第307話 覚悟と信頼

「そんな・・・!」


 顔色を青くし、悲痛な表情を浮かべるリン。

 いくら魔族で敵だったとしても、無慈悲に奪われる命を目の前にしショックを受けているようだ。


「あははっ!ご名答だよ!この亡霊王レブナントは、僕の受けたダメージをすべて肩代わりする代わりに、周りの生命や魔力を喰らいつくす呪いそのものなんだよ。

 だから、浄化して消すか僕を殺すしか止める事は出来ないんだよ?

 早くしないと周りの生命を自分の呪いに変えて、どんどん強くなるからね~。

 さあ、どうするのかな?どうやって止めるのかな?」


「お前、自国の民の命をなんとも思っていないのか?」


「えー。そんなわけないでしょう?僕も兵士が減るのは結構痛手なんだよ?

 でも、それ以上に君達を困らせる方が楽しいじゃないか!」


「くそ、狂ってやがる!!」


 ダメだ、説得してどうにかなるような相手じゃない。

 とにかく、あの巨大な化け物をどうにかしないと。


「ほらほら、早くしないとお仲間達もアイツに食べられちゃうよぉ?

 ─もちろん、僕も黙って見てるわけないしね?」


 そう言うか早いか、カーズが巨大な魔法陣を創り出した。

 そこから禍々しい魔力を感じる。


「死を感じろ。

 ─デットリーレイン」


 触れるだけでHPが失われる雨があたり一面に降り注ぐ。

 まだ巻き込まれていない無事だった兵士や住民がその雨に触れた瞬間にバタバタと倒れていく。


「ガァッ!?」

「あああっ!!?」


 ダンやミラもその雨に触れてしまったらしい。

 苦悶の表情を浮かべている。

 見れば、その触れた場所から焦げているような煙が上がっている。


「主よ、あれは強力な酸の雨。 触れればHPが奪われるだけでなく、その身を溶かされかなりの苦痛を受けるのだ」


「全員、魔法障壁を展開しろ!」


『主様、私がやります!カルマ、あの者を止めるのです!」


 ニケが指した先には、カーズがいた。

 レブナントだけに気を取られていては、カーズからの攻撃を受ける。

 レブナントを止めるまで、だれかが奴を足止めしないといけない。


「カルマだけでは、無理だ!ニクス、ヘカティア、ディアナ!お前達もカルマと一緒にカーズを止めろ!」


「承知したぞ、妾に任せよ」

「「はい、マスター!!」」


 形勢は一気にこちらが不利になった。

 魔王だけでもかなり厳しいのに、それと同等、いいやそれ以上に厄介なレブナントを相手にしないといけない。


 しかも、時間が経てば経つほど被害が拡大しその分強くなるという、存在が厄災そのものだ。

 カーズを倒そうにも、カーズへのダメージはレブナントにいってしまう。

 しかも、その分レブナントが強化されるおまけ付き。


 となると、レブナント自体を先に倒さないといけないのだが…。


「ユートさん、カーズは浄化すればあれを消せると言いましたよね」


「アリア!?ここは危険だぞ!下がるんだ!」


 いつの間にかアリアが俺の傍まで来ていた。

 こんな最前線にいては、いつ命を奪われてもおかしくはない。


「いいえ、下がりません。それより、あれを浄化するのはではありませんか?」


「そっか、そうだよね!」


「なるほど、そう言う事ですか」


 アリアだけでは無かった。

 リンも後方に下がらずに、俺の隣に来ていた。

 そして、いつ船から降りたのかサナティまで来ている。


「リンにサナティまで!」


「パパなら私達を守ってくれる。そうでしょう?」


「そうですね。いつもユートさんは私達を必ず守り通してくれました。

 …だからこそ、『聖女』の私達が絶対にあの化け物を浄化して見せます!」


 そうか、聖女なら浄化に特化したスキルが…。

 ここは覚悟を決める所か。

 彼女たちを守り抜く、覚悟を。


『主様、3人でやるならきっとうまいく筈です!私もサポートしますので!』


 正直に言うなら、今すぐにでも船に戻って貰い逃げて欲しい。

 あれに取り込まれれば、きっと俺の『蘇生』スキルでも復活が出来ないだろう。

 3人の命を天秤に掛けて、俺は何を救うと言うんだ?


 いや、ここで食い止めなければいずれまたこの厄災が襲ってくる。

 3人だけじゃない、仲間達全員の命が掛かっている。

 だとすれば、ここで決着を付けないと…。


「パパっ!大丈夫だよ。私達を信じて!」


「ユートさん、私達を信じてください!」


「ユートさん、リンとサナティと力を合わせれば絶対に成功します。『聖女』に選ばれた3人がここにいる理由がそこにある筈です」


 3人の真剣な眼差しに、気圧される。

 迷っているのは俺だけ。


『主様と私で守り通せば良いだけです。何の迷いがあると言うのですか?』


 そうだ、俺が守り通せばいいだけなのだ。

 出来ないと言うのは、仲間を、家族たちを信じていないのと同義。


 そんなのは家族とは言えない!


「分かった、やろう!俺は3人が出来ると信じる。だから、3人は俺達が守ると信じてくれ!」


「「勿論です!」」

「勿論だよ!」


 既に覚悟は決めた。

 ここからは皆を信じて皆を守るのだと。

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