第310話 魔王とお嬢様
目を閉じて、お互いの手の平を合わせる。
周りには俺の仲間達が、取り囲む形を俺達の様子を心配そうに伺っていた。
「「
「我、カーズは、汝、ユートに敗北を認め、決して敵対しないと誓う」
「我、ユートは、汝、カーズの敗北を受け入れ、ここに誓約を結ぶ」
すると、二人の間に一つの魔法陣が創り出された。
魔法陣から光が溢れると、紋様のようなものが浮かび上がり、それがカーズの胸のあたりに吸い込まれていく。
カーズの胸のあたりが光り、そして消えた。
「これで、
自然に皆の視線がカーズの胸にいく。
カーズは、何の気なしに胸元を開けて自ら確認をしていた。
何と気なしに見ると、割と大きなふくらみの上にしっかりと刻印がされているのが分かった。
…んん!?
なんで、胸にふくらみがあるんだ!!?
「なるほど、こういう風になるんだね。僕は呪詛のエキスパートだけど、呪いとは少し違うみたいだね…、って僕の胸をみて目を丸くしてどうしたんだい?」
「お前…、女だったの??」
「あれー、僕の色気にやっと気が付くなんてとても鈍いんだねぇ~。
僕は、歴とした女の子だよ?
男だと思ってただなんて、あー傷つくなぁ~、クフフッ」
いかんいかん、あまりの衝撃に口がぽかんと開いてしまった。
予想してなかったので不意を突かれた形だった。
取り合えず、目線を外そうとしたら…。
「ほ~ら、これでハッキリ見えるかな~?」
と悪戯っぽい笑顔を見せて、両手で胸を大きく開いて見せてきた。
『カーズ!主様を、誑かそうなどと良からぬ事を考えているなら、ここで誅殺しますよ!』
「パパを誘惑するなんて、許さないんだから!」
「そうです。その程度大きさなら私の方が…!」
こらカーズ、余計な混乱を起こすんじゃない。
途中、サナティがとんでもない事を言い出したけど、ひとまずスルーだ。
こういう時は、彼に任せるに限る。
「カルマ…」
「承知」
カルマがそう言うと同時に、カーズの真上に強力な斥力が発生する。
無防備な状態で真上から押さえつけられたカーズは、そのまま『ぎゃんっ』といいながら地面に押しつぶされた。
───
──
─
「で、この先君たちはどうするんだい?」
場所は、カーズの居城にある応接間。
応接間と言っても、パーティー出来るんじゃないくらい広い。
そこにある豪奢な応接テーブルに備え付けられたソファに座りながら、話をする事になった。
あの後、『いや~、冗談冗談!ちょっとからかっただけだよ~』と言ってすぐに復帰したカーズが、ちゃんと話をしないかと言ってきたので、ここにお邪魔した次第だ。
ここには、俺と聖女の3人とセツナ。
あとは俺の護衛としてカルマ、ニケ、ディアナ、ヘカティア、ニクスがついて来ている。
ちなみに魔獣の姿だと大きすぎるので、全員が人化している。
「とりあえず、今回の事は謝るよ。ロペが勝手にやってた事だったけど、面白そうだから放置していたんだよね。
まさか、サーヴァントを倒せるとは思っていなかったから、びっくりしたよ」
「あのサーヴァントは、マジでヤバかったぞ?というか、俺らが勝てなかった場合は、お前の民も只では済まなかったんじゃないのか?」
カーズは物々しい恰好からうって変わってゴシックワンピースに着替えて来た。
さすがにその恰好だと女性だとわかるが、今度はさっきまでと同一人物とは思えなくなる。
しかし、俺には神眼があるので別人だと見紛う事は無い。
「あー、それはねぇ。…ネタをばらしちゃうとさ、あれは劣化版。
君たちが止めなくても、半日もすれば自壊して消えてしまうんだよね」
「はあぁっ!?」
「あっはっは、びっくりしている?
だってさ、あんなもの本気で召喚したら、この国滅ぶからね?
もしやるんだったら、他人の国で召喚するよぉ~、クフフッ」
「じゃあ、最初からコケ脅しって事か」
「ううん、それは違うかなぁ。
あの状態のサーヴァントでも、人間の国くらいなら1日で滅ぶんじゃない?人間は弱いからさ。
…でも、その人間の国から来たんだよね?君、本当に人間なの?」
優雅に紅茶を啜りながら、片目だけ器用に開いてこちらを覗き見るカーズ。
その所作だけ見ればどこぞのお嬢様なのだが、口調と姿が合っていない。
それだけでどうも調子が狂わされる。
「人間だった筈さ。『覇王』とか良く分からないものにされるまではね」
「ふーん、君は色々変わっているんだね。
でもまさか、自分の国に覇王が来るなんて思っても居なかったな~。
おかげで、数百年ぶりに楽しかったけどさ」
「もしかしたら死んでいたかもしれないのに、随分余裕だな」
「えー?いやぁ、やろうと思ったらもうちょっとやれたよぉ。
僕の本気は、まだまだ先にあるからね」
「ふん、今更負惜しみか?魔王を名乗る割に小物だな」
最後にカルマに言われて少し不服そうな顔をするカーズ。
しかし、その挑発には乗らずに素直に答えた。
「うん、負けたのは僕だからね。そこは否定しないよ。
そもそも、自国で戦争なんてするもんじゃないんだよぉ。
ロペもなんで不利になるような戦いを仕掛けたんだか…、次はもっとしっかり調整しないとだなぁ」
「領内じゃなかったら、もっと違ってたと?」
「そうだね…。これでも、遥か昔は中央の魔王と互角だったんだよ。
でも僕ら魔王が本気で戦うとさ、辺りが跡形もなく吹き飛ぶから~。
戦いに勝っても、国民が全員死んじゃったら誰が僕のお世話してくれるのさ!って話だよね~」
と、出されたクッキーを頬張りながら話すカーズ。
あまり行儀が良くないが、いつもの事なのか誰も咎める者はいない。
そんなカーズの傍には、さっきからメイドさんやら執事らしい人がひっきりなしに世話をしている。
でも、なるほどなと思った。
カーズの言う事は尤もな話で、俺も共感する話だ。
話を聞きながら、屋敷で暮らす今の家族を思い浮かべていた。
「──じゃあ、そろそろ本題にもどろうか。
僕に勝った君たちは、何を求めるんだい?」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます