第309話 誓約(オース)

「貴様…!不利になるや否や、降参するとはそれでも魔王か!いや、それともまだ何かを企んでいるのか?」


『カルマよ、メンドクサイのでこの者は魂ごと消滅させようぞ』


「うん、私もさんせーい。あのクロノスっていう魔王もそうだけど、このカーズも胡散臭いからね。油断は禁物だと思うんだ。ね、ディアナ」


「そうですわね。このまま生かしておいては、またマスターに害を成すに違いありません」


 4人の言う事は、尤もだ。

 俺もそう思う。

 これだけの事を俺達に仕掛けておいて、勝てないとなったら降参では調子が良すぎる。

 ここは心を鬼にして、止めを刺すのが今後の為だ。


「あー、そりゃあそうなんだけどさ。ぶっちゃけ、切り札をなくした時点で詰んでいるんだよねー。

 僕としては自分の命なんかはどうでもいいのだけど、これ以上暴れて町に被害を出したくないんだよねぇ…」


 そう言われて周りを見ると、土地が無茶苦茶になっていた。

 いや、元々そっちが仕掛けて来たんだし謂われる事はないんだが、それでもこの国の住民には関係ない話である。


 まさか魔王が真っ当な理由で降参してくるとは思わなかったが…。

 だとしても、それこそ魔王が相手なのだから最後まで油断するべきじゃないか。


「降参という事は、俺らに投降するという事で良いんだな、カーズ」


「あー、勿論さ。これ以上やっても、僕に勝ち目が薄いからやる意味もないしね」


「主よ、このままこの者の言を信じるのは危険です」


「だよなぁ」


 カーズの周りをカルマ、ニクス、ヘカティア、ディアナが油断なく取り囲む。

 いつ再度攻撃を仕掛けて来ても対応出来るように、攻撃の構えは解いていない。


「パパ!」

「「ユートさん」」


 リンとサナティ、アリアもサーヴァントが完全に消滅したのを確認すると俺の傍にやって来た。

 MPの大部分を消費したようで、少し顔に疲れが出ている。


「3人とも良くやってくれたな。お陰でカーズを追い詰めるのに成功したみたいだぞ。

 降参すると言ってきているから、実際アイツもかなり消耗したようだよ。

 しかし、このままと言うわけにはいかないんだが…」


 降参すると言っているカーズの処遇に困り顔になってしまう。

 そんな俺に、すかさずアリアが提案をしてきた。


「それなら、『誓約オース』により魂の宣誓を行ってはどうでしょう?」


誓約オース?それをやると、どうなるんだ?」


「『誓約オース』とは、戦争で勝利した側が負けた相手国の代表に対して二度と歯向かわないように魂の宣誓をする事なのです。それを行ったあとは、敵対行動を取ろうと考えただけで魂に苦痛が与えられ、弱い者ならそれだけで死に至る、強力な契約なのです」


 すぐにそんな事を思いつくとか、流石は王族だな。 

 なるほど、前にカルマがヘカティアとディアナに掛けた契約と同じ様なものか。

 流石に魔王でも、それだけの制約が掛かれば簡単に裏切るとかは無いか?


「カルマはどう思う?」


「なるほど。誓約オースであれば、主とカーズとの間でも成立します。それならば、しばらくは安心出来るかと」


 か。

 ヘカティアもディアナも今は俺との主従契約が優先されているため、カルマが掛けた契約は切れている。

 同じように、俺よりも上位の者に解除されてしまえば、また襲ってくる事も可能という事か。

 ただ、その場合は俺以上に危険な相手に従う事になるので、カーズにもメリットは少ない様に見えるな。


 よし、決めた。


「呪詛王カーズ。俺に降参するというのであれば、誓約オースを受けて貰うよ。

 もしそれが嫌ならさ、ここで消滅して貰う事になるけど…。どっちがいい?」


 カーズの調子に合わせて、軽い感じで言ってみる。

 ここで断られたら戦闘再開になるんだけど、多分そうはならないと思う。

 断るつもりなら、降参なんかする前に逃げてしまえばいいだけだからだ。

 カーズなら、そのくらいやれなくはないだろう。


「う~~ん。困ったな。

 それを持ちかけられるとは思っていなかったなぁ。

 ここの王の僕がそれを受けちゃうと、色々と問題なんだけどなぁ…。

 それ、どうしても受けないとダメ?」


「うん、駄目」


 爽やかな笑顔で、そう返す。

 ぶっちゃけて言うと、カーズ本人には特段恨みはない。

 あるとしたら、グラムとかだろうけど。

 俺には関係ないのだ。


 そもそもの目的は、ヒョウ達の救出なのだから。

 その首謀者は、俺に恨みを持ったロペの仕業。

 もちろん、その裏でこのカーズが糸を引いていてもおかしくないのだけど、どうもそのように感じない。


 カーズが言ってた通り、ロペが独断でやったと言われた方が納得いくのだ。

 なぜなら…。


「うーん、しょうがないか。

 一つ確認したいんだけどさ、君はここの王様になる気はあるのかい?」


「は?いや、無いよ。嫌だよ、そんな面倒な事」


「え、本当?

 じゃあ、君に敵対しない代わりに僕がここの王様のままでいいって事かい?」


「ああ、元よりそのつもりだよ。

 代変わりされたら、誓約オースした意味がなくなるだろ。

 その代わり、今後は部下がやったとしてもお前の責任だからな」


「いいよ、それならその誓約オースを受けよう。

 僕は、この国が平和で僕が楽しく暮らせれば他はどうでもいいからね」


 やっぱり、このカーズは外の世界に興味を持っていない。

 これだけの実力を持ちながら、この大陸全土を支配していないのはおかしいと思っていた。

 それに、最初からカーズだけは兵士以外の民が死なないように配慮していたように見える。


 つまりはこの国の民は大事にしているが、それ以外には興味はさほど無いという事なんだろう。

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