第254話 おじさんと美女
ついに飛行艇ウラノスに乗り、北の大陸へ出発するユート達。
早速、パーティーの編成を行う事にした。
今回連れて行くのは、Aランク以上のメンバー全員とサナティ、マイニャと俺の仲間ペット全員だ。
メイド達は屋敷の管理もあるので、連れて行くのはメイアとアイとドーラの3人だ。
これでもかなりの負担を掛ける事になるが、一応飛行艇ウラノスには乗組員や専用の清掃員や案内係等で複数の従業員を雇ってはいるので、基本は俺らの世話だけをしてもらう予定だ。
居残り組は、ライとそのチームメンバーのミレオ、マッド、ベン、ケイル。
カミオとチームメンバーのバーナー、デューク、レオナ、ミリンダ。
あとは、パールとペルラは非戦闘員なので屋敷に残り織物を作って貰う事となった。
彼、彼女らの面倒は基本は執事のゼフとライが見てくれる。
今回の色々な件であちこちに走り回ってくれたので、ライはユニオン【ティンクルム】の副代表に就任して貰った。
これはギルドに正式に申請を出してある。
これにより、ライはユニオンの口座の資金を下ろすことが出来る。
なので実質のクラン運営はライが中心となって行う事にした。
俺は資金の調達の為に各地に飛んで品物を仕入れして来る事と、王国やギルドからの大きな依頼をこなしていくのがメインとなる。
王国とギルドから多額のお金が入ったとはいえ、これだけの人数になってくると結構な維持費が掛かるし、遊んで暮らすにはまだまだ稼がないといけないな!
ちなみに、マリエルも飛行艇の整備師として一緒に来る事になっている。
王命による依頼が終われば二人は結婚すると決まったらしく、未来の旦那の為だからね!と快く引き受けてくれた。
Sランクの技術者がついて来てくれるのはとても心強いのだ。
そうそう、ガントもアリアネルに頼んでランクアップ儀式をしてもらい、ついにSランク鍛冶師になった。
これでいろんな素材を扱う事が出来る。
ちなみに、まだ復興中なので儀式は必要最低限の人しか参加させずにひっそりと行った。
一緒に復興に携わった大工たちが親方の門出なんだから、絶対出ると聞かなかったので一緒に参加したのだが、儀式が終わったあと号泣してたよ。
なんとも熱い奴らだ。
なお、聖女アリアネル改め、冒険者アリアも連れてきている。
白の女神が言うには連れて行かないといけないという事らしいし、嵐の神殿の時のように聖女のチカラが強化されることが見込まれるからだ。
───
今向かっているのはヒョウの集落付近だ。
あそこは氷原が広がっているので、飛行艇を着陸しやすい。
あそこから1チームを編成して氷の神殿に向かう。
大精霊イグニスも、俺らが神殿に近づけば来たことが分かるだろう。
ちなみに、今回主力メンバーで来ているのには訳がある。
それはセツナが所属していたグラムが率いる冒険者集団が、あの時現れた魔王軍に降ったからだ。
氷山より遥か北の地に、呪詛王カーズとその配下のロペがいる魔王の支配領域があるらしい。
あの事件の元凶であるヤツらが大人しくしてくれればいいが、楽観視出来る相手ではないので警戒しての布陣となる。
何を狙ってそんな事をしたかは正直俺には想像も付かないが、支配領域を広げるにしろ、『覇王』を邪魔するのが目的だとしても、俺がこの地をもう一度踏み込むのはかなり都合が悪いと予想している。
であれば、何かしらの妨害をして来るだろう。
まあ、来なきゃいいなぁとは思うんだけどね…。
あとグラムがリベンジしに来る線も往々にありうる。
本当、厄介な奴が向こうに流れたもんだよ。
このまま気が付かないで、ほっといていただきたいところだ。
ただ、こんな目立つもので移動しているので期待は薄いけどね。
「さすが北大陸ですね。まだ海の上だと言うのにこんなに寒いなんて」
事前に用意していた魔獣の毛皮で作ってもらったローブを羽織りながら、寒そうにしているサナティ。
西大陸は比較的緩やかな気候なので、ここまで寒くなるのは本当の真冬くらいだ。
西大陸はまだ冬に入る前の季節なので、余計に寒く感じただろう。
サナティは寒がりという程ではないらしいが、それでも寒いと感じるくらいの空気の冷たさだ。
そのせいか、自然と肩を寄せてくるのでドキッとしてしまう。
本当、いつ見ても美しい人だよなぁ。
そう言えば、出発前にミルバが爆弾を落としてきたよ。
それは王命での依頼という事で、ギルドの職員も総出で見送りに来ていた時に話だ。
「ユートさんは、王命の報酬で更にお金持ちになるんだとか!しかも、達成後には領地を与えられると話を聞いていますよ~。そうしたら、ユートさんは貴族様の仲間入りですね!私、ユートさんの側室を狙おうかなぁ~」
「おまっ、バカな事いってからかうんじゃない!俺みたいなおっさんじゃなくて、カッコいい若者と結婚を考えろよ…」
「え~、私モテないですからぁ。あ、そういえば気になっていたんですけど、ユートさんって今は独り身ですよね?登録上は奥さん居ないってなってますし」
「「!!!?」」
「奥さんは、もう亡くなられたとか…?あ、すいません立ち入った事を聞いてしまいましたね。どうぞ、ご武運を!」
誰だ、勝手にうちの奥さんを死んだことにした奴は!
しかし、どっちかというと、向こうでは俺が死んだことになってそうだけどな…。
たぶん、ゼオス辺りが都合が良いように書き換えたんだろうな。
異世界人だと、色々と(グラム達の件もあるので)都合が悪いのかもしれない。
その後、なぜか女性陣の目線がこちらに集まったのは気のせいじゃないだろう。
いやいや、お金が多少あるからって、俺とこっちで結婚して何のメリットがあるんだ?
みんな本気で狩りとかすれば、生活に困らないくらい稼げるだろうに…。
そんなわけで、あの後からみんなの様子が少し変わった気がするのだ。
単なる自意識過剰だよ!と笑いごとで済まされる事を祈りたいところだよ…。
あと、領地とかマジでいらん。
どうやって管理すればいいんだよ。
あ、ゼフにまる投げ!は流石に無理か。
もしそうなったら誰か補佐役を置いて貰うしかないかなぁ。
ああそうだ、ライに任せよう。
彼なら上手くやってくれそうだし。
「なんか、ユートさんとサナティさんが良い雰囲気を出しているのです…!」
「しーっ、サナティさんは結構前からユートさんを狙っているという話らしいよ」
「へぇ~、そうなのですね。あんな美人なお姉さんに好かれるだなんて、おじ様ったら意外とモテるのかしら?」
「そういうレーナちゃんは、ユートさんをどう思っているの?」
「どうって、親戚のおじさんくらいかしら?」
「流石だね、レーナちゃん」
なんか、俺らを見て井戸端会議している女子たちがいる気がするが、きっと気のせいだろう。
「お、ユート殿ここに居たか。おや、サナティ。寒いのなら中に入ったらどうだ?」
そんな時にセツナが俺を探していたらしく、声を掛けてきた。
寒そうにしているサナティを見て、そう言うと。
「いいえ、大丈夫です。ユートさんの隣なら暖かいですから」
「そう?寒いものは寒いと思うのだけどなぁ」
と、ちょっと呆れた顔をしながら頭をポリポリ掻く。
セツナさんの乱入ですわっ!とか聞こえた気がするが風が強くて聞こえない。そう、俺には聞こえない。
どうしたんだと?とセツナに話を促した。
「この先にセリオンの元テリトリーがあるのだろう?セリオンが気にしていたので、近くに行ったら見に行ってもいいだろうか?」
セリオンは元々この先にある大陸にある氷山の一角をテリトリーにしていた一族の長だ。
その後に自分の群れがどうなっているのか気になるのだろう。
セリオン自身は独自に進化したので、正確に言うと別種となったのだが、元長としては彼らがちゃんとやっていけているか確認したいのかもしれない。
「ああ、いいよ。ああ、ついでに氷山の周りに魔王軍がいないか確認してきてくれ」
「分かったわ。と、いっても私に見分けがつくのか分からないけどね」
「まぁ、軍隊がどこかを行軍していないかを確認するだけで十分だよ」
「うん、そういう事なら問題ないかな。分かったわ」
そう言って立ち去る前に、『頑張りすぎて体調崩すんじゃないわよ?』と言いながらサナティの肩をぽんと叩いてから去っていった。
「セツナさんは、いつもサッパリしていますね」
「まぁ、そうじゃないとやっていけないのかもな。さて、セツナの言う通り風邪でも引いたら大変だし中で暖を取ろうか」
「はい、そうですね」
そう言って、エスコートしつつ中に戻った。
と、その前に…。
「お前たちも、風邪ひかない内に中に入るんだぞ?」
ギクッっとした顔をしているけど、さっきから隠れるつもりなかっただろっと、心の中でツッコミを入れておく。
まったく、女子というのはいつの時代もそういう話題が好きなようだ。
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