第243話 ヘラとカルマの記憶
カルマはゆっくり扉を開けて中の様子を確認した。
そこにはヘラがこの国の王を足蹴にして王座に座っているヘラがいた。
ヘラの隣には、数人の魔族とこの国の王族らしき者達が立っていた。
彼らは一様に表情が無い。
「全てが傀儡とは、他人を信用しないお前らしいな」
「ふん、命令通りに動かない者達など魔獣以下よ。私の命令通りにしていれば大抵は上手くいくのだから。そう、お前をあの城から追い出した時のようにね」
蔑んだ目でカルマを見てくるヘラ。
その目を見てなぜか笑ってしまうカルマだった。
「何?何がおかしいのかしら?」
「クックック。いや、滑稽だなと。未だに自分の意思でした事だと信じているのだな」
カルマはゆっくりとヘラの方へ歩き出しながら話を続けた。
「お前の魔術で我の力を分離して、魂と記憶を封印して追い出したと、本気でそう思っているのか?」
「あら記憶も全部戻っちゃったのね。なら隠してもしょうがないわね。そうよ、その通りよ。あの時、邪魔になったお前を追い出すために、その魂と記憶を分離して闇の神殿に封印して城から出て行かせたのは私よ。本当、傑作だったわ」
「やはりな…」
「なーに、数十年も前の話を持ち出して?でも予定外だったわよ。あの竜族の双子が貴方の魂を見つけ出して持ち出すなんて。しかも、そっち側に降ってるじゃない?私が施した魔人化も解けているし、一体何をしたの?」
「まずは、そこからだぞヘラ。お前は他人の記憶を弄る能力など持っていない。なのに我の記憶を封印した?魂の分離も?自分で言っていておかしいとは思わないのか?」
「は?何を言っているの。そんなのルキデウス様から賜った力に決まっているでしょう?」
「ルキデウスの目的は、我らを使っての実験だ。その材料をお前の判断で追い出す?なぜそれをルキデウスが赦すと思うのだ?お前は自分の記憶に違和感を感じないのか?」
「え?何を言っているの…私がルキデウス様に意向に背くことをするなんて、ある筈が…。あの日、ルーティア様に呼び出されて…? お前を排除することになった…?」
困惑しながら、考え込むヘラ。
今まで疑問にすら思っていなかったことを、冷静に思い出すと違和感しか感じなくなったようだ。
ヘラは頭の悪い女ではない。
それどころか策略や謀略に長けた人物であり、その程度の違和感に数十年もの間も気が付かない事の方が異常なのだ。
そんな事をやってのける者は、この世界には3人しかいない。
「まさか、闇の女神が私を操ったというの!?」
違和感の正体に気が付くヘラ。
みるみる顔が怒りに満ちていく。
「あの女神め!ルキ様に寵愛されているからっていい気になりやがってぇぇぇ!くそっ、くそっ、くそっ!…でも、今はお前の処理ね。ここでお前を処分してしまえば済む話だわ」
「そもそもだ。我が何から生まれてきたか忘れていないか?」
「お前は闇の大精霊なんでしょう?だから闇の神殿に…あれ、魔族だったわよね…どういう事?」
「我は魔族の王と、闇の大精霊の源たる闇の女神の子だ。認めたくはないが、あの大魔王と闇の女神の魂より生み出された者。それが我だ」
「──!?そうだっ、そうだったわ!なんで、なんでそんな事を忘れているの?私がルキ様のご子息を追い出した??いや、でもさっきもあなたを倒せと仰ったわ。そう、だからもう終わった事よ。そうよ、お前はもう用無しってことなのよ!」
「まぁ、そうだろうな。元がルーティアの画策だとしても、あ奴にとっては単なる実験体に過ぎない」
気が付くとカルマはヘラの目の前にいた。
「だから、お前はここで朽ちるのだ」
「なっ!しまった、いつのまに!」
過去の過ちに気を取られ過ぎてカルマの接近に気が付かなかったヘラ。
すぐにカルマに無詠唱で魔法を使うも、カルマのディスペルにより魔法を無効化されてしまう。
「その程度の魔法が我に通じるわけ無いだろう?…命を貰うぞ〈吸魂《ソウルスティール〉!」
「がああああああああっ!!」
しかし、その悲鳴は別なところから上がる。
しかも、目の前のヘラが消えたかと思うと、代わりに一人の人間の兵士が現れた。
「あははははっ、いくら気を取られたからといっても、そこまで接近を許すわけないでしょう?」
ヘラが持つスキル〈
「相変わらず姑息なスキルだ」
「お褒めに預かり光栄よ。ここには私の代わりになるものは沢山いるわ。だから、いくら即死系のスキルを使っても、どうせ死ぬのはここにいるニンゲン達よ」
ヘラの後ろに虚ろな表情を浮かべるニンゲン達が、ゾンビのように蠢く。
既に生気を感じない事から、全員操られているのだろう。
「ならば、そやつらを先に始末するだけだ。恐怖で満たせ〈ホラーナイト〉!」
悪意の塊を具現化したかのような顔がカルマが出現させた魔法陣から無尽蔵に出現し辺りの人間に憑りつく。
するとさっきまで無表情だったニンゲン達が、恐怖の顔を浮かべ逃げまどうのだった。
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