第260話 道化師《ピエロ》
ロペは相手の素のステータスを確認するスキルを持っているようだが、スキルで上がっている状態までは見抜けないようだ。
おかげでこちらの事を弱いと認識したまま混乱している。
ここまでなれば、脅威なのはこのロペだけ。
ならば、俺がこいつの相手をするだけだ。
「そこの道化師。俺が相手だ!〈
双剣にオーラを纏わせ、高速で近づいてから切り付ける。
俺の攻撃に合わせて、ロペは手に持つ大きな杖でそれを防いだ。
「ぐううっ、ニンゲン風情が!私に勝てると思うなよ?!〈
力なきものが聞けばその場で力尽きる程の呪詛が込められた咆哮を上げて死へを誘うロペ。
効果は絶大で、仲間である他の魔族がその場でバタバタと倒れる。
「味方を巻き込んで使うとか最悪だな!『覇王の盾』発動!」
俺はすぐにスキルを発動し、すべての状態異常を無効化する。
衝撃波によるダメージは若干食らうが、それもすぐにアークヒールで回復する。
「なんと、この距離で効かないのか?くっ…厄介ですね。しかし、こちらが本命ですよ…〈
たった今、絶命した部下達をアンデット兵として蘇らせるロペ。
自分の前に壁として配置させる。
「これを使うと、蘇生出来なくなるのでかなりの痛手ですが、お前さえ倒せれば問題ないでしょう」
「お前は本当に最悪だな。自国の兵士の命すら物としか見てないのか?」
「私は主に利益をもたらす為であれば何でもしますよ。それがわが軍の鋭兵の命を使うものだとしてもね」
しかし、残念ながらその効果は絶大だ。
既に死んでいるので恐怖心も躊躇いもないので、すべてを顧みずにこちらに特攻してくる。
「くう、これでは前に進めないか!」
アンデットとはいえ、一撃一撃が全力なので当たれば俺とて只では済まない。
だが、こちらも手を拱いているだけではないよロペさんよ。
「カルマ、この者達の魂を抜き取れ!」
「承知!」
後方の雑魚たちの殆どを、既に戦闘不能にしていたカルマが俺の傍に戻って来た。
俺の号令と共にスキルを発動する。
「地に還れ。 〈
グアッと開けた口に、死霊の戦士達から吸い出された魂がどんどん吸い込まれていく。
吸われた戦士たちは、その場にパタリ、パタリと倒れていった。
仮初であれ、魂が無ければ死体を動かすことは出来ない。
もはやこの者達はこの世に戻ってくることも出来ないのだ。
「恨むならお前たちの主を恨めよ…。さあ、ロペよ。次はお前の番だぞ?」
気が付くと、ロペの周りには誰もいなかった。
殆どの魔族兵は戦闘不能に陥っており、ロペの周りで絶命しアンデット化させられた者達も既に魂が尽きて灰と化した。
「な、な、な。まさかこんな事が!?い、いえまだ私は負けたわけじゃありませんですよ」
段々と支離滅裂な言動になってきているロペ。
その一挙一動に気を付けつつ、その行動を見守る。
この道化師だけは油断出来ないからだ。
そう思っていたのに…。
ロペがいきなりぽわんと煙となって消えた。
「は?」
正確には、黒い道化師の服だけ残し中身が煙と消えてしまったのだ。
『クックック…。ここまで追い詰められるとは予想外でした。さすがに分が悪いのでここは退かせてもらいますよ』
まるで山彦のように遠くからロペの声がそう言うと、アンデット化した約100名以外は魔法陣に包まれて消えていった。
「こんなスキルがあるのか?」
「多分ですが、強制転移の魔道具でしょうな。しかし、この規模で使えるとはさすが呪術師の魔王の部下だけはありますね」
カルマが感心半分、呆れ半分な調子でそう言うと、とりあえず100名分の武具は回収しましょうという事で、すべて回収してから飛行艇に戻った。
「そんな事があったんですね」
「ああ、流石に俺達だけで深追いするのは良くないし、そもそもこっちは奴らに用事はないからな」
戻ってからカイトと今日あった事を話した。
ロペの戦闘力はそこそこだが、変なスキルを持っているので気を付けた方がいいだろう。
予想では魔道具を全員の服に仕込んであるみたいで、魔力が残っていれば指揮官であるロペが発動すれば指定の場所へ転移するのだろうという事だった。
但し、ロペだけは煙を残して消えたという事もあり、何かしらの転移系のスキルを持っているのかもしれないという事だった。
前回現れた時も急に出てきたし、しばらく警戒を怠らないようにしようという結論だった。
「不利になったら迷わず逃げるとか、プライドも何もない奴だな!」
とセツナは怒っていたが、誰でも死ぬのは嫌なので間違った行動ではない。
ただ、ムカつく相手という所は同意だけど。
「しかし、神出鬼没とはアイツの事を言うんだろうな。次に会ったら、逃げる前に仕留めないとだな」
「どっちかと言うと、二度と来ないでくれと思うけど」
「「確かに!」」
戦う事にメリットが無い相手なので、出来れば来ないで欲しい。
しばらくは放っておいても、水の神殿には侵入出来ないだろうし、イグニスも監視を強めると言っていたので、また依り代が壊されることも無いだろうし。
「ひとまずは、先に東大陸に向おう。今の所、鬱陶しい以外に実害は無いしロペとカーズは放置で。今まともにやり合うとこちらの体力を削がれるだけだ。無視しよう」
俺の言葉にみな、頷いていた。
放っておいてもああいうタイプは向こうからやってくるだろう。
それまでは放置する方針で纏まった。
俺らが留守にしている間に、仕留めておいてくれたスノーシープを雪人族の村長に納品して、東大陸から帰ってくる時に発酵食品を貰い受ける約束にした。
予定では数日はあっちに居る予定なので、その間に準備して貰う事にした。
ヒョウは俺らを見送りに来てくれてついでに『お土産よろしく!』と親戚のおじさんに頼む気安さで言ってきたが、色々と話を付けといてくれたし、それくらいはいいかと思い頷いておいた。
「オラもいつか、こんな船に乗って外の世界を見てみたいだよ」
目をキラキラさせながらそう言うヒョウの頭を撫でながら、
「もっと大きくなって、一人前になったら連れてってやるよ。もちろん、ちゃんと親父の許可を取ってだけどな」
「本当か!?約束だからな!」
「ああ、約束だ」
こうして、早々に俺らは空に飛び発った。
まさか、この判断が後の後悔に繋がるとは知らずに…。
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