第259話 呪詛王カーズの腹心ロペ
「さーて、そこに隠れているのは分かっているぞ魔族の諸君!大人しく兵を引けば深追いはしない。さっさとどっかいけ!」
氷の神殿から現れたユートは、ふてぶてしい言葉でロペ達をいきなり挑発をした。
狙いは少しでも統率が乱れてくれれば御の字という事と、『既にそっちの存在は分かっているぞ!』というけん制だ。
以前に見たとき、こちらに一切の存在を感知させずに近づいて来ていたロペ。
もしアイツがいるのであれば、かなりの曲者なだけに少しの油断も出来なかった。
なので使える手は使っておいて損は無いだろうという事だ。
「ククク、我々が居るのがバレているのであれば、もう隠れていてもしょうが無いでしょう。全員、戦闘態勢ですよ!」
そして予想通り、奴が指揮官をしているようだ。
黒ピエロが指揮を執っているとか中々に滑稽ではあるが、あの中で一番強いのだから仕方がないんだろうな。
まずは精神的にも先制といこうか。
「たった数百人で俺らに挑むのかい?一月前に王国を襲撃した数千の魔王軍を、撃退したのは誰だと思っているんだ?」
丁度、見下ろす位置に相手がいるので、睨め付ける様に言い放ち挑発を続ける。
ざっと見て500人以上いる。
しかもさすが魔族というべきか、すべてAランク以上である。
大体10人くらいずつで隊を作っているようで、その隊長クラスは全員Sランクだ。
なんとも贅沢な軍隊だな。
別に羨ましくないけど。
このまま王国に攻められたら滅ぼされかねないが、空を飛べる魔族は限られているし、あの距離を渡るのはムリであろう。
船で近づけばすぐに気付かれるので、そう易々と侵略戦争なんか出来ないのだ。
それをやってのけたヘラというのは、さすが大魔王の重臣という事だろう。
「さあ?雑魚を数千を倒したくらいで威張らないでいただきたいですねぇ。さあ、皆さんお仕事の時間です。あの人間のおっさんを倒せれば、たんまりと報奨金を貰えますよ~。砲撃開始!」
合図と共に、雪の中に隠されていた大砲が現れる。
砲弾の雨が降ると思いきや、それは特殊な大砲らしく。
「あれは魔法陣?やばいな、ニケ、カルマ障壁用意!」
「承知!」
『畏まりました」
ニケとカルマは魔獣モードで魔力障壁を展開した。
この姿の方が燃費がいいらしい。
そして、この姿の場合の利点は高威力のブレスを吐きだせることにある。
『食らいなさい、ライトニングブレス!』
「潰れろ、グラビティカノン」
大型の魔獣2匹が天の雷の如く雷と、すべてを押しつぶす黒い球状の超重力弾を辺りに口から撃ち出した。
雷に打たれた者はまるで炎で焼かれた如く焦げて力尽き、超重力弾を受けたものはそのまま押しつぶされて絶命する。
「な、なんとデタラメな威力なんでしょう?!ええい、怯むんじゃありません、前に出てやつらを討ち取りなさい!」
ロペは懸命に味方の兵を指揮して攻撃させてようとしているが、俺らのいる位置に辿り着く前に殆どが力尽きている。
「アリアとサナティは回復に徹してくれ。リンとシュウは騎乗して遊撃に回れ。深いところまで入り込むなよ?ピューイ、シロ二人のサポート頼んだぞ?ガントはメイスで迎撃しつつアリアとサナティの護衛だ」
そして、攻撃に転じる前に『覇王の号令』を発動した。
俺から赤いオーラが広がり、全員を包み込んだ。
効果は絶大で、すべてステータス向上とアクティブ効果が50%アップした。
これで同ランクの攻撃は大して効かないし、こちらの攻撃は絶大な威力になる。
「よし、いくぞ、リン、シュウ!」
「「はい!」」
二人は左右に展開し高速移動しながら相手を切り伏せていく。
特にリンの攻撃が凄まじい。
ピューイに乗りながら太刀で相手を斬っているが、その一刀を薙ぐだけで数人の胴と首が二つに分かれていく。
「せめて…一撃で仕留めてあげるね?」
という宣言通り、すべて一撃のもとに絶命していった。
よく見ると、刀に赤いオーラを纏わせている。
どうやら、魔力を纏わせる事で威力を格段に上げているようだ。
この攻撃で、Sランクの戦士ですら抵抗出来ずに一撃のもとに葬り去られるので、相手にとっては悪夢のようなものだろうな。
既に一部戦線が崩壊し始めている。
シュウもかなり健闘している。
さすがにリン程の攻撃力はないが、それでもAランクだけあり危なげなく相手を倒せている。
隊長クラスを相手にすると時間が掛かると判断してか、隊長クラスが出てくると切り結ぶ前に離脱して他の隊員に狙いを変える。
そうやって、相手の数をどんどん減らしていった。
流石に無傷とはいかず、ある程度の傷を負ったら無理せずに神殿前に戻りアリアとサナティに治療をしてもらいすぐに戦場に戻る、というのを繰り返していた。
これに加え、ニケとカルマの凶悪なブレスが戦場の後方で炸裂していた。
混戦に持ち込んだので、すでに魔法を撃ち出す大砲が使われなくなってきたので、後方に飛んで面で制圧を掛けている。
ぶっちゃけ、この二人だけでも勝てるのだけど、ここは俺らの熟練度の糧になって貰う為に、二人には手加減してもらっている。
ちなみに、魔族は人族よりも強い。
それは基礎となるステータスが高いし、その種特有のスキルや魔法を最初から持っている。
また、スキルの習得も経験する事で習得できるらしいが、覚えれるスキルがほぼ先天的に決まっているらしい。
その代わり、人から教えられたり継承したりすることは基本出来ないらしい。
そして一番違うのが、
もちろん使えば使う程に精度が上がっていくは変わらないが、攻撃魔法で言うなら最初から最大の威力である。
逆に言えば、どれだけ熟練度を上げても同じ威力という事になる。
威力を上げるには、更にステータスを上げるしかないという事だ。
ここが、人族の有利な点でもあり不利な点でもある。
人族は熟練度を上げる事により最終的に魔族よりも威力が高くなるが、ステータスで劣る為同じスキルや魔法では敵わないのだ。
但し、スキルを選択的に習得できるため組み合わせにより有利に戦う事が出来る。
これはすべて白の女神により授けられた知識によるものだが、さすがに創造主の一人なだけあって間違いはないようだ。
白の女神が創った人族と、黒の女神が創った魔族は違った成長体系を持たせることで特色を持たせ、お互いの人類を競わせる遊戯を続けてきた。
魔族側はルキデウスにより乗っ取られた状態ではあるが、それでもこの特性はそのままのようだな。
ヘラが言うにはルキデウスはスキルを与える事が出来るようなので、一部に例外がいるみたいだけど、目の前の魔族にはルキデウスからスキルを授かった者はいないようだ。
『覇王の神眼』により見える相手のステータスを確認すると、殆どの魔族の所持しているスキルが人族よりも少ない事が分かった。
であれば、いくらステータスが高くランクが上でも俺らにとっては脅威ではない。
なぜなら、LBO出身者の殆どはそれらの倍スキルを持っているからだ。
「なぜですか!?こちらの方が圧倒的にステータスも戦力も多いと言うのに、一方的にやられているだとっ!?」
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