第270話 やっぱりコメが一番

「やっと終わりましたね主様。これでやっと遺跡に向えます」


「いや、ラーザイアの案内がないとたどり着けないらしいからな。行くのは明日になるだろう」


「そういえば、そうでしたね。昔はそんなこと無かったと、記録にありますが…、何が起きているんでしょうか」


「獣王ラーザイアの話を聞けば分かるかもしれないですね」


 そこで辺りを巡回に出ていたカルマが帰ってきた。


「カルマか、ご苦労さま。何か発見出来たか?」


 変な動きをしていないか、念のため町の周りを巡回してもらっていた。

 兵と武具が無事に返ってきたので、相手を裏切るなんて魔王なら常套手段といえる。


 称号とはいえ、魔王を名乗っている以上警戒するに越したことは無いはずだ。


「一応気配を完全に隠ぺいして飛び回ったんですが、兵を動かす気配はなかったですね。それどころか、獣王ラーザイアが明日我らを案内するのに、単身で行こうとしているらしく、必死に止める家臣たちの様子が伺えました。中々の問題児のようですな、あの獣王は」


「なるほど、見たまんまのヤツなんだな…。こちらとしては、分かりやすくていいけどね」


 今のところはこちらの心配している事はなさそうだ。

 そう安心して、ホテルに帰ってみたら。


「よおっ!遅かったじゃねーか。うちの連中はとっくに戻って来ていたぜ?」

 

 当の本人がホテルのロビーで待っていた。


 って、いやいや、家臣に止められなかったのかよ!


 曲がりなりにも他国の冒険者だぞ?

 自国の町のホテルとはいえ、単身で来たのか?


「ユート、すまんな。殿下がどうしても行くと聞かなくてね」


 一緒にレオナルド将軍が来ていた。

 なるほど、レオナルドもなかなか苦労が絶えないらしいな。


「普段なら俺が来ることはないんだが、他の連中は今回の件で忙しいからな。俺がお前たちの監視役を仰せつかっているのもあって、一緒に来たんだ」


「そう言えば、そんな事になってたんだったな。もうすぐ夜だっていうのにご苦労様だよ」


「はっは。この国で一番強い俺が襲われること自体あり得ないんだが、家臣どもが煩いんだ。折角だ、一杯やろうぜ?」


「人間の王様と違って、ラーザイアは自由気ままだなぁ。これから夕食なんだ、酒は飯の後にしよう」


 そう言って、ラーザイア含めてユニオンメンバーと一緒に夕飯にすることにした。

 それならと、レオナルドも一緒に席に着いた。


 なんでも、レオナルドですら滅多に泊まる事が出来ないホテルらしく、ここで夕食を食べたいと思っていたと、食べている途中で白状した。


 将軍クラスが滅多に泊まれないって、さすが王族御用達のホテルだ。

 どおりでご飯が美味しいはずだ。


 カイトやセツナは、最初こそ緊張した面持ちでいたが、俺とラーザイアが気軽に話をするのを見て安心したのか、途中から気にせずに普通に食事を楽しんでいた。


 ちなみに今日は、高級鳥であるコウテイダックという鳥の皮をパリパリに揚げたものに、挽肉と麹味噌を和えたものを塗りを蒸かしたパンにはさめて食べると言う、まるで北京ダックみたいな料理だ。

 その他、ロブスターみたいなエビとか、タラバみたいな蟹をチリソースみたいに辛みのあるソースで炒めたものが出てきた。


 そして、なんとチャーハンが出てきた!

 名前は違うみたいだが、どう見てもチャーハン。

 味もまさにって感じだ。

 こっちでこれを食べれるとは思ってもいなかった。


 何気に高級肉で造られたチャーシューに、卵も入ってて、ブラックスパイスとバターがふんだんに使われているようだ。


「これは…、コメですか?コメの炒め物は初めて食べるわ」


「アリア様もですか?私は、コメ自体あまり食べた事がないですが…」


 アリアとサナティにとっては、コメ自体があまり馴染みがないようだ。

 しかし、一口それを食べると…。


「これは…!こんなに美味しく食べれるものなのね!」


「うわぁ…、なんて芳醇な味なんでしょうか。とても美味しいですね!」


 興奮するくらい気に入ったようだ。

 そんな中、LBO組はというと…。


「うおおおっ!超久々に食べたぞ!やっぱうめーなチャーハン!」


「やっぱ、お米ですよね!ブラックスパイスっていうんでしたっけ?まさに胡椒ですよね。これがあると無いとでは…、とにかく美味しい!」


「うん、久々に食べると美味しいものですね、ユート殿について来て良かった…」


 とやはり好評だ。

 俺も同意見なので、何も文句はない。

 セツナに至っては、目に涙を浮かべてすらいる。


「パパ~、美味しいねチャーハン」


 リンもご満悦だ。

 満面の笑みで、かみしめながら食べている。

 うんうん、いっぱいお食べなさい。


 シュウやショウタ、ユウマ、ダイキなんかは、喋る暇もないと言うくらい掻っ込むように食べていた。

 さすが育ち盛りの子供たちは食欲旺盛だ。

 しかしこれだけ食べてもホテル側がどんどん追加していくので、食卓から食べ物の減る様子がないのが驚きだが。


 レーナとアーヤは、さすがお嬢様学校に通っていただけあり、お行儀良く食べている。

 しかし喜びが顔に出てしまっていて、見ているとちょっと和む。


 ちなみにアイナとミラ、ザイン、ダンも似たような感じである。

 大人ぶっているが、顔には出ているよ君たち?


 ここにメイドはメイアしか来ていない。

 ホテルの従業員がしっかりやってくれているので必要が無いのと、ウラノス船員たちの面倒や、運行するための魔力供給を手伝ったり、俺らが不在の間に掃除をしたりと相変わらずしっかりと働いてくれている。


 ほんといつも感謝しかないよ。

 帰りに甘いものでも差し入れてあげよう。

 (進化してからも食事は必要ないらしいけど、食べる事はちゃんと出来るようになっている)


 カルマやニケもウラノスに寝泊まりしている。

 理由はメイド達と一緒でウラノスの運行の為と、魔王軍の監視のためだ。

 ラーザイアは襲ってこないだろうが、他の連中がどう出るかは分からないし、他の魔王軍がやってくるとも限らない。


 ウラノスは世界に一つしかないので、万が一にも墜とされるわけにはいかないのだ。


 マリエルも船に残っているので、ホテルで飯を作って貰って持って帰るとガントが言っていた。

 なのでガントもここには泊まらないで船に帰るらしい。


 一緒に来ればよかったのにと言ったら、『そりゃお前たちが居ない方が夫婦仲良く出来るだろ?』と返された。

 くそう、惚気かよ。


 いっぽう仲間ペット達も町には入れないので、飛行艇ウラノスの専用部屋でのんびりしていた。

 一部を除いては…。


「ちょっと!これは私のよ!貴女のほうが後から配下になったのだから、少しは遠慮しなさいよ!」


「妾は好きな時に、好きなものを食べるのじゃ。お主の指図はうけぬよ」


「ヘカティア、ニクス、マスターが呆れた目でこちらを見ていますよ…」


「こんな事で、主殿は怒ったりはしないのじゃ。のう?主殿」


 そう、ヘカティアとディアナ、そして久々に人型になって自由にしているニクスだ。

 元々潜入させる予定ではあったが、それが無くなったので留守番にしようとしたら、『妾だって、たまには外で羽を伸ばしたいのじゃ!あ、今のは本当の羽を伸ばすって意味ではないぞ?』と鬱陶しいことを宣ったので、めんどくさいから連れてきた。


 暴れたりはしないが今まで放っておいた分、わがままなヤツになっていた。

 見た目はニケに引けを取らない大人の美女という感じなのだが、性格がどうもね。


 ニケが淑女系の女神のような美女であるなら、ニクスは女王様という言葉が似合いそうなタイプの美女だ。

 同じ露出が多い服装でも、ニケは神秘的に見えるのにニクスの場合は官能的に見える。


 中身が違うだけでかなり印象が変わるんだなと、再認識させられたよ。


 ただ、戦力的にはこの3人がいるだけでかなり安心だ。 

 力を解放すればSS《ダブルエス》クラスの戦力なので、ここにいる獣王ラーザイア以外に負けそうな相手は居ない。


「はっはっは、お前の所は賑やかで良いな。少し羨ましいよ。して、お前が異常なのか?それとも人間達はいつのまにか強くなったのか?」


 俺の仲間たちが騒いでいるのを愉快そうに眺めていたのに、急に真顔になってよく分からない事を聞いてくるラーザイア。


「んん?一体何のことだ?」


 そして、次の言葉でラーザイアの言わんとすることが理解出来たのであった。

 


  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る