第280話 守星のダンジョンへ

 ちなみに先代の勇者達は、ここの精霊には会えていないのだとか。

 ここに辿り着いてもいないみたいだ。

 『まぁ、来てたとしたら、ここでぽっくり逝ってただろうにゃ』と言ってた。


 いやいや、どんだけなんだよ。

 というより、そもそも勇者ってそこまで弱いのかな?

 なんだかイメージが崩れるなぁ。


 羅針盤を扉の中心にはめて、扉を開く。

 中から異様な雰囲気が溢れてきた。


 俺は『覇王の神眼』で再び中を見渡す。

 このスキルは、単体を見れば相手の詳細を把握できるが、広範囲で見る場合はどんな生き物が潜んでいるかをある程度の強さも含めて確認出来る優れものだ。


 そんな覇王のスキルで見たら恐ろしいことが分かった。

 若干見ない方が良かったかもと思ったくらい、酷かった。


 なるほど、これは勇者が弱いんじゃないな。

 ここの魔物達がマジで強過ぎるんだよ。


 ドラゴンの上位種やら、悪魔系の上位種やらわんさかいるし。

 そして、そいつらに捕食されているのがAランクとかの魔獣だった。


「これはまた…」


「主様、これまでと違い私も余裕がないかもしれません。十分に気を付けて行きましょう」


 カルマが珍しく慎重な態度をとったのに反して、ヘカティアとディアナがそれを無視するかのような発言をした。


「わーい、ここなら暴れても大丈夫そうだね、ディアナ」


「そうですわね、これだけ高ランクのいるダンジョンであれば、かなり遊べそうですね、ヘカティア」


 慎重になるニケを余所に、十分に遊べるとはしゃぐ双子の竜姫。

 両手を繋いで飛び跳ねて喜んでいるぞ…。


 折角やる気満々だし、最初の露払いは双子に任せるのが良さそうだな。

 うん、そうしよう。


「ニケは俺のガード。カルマは双子のサポートに回ってくれ」


「二人を先に行かせるのですか?宜しいですが、深くなるにつれて魔物の強さが上がっていくらしいですから、少しセーブさせましょうか?」


「ああ、それでいいよ。少しスッキリさせてやれ」


「承知」


 とりあえず、前衛部隊の先頭に二人を据えて中に入っていく。

 入るとすぐに獲物に飛びつく肉食獣の如く、魔獣達が襲い掛かってきた。


「ん-、邪魔!」

「お前達では、肩慣らしにもなりませんよ」


 と、いうと襲ってきたフレイムファングを一撃で葬り去った。

 二人同時にというのが、さすが双子と言う感じだ。

 うん、息がぴったり。


 入口に入っただけでこの状態である。

 奥から次々に魔物や魔獣が現れた。


「よーし、いくよー!」


「ええ、では参りましょうか」


 そう言うと、手にもつ大きな槍を振り回してディアナとヘカティアが同時に突っ込んでいく。

 すぐのドゴーンと爆弾も使ったかのような衝撃が起こり、辺りに響き渡る。


 収まったかと思うと、少し遠くからまた轟音が響いてきた。

 そして、またちょっと遠くからも。


「カルマ、二人が飛ばし過ぎな気がするんだが?」


「…そうですね。少し、先行し過ぎな気もしますが、暫くは放っておきましょう。残党を狩りつつカイトやリンの戦闘訓練をしましょうか」


「お、おう。まだ余裕って事か?じゃあ、よろしく頼むな?」


 こうして、ヘカティアとディアナを先行させておきながらもダンジョン内に進んでいくのだった。


 二人のお陰で適度な間引きが出来た。

 カイト達もいい練習になっているようだ。


 しかし、その練習相手がランクSのエルダーリッチやらエンシェントリッチのリッチ系最上位の魔物だったり、ファイヤーバロンという魔将系最上位悪魔だったりと、かなりの高ランク相手に戦っている。


 どれも他のダンジョンのエリアボス並みに強い。

 そんな相手に危なげなく戦えているあたり、カイト達も強くなったようだ。


 どんどんと奥へ潜っていく事2時間。

 交代して休憩しつつも順調に進んできた。


 流石にここまで突っ走ってきたヘカティアとディアナも息を切らしてきた。


「はぁはぁ、もう流石に疲れたよディアナ~」


「そう、ですわ、ね。流石に、はぁはぁ、流石に疲れましたね、ヘカティア」

 

 両手を膝について少ししゃがむ恰好をして、はぁはぁと乱れた息を整えようとしている。

 でも疲れたという割には、『ふう、いい汗かいた』風な笑顔を見せているな。

 うん。まだまだ、余裕はありそうで良かった。


 そんな中、後ろの方からセツナの声が響いてきた。

 まだ戦闘を続けている感じだな。

 そこまで無いと思っていたが、後方部隊のセツナ達も意外と戦闘が多かったようだ。


 普通のドラゴンやらファイヤーリザード等、炎属性を持つ魔獣が多く発生しており、強さもそうだがかなりの数がいるため、前衛が倒し漏れた敵がそのまま後方にいるセツナ達に襲い掛かった。


 さすがにセツナとセリオンだけでは捌ききれない。

 それに戦闘だけに集中してしまっても、ショウタ達メンバーがやられてしまう可能性が高くなる。


 いくらレーナやアーヤが壁役タンクとしてしっかりガードしていても、彼女ら達だけでは抑えきれないだろう。

 それほど、ここのダンジョンは甘くない。


 そのため、大物はレーナとアーヤを壁役タンクとしてしっかりガードさせて抑えつつ、ショウタ、ユウマ、ダイキで剣・弓・魔法で削り、止めをセツナが刺す形にしたみたいだ。

 これならセツナが指揮をしつつ、確実に倒していける。

 そのうえ、格上との戦闘になるのでレーナ達もスキルの熟練度が格段に上がっていく寸法である。


 ここから出てくる頃には、Sランクも夢じゃないだろう。

 いや、このペースで戦うなら確実にいけるな。


 ここには上位種ばかりいるから、帰りに余裕があったらタイマンさせてしまってもいいかもしれない。

 (ランクアップクエストは、条件を満たした状態であれば達成扱いになる事があるのだ)


本拠地に戻った時の成長が楽しみだと、ひとり胸を弾ませる俺であった。

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