第302話 グラムという者 ②
そんなわけで、俺達は王様の金で豪遊しまくる事にした。
連日連夜酒場で大騒ぎしまくった。
…一部の連中を除いてだがな。
特に、クソ真面目なセツナは最初こそ付き合ってくれてたが、3日目には呆れた顔をして一緒に行動しなくなった。
どうやら真面目にクエストとか受けているようだな。
どうせ他人の金で飲み食い出来るのに、面白みに欠ける奴だと思ったよ。
それから数か月程した頃、別の勇者が現れたという噂が流れてきた。
その頃から俺らの扱いにも変化が現れる。
今まで豪遊を許されていたのが、出来なくなった。
さらに、ある貴族に嵌められて俺は王国から追放される事に。
「こんな世界でも、俺を騙す奴ばっかりかよ!やってらんねぇっ!!」
出ていくときに、メンバーを全員連れて行く気はなかったのだが、他に頼れるものが無いからと殆どの者が付いてきた。
さらには酒場で知り合ったごろつきまがいの冒険者なども、俺について行くと言ってきたので連れていく事に。
俺なんかを頼ってくる奴がいるのかと驚いたが、何かその時は少しだけ心が濯がれた気がしたのを覚えている。
それからは当てもなく、ただ転々と移動を繰り返し、普通に冒険者として魔獣討伐したり、時には強盗まがいな事をしたりと好き勝手にやった。
王都には入れなくなったが他の町には入れるので、俺以外の名前でクエストを受けさせて適当に金を稼ぎ、その日暮らしをしていたのだ。
ある日、いかにも怪しい奴が俺の元を訪ねてくる。
なんでも、王国追放からずっと探していたのだとか。
北の大陸に、氷の神殿があり、そこには大層なお宝が眠っているのだとか。
また、そこに挑む冒険者も多いので、お宝を手に入れた後もそこを拠点にすればいい収入源になるのだとか。
強盗を勧めてくるとか、頭おかしい奴もいたもんだと思ったが、氷の神殿のお宝には興味がある。
それに暫くまともな対人戦もしていないから、強そうな奴が来たら戦うのはありかもな。
そんな単純な考えて、氷の神殿に挑戦する事に。
ガキどもは外に待機させて、精鋭メンバーだけで中に入り込む。
氷の神殿では精霊達が鬱陶しいけど、俺らの敵じゃない。
槍使いのセツナやニンジャのフウマも、相手から攻撃を受けるまでに倒している。
他のメンバーも難なく倒している感じだと、ここならAランクくらいあれば余裕なんじゃないか?
こんな所の財宝なんて大したことないだろうなと思っていたが、予想は的中してガックリしたぜ。
しかも、神殿の中は既に荒された後だった。
中の様子を見ると、荒されてからそんなに経っている気がしなかったが、専門家なわけでもないし気にしない事にする。
それよりも永久氷晶の欠片が落ちているじゃねーか。
結晶よりも価値は下がるけど、魔法具の素材に使えたはずだからこれはいい値で売れるんだ。
これだけも来た甲斐があったなと、意気揚々と全て持ち帰った。
神殿から出ると外がいきなり吹雪いてきた。
あまりの酷さに、それ以上の行軍が難しくなる。
流石に凍死したくはないし、Bランクしかない奴もいるからな。
無理に進むと奴らが死んじまうだろう。
流石に俺を慕ってついてきた奴らを見殺しにするわけにもいかんし、仕方なしと近くにキャンプを張る。
しかし、これが拙かった。
しばらくすれば収まると思っていた吹雪が収まる気配が無い。
このままだと、凍死以前に食料が足りなくなる。
期待していた冒険者も来ないし、こうなったら強行軍でどこかの街を目指すか?
しかし、地形が分からないからかなり分の悪い賭けになるなと考えていたら…。
「グラム!ランクの高そうな冒険者が神殿に入っていくのを捉えたぞ!」
「マジかよ!さすがフウマ、千里眼の男だな。こうなったら背に腹は代えられん。そいつらを捕らえて、金と食料を奪うぞ!ついでに、近くに村か町が無いかの情報を聞き出すんだ!」
その時はそいつらが俺と同じプレイヤーだとは思わなかったが、すぐに分かった。
まず、この世界には俺らくらいの高ランク冒険者が極端に少ない。
まして、中でもテイマーでそんなランクいくやつを見たことが無かった。
でも嬉しかったぜ。
ネット上でも噂になっていた2人のテイマーのうちのひとり、奇人テイマーユートに会えるなんてよ。
◇
しっかし、参ったよな。
まさか俺よりもランクの低い、しかもテイマーに負けるなんて誰が思うんだよ。
もちろん、見たことも聞いた事もないスキルを使っていたから、ある意味で反則な感じだったけど、それ以上に戦いに慣れていた。
俺なんか生活捨ててやり込んでたのに、それを上回る奴がいるなんてさ。
しかも、誰も殺さないで全員捕らえられちまうとは、もう笑うしかない。
だが助かったぜ。
あのままだったら、全員飢え死にしていた。
このお人好しなら、俺らに飯くらい食わしてくれるだろ!
ついでに、どっかの町に解放してくれたらいう事無いんだが…、流石に甘いか?
いざとなったら謝り倒してなんとかしようと考えていたら、ロペと言う奴が出て来た。
この声、聞いた覚えがあるな。
もしかして、俺を唆してここに来させた張本人じゃないだろうか?と思ったら本人がそれっぽい事を暴露しているな。
将軍にするだの色々と好条件で俺を連れて行くと言っているが、こりゃあんまり信用は出来ないな。
よし、だとしたら一泡吹かせねーとだな。
やられっぱなしは性に合わないんだ。
あいつらを殴ったみたいに、一発位はくれてやらんと気が済まない。
そう心に決めて、ロペの誘いのままついて行く事にした。
セツナも来るとか言い出した時には、ちょっと焦ったがうまい事言い包めて良かったぜ。
あいつは、ああいう真面目な奴はもっと報われた方がいいんだ。
え、惚れているのかって?
そんな事、教えるわけがねーだろ?
さて、ロペについていった俺達は、すぐに魔王とやらに会う事になった。
会って見たら魔王っていうよりも、どっかの研究者みたいな感じだ。
眼鏡をかけてたら完璧だったのになと思ってたら。
「ふむ、僕はメガネが無くても見えるから要らないんだよ?」
と心を読まれて焦ったぜ。
それだけでもヤバイ奴だったが、そもそもステータスがフウマですら看過出来なかったので化け物であるのは間違いなかった。
ひとまずは様子を見て、くれるというチカラを授かってから考えよう、そう思ったのだ。
「これは、僕からのプレゼントだよ。君たちにチカラを授けてくれるだろう。あとはロペのいう事を聞いて良く働いてくれよね?」
そう言って、小さな宝玉のついたネックレスを掛けられた。
その瞬間だった。
視界に靄が掛かる。
それは俺以外の仲間も同じようだった。
そこからの記憶は曖昧だ。
ロペに言われるまま、色々な訓練や作業をされられていたのは覚えている。
おかげで新しい技やスキルを習得したのは良かったのだが、半分自分の意思がない状態で過ごすことになった。
それからどれだけ時間が経ったのか。
ほぼ生ける人形のような生活を送り、いつこの生き地獄が終わるのかと思っていた時だ。
その時、俺達はロペの指示の元魔法陣が描かれた王城の何処かに連れられた。
出ていく際に、『お前の憎き敵、ユートを倒すチャンスをくれてやるから待っているのですよ?』と言う言葉だけを残し。
そして、その日のうちに街中に警鐘が鳴り響く。
あの言葉を聞いてから、なぜか俺の中でユートに対して怨念の様な感情が渦まいていた。
ユートの顔が、あの日俺を嵌めた上司と同僚の顔と重なる。
憎い、憎い、憎い、憎い、憎い、憎い、憎い、憎い、憎い!!
どす黒い感情が、僅かに残っていた自我をも塗り潰していった。
そして、次に意識が戻ったのはさっきだ。
あの呪いのペンダントで強化されて、更に奥の手も出して戦ったのは見ていた。
だが、それでも勝てなかったのかよ。
俺の人生は、俺の存在の意味はなんだったんだ!?
叫びたくても、泣きたくても、もう体が動かない。
自分の体から大量の血が流れているのを感じる。
ああ、これもうダメだ。
そして、こんな俺を助ける奴はいないだろう。
そして、柔らかな女の声が耳に入ってきた。
「あ、主様。この者の命が尽きたようです」
ああ、クソみたいな人生だったなぁ…。
………
……
…
「おいっ、聞こえるか!?」
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