第253話 空の船上パーティー

  メイド達が一斉に動き出し、デッキ上にパーティーの準備がされていく。

 散らばっていたメンバー達もぞろぞろと集まりだした。


「これからこの【ウィンクルム】は、様々な困難に立ち向かっていく事になると思う。

 王都が先日あのような事になり、俺らも他人ごとではいられなくなった」


 あの魔族の襲撃は、王都に大きな爪痕を残す事となった。

 生活していた多くの国民に多大な被害が出ていた。


「王より直命を受けて、魔族に奪われた秘宝を取り返す。

その調査のために、この空を飛ぶ箱舟。飛行艇ウラノス号をガントが建造してくれた。

 これで準備は整った!これより、【ウィンクルム】は活動を再開する!みな協力して欲しい。

 では、サニアに着くまでの時間大いに楽しんでくれ!カンパーイ!」


「「「カンパーイ」」」

 

 最近ずっと復興の手伝いやら何やらで、なかなかこういう息抜きになるようなパーティーもしてなかったので、皆楽しんでくれている。


 レーナとアーヤはなんとか立ち直ったが、他の子供達があの惨状を目の当たりにしていたら、精神的に立ち直れていないかも知れない。

 それくらいに酷かったので、連れて行かないで良かったと思っている。


 もちろんリン含めて連れて行った子供3人は、常にケアする様にしているし、メイアやアリアがサポートしてくれているようで今ではすっかり元気な様子だ。


 流通の関係もあり、しばらく食事も質素にしていたのだが、今回はパーティーと言う事もありかなり奮発した。

 ステーキやら、ケーキやら、フルーツの盛り合わせやら、どれも豪勢な作りだ。

 もちろん、パーティーの食事は全部ルガーが作った。

 久々に大勢の食事を作るとあってか、かなり気合が入っていて、


「お館様!死ぬほど食っていいぞっ!俺は一回死んだがなっ、がはは!」


 と上機嫌で言っていたよ。

 いや、そのネタ笑えないからね?

 

 まぁ、子供たちも口にいっぱい頬張って幸せそうだし良しとしよう。


 サニアまでは4時間程でつく予定だ。

 この世界の規格からすれば超高速移動なので、この大きさでこの速度で移動が可能なのは俺らくらいだろうな。


 途中ワイバーンの群れや魔鳥などの魔物が近くを通ったが、飛行艇を見るなり慌てて逃げていった。


 まぁ、ドラゴンより遥かに巨大な、しかも得体の知れない物が飛んできたら逃げるのは当然と言えるだろう。



 予定通り、4時間でサニア上空に到着。

 一応ギルドを通して通達してあったが、その巨大な空飛ぶ船を見て町の人々はかなり驚いていた。


 屋敷の近くの大きな空き地に着陸し、そこからはゴンドラを使って荷物の搬入を行った。


 流石にこのサイズはストレージに納める事も出来ないので、そのまま停泊させる。

 予め雇った乗組員と護衛の冒険者にウラノスを任せて、俺と数人のメンバーでギルドに報告しに行った。

 他のメンバーや家人は搬入を手伝ってくれている。


 ちなみに、起動キーが無いとウラノスは動かないようになっているので、盗んで持ち逃げとか出来ないようにはなっているから心配はしていないが。



 サニアのギルドも久々だなぁ。

 相変わらず魔物の数が増えたせいで忙しそうだな。


「あっ、ユートさん!おかえりなさい!」


 ギルドに入るなり、ミルバが駆け寄ってきた。

 相変わらず元気そうで何よりだ。


「おう、久しぶりだな」


「本当ですよ!でも、王都の件は本当にご苦労様でした。まだまだ復興には時間が掛かると聞いてましたが…」


「ああ、かなり酷い状態だったが一先ずは住めるようにはなったって感じかな。今は職人たちと冒険者達が協力して修繕にあたってるよ」


「そうなんですね。それで、今日はどんなご用件ですか?」


「ああ、ゼオスに会いに来たんだがいるか?」


「はい、少しお待ち下さい!」


 ミルバが奥の方に消えて数分すると、ゼオスがやって来た。


「待っていたぞ、取り敢えず奥で話そうか」


 と言われ、奥の応接室に通された。



「まずは今回の依頼の件、本当に有難う。ギルドの一員として、感謝する」


 席につくなり、開口一番に感謝を伝えてくるゼオス。

 

「大袈裟だなあ…と言いたかったけど、今回はマジでやばかったな」


「ああ、お前達が首謀者を撃退していなかったら、この国は終わってた。同行していたグランドマスターがそう言っていたよ」


「ドルガーが?まぁ、間違いではないかな。それでも、かなりの犠牲者が出たな…」


「ああ、王都人口の3割くらいが亡くなったらしいな。今は冥福を祈るほかないが…。本当にお前達が居なかったらと思うと、ゾッとするよ。王都だけじゃない、近隣の町や村への被害ももっと酷いことになっていた事だろうしな」


 王都の周りには、小さな村や町が多数存在するが、王都が魔族に占領されてからかなり魔獣の被害が出たみたいだ。

 冒険者の派遣もままならない状況だったらしく、サニアの冒険者もあちこちに派遣されていた。


 ちなみにセツナとセリオンも近隣の案件だけという条件で請け負っていたが、かなりの数の依頼を受けたらしく、好きなものが買えるようになったと喜んでいたのは内緒だ。


「この先も、まだまだ依頼が来ると思うのでお前のユニオンには協力して欲しいんだ」


「なるほど、そう言う話ね。ああ、もちろんさ。うちのメンバーも育てていかないといけないし、丁度いいさ」


「そう言ってもらえると助かる。そういや、国王の直命受けたんだってな」


「ああ、その件で来たんだ。当分の間はサニアに拠点を戻してあちこち飛び回るつもりだ。で、あの空飛ぶ船、飛行艇ウラノス号が飛び回るから町の人に通達しておいてくれ。いちいち騒ぎになると面倒だしな」


「それは任せておけ。お前のだと言ったら大体の奴が、また【ウィンクルム】かと言っているから問題ないと思うぞ」


「いいんだか、悪いんだか…。そうだ、討伐依頼とかはライを通してくれ。彼が色々と調整してくれるから」


 同行しているライが改めてゼオスに挨拶する。

 最近は冒険者業より、ユニオン運営の方に注力してもらっている。


 読み書きや計算も出来て、計画立案や隊の指揮も採れるなど、彼は何かと優秀な人材だったので一任している。

 

「分かった、そうするように手配しよう。では、これからもよろしく頼むな」


「こちらこそ、宜しくお願いします」


 とゼオスとライが握手する。

 留守の間は、すべて彼に任せようと考えていた。

 

 ───


「じゃ、落ち着いたらまた酒場で飲もうなゼオス」


「楽しみにしているよ」


 ライとゼオスの今後の依頼計画についても話し合いが終わり、挨拶して出てきた。

 ギルドのロビーに出てくると、また色んな人に捕まってしまったが。


 ミルバにも今度食事をしつつゆっくり話しましょうと言われたので、今度必ずなと約束だけしておいた。


 サニアに拠点を戻してこれから本格的な探索に入る。

 久々の冒険となるので、心なしかワクワクしているのが分かった。


「ユートさん、顔が少年みたいになってますよ」


「ははっ、出ちまってたか?依頼とはいえ、またあちこちに行けるからな。楽しみなのさ」


「なるほど。まぁ、ユニオンの方は任せておいて下さい。養蚕の方も始まりますし、予算はゼフさんと調整する形でいいですよね?」


「ああ、それで構わない。二人でうまく資金を回してくれ」


「了解です。残るメンバーも鍛えておきますよ、王都のような時の為にも。まぁ、自分が一番弱い気がしますけど…」


「武力だけが全てじゃないさ。ライには無理に戦闘してもらうより、運営とか指揮を執ってもらう方が助かる。そっちに注力してくれ」


「はい、お任せてください」


 それからもライや、他のメンバーと話しつつ久々の我が家へ帰っていくのだった。

 

 これから、新たな冒険が始まるのだ…。

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