第305話 カーズの実力
「だからさ、君の魂を僕にチョ・ウ・ダ・イ!」
カーズの右腕が膨れ上がり俺に襲い掛かってきた。
来るとは思っていたので、難なく避ける。
だがそこで予想していない事が起きた。
カーズの腕の先が何かに吸い込まれるようにして消えている。
消えた腕はどこにいったんだ?と思っていると、自分の真後ろから飛び出てきた。
空間魔法みたいなものか?!
あの星の大精霊ステラのように、何か固有のスキルを使っているのかもしれない。
しかし、俺には『覇王の神眼』がある。
真後ろから来ようが、見なくても躱す事くらい容易いことだ。
だが、それすらも必要がないようだった。
「魔王とはいえ、我が主に仇名すとは不届きな。我が相手になろう」
『勝手に仕切らないでください。
いくらカルマでも、あれが相手では苦労するでしょう?私も主様の為に加勢しますわ』
「ちょーっと、まったー!相手が魔王なら、多勢に無勢とか言わないよね?私達も参加するよー!」
「ですわね、ヘカティア。せっかく私達の活躍の場をマスターに見せれるのです、参加しない手はありませんわ」
「むむ、ここでぼうっとしていては妾がサボっていると思われるでないか。ならば、妾も参加するとしようか」
ここで何を思ったか俺の仲間ペット達が前に出てきた。
確かに相手は魔王だ、手を抜ける相手ではない。
しかし、俺が相手しないわけにもいかないだろう?
「主は『覇王』のチカラで我らをバックアップし、指揮を執ってくれれば良いのだ。それこそが我らの本来あるべき姿でしょう?」
…しばらく自分が戦う事が多すぎて、自分の本来のスタイルを忘れていたな。
俺の本職はテイマー。
自ら戦うのが本来のスタイルではない。
そう、仲間ペットのチカラを最大限に活かし、指揮をし、そして仲間のチカラで勝利をする。
それが『覇王』になっても変わらない、俺の最強スタイルだ!
「我が仲間、盟友を鼓舞せよ!『覇王の号令』発動!
我が仲間、盟友を守れ!『覇王の盾』発動!
さあお前達、存分に戦え!」
「「おおおー!」」
「「『はいっ!』」」
カルマが、ニケが、ヘカティアが、ディアナが、ニクスが裂帛した雄たけびを上げる。
それに呼応するように、メンバー達も動き出した。
「パパ!ロペの相手は私達に任せて!パパ達は、魔王に集中してね?」
「そうだな。前よりも動きは鈍いとはいえ、あの魔力だ。私も加勢するわ、リン」
クロと共にロペに挑むリン。
更に、加勢でセツナとセリオンが向かった。
いくらロペでも、あの2つのコンビが相手するなら負ける筈が無いだろう。
「あれれ~。今度はこっちが多勢に無勢って感じかなぁ?
しょうがないなぁ、これでも王だからさ部下は沢山いるんだよね」
そう言って、指をくいっとすると地面に無数の魔法陣が現れた。
そこから無数の黒い騎士たちが現れる。
異様な雰囲気を纏うその騎士達の戦闘には骸骨の馬に乗った騎士がいた。
しかし彼には、なぜか首が見当たらない。
「あれは、デュラハンってやつか?」
「おー、良く知っているね~!そうそう、昔将軍とか言ってたけど死んじゃったから、死なない体にしてあげたんだよね~」
死なないとか反則じゃね?
いや、蘇生出来る俺も大概だけどさ。
でも、何かしらの弱点はあるはずだ。
「ユートさん、あいつらは俺らに任せてください!」
そこで名乗り上げたのはカイトだった。
言うが早いか、グランに乗ったカイトを先頭に、カイト達5人は黒い騎士たちに挑みかかっていく。
ミラが放った魔法で数体の黒騎士が吹き飛ぶのが見えた。
おお、魔法の威力上がってるな~!
「わー。あんなの使われまくったら、街が無くなりそうだね~。
まあ、君たちの方がおっかないけどさ。
でも、言っておくけど僕って強いんだよね!
〈アナザーワールド〉!」
次の瞬間、辺りが真っ暗闇に落ちる。
先ほどまであった建物が消えて、地面も真っ黒に染まる。
「はははっ、びっくりした?これは範囲指定の結界だよ。この中ならどれだけ暴れても、街に損害出ないから安心していいよ?」
「安心なのはお前の方だろう?…まさか、お前を倒したら一生この中とかないだろうな?」
「あはは!そんな牢獄のようなスキルがあるなら是非とも欲しいねー!
…ほら、あの大魔王とか、一生閉じ込めておきたいじゃない?
でも残念。僕の魔力が尽きたら、これは解けてしまう。
だから、僕を倒せばここから抜け出せるよ~。
…まぁ、生きていればね?」
と言った瞬間に、黒い空一面に無数の魔法陣が出現した。
しまった、今の会話は時間稼ぎか!
「咲け、黒き華。カースマインバースト!」
赤黒い球体が空から降り注ぎ、それが地面にぶつかる瞬間に弾け飛ぶ。
それはまるで地面に咲く黒い華。
咲き乱れた華は、敵味方関係なく襲い掛かってくる。
「主よ、それに触れれば、体が腐食します!」
『主様!今、魔将障壁を展開いたします!』
カルマの心配をよそに、俺の心は落ち着いていうた。
なぜなら、俺には覇王のスキルがある。
腐食など心配ないし、それにこの程度の範囲攻撃であれば・・・
「俺に任せろ!吸い尽くせ、『覇王の霊玉』!」
あたり一帯に散りばめられたの呪いの魔力は、俺の手の平に集まる。
全てを吸い尽くした後、俺の中で魔力に変換されてパーティーメンバー全員に黄金の光となって降り注いだ。
『これは、主様の魔力…?力が漲ってきます!!」
『覇王の霊玉』は、吸収した魔力をMPやSPに変換して仲間に還元する事が出来る。
これにより、戦いで消費していたMPとSPが回復した筈だ。
「なるほど…。覇王とは面白い存在ですね」
「ふん、貴様の攻撃など我が主の前では児戯に等しいという事だ。観念して、滅されるがいい!」
カルマの6枚の翼が開かれると、そこに魔法陣が浮かび上がる。
次の瞬間、そこから1本づつ、計6本の禍々しい槍が生成されてカーズに襲い掛かった。
「喰らうがいい、イビルジャベリン!」
放たれた6本の槍は、カーズ目掛けて襲い掛かる。
「ふん、小癪だね」
カーズはそれに対して手を翳すだけで魔力障壁を創り出し、そのすべてを防いだ。
やはり魔王だけあって、無詠唱で魔法やスキルを使えるようだな。
『援護します!』
「妾も、加勢するぞ!」
「ディアナ、いっくよー!」
「ええ、ヘカティア。私達の力を見せつけてやりましょう!」
ニケが雷鳴を呼び、ニクスが火焔を巻き起こし、ディアナとヘカティアが竜のブレスを放った。
バリバリバリ!ゴォォォォォ!!ドゴオオオオン、ドガアアアッ!!と轟音を起こし、真っ暗闇を照らし明滅させる。
そのあまりの威力に爆風すら巻き起こす。
並の魔族ならこの衝撃だけでも命を落とす事だろう。
しかし。
「ふーん。流石、言うだけあって中々の威力だね。でもさ、この程度なのかな?」
無傷…、と言うわけではないがほぼダメージを受けていないように見える。
流石は魔王。
正真正銘のバケモノだ。
気になって『覇王の神眼』で、そのステータスを覗き見た。
するとその恐るべき数値に驚愕した。
名前:呪詛王カーズ ランク:SSS クラス:魔王
HP:398000/444400 MP:410000/440000 SP:18500/20000
STR:1200 VIT:1400 INT:4400 SPD:1000 MGC:4400
耐性:闇、幻
弱点:光
うわぁ…。
獣王ラーザイアよりHPが多いってどういう事!?
接近戦は得意としていないステータスだけど、それでも決して低くはないな。
何より、なんだあの異常な魔力は…。
王都の騎士団レベルなら、範囲魔法を一撃喰らったら全滅するレベルだな。
やはり、魔王はこぞって化け物揃いだと実感させられたのだった。
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