追いやった唯一の存在。


「あの時の屈辱、忘れもせぬぞ。主を窮地に追いやり、我らを死に至らしめた貴様をな!

 今度は貴様の命を戴くぞ、アモンよ!」


「ククククッ!アーハッハッハッハ!

 この時をいかほど待ったか!

 チカラを取り戻した貴様と、本気の戦いを俺は待っていた!

 さあ、始めようか。俺と貴様たちの終わりの輪舞ロンドオブジ・エンドを!!」


 狂気の化身、魔王幹部アモンとの死闘が再び始まるのであった。

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