第269話 身代金支払いと兵装の返却

 獣王ラーザイアとの謁見というか、決闘が終わり俺らはサーバンに戻ってきた。


 そこで待っていたメンバー達とも合流し、指定された宿へ来た。


 来てみてびっくりしたよ。

 趣こそ全く違うけど、南大陸の町カルデリアにあった"ホムラ亭"を思い浮かべるような貴族御用達のホテルであった。


 周りとのゴタゴタを抑えるため貸切になっているらしく、俺達の他に宿泊客はいなかった。


 明日は、この宿で賠償金の支払いの手続きをして、兵士の武器防具やファルコニアの引き渡しなどをする。

 既に飛行艇ウラノスに残っているガント達には通達してあり、明日の為に準備をしてくれている。


 今現在ファルコニア達はニケの支配下にあるらしく、かなり面倒な事になった。

 獣王ラーザイア軍の資産でもある彼らを返却しないといけないのだが、なんせ100頭もいる。

 そ引き渡しだけでも一日が終わるんじゃないかと思うと、ちょっとげんなりした。


 試しに、このままもらったらダメ?って聞いたら、生きたまま譲渡するくらいなら全て処分して素材にすると言われ、さすがに可哀そうなので止めておいた。


 ただニケがこそっと教えてくれたが、一度でもニケの支配下に入ったファルコニアは、再譲渡しても支配下に入ったままらしく、もう俺らを攻撃する事が出来ないみたいだ。


 なので、そのほうが後々都合がいいかも知れませんよと言われた。

 その方が食費もいらないですし、とも。

 確かに莫大な食費が掛かるのを忘れていた。

 いきなり100頭ものファルコニア抱えたら、食費だけで破産しそうだわ。


 まぁ、明日の事は明日考えよう。

 今日は、流石に疲れたらからな。


 しかし、せっかくアリアを連れて行ったのに、最初から決闘とか言われたら意味がないよな。

 もう少し、交渉をさせてくれても良かったけど。


 一応勝負には勝ったからいいけど、あれで認めらせることが出来ていなかったらかなり面倒な事になってただろうな。

 ぶっちゃけ二度とやりたくないわ、あれは。


 ───


 その日の晩ご飯は、そのホテルの食堂で振舞われた。


 獣人の国というから、さぞ肉ばかりなんだろうと思ったらそうでもなかった。

 東大陸は穀物や野菜を特産にしている地域が多いらしく、その種類も豊富らしい。

 なので普通にコメのリゾットと、色んな種類の野菜のサラダとか、炒め物に、魚の煮付に…と様々な物が出てきた。


 養鶏や酪農、めん羊なども盛んなようで、人間領よりも食事事情は良さそうだった。

 どれも魔獣らしいので、獣人のように強くないと逆に襲われるみたいだけどな…。

 (卵もダチョウの卵くらい大きいらしいので、大量に使えるのだとか)


 そして、暗黒の森にはブラックハーブやブラックスパイスと言われるものが多数生息しているらしく、香辛料が普通に流通している。


 もちろん安くは無いらしいが、それでも庶民でも買えるという事だった。


 更にワインや蒸留酒もあるので、ビネガー(日本で言うと果物酢)があるらしい。

 さらに海にも面しているので塩も潤沢にあり、思った以上に食文化が発達していた。


 おかげでドレッシングも、馴染み深い味になっている。


 考えたら、酢と卵と塩があるという事は…、マヨネーズあるんじゃない?!とか思ったけど、そのようなものは無いと言う事だった。

 うーん、残念。


 今度各種材料買いこんでルガーに作って貰おう。

 マヨネーズがあるだけで料理の幅がかなり広がるのだし。


 ビーフシチューや、パスタ、ハンバーグ(挽肉の包み焼とか言っていた)、ミネストローネ風のスープ等々、地球の洋食ではおなじみのものが多数出てきたのは驚いた。


 コメで作った酒もあるらしく、かなり種類も豊富だ。

 明日にでも町に出たら、ガントとセツナに買っていってやろう。

 あ、サナティも呑むかな?


 一通り堪能し、浴槽はないが、スチームサウナみたいな所で汗を流し、清水で体を綺麗にしてからベッドに潜り込んだ。


 夜は流石に疲れたのか、皆すぐにベッドに潜り込んだ。

 かくいう俺も、ベッドにダイブするかのように飛び込み、そのまますぐ意識を失ったくらいだ。


 はぁ、早く普通のダンジョンでまったり狩りでもしたいよ。

 最近の戦闘ハード過ぎる気がする。


 暗黒の森に入ったら、テイマーらしく仲間ペット達に任せよう。

 うん、そうしよう。


 

 翌日、朝からコワン大臣が大勢の部下を引き連れてホテルの大広間にやって来た。

 通常はここでパーティーなどが行われるようであるが、今日は捕虜の受け渡しおよび身代金の支払い手続きの為に使われる。


 ちなみに大勢の部下と言っても、すべてが文官なので武装などはしていない。

 もししていたら、下手したらもう一度戦闘する羽目になるかもしれない。


 カルマの見立てでも、文官たちの戦闘力はそれぞれD~Cランク相当くらいだという。

 俺が数人みても同じような結果だった。


 ちなみにコワン大臣が一番強い。

 文官のTOPなのに何気にAランクオーバーという感じだ。


「コワン大臣は、文官なのにお強いんですね」


「はっはっは、それは世辞ですか?だとしたらやめてください。ここでは嫌味になるんですぞ。あなた方には、私より弱い者などいないではないですか」


「そんなつもりじゃないけど、文官なのに人間の下手な冒険者より強いんで、びっくりしました」


「人間と一緒にしないでくださいよ。いや、馬鹿にしているんじゃないですよ?ただ、種族が獣人というだけでステータスに恩恵を受けますので、それが当たり前なのです」


 コワン大臣は、若いころは当然武官を目指して励んでいたらしいが、才能が伸びずに願いは叶わなかったらしい。

 だが、それでもラーザイアの役に立つために、血の滲む努力をして今の地位まで登り詰めた苦労人だという事だった。


「私めの話はこれくらいにして、手続きに入りましょう。まずはここに───」



 それから2時間くらい書類と格闘し、なんとか調印まで済ませた。

 細かい事は割愛するが、アリアがいてくれて本当に助かったとだけ言っておこう。


 終わってからすぐに町の外へ向かう。

 何をするかと言うと、今度は預かっている兵装の返却だ。


 先ほどの調印で、身代金およびこちらが預かってる兵装の買取金額を合意したので兵士は解放した。

(と言っても、兵士たちは町で待機していただけであるが)


 そして今度は、ウラノスを町の近くまで呼び寄せてゲンブの中にしまってあった兵装を取り出して渡す。


「ほう、そちらも霊亀をお持ちなのですか。人間では珍しいですな」


「ええ、昔このイーガス大陸のある山脈で出会って、その時に手懐けたんです。最初はもっと小さかったんですが、育って結構大きくなりましたよ」


 ちなみに今のゲンブは、地球の軽自動車くらいのサイズだ。

 そんな大きさの亀が、やや宙にプカプカ浮いてやってきた。


 背中のカーゴからガントが出てきてどんどん武器や防具などの兵装を出していく。

 そとに控えた兵士たちがそれを受け取っていった。


 流石にどれが誰のかなどをここでやっていると、1日使っても終わらないと思われるので、自陣に帰ってから仕分けしてもらう事になった。

 今はリレー作業で相手のカーゴにひたすら詰め込む作業をしている。


 それだけの作業でも、終わるころには夕方近くになっていた。


「うはぁー!疲れたぁぁぁ!!」


 ずっと受け渡し作業をしていたガントは、思わず吐きだす様に呻いた。


「お疲れさん。これで終わりだな。あとは帰るまでに証書をお金に換えればいいだけだ」


 コワン大臣は、すべての受け渡しを完了すると、受領書に証印して俺に渡した。


「ご協力感謝します!これで、すべての引き渡し作業は終了となります。いやはや、一時はどうなる事かと思いましたが、あなた方が物分かりの良い方たちで良かったです。これからは、良い取引相手になる事を願っております」


「それは、こちらこそです。今度会う時は、そういう話が出来る事を願っています」


 それを聞き、ひとつ頷くと『では、これで』と言って、兵士たちを引き連れて帰っていった。

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