第252話 完成した「空」

 一週間後、俺らはガントに呼び出されてある所に来ていた。


 集まったのはユニオン【ティンクルム】のメンバー全員だ。

 

 ここは、街の一角にある造船場。

 そこにはいくつもの建造中の船が並んでいる。


 それだけでも、かなり心が躍る光景だが目的はそれではない。


「おー、来たか!」


「ついに、出来たんだな?」


「ああ、結構頑張ったんだぜ?手伝ってくれたみんなも自分の仕事を放っぽいて、こっちを優先してくれたんだ!見てくれ、これがそうだ!」


 ガントに案内された先には、ひと際大きな箱舟が出来上がっていた。

 俺らは目の前の大きなものを見上げる。


 船というには、かなり四角い感じがあるがだがそれでも船だという事は分かる。

 ただ違うのは、帆の代わりにデッキの真ん中部分に大きな魔石を組み上げた魔道具が設置されている事。


 そして、家のようなものが載っている事だ。


「一応浮遊することは確認済だ。これから進水式ならぬ進空式を始めるところだ、みんなも乗ってくれ」


「そういや、ゴンドラも必要だって渡したけど解体して使ったのか?」


「まさか!ゴンドラは小回りも利くからチーム単位で運用にするのに便利だろ?だから、ゴンドラも搭載出来るように作ってある。あの横についているのがそうだよ」


「おお、マジかよ。すげーなぁ。しかし、よくこんな大きさのものを1週間で作ったな!」


 普通、小さな船でも半年は掛けて作るらしいので、1週間はかなりのハイペースだ。

 そこは手伝ってくれた船大工たちも驚愕していたらしい。


「ほんと、スキルで作ると一瞬でパーツが作れるからな。船大工たちには殆ど大物の組み上げをやってもらってた。まさに魔法のように一瞬で終わるんだが、すごいよなぁ」


 とガント自身も驚いていた。


 ちなみにLBOで船とか作った場合は、その場で完成する。

 材料を選んで、ボタンをポンで完成だ。


 それに近いことをこの世界で再現されると、もう笑うしかない感じだ。


「俺が手で作ったのと同じレベルの加工品が一瞬で出来上がるイメージだよ。でも、作れないものや精度の悪いものもそのままのレベルで出来上がっちまうから、スキルが上がっていて良かったよ」


 そんな説明をしながら、俺らを船内に案内してくれた。

 中にはキャビンもあり、寝泊まりにも不自由しないらしい。


 ちなみにこの船の大きさだが、なんと全長50mにも及ぶ。

 この国の一番大きな船に匹敵する大きさだ。


 それが空を飛ぶのだ、この世界の基準からしてもぶっ飛んでいた。


「動力源はなんだ?」


「この魔道具に注いだ魔力だよ。飛ぶ前に充填しないといけないが、飛んでる最中も空気中に含まれる魔力を吸い込んでいるらしいから、魔力切れでいきなり落ちる事はないみたいだぜ」


 それでも長期の運用するには、事前に満タンにしないといけないらしい。

 魔力量からいっても俺とかミラやアイナといった上位魔力保有者が補給しないといけないだろう。


 ちなみにMP=魔力量と考えて貰ってくれればいい。


「主よ、我なら魔物から吸い取りそのまま補給することも出来る。精霊から集める事も出来るし、我らが居れば主が供給しないでも問題ないぞ?」


 とカルマが言ってくれたので、交代で供給することは出来そうだ。


 進空式を執り行い、空での無事とこれからの冒険の祈願して滞りなく終えた。


 式には国王や大貴族などが参加していて、かなりびっくりしたけど国王が認めないと造船所自体使う事が許されないので、この式自体が王国が取り仕切っている。


 試運転でこの船が空に上がった時は、見ていた人物だけでなく噂を聞きつけた街の人々からも盛大な歓声と拍手が沸き上がった。


 この船の所有を【ウィンクルム】と認められた証書を貰い、すぐに王都を出る事を許可された。


 予め準備していたので、式が終わってからはすぐに荷物搬入となった。

 これでやっと王都からサニアに帰る事が出来る。


 

 全員が乗り込み終わり、いよいよ出発となった。

 デッキに上がるまで、皆わいわいと話しながらアレが凄いとか、これはどうだとか言っているのを見ていると修学旅行生を引率する先生の気分だな。


 リンやシュウ等の子供達も大はしゃぎで騒いでいたが、コケた拍子に武器で船内の壁を傷つけそうになってセツナに怒られている子もいて、ちょっと苦笑いした。


 みんなをデッキに移動させた後、俺とガントと仲間ペット達が船長室に入った。

 操舵はここで行うらしい。


「船長は?」


「そりゃ、お前だろユート」


「え、船舶免許持ってないぞ?」


「この世界にそんなもの必要かよ。この魔道具に手を当てて、魔力を流し込むイメージをすればいい」


 ガントに言われて目の前の大きな半球体に手を当てた。

 すると…。


 ゴウンゴウンゴウンゴウン…


 と何か機械が動くような音が聞こえてきた。

 そしてしばらくすると…


「わーっ!浮いてる!船が浮かんでるよ~!」


「すごい!本当に飛んでる!」


 と子供たちの声が遠くから聞こえてきた。


 どうやら成功したようだ、ちょっとホッとする。


「この箱舟の名前は決めたのか?」


「そういや考えてなかったなぁ。そもそも俺にそういうセンスとかないぜ?ユート、盟主として決めてくれよ」


 そう言われても、こういうネーミングセンスは俺も無いからなぁ。

 一瞬"ノア"とか浮かんだけど、地上が洪水で沈みそうで縁起悪いな。


「うーん。そうだなぁ。飛行艇ウラノスってどうだ?」


「ウラノス?」


「そう、空って意味なんだよ」


「ほー、いいじゃないか!じゃあ今日からこの箱舟は飛行艇ウラノス号にするぜ」


 こうして、出来上がった箱舟は"飛行艇ウラノス号"となった。


 今日はとりあえず、試運転も兼ねて王都からサニアへ向かう事になっている。


 王都の借りていた屋敷にあった荷物もすべて搭載済みで、さらに乗務員とメンバー合わせて50人くらいの人、その他にも仲間ペット達や資材等、様々なものが乗っているが全く問題なく浮いている。


 ちなみに各所に簡易的に結界が張られているらしく、鳥や低位のモンスターなどは近づいてこないようになっているらしい。


 古代文明すげー!


「しかし、降りるときとか場所を選ぶな」


「そうだなぁ。まぁ、降りれないときはゴンドラに移って少人数だけ降ろすとか可能だから、なんとかなるだろう」


 なるほど、そういう使い方もあるか。

 ゴンドラの代わりにコンテナを積んで商品を大量に運ぶことも出来るらしいし、商売をするのにも色々と幅を利かせられるだろう。


 王都から空の旅は、快適そのものだった。

 途中から操舵をカルマに代わり、俺らもデッキに出た。


「あ、パパ!ガントさん!本当に凄いね~、この空飛ぶ船。飛竜と違って全く揺れないし、歩き回れて快適だね~」


「ああ、さすが古代文明の箱舟だよ。こんなに凄いとは」


「そこは、さすがガントじゃないのかよ!」


「ははははっ」


 ガントがもっと俺を褒めていいんだぞというが、実際かなりの功績だ。

 これからは、この船を作ったと知って、王族、大貴族、豪商などがガントにこの船の製作を依頼するためにアプローチを掛けてくるに違いない。


「さて、そろそろ時間だな。メイア!」


「はい、準備は整っております旦那様」


「よし、はじめようか!」

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