第304話 造られし魂

 グラムの仲間達は、全員拘束して船で送還する事にした。

 だが、流石にそのままでは危険な状態になりかねない。

 なので、そこはカルマ先生の出番となる。


 元々、上位悪魔個体でもあるナイトメアロードの特性により、悪魔としてもスキルも使えるカルマ。

 その中に、『魂の契約』というのがあるらしい。

 これは、魔人化していたディアナとヘカティアに掛けたやつだ。

 あの時は首輪にしていたが、媒体は何でもいいという事だ。

 などで、余っていたゴミマジックの腕輪バングルをカルマに渡す。


「ありがとうございます。では、これでこやつと契約を交わしましょう。お前達、断れば分かっているな?」


 ちらりとセツナの方を見るカルマ。

 フウマを筆頭に、グラムの仲間たちはその視線の先にいるセツナを見て『ヒィッ!』と情けない悲鳴を上げていた。

 うん、どうやら死ぬより怖くなったみたいだね。

 いや、俺のせいでもないんだけど、なんかごめんね。


 全員、素直に腕を突き出しその手首にバングルを嵌めていく。

 そして、『魂に誓って我に忠誠を誓うと言え』とカルマが言う。


「「「魂に誓って我に忠誠を誓う」」」


 誰一人逆らうことなく、そう言葉を発した瞬間にバングルが白色に変わるのだった。


「主よ、これでこの者達は我の眷属となりました。この先、我の命令に背いた時点で命を奪う事が可能です」


「流石に、命令違反したら死ぬとか危険すぎるから、俺ら仲間に危害を加えようとしたら麻痺するくらいでお願い」


「相変わらず、主は甘いですね。麻痺くらいだと動ける輩もいるでしょう。なので、石化するようにしておきましょう」


 カルマはそういうと、俺の確認も取らずにそう設定したようだった。

 一応制約する内容や、処罰の内容も変更出来るらしいし、カルマが契約を破棄すれば契約を解除する事も可能みたいだ。

 まぁ、一度はこちらに刃を向けたやつらなので、当分そんな機会は訪れないだろうけど。


「そして、最後はグラムだな」


「この者には、より厳しい制約を掛ける必要があるかと」


「まぁ、首謀者はロペだけど…。お前には迷惑かけられっぱなしだからな。悪く思うなよな」


 そう言って、グラムには首輪を用意していたのでそれを付けようとする。

 その時だった。

 グラムが中心の宝玉が割れた首輪をしている事に気が付いたのだ。


 それだけだったら、単なるマジックアイテムだろうと思ったのだが、何やら禍々しい気配を感じるのだ。


「なあ、カルマ。これってなんだか分かるか?」


「これは…、どうやらアーティファクトの一種の様ですね」


「あ、マスター!他の奴らも、そういうアイテム付けてたよ!邪魔だから、速攻で壊したけど!」


「はい、私も見つけ次第破壊して、廃棄しておきました。何かの呪物にも見えたので、使われる前に排除しました」


 と、ヘカティアとディアナが口を揃えて言った。

 おいおい、そういう事はすぐに報告してくれよな。

 と言っても、これが何なのかが分からないのだけど。


「ふむ…、主よ。これは、身に付けた者を傀儡にする【傀儡の首輪】のようですな。我の契約よりも解除が簡単な分、その支配力は高いようです」


「という事は、こいつら操られていたのか?」


「まぁ、半分はそうでしょうね。もう半分は、潜在意志に影響されるので主に仇名す意志はあったのでしょう」


 そうなると、俺への対抗意識みたいなのに付け込まれて扇動されていた感じか。

 対人ありのLBOやっていたゲーマーなら、やられた相手に仕返しをしようとするのは分からない訳じゃない。


 だが、この世界はゲームじゃない。 

 それなのにいつまでもゲーム感覚が抜けないコイツらは、少しお灸を据える必要がありそうだな。


 そして、それを先導していたグラムはリーダーとしても失格だな。

 まず勝ち負けよりも、仲間を危険に晒すとか論外だと思う。

 負ければ死ぬのだ。

 一人でやる分にはいいが、全員を巻き込んでこんな事をするなんて…。


 そういや、なんで子供とセツナを置いていったんだ?

 子供が嫌いだからと言っていたが、それなら王都に置いて行っても良かった筈だ。


「なぁ、グラム」


 そのままでは、流石に見るに堪えな…可哀想なので治療のスキルで治しておく。

 小声で『まだやるんですかっ!?』とか怯えていたけど、俺は男をいたぶる趣味はないし、面倒なのでスルーだ。


「なんで子供達やセツナを王都から連れ出したんだ?嫌なら置いていく事も出来ただろう?」


「あ、ああ。なんだ、そんな話か?いや、最初は置いていこうとしたさ。でも、奴らがあの街にいるのを嫌がったんだ」


「そうなのか?なんか、意外だな」


「そうだろうな。でもよ、こんな俺とはいえクランのリーダーだったんだ。そんな俺を嵌めて陥れた奴が住む国を信用出来なかったんだろうな。あいつらなりに感じるものがあったんだろうさ」


「なるほど。だが、それならなんで俺に預けていった?」


「はっはは。そりゃあよ、お前みたいなお人好しならどうにかしてくれるだろ?一目見れば分かるさ、お前は…いい奴だってな」


「う。お前に言われると気持ち悪いんだが・・・」


「うっせー、俺もおっさんにこんな事言うのは気持ち悪いんだよっ。ったく。だからこそ、お前に負けたく無かったんだ。お前みたいなのが幸せで、俺が不幸になっていくのが許せなかった。…単なる逆恨みだよな。しかも、クソみたいなプライドがあったせいで、結局そこを付け狙われて、嵌められたんだけどな」


「嵌められた?」


「ああ、あの日の事を覚えているか?あの黒ピエロが俺に言ったのさ。『力が欲しいか?』とな」


「それじゃ、あの呪いのネックレスをお前に渡したのはロペなのか?」


「へぇ、流石だな。もう分かったのか?だが、違う。俺に、あの呪いを掛けたのはもっとヤバイ奴だ。見た瞬間思ったぜ。アレには勝てない。だからこそ、ユート忠告しておくぜ?」


「なんだ?」


「あのカーズっていう魔王とは戦うな。目的を達成したのなら、逃げろ。あれは戦って勝てる相手じゃ…ガハッ!!」


 話をしている途中で、急に吐血してグラムが倒れた。

 一瞬、治療に失敗していたかと思ったが違う。

 なぜなら、グラムの胸から銀色の刃が付き出ていたからだ。


「おいっ!くそ、〈霊水〉!!」


 いつの間にか突き刺されたナイフを抜き、すぐさま水治療魔法で回復する。

 さすが大精霊の魔法、すぐに傷が塞がった。


「おやおや、君は面白い魔法を使うんだね?それは精霊スキルかい?それにしてもグラム君、君には失望したよ。折角僕のアーティファクトをあげたのに、一人も倒せないなんて、君弱すぎじゃない?」


「ゆ、ユート!逃げろ、あいつだ!あいつがカーズだ!」


「グラム!カーズ様になんという無礼な口を利くのデスカ!オマエは死んで詫びなさい!…ダークブラスト!!」


 いきなり現れたカーズと、ロペ。

 いや、既に殺そうとしてただろ。

 しかしロペのやつ、段々壊れたようにヤバイ奴になって来たな。

 いや、元々おかしなやつではあったんだけど、雰囲気に違和感を感じるな。

 

「吸い取れ、〈覇王の霊玉〉!」


「なんデスト!?」


 とりあえず『覇王の霊玉』で魔法を吸収しておく。

 俺が耐えれる魔法であれば、大抵これで吸い込める。

 さらに、MPもしくはSPに還元しパーティーメンバーに配れるというスキルだ。

 うん、覇王スキルやばいね。


「へー、君が…。噂の覇王って、君だったんだね?」


「カーズ様!ワタクシめがコヤツを仕留めて見せましょう!キエエエエエエ!!」


「もう、煩いなぁ。ロペ、もう君はいらないな。えいっ!」


 なんだ?

 俺は寸劇でも見ていたんだろうか?

 そう、勘違いしてしまうほど、呆気なく、躊躇なく、カーズがロペの首を刎ねた。

 そして、次の瞬間カーズの右腕がロペをのだった。


「そろそろ新しい操り人形おもちゃが欲しかったから、破棄するつもりだったし丁度良かったかな」


「お、おい。いくら部下でも、それは酷くないか?」


 流石に俺もドン引きしたよ。

 ロペが断末魔を上げる間もなく、その命が尽きたのだから。


「おや、君は敵にも優しいんだね。大丈夫、あれは僕の人形だから。命を与えるのも奪うのも自由なんだ。だから、こうやって新しいのを作れるのさ〈戯命創造リクリエイト〉」


 そこに再び現れたのは、ロペだ。

 しかし、様子が違う。


「さあ、君の名前は…同じでいっか。ロペ、あいつらを倒せ」


「オオセノママニ、カーズ様」


 手に持つ大鎌を振り回し、俺に襲い掛かるロペ。

 しかし、前と違い動きに精緻さがない。


「遅すぎだろっ!」

「アアアアアアア」


 大振りで且つ、雑な動きに戸惑いながらも難なく打ち返し、そのまま吹き飛ばす。


「あーあ、やっぱり造ったばっかりだと全然駄目だねー」


「ロペは、人形だったのか??」


「お、分かっちゃった?そうそう、ロペはね僕が作った人形なんだよ!でも、数十年使っていると壊れちゃうからその度に造り直しているんだ」


「扱き使うからじゃないのか?」


「酷いなー、これでも大事にしているんだよ?でも、勝手に色々するようになると必ず最後はあの状態になるんだよねぇー。やっぱり、魔族の魂を使うとダメなのかな?あ、そうだ!人間の魂・・・、それも覇王とかならもっと良さそうだよね?」


「う、なんか嫌な予感しかしないな」


「だからさ、君の魂を僕にチョ・ウ・ダ・イ!」


 言うと同時に、カーズの右腕が膨れ上がり俺に襲い掛かってくるのであった。

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