第303話 折られし心
「あ、主様。この者の命が尽きたようです」
ニケの言葉で、グラム重症のまま放置していたのを思い出した。
まぁ、死んでしまったのは仕方ないと思うんだ。
なんせ、向こうもこちらの命を狙ってきたわけだし。
「パパ、本当にやるの?」
「ああ、2度ある事は3度あると言うしね。セツナもいいよな?」
「はい。というか蘇生して貰えるだけでも、泣いて喜んで欲しいわ。勿論、本人にね」
「じゃあ、始めようか!」
俺は意識してスキルを発動させた。
普段の俺なら、蘇生をする際には成功率を上げるために、魔法陣を描き、更に祈りの言葉を捧げる。
しかし、今回は時間もないのでスキル発動だけでチャレンジする。
その場合は成功率は約半分くらいだ。
更に、なるべく集中しないようにする。
日頃の行いが良ければ、一回で成功する人もいるが果たして…。
【グラムの蘇生に失敗しました。グラムのステータス値、各スキルの熟練度が低下しました】
もう一回。
【グラムの蘇生に失敗しました。グラムのステータス値、各スキルの熟練度が低下しました】
もう一回。
【グラムの蘇生に失敗しました。グラムのステータス値、各スキルの熟練度が低下しました】
………
……
…
【グラムの蘇生に成功しました】
スキルで蘇生を試みる事、20回以上。
いくら効率を下げた状態とはいえ、10回もやれば普通なら成功するんだが…。
こいつ、運悪すぎじゃないか?
しばらくして、グラムがピクリと動き出す。
やっと起きたか。
ちなみに、体はちゃんと治療済みなので綺麗にくっつけてある。
「おいっ、聞こえるか!?」
「…なんでだ。俺は死んだんじゃねーのか??」
「残念だったな。俺がお前を蘇生したんだ」
「はあっ!?そんなん、ありかよ!いや、魔法スキルが高ければ可能なのか?あれって、成功率低く無かったか?…まさか!」
「お、蘇生のペナルティを思い出したか?そう、お前を蘇生するまでに、超失敗してやったぞ」
「て、てめー!ああああっ、マジだ!マジで超下がっているじゃんか!しかも、ランクも下がっているだと!?」
「お、まじで?それは発見だな。しばらく暴れれないように、ステータスとスキル下げまくったんだけど、ランクも下がるんだな。へ~、そりゃ面白いな」
「いや、おもしろくねーよっ!!」
そう、俺はわざと蘇生を失敗させまくってグラムのステータスとスキルを下げまくったわけだ。
そうすれば、悪さをしようにも力が足りないから出来なくなるし、少なくとも俺に対抗しようとか思えなくなる筈。
それに、弱くしてしまえば利用される事も無駄に頼られる事も無くなるだろう。
だから、命を奪ってしまうよりはその方がいいと思ったのだ。
さっき皆に相談してたのは、この事だった。
「ねぇ、グラム。それよりも、わざわざ死んだ貴方を蘇生してくれたのよ?お礼を言うべじゃない?」
ずいっとセツナが顔を突き出し、グラムに圧を掛ける。
心なしかグラムも冷や汗を流しているように見えるんだけど。
「な、なんでだよ。そいつが勝手に蘇生したただけだろ。それに俺を殺ったのもそいつじゃねーかっ!」
言い分は尤もだな。
だけど、今の状況でそんな事を言うのは悪手じゃないかなー。
君のそういう空気を読まない所だと思うんだよねェ…。
「そう、グラム。それなら、私が冥府に送り帰してやろうか?」
後ろに仁王像でも浮かび上がってそうなオーラを発しながら、ブチ切れているセツナ。
一瞬『ヒィッ』っという情けない声が聴こえた気がしたが、聞かなかったことにしよう。
「ご、ごめん。いや、ありがとうな~!いやー、助かりましたよ!!」
完全な作り笑いで、手でよいしょを作りつつそう言うグラム。
もはや、あの破天荒なグラムの姿はどこにも無い。
ああなると、ちょっと哀れだな。
しかし、本番はここからなのだ。
俺は確かに言った筈だ。
お前をボコボコにするのは俺では無いと。
「ふふふ、素直なのは良い事だわ。じゃあ、次は皆に土下座して謝って貰おうかしら。地面に、頭を擦り付けてっっ!!」
俺にはもはや鬼教官モードのセツナを止める事は出来ないだろう。
「ふ、ふざけんな!そんな事、出来るわけねーだろ!や、やれるもんなら殺ってみろよ!」
はい、処刑決定。
グラムよ、一度は助けたが俺の責務は全うした。
あとは、がんばれよ…。
「グ・ラ・ム?誰がそんな簡単に、逝かせてあげるなんて言ったの?」
すると、セツナは剣を収め、更には装備しているガントレットも外す。
そして…。
バッチーーーーーンッッ!!
と水袋を思いっきり叩くような音が鳴り響いた。
うん、ここからは子供の教育に良くないな。
サナティに目配せをして、リン達を遠ざけておいた。
「いっっっってえええええええ!!」
セツナが手加減なしに、グラムを平手で殴ったようだ。
たった一撃でグラムの顔が変形する。
あ、ちなみにグラムの仲間たちは捕獲済みだ。
ディアナやヘカティアに掛かれば、他の連中を倒すのは容易いことだったみたいだ。
なんか、物足りないんだけどとか言ってたけど、まだ本命のアイツを倒してないから、そこに余力を取っておけと言っておいた。
そして、その仲間達もグラムが蘇生する前に意識を取り戻しており、現在拘束中だ。
ついでに、この現状を見せてあげている。
バッチーーーーーンッッ!!
ジャバジャバジャバッ!
バッチーーーーーンッッ!!
ジャバジャバジャバッ!
バッチーーーーーンッッ!!
ジャバジャバジャバッ!
「ぐがあっ!お、お前、そのビンタ。スキル使っているだろうっ!?」
「あら、やっと気が付いたの?私は徒手のスキルをとっているのよ。だから、このビンタを受けると暫くスタンするの。だから、もう逃げられないわよ?」
バッチーーーーーンッッ!!
ジャバジャバジャバッ!
しかも、ビンタしてHPが減った後にHP回復ポーションで回復している。
つまり、セツナが止めるまで終わりのないビンタ地獄が始まったわけだ。
「ま、まて!一回話をしよう!」
「絶対やめないからっ!グラムが心から私達に謝るまで、ぜえええええええええええっっったいにね!!」
バッチーーーーーンッッ!!
グアアアー!!
ジャバジャバジャバッ!
バッチーーーーーンッッ!!バッチーーーーーンッッ!!
グエエエー!!
ジャバジャバジャバッ!
バッチーーーーーンッッ!!バッチーーーーーンッッ!!バッチーーーーーンッッ!!
ギヤアアアアアー!!
ジャバジャバジャバッ!
………
……
…
「どうぼ、ずみばぜんでじだああっっ」
あれから、30分程経った。
最初は抵抗したグラムだったが、ついに陥落したようだな。
グラムはもはや、顔が原型を留めていない。
いやぁ、あのポーション、HP回復するけど傷とか治らないやつだからなぁ…。
南無・・・。
と心の中で拝んでおいた。
「これを機に、心を入れ替えなさい!じゃないと・・・」
そういいつつ、腕を振り上げるセツナ。
「ヒ、ヒィぃ!!すびまぜん、いれがえまずぅぅぅっ!」
と、泣きながら懇願するグラム。
完全に心が折れたみたいだな。
いやー、超痛そうだもんな・・・。
「おい、あのグラムさんが泣いているぜ?」
「そりゃそうだろ、あんなのやられたら、俺ならちびっちゃうぜ」
「まぁ、セツナには散々気苦労を負わせたからな、ありゃグラムが悪い」
と仲間からも哀れみを受け、一部からは呆れられていた。
「で、お前達どうするの?」
ずっと、様子を見ていたグラムの仲間達に俺はどうするのか尋ねてみた。
すると、一度お互いを見合わせる。
一呼吸置いて、真剣な顔をしつつ頷いた。
お、どうやら腹を括ったようだ。
「「「全員、貴方に投降します!」」」
と綺麗に声を揃えて言うのだった。
あ、やっぱそうなるよね。
セツナ効果は絶大であった。
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