第261話 東の大地へ、再び

 襲撃してきたロペを難なく撃退し、ヒョウ達の元を離れたユート達はすぐに東大陸に向かった。


 目的地は東の大地【イーガス】の、大陸中心地にある”暗黒の森”という場所。


 時間があればアーカニアの村や、リザードマンの集落に寄ってい行きたいが、先に用事を終わらせてからにしようという事になった。


 それはそうと、空の旅は相変わらず順調だよ。


 数体のエルダードラゴンと遭遇したけど、へカティアとディアナが危ないよ〜って話しかけたら、暫く周りを護衛してくれた。


 知能が高く、彼女らの祖父の支配下にある種族は襲ってこないのだという。


 逆に若くて知性がまだ低いと無謀にも襲ってくるので、その時はお肉に変わるだけと言っていたが。

 同族への同情より、食欲の方が勝っているようだ。

 (とは言っても、ドラゴンと言っても多種多様なので、同族と言えるのは一部だけらしい)


 そんな訳で、勝手に護衛がついたおかげで余計な邪魔が入らずに済んだ。

 順調なのは、空の旅だけだった。

 困った事に、現地に着くと森全体が黒い霧に包まれていて、中に入る事はかなり危険だと判断した為断念する事になった。


 進めないわけでは無いが、無理をして墜落でもしたら大変な事になる。

 同じ物を建造するには、今度は材料集めからしないといけないので一ヶ月は掛かるだろう。


 しかも、手伝ってくれる船大工がいてやっとそのくらいだという。


「これだけ視界が悪いと、何が起こるか分からないし仕方無いか」


「ああ、こんなとこで墜落でもしたら帰れないぜ?手前にある平野に停泊しようぜ」


 ガントの言う事ももっともなので、素直に飛行艇ウラノスを下ろした。


 あたりは草原で長閑な風景だ。

 目の前にこの暗黒の霧が立ち込めて居なければだが。


 隠れる場所が無いせいで凶悪な魔物も生息しておらず、草食の野生動物がいるくらいだ。

 それを狙う肉食獣くらいはいるだろうが、俺らにとっては脅威にならないし、彼らは基本臆病なのでわざわざこんな大きな建造物に近付こうとはしない。


「ここからチームを組んで、中を探索するしかないですね」


「そうだな。しかし、魔物がいないとはいえ、ここも魔族領だ。近くに町もあったはずだし、ウラノスの護衛は必要だな」


 カイトと方針を決めるため話をしていると一人の女性が近づいてきた。


「今回は私が付いていこう。護衛にはカイト達に任せたい」


「セツナか。やはり中は危険か?」


「そうだろうな。LBOの時はあの森にはSランクの魔獣が出たはず。同じくらいの難易度だと想定した方がいいと思う」


 何を隠そう、LBOの時はこの森にはニケの同族であるファルコニアが普通に出てきた。

 勿論エリアボスでは無いので劣化版となるが、それでも十分な脅威度の魔獣だ。

 しかもそれが複数出るのだから、生半可な戦力で行くと痛い目に合うのだ。


 俺も前に来たことがあるが、育っていないニケと同格だったので回復しないとやられそうになったくらい強い。

 危なくなって逃げた事もあるくらいだ。


 うーん、そうなるとメンバーは決まってくるか…。


 俺と聖女3人は行かないといけないから、それ以外だとセツナとセリオンのコンビ。

 それにカルマ、ニケ、ディアナ、へカティアとなる。


 ピューイも今回は危険なのでお留守番とし、代わりにクロを連れて行くことにした。


 クロはフェンリルに進化したおかげで、Sランク魔獣になっていた。

 カルマと同じく姿を変えることが出来て、普段は前の姿でいる事が多い。


 カルマ曰く、『コツさえ掴めば出来て当然だ』と言う事らしい。

 未だにカルマとクロの主従関係は変わらないみたいで、逆らう事は叶わないようだ。


 残るメンバーで、ウラノスの護衛と周辺の調査ということになった。

 近くの町にもメイアが探りを入れることにしている。


 なにせ、今の彼女は鬼族扱いなので魔族である住民に俺等よりは警戒されにくい。

 勿論、万が一敵意を向けられるようなら、直ぐに逃げろと伝えている。

 場合によっては、俺らを置いてウラノスを浮上させて良いとも付け加えた。


 まぁ、こっちは飛べる奴が多いから問題ないとの判断だ。

 

 勿論一人では行かせない。

 護衛にはニクスをつける事にした。


 ニクスも人化する事が出来るので、二人でいても違和感は無いはず。


 いざとなれば、フェニックスに戻りメイアを乗せて飛んで帰ってこれるし、戦闘になってもそこらの魔族では敵わないくらい強いので心配は無いはずだ。


 やり過ぎると町が燃えて無くなるので、町中では暴れないように釘を刺しておいた。

 冗談抜きで町が消失するからな…。


 その日は段取りだけ決めて船内で一日を過ごし、明日の朝から各自行動する事にした。


 特に夜に何かがやってくるでもなく、朝まで平和に過ごす事が出来た。

 流石に船の中にお風呂を作る事が出来ないので、入る事が出来ないのだけど、なんとシャワー室を取り付ける事が出来たらしい。


 これも魔力でお湯を作る仕組みは一緒で、寒い冬でも暖かいシャワーを浴びれるので、とっても快適だ。

 流石にスペースの兼ね合いもあり、3基しか付けれなかったがそれでも十分だった。


 シャワー中はお世話兼、防犯の為メイアが付き添っているので良からぬ事を考える奴は居なかった。

 万が一そんな事をしたら、本当の意味で命を賭ける事になるだろう。


 翌朝、朝食を取るために食堂に来るとデッキの方が騒がしい。

 何やら船員が慌てているようだ。


「どうした?何かあったか?」


「あっ、ユート様!大変です、魔族の大群がこちらに押し寄せてきています」


「はあっ!?なんだって」


 船員が使っていた単眼の望遠鏡を借りると、確かに遠くの方から地平線一杯の魔族らしき大群がやって来ている。


「急いでウラノスを浮上させる。警鐘を鳴らせ!」


「畏まりました!」


 船員は慌てて緊急用の警鐘を鳴らした。


 まだ部屋にいるメンバーもいたので、緊急事態だと知らせる為だ。


 俺は急いで操舵室に向かった。

 そこにはカルマが既に来ていて、ウラノスの浮上をさせるところだった。


「主よ、朝から騒がしいことになったな」


「ああ、なんだってあんな大軍が来たんだ?」


「見知らぬ飛行物体が急に平原に現れたので、新種のドラゴンでも来たのかと討伐部隊でも寄こしたんでしょう」


「そんなバカな。いくらなんでも、先に斥候を送るだろう?」


「きっと、居たんでしょうな。しかし、我も気が付かせないとは中々腕のいい斥候のようです。用心したほうがいいでしょう。…が、送ってきた戦力は数ばかりで大したことは無い。主の僕である我らが少し暴れてくるのがいいでしょう」


「お前達だけで?確かに、広範囲の攻撃も得意だろうが…。あまり殺すなよ?勘違いしているだけなら、穏便に済ませたい」


「心得てます。我とニケ、ディアナにヘカティア、それにクロで出ます。クロも少し体を慣らした方がいいでしょうし」


「分かった、無理はするなよ?」


「ふふ、心配不要です。では、ウラノスの操縦は任せました。我らは向かい討ちます」


「ああ、頼んだぞ」


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