第271話 もう一人の魔王

「いやいや、そこの魔族達は俺の配下の将軍クラスと同等だぞ?それに、他の人間達もかなりの強者揃いだ。基礎ステータスがこちらが上だとはいえ、そこの5人とかはうちの隊長クラスでは歯が立たないだろうし、そっちの女騎士はレオナルドと同等だぞ?お前達が異常なだけか?」


「ああ、そういう意味で言ってたのか。まぁ、ここにいるのは俺のユニオンの最高戦力でもあるからな、人間の中でも最高峰だと思うぞ」


 心の中で、裏切ったグラム達は別としてな、と呟く。


「なるほどな。お前達みたいなのが今の人間領に沢山いたら、あの大魔王は戦争を始めそうだからな…。ちょっとだけ安心したぜ」


「まぁ、だからと言って極端に弱いわけでもないぞ?変な気は起こさないでくれよな」


「大丈夫さ、お前が生きている間はわざわざそっちの領土に踏み入れる気はないぜ?…俺はな」


「そう言ってくれると助かるよ。俺は戦争とかしたくないからな」


「だろうな!お人好しの顔をしているもんな!」


「それ…、絶対褒めてないだろ!」


 はっはっはと笑いながら、きつめの酒を一気に煽って誤魔化すラーザイア。

 こうやって話をすると、悪い奴ではないんだよなぁ。

 

 でも、これでも魔王の一人なわけで油断は出来ない。


「今日、俺が来たのは飯を食いに来ただけじゃないのは分かっているな?」


「ああ、そうだろうよ。明日、行けるのか?」


「そう、明日は霧が薄くなる日だ。行くなら一番いいタイミングだろう。お前は運がいいよ」


 理由を今度はレオナルドが説明してくれた。

 なんでも暗黒の森に入れるのは、月に1~2回くらいだそうだ。


 理由は、黒い霧が濃くて視界が遮られてしまい碌に探索出来ないらしい。

 そのため、霧が薄くなる日を狙っていくんだそうだ。

  

 前に薄くなったのは半月ほど前だったみたいで、そろそととは思っていたみたいだ。

 それがまさか明日になるとは思ってもいなかったみたい。


「霧の動きを常に監視することで、霧が晴れる日が分かるんです」


「なるほど、俺らは霧を監視する者達に発見されてレオナルド達に襲われたんだな」


「その件は…面目ない」


 俺とラーザイアに向って謝るレオナルド。

 色々と思う所はあるだろうけど、結果が全てだ。


 ただ、お互い事故のようなものなので、実質被害はないからもう気にしてないけどね。

 結果、ラーザイアと友好を結べそうだし、結果オーライだろう。


 決闘はかなりシンドかったけどね…。


「そこはもう終わった事だし、これからの話を進めよう」


「そうだぞ!いつまでも負けを引き摺って、これから足引っ張るようなら解雇すっからなっ!」


「陛下には御迷惑おかけして申し訳ないです。これからはもっと精進しますよ」


「お前はくそ真面目だからなぁ。そんなんだから、他の奴らに付け込まれるんだ。だいたいお前は…」


 という感じで、レオナルドに小言を言い出すラーザイア。

 意外と細かい所もあるんだな。


 しかし、思った以上に二人の信頼関係は深いようだ。

 あっさり身代金を出したのも、それがレオナルドだったからなのかもしれないな。


「でだ、明日は朝から暗黒の森に向かう。入ったらノームから加護を貰うまでは出ないからな。そのつもりで準備しろよ?」


「分かった。因みに一緒に神殿入るのか?」


「まさかだよ。あそこには、呼ばれた者しか入れない。今回はお前と選ばれた仲間しか入れないだろうよ」


「なるほど…、他と少し違うんだな」


「ノームはかなり気難しいからな。機嫌損ねて失敗するなよ?次のチャンスはいつか分からないからな」


 そういうラーザイアは過去に2度入ったらしく、一回目は喧嘩になり追い出されたという。

 なんでも、口煩い事を抜かすから力づくで従わせようとして失敗し、強制排除されたという。

 なんともラーザイアらしい理由だ。


 因みに、二度目はレオナルドと一緒に入ったらので、なんとか穏便に済んだのだとか。

 やはりレオナルドは苦労人らしいな。

 

 話をよく聞くと実はレオナルドとは小さい頃からの付き合いで、歳もそんなに違わないみたいだ。

 ようは幼馴染みたいなものらしい。

 という事は、レオナルドも俺の何倍も生きている事になるな。


「ここ数年、おかしな奴が次々に現れるな。こりゃあ、そろそろ波乱がありそうだ」


「俺ら以外にも、ラーザイアから見て不思議な奴がいたのか?」


 今までの人間からしたら、俺も相当異質な部類に入る事は自覚している。

 そもそも異世界から来ているし。

 魂だけなんどけど。


 他にも同じように来ている者達が多数いる事は分かっているが、魔族側でも同じ事が起こっていても不思議はない。


 もしかしたらと、詳しく聞いてみることにした。

 するとラーザイアが意外な事を口にした。


「そうだなぁ。さっき言ってたおかしな奴の一人に、最近魔王になったクロが筆頭だな。アイツは異常だ」


「魔王のクロ?そいつはどんな風に異常なんだ?」


「獣人の中で最下級種族である猫妖精族ケットシーから成りあがってきた魔王でな、いくら元王宮魔導士が育てたとはいえ、強すぎるんだよ。なんせ…、俺と互角にやり合えるからな」


「はぁ!?ラーザイアと互角って…」


 つか、魔王が結託して人間領攻めたら一瞬で滅亡するだろ?!

 魔王ってみんなこんなに強いやつばかりなのかな。

 俺一人じゃどうにもならない話だぞ。


「これでも俺は百年以上生きているのに、あいつはまだ生まれて数年だという。その割に理解度が早いし、チカラが強すぎる。たまに訳の分からんことも言うし…」


「ん?なんか話を聞いていると、結構会ってたりするのか?」


「ああ、アイツとはワケあって今じゃ同盟を結んでいるからな。それなりに交流がある。というか、お前達も会った事あるんじゃないか?」


「へ?いや、魔王なんてあった事無いぞ?ラーザイアが初めて…、いや一人だけあった事があるわ。名前はクロじゃなくてクロノスだったけど」


「!ああ、すまんすまん。そいつの名前は魔王クロノス。周りがクロって仇名で呼ぶからつい癖でな」


「あの意味不明な魔王と同盟結んでいるとか、大変そうだな。というかアイツ本当に魔王だったのか…」


「はははっ!そう、あいつは意味不明な点が多いからな。分かってくれる奴がいて嬉しいぜ!」


 あの魔王クロノスにはリンとクロ(うちのペットの方)を助けて貰った借りがある。

 でも、なぜあそこに現れてしかも人間である俺らの手助けをしたのか。

 それに、俺を『覇王』だと認識していた。


 もし次に会う機会があれば、色々と聞きたい相手ではあるな。


「まぁ、お前が『覇王』である以上は、また近いうちに会う事になるだろうさ。俺も同じ理由でお前を待っていたからな」


 ラーザイアが俺の事を待っていた?

 なんとも予想していない方に話が流れているのだった。

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