第251話 風の加護

 そんなわけで、まずは嵐の神殿にやってきた。


 まぁ、ここはニケの家みたいなものなので魔物が襲ってくるわけでもなく、かなりスムーズだ。


 但し、ニケが居ないと最深部には入れないので一般人が来ても表側の祭殿までしかたどり着けないようになっている。


 最深部にある真の祭殿に辿り着く。

 ここが、殿だという事だ。


 表側の祭壇は、雷の精霊の祭壇として使われていた物らしい。

 雷の神殿側には、風の精霊達も出現していたので次第に嵐の神殿と言われるようになったのだとか。


 風の神殿の祭壇には、以前来た時には会わなかったニケにそっくりな顔をした精霊が待っていた。


『お待ちしておりました、さあこちらへ』


 まだ何も説明してないのに、全て分かっているかのように案内する風の精霊。


 ニケの方を見たら、『私と繋がっていますので』という事だった。


『この神殿には、母なる光の女神より授かった宝玉が保管されています。これに触れる事で過去の精霊達の意識を取り込む事が出来るでしょう』


 風の精霊が示す先に緑に光る宝玉が現れる。

 ニケは躊躇いもなく、その宝玉に触れる。


 するとあたりに、溢れんばかりの光が発せられた。


 暫くして光が収まると、大精霊の姿になったニケが何時もとは違う雰囲気を纏いこちらを見ていた。

 そしてこう告げた。


『覇王となり、使命を帯びし人間ユートよ。汝に風の加護を与える。封印されし、覇王のチカラを開放せよ!』


 それと同時に、俺の意識は光に吸い込まれていく。

 例の声がまた俺の頭の中に響いた。


【新たな覇王のチカラが開放されました。『覇王の盾』を覚醒しました】


 気が付くと、目の前には例の女神が現れていた。

 

『異界の人間よ、我が魂のチカラを受けし者よ。五つの『覇王』のチカラを集め、我が光の神殿に来るのです。その時に、真なる覇王のチカラが目覚める。汝の願いを叶えたくば、聖女と共に必ずここに───』


「…パ?!!パパっ!?」


 気が付くと、目の前にリンの顔があった。

 

「あれ?俺は?」


「大丈夫?ニケさんから発せられた光に包まれたあと、暫くボーッとして反応無かったから、心配したよ?」


「そうか…大丈夫、大丈夫だ。それより、ニケは情報手に入れたか?」


 どうやら、光の女神の声は俺だけに聞こえていたらしい。

 一瞬だがトリップしたかのように、意識が飛んでいたみたいだ。


「はい、大丈夫です主様。私に女神様の声が聞こえました。次の目的地である水の神殿は氷の神殿の奥になるようです。ここと同じく、あの神殿の奥から繋がる道があるようです。イグニスがいる場所は水の神殿への入り口になっていたみたいですね」


 なるほど、ある意味では氷の精霊が守護者になっているわけか。

 通りで正確な入り口がわからないわけだ。


「主よ、やはり新しいチカラを手に入れましたか?」


「ああ、そのようだ。一度屋敷に戻ってから話をしようか。全員に話をしたほうがいいかもしれない」


 風の大精霊から”加護”を受けた事で、リンとアリアは『風の加護』というスキルを発現する事が出来た。


 通常は風の加護を受けて、数日その効果が保たれるだけに留まるが、聖女である二人は加護と同じ効果を与える事が出来るスキルを発現したようだ。


 それと同時に、『聖女』の効果も少し上がったと言っていた。


 なるほど、聖女も連れて行けと女神は言ってたがこういう事か。

 他にも理由があるかもしれないけど、必ず二人は連れて行くようにしよう。



 屋敷に戻ってくる頃には夕方も過ぎていたので、皆で食事にした。

 お金は結構あるのだが、いかんせん王都がまだ復興には程遠いため食事も結構質素になっている。

 そこで一旦サニアに戻ろうかという話も出ていた。


「まだまだ王都の復興には時間かかるだろう。本当なら復興の手伝いとかするべきなんだろうけど、俺らには別の目的を課されている。なので、資金的な支援だけして拠点をサニアに戻すことにした」


「そうか、サニアに戻るのか。考えたら結構久々に帰るな!」


「あっちの方がクエストを受けるのにも利便性がいいし、こっちだと屋敷が手狭だしな。一旦こっちの屋敷も引き払うつもりだ。ここを使いたいって人はいくらでもいるらしいから、ギルドも大喜びしていたよ」


 苦笑いしつつ、サニアに帰る事を告げると皆遠慮がちに喜んでいた。


「それで、アリアはどうする?サニアについてくるなら、部屋はまだ空いているから用意出来るぞ?」


「いいんですか?是非もないですわ。今後もご一緒に行動したいですし、お願いします」


「侍女のマリンダさんは、うちのメイド達の部屋を使ってくれ。細かい事はメイアに確認してくれればいい」


 そう言ってメイアを見ると、お任せくださいと控えめな声で答えてくれる。


「アリアネル様と私へのご厚意、感謝いたします」


 侍女マリンダは、アリアが幼少の頃から一緒にいるらしく、身分が違えど親友のように仲が良い。

 いつも口癖のように、『それだから姫様はご結婚出来ないんです!』と小言を言っているのを見て頬が緩む感じだった。


「移動は、ガントが今製作している箱舟の製作が完了次第にする。それまでは、各々の準備を進めてくれ」


 こうして一旦サニアに戻る事にした俺らは、1週間後の移動に向けて準備を始めるのだった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る