第312話 明かされた真相

「ああ、そうだ。

 あそこは僕の支配領域ではないんだ。

 だから、管理をしている精霊に話を通しておいてよね」


「精霊というと、水の精霊かい?」


「おや?水の精霊に会えたのかい?

 なるほど、『覇王』が特別だというのは本当らしいね」


「え、水の精霊ってそんなに会えないのか?」


 確かに、氷の精霊に守られてその奥にある神殿にいる水の精霊は、普通には会えない。

 だか、流石に俺ら以外に会えた人がいないとは思えない。


 それに精霊にとっては人族も魔族も区別してないらしいし、資格があるならば会うことは可能だろうと思っていた。


 しかし、カーズからの答えは予想から外れたものとなる。


「ああ、あれは全く人の前に出てこないからね。

 この国で会ったことがあるのは、僕くらいじゃないかな?」


「そうなのか?思ったよりもレアな精霊だったんだな…。

 …そういや、氷の精霊を暴走させたのはカーズお前か?」


「は?あの精霊が暴れたのはここ最近だろ?

 僕では無いよ、なんせここ数十年は僕がこの国から出た事ないからね。

 なんでそんな事を訊くんだい?」


「なんだと?!

 …カルマ、どう思う?」


「…魔王相手では全てを看過出来るわけではないですが、嘘を付いている感じでも無いですね。

 一体どういう事なんでしょうか?」


「話が見えないな。

 その話、詳しく聞かせてくれるかい?」


 そこで俺はこれまでの経緯をカーズに話した。

 氷の精霊が暴走した事。

 その原因が凶悪な呪詛よって起こされた事。

 そして、それが出来るのは呪詛王カーズくらいしかいないのではないかと思っていた事。


「─と言うわけなんだ」


「なるほどねぇ…。

 疑われるのは仕方ないけど、僕では無いね。

 もちろん、それだけ強力な呪詛を大精霊に掛けるとなると、ロペでは無理だし…」


「じゃあ、お前以外にいったい誰が出来ると言うんだ?」


「うーん、そんな事を出来る奴なんて…。

 いや、まてよ。

 そうか、だからロペが暴走しだしたのかな?」


「どうしたんだ、一人で納得しないで説明してくれないか?」


「思い当たる人物が一人だけいるんだよ。

 中央にいる魔王の一人なんだけど、アイツなら可能だと思う。

 ただ、アイツが何のためにそんな事をしたのかは想像がつかないんだけどねぇ」


「アイツというのは?」


「これは僕の想像だからね?

 奴の名は魔王バロール。邪眼により相手に呪いを掛ける事が出来るんだ。

 そして、やつはその邪眼から眷属を生み出す事が出来るんだよ。

 そいつは、そのまま奴の邪眼のチカラを引き継いで生まれるんだ」


 魔王の能力をそのままに、生まれてくる眷属。

 それだけで、厄介な相手であることは間違いないな。


「バロールの魔眼のチカラの中に、『狂乱の魔眼』と言うのがあるんだよ。

 その効果は、その名前の通り見たものの精神を狂わせるらしい」


「狂乱とは、また物騒な能力だな」


「ああ、ただ状況を考えるとそのままでは抵抗されて上手く効果を発揮できなかったんだろうね。

 だから、依り代を破壊して弱らせたところに『狂乱の魔眼』を使ったんじゃないかな?」


「いったい、なんの為にそんな事をしたんだ?」


 遠くの大陸にいるはずの魔王が、わざわざこんな辺境に来て混乱を招くとかなんの嫌がらせなんだ?!

 …まさか、本当にカーズに嫌がらせしに来てたのか?


「なんで僕の方を恨めしそうに見るんだい?

 まぁ、奴に恨まれそうな事は…色々とやってはいたけど、それにしちゃあ回りくどいだろっ!

 と、いうか、君さえ来なければなんの迷惑も掛かって無かったからね」


 確かに、俺が来てなかったらカーズにとってはどこ吹く風だったろう。

 だとすれば、他に狙いがあったのかもしれない。

 当の魔王の配下も見当たらないし、真相は今考えても出ないだろう。


「そうだよなぁ。ただ、また何かを仕掛けて来るかも知れない。

 その時は、カーズがなんとかしてくれ」


「ええー。面倒くさいなぁ。

 でも、南側にも町を作るなら考えておかないとだなぁ…。

 しょうがない、こっちでも探りを入れておくさ」


 口では面倒だと言いながらもすぐに執事に何かしらを指示するカーズ。

 どうやら傍にいる執事は伝令役でもあるようだ。

 彼は静かに礼をして部屋を出ると何処かへ向かったようだ。


「取り敢えずはこんなとこだね。

 君のせいで、やる事がいっぱいになってしまったよー。

 でも、退屈してたところだし丁度いいか。

 町の手配終わり次第、君に連絡するよ」


 そう言って、何処から出したのか黒い水晶を2つ取り出した。

 1つを俺に渡し、目を閉じて何やら念じる。


『僕の声が聞こえるかい?』


「これは…、通信機か?」


「つうしんき…?君の国ではそう言うのかい?

 これは念話水晶、魔力を流せばお互いの声が届くアーティファクトだ。

 これで連絡するから、持っておいてね」


 カーズによれば、魔力を遮断するような所以外にいればどこでも念話で話をする事が出来るらしい。

 これも国宝級のアイテムらしいから無くすなと言われた。


 冒険者ギルドの通信用の水晶のパワーアップ版だな。

 こんなのがあったんだな。

 沢山あれば、他のメンバーとのやり取りに使えるのになぁ。

 聞いたら、これしか無いから言われた。

 残念。


 その後は手配に時間がかかるからと王宮に泊まることになった。

 明日の朝に国民向けて今回の件を説明し、俺らは敵ではなく今後は国賓として扱うとの事。


 船に残ったメンバーにはカルマが連絡しにいってくれた。

 あたりはすでに日が沈み暗闇に染まっており、他の者に見つからずに移動するのに丁度いい。


 また、カーズの配下に誘導してもらい飛行艇を町の近くに移動させた。

 事情が分からぬものが手を出さないように、しっかり護衛もついている。


 因みにカーズの配下が命令を無視した場合、カーズの意思で命を奪う事が出来るみたいだ。

 軍に配属されている全員がその誓約(オース)が掛かっているらしく、改めてカーズがこの国の支配者(まおう)なのだと実感させられた。


 その夜、晩餐会ご開かれてこの国の料理が振る舞われた。

 雪人族の食べるような民間食ではなく、王宮で出す贅が尽くされた料理だ。


 雪国ではあるが漁業も発展しているらしく、海鮮系の料理が多く目立つ。

 ロブスターみたいな大きな海老や、見たことない魚の料理がずらりと並んだ。

 また雪国でしか育たたないスノーバッファローのローストビーフや、ステーキもある。

 クリームソースのパスタや、野菜が乗ったキッシュ、こんな雪国でも食べれるのかと思ったほどのフルーツの盛合せなど彩り豊かな食卓となった。


「凄いねパパ!」


「王都の晩餐よりも豪勢ですわね」


 一緒に食べる事になったリンやアリアも目を丸くしている。

 王女として育ったアリアが驚く程なので、庶民であるサナティに至っては何処から食べて良いか迷って固まっていたくらいだ。


 『まぁ、気楽にして食べてよ』と言い残し、乾杯だけしてやる事が沢山あるからと席を外したので俺らだけで食事をとった。

 気を遣ったのかも知れないが、本当に忙しそうだったので気にしないことにする。


 夜は男女に分かれて部屋を手配してもらい、それに合わせてカルマとニケがそれぞれの護衛に当たる。

 ニクスやへカティアとディアナは飛行艇に戻り、そっちの護衛に当たってくれている。

 食事だけは外せないと、晩餐には参加して嵐のように食べ尽くしていたけどね。


 こうして、俺らの長い一日は終わったのだった。

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