第311話 勝利の代価

「僕に勝った君たちは、何を求めるんだい?」


 優雅に紅茶を飲みながら、俺にそう切り出してきたカーズ。

 その目は、先ほどまでおどけた様子は別人のように真っ直ぐこちらを覗き見ている。


「元々、俺達は攫われた雪人族を助ける事が目的だった。

 その主犯であった、ロペもいないからな…」


「だが、その主である僕に何も責任を問わないという事もないだろう?

 それにさ…、僕も何かで君らに補償を出さないと国民に説明がつかない。

 残念ながら、わが国にも被害が出ているからね。僕らが悪くて君らに賠償したという事実がないと、余計な問題を起こす奴がまた出てくるかもしれないからね~」


 この話はどうやら俺らの為というよりは、自分の国で問題が起こらないようにするために提案してきたという事のようだな。

 被害者はこちらのなのに、なんとも勝手な言い分だ。

 だが、確かに何も代価を払わないというのも納得出来ないかもしれない。


「じゃあ、この国くれと言ったら…」


「それは無理。というか、君は国が欲しいの?」


「貴様、主に自ら言っておいてその態度はなんだ!」


 キッパリと断るカーズに対し、威圧するようにカルマが詰め寄る。

 それを手で制しならがら、話を続けた。


「まぁ、落ち着けカルマ。

 正直言うと、国なんかいらないよ。試しに言っただけさ」


「そうだろうね。君はそういうのが欲しいタイプに見えないしね~。

 正直、国を運営するってかなり面倒だからね。国貰ったらなんでも出来るかって言うと、そういうもんじゃない。

 それに僕が居なくなったら、この国の連中が何をするか目に見えているし」


「血気盛んな奴が多そうだったもんなぁ…」


 カーズが黙らせたが、俺らがこの城に入る時にカーズの臣下と思わしき奴らが武装した姿で俺らに襲い掛かろうとしてきた。

 カーズが止めていなかったら、カルマに消し炭にされていた事だろう。


 そんなやつらを臣下に付けて国を運営とか、何の罰ゲームだと言いたくなる。

 別の人間を置くという手もあるだろうが、今度は国民が付いてこないだろう。

 人間が魔族を敵視するのと同じく、魔族も人間を敵視している事が多い。


 獣王の国で襲われなかったのも、ラーザイアが客人として招き入れたから手出し出来ないに過ぎない。

 あの決闘も、そのための布石だったと思えば彼なりに考えての事だったのかもと今更ながらに思う。

 …いや、本当に戦いたかっただけかもしれないけど。


 なので、面倒ごとを抱えるだけなので国なんかいらない。

 そんな事をしたら、今度は人間の国との争いに巻き込まれかねないし、いろんな弊害が生まれるだろう。

 だとしたら、俺が望むのは…。


「じゃあ、この国で価値がある物を何かくれないか。

 それと、雪人族の保護と支援。

 あとは、俺らにこの国に自由に出入りして商売出来るようにしれくれないか?」


「価値ある物か…。うん、いいよ。

 君には、宝物庫にあるアーティファクトをあげるよ。

 それと、商売するという事は貨幣が必要になるだろう?だから、いくらかの賠償金を支払おう」


「おお、アーティファクトか。それはいいな。

 貨幣についてもありがたいね。

 獣王国の貨幣は使えるのかい?」


「いや、そのままじゃ使えないね。

 一応両替は出来るから、そこも使えるようにしておくよ」


「そうか、それは助かる」


「入出国の件は、…そうだなぁ。すこし茶番に付き合って貰う必要があるけど、それも手配しておくよ」


「ああ、そうしてくれるとありがたい。

 商売出来るとなれば、ここの貨幣を商売の資金に貰えるのはいいな」


「じゃあ、それで決まりだね。

 ただ雪人族については、村が点在しているからなぁ…」


「難しいのか?」


「大陸の南側は住める場所が限られてるから、みんなバラバラに住んでるんだよね。

 それを全部支援するとなると、管理が大変なんだよ。

 せめて、一か所に住んでくれればいいのだけど、そんな大きな村もないからねぇ…」


「じゃあ、いっそ町を作れないか?」


「ええ!?僕の話聞いてた?住める場所が限られてて、みんな住める場所が無いんだよ」


「そう、だから開拓して町を作ってくれよ」


「うわー、簡単に言うなぁ…。

 …うーん、でもいいかもね。面白いかも。

 無いなら作ればいいって発想、僕は嫌いじゃないよ。

 分かった、国から技術者を派遣して町を興そうか」


「本当か?!そしたら、そこにうちの商館も建ててくれ」


「君、案外ちゃっかりしてるね…。

 しょうがないな、分かったよ」


「国を俺らに渡すよりは安いだろ。

 じゃあ、交渉成立という事で!」


「確かに、そうだね~。

 僕も何百年もかけて国を作ったから、あげたくはなかったしね。

 というか、最初からいらなかったくせによく言うよ…」


 ボソッと『それに他に人にあげるくらいなら、滅ぼした方がマシから、どっちにしろ手に入らないだろうけどね』と恐ろしい事を呟いていたが、聞かなかったことにしておいた。


 こうして取り決めた事を再び『誓約オース』にて契約する。

 これでもうヒョウ達が襲われる事も、生活に困る事も無くなるだろう。

 町を作る場所は、ヒョウ達がいる村を中心に拡張して開拓する事で決まった。

 発展したら、ゆくゆくは港を開いて海路でも交易出来るようにしたい。




 

 

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