第242話 魂の帰還
『心優しき少女よ、彼の者のチカラになりたいか?』
(彼の者…?パパ…ユートさんの事?)
『そうだ、あの者はこの世界を救うためのチカラを授かった。だが、それを邪魔する者がこの世界に巣くっている。あの者…ユートが全てのチカラを解放するためには、それを退け守る力が必要だ。お前はユートを守りたいか?』
(守りたい!守りたいよ!!だって、あの人は私を救ってくれた人だもん!命だけじゃない、私の心も救ってくれた。それなのに、そんな大事な人を自分で傷つけているだなんて!お願いします、私にあの人を救う力をくださいっ!)
心の中に強く願う。
自分に家族の愛を再びくれたあの人を救いたい。
慈しみ愛をくれたあの人に、その想いを返したい、と。
『いいでしょう、少女よ。貴女は我が魂を受け取るにふさわしい人間。その心をチカラに変えて『覇王』を守護する者となるのです』
(守護をする者…。はい、分かりました。どうかお願いします!)
『さあ、ユートが呼んでいますよ。征きなさい『慈愛』の魂を持つものよ』
(あぁ…パパが呼ぶ声が聞こえる!うん、分かった!今そっちに帰るね…!)
やさしい光が私を導いてくれる。
それに手を伸ばすと、私の意識が現実に戻った。
「あ…パパ…ありがとうね…?」
そこで私はまた気を失ってしまった。
でも、ユートさんの元に戻ってこれたのだけは理解した。
だから、安心して目を閉じる事が出来たのだった。
───
「マスター、リンは大丈夫。さっきまでの禍々しい気配はなくなりました」
「というよりも、アリアっちに近いくらい清らかな魂に昇華されたかも?」
竜姫である二人は、カルマほどではないが魂の質を見る事が出来るみたいだ。
俺にはさっぱりだが、一つ言えるのは今気を失って横たわるリンの表情がいつものリンだということだ。
「『慈愛』のチカラに目覚めたとか聞こえたけど、なんだろう、リンらしいチカラだよな」
「リンはマスター並みに人がいいからね~。きっと女神さまに好かれたんじゃないかな」
「女神…なるほどな。とりあえずは、あっちのクロをどうにかしないとだけど…」
カイト達が抑えていたフェンリルと化したクロを確認すると、いつの間にかHPが1になっている。
なんという寸止め技術!
「カイト中々やるな!そんなギリギリで止めるとか俺でも出来ないぞ?」
「いや、俺達じゃないんです。変な魔王とか名乗る獣人がおかしなスキルを使ったら、一瞬でこうなってしまって。そのあとからピクリとも動かないんですけど、一応監視しといてましたよ」
どうやらクロもさっきの獣人の魔王クロノスが抑え込んでおいてくれたようだ。
しかし、未だに何の目的だったのかわからないな。
あの禍々しいのが欲しいとか、何を企んでいるのか…。
取り敢えず助けてくれたのだから、今の所は敵って感じじゃないけど。
カルマと合流して、そこら辺は聞いてみる必要がありそうだな。
「ニケは魔王達について何か知っているか?」
「確かに魔王は各地に出現しているとは聞いていますが、あの者がどうのような者かまでは分かりません。…お役に立てず申し訳ございません」
「いや、知らないならいいんだ。とりあえずここまで弱っているなら再度テイムするのがいいかな?」
「そうだね、マスター。私達と一緒でここまで衰弱すると抵抗が弱まるからテイム可能になっていると思うよ」
ヘカティアがそう言っているし、ひと先ずはクロを魔族の支配から解放しよう。
『覇王の光』を併用してフェンリルの邪気を抑え込みつつ、『
「スキル発動!〈アニマルテイムⅤ〉!〈調伏の波動〉!」
すると、フェンリルが光輝きだした。
あ、この感じ久々だな。
魂が繋がっていく感じ。
これならいけそうだ!
ステータス欄に、クロの名前と絆マークが出ているのを確認。
…うん、テイム成功だ!
「オオ…、我ハ操ラレテイタノデスカ?」
なぜか前よりも少し流暢に話せるようになっているクロ。
ブルブルと首を振ってから、暫くすると何を思い出したようだ。
「ソウダッ!我ラハ閉ジ込メラレテ、変ナ薬ヲノマサレテカラ体モ精神モオカシクナッタノデス!」
話を聞いてみると、捕らえられたリンとクロは真っ暗な箱のようなものに閉じ込められて、その後に変な薬を飲まされたらしい。
その後の事はあまり覚えていないらしいが、暴れていたのはなんとなく分かるらしい。
「リンハ?!アア、マサカ!?」
「安心しろクロ、リンもなんとか正気に戻ったようだ。今は精魂尽きて気を失っているだけだよ」
「ソウデスカ…、不甲斐ナク、申シ訳アリマセヌ」
「いや、お前がリンを守ろうとしてくれたのは十分伝わったさ。しばらくは影に潜って休め。今治療をしてやっているがかなりHPがマズイし」
ちなみにお約束通り、テイム後のHPは普通の状態に戻っている。
とはいっても、フェンリルのままなので素の状態でもかなり高いのだが。
「ショウチ」
クロは素直に返事をすると、俺の指示に従い影に潜っていった。
どうやらそのスキルは残っているようで良かった。
体も大分変化したが、記憶は全部残っているみたいだし一安心だ。
「よし。残るは敵の総大将と街で暴れていた魔獣と魔族だな。先行しているカルマを追いかけよう」
リンを治療してもらうため、アイナとアリアネルに託す。
とは言っても別行動だとまた何かあるので、3人をニケに乗せて治療しつつ付いてきてもらう。
俺達は、駆け足で王の間に急ぐのだった。
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