第241話 父娘の愛
カルマとロイドの戦闘を監視用の水晶で視ていたヘル。
途中まで少しは期待していたのだが、大精霊の姿になった時には既に負ける事を確信していた。
「ふん、ロイドのヤツ。可愛がってあげてたのにあっさり死ぬだなんて。…役立たずね。結構コスト掛けてたのにとんだ損害だわ。でも、おかげで時間が稼げたしあとはカルマがここにやってくるのを待っているだけね。ね、王様?」
「は…い。ヘ…ラ…様」
そこには虚ろな目をした王がいた。
ユートに受勲した威厳ある王の姿はそこにはなく、虚空を見つめてただ返事をするだけの傀儡と化していた。
「ちょっと頭を弄りすぎたかしら?まぁ、命令通りに動けば十分ね。あとで影武者に替えればいいし。さて、仕掛けは済んだしそろそろ帰らないとね。憎たらしいあのカルマをこの手で殺せないのは残念だけど、直接やる必要はないし、無駄だな労力だし。ほんと…妬ましいわ。あの方の力を無条件で貰ってるだけの癖に…私もあの方の寵愛を再び…」
まるで嫉妬に憑りつかれた女の顔をしながら、水晶に映るカルマを見るヘラ。
しかしすぐに意識を次の事に移した。
「ま、余計なことに意識を割いていると足元を掬われかねないわね。あとはお前がここに来れば終わりよ」
不敵に笑い、王を足蹴にしながら王座に座るヘルだった。
───とある国で
「お帰りなさいませクロノス様、首尾はいかがでしたか?」
執事の恰好をした、立派な髭を生やした獣人がクロノスを出迎える。
まるで好々爺のような笑みを浮かべつつも、その目は鋭さを失っていない歴戦の戦士のような眼だ。
「ただいまだにゃ。おかげで目的のモノは手に入れたにゃ。これで鍵はあとひとつで揃うにゃ~」
「でありますか。ならば後は次の芽が息吹くのを待つだけですな」
「これ以上自分で開けれないから、それしかないだろうね。次のを感知したらまた教えてくれにゃアクト」
「畏まりました、引き続き監視させます」
アクトと呼ばれた執事は、そのまま部下達に指示を出すために何処かに向かっていく。
クロノスの方は、別の部屋へ向かう。
そこには氷の棺が安置されていた。
その棺の中に少女が一人眠る様に目を閉じている。
「もう少しですべての鍵が揃うにゃ。早く目を覚ますんだにゃ相棒」
そっと棺に触れながらそう言い残すと、クロノスはまたどこかへ旅立つのだった。
───
リンは秘薬を無理やり飲まされてからずっと悪夢を見させられているかのようだった。
自分とは違うナニカが、元自分の体を操りユート達と戦っているのだ。
ただ、それの正体は分かっている。
自分が認めたくないだけだ。
アレはきっと、自分の中のにあった黒い欲望みたいなの。
それだけを抜き取って、更に増幅したもの。
(違う、あれは私なんかじゃない!)
そう叫んでも自分の声は誰にも届かない。
そう叫べば叫ぶほど、認めようとしない自分に嫌悪するリン。
自分の体は目の前にあるのに触れようとしても、精神だけとなったリンは自らの意思で動くことも出来ない。
唯々、もどかしい思いをするだけだ。
そんな時だった。
ヘカティアとディアナが、アリアネル様を連れて一緒にやってきたのだ。
アリアネルはとても清らかな光を放つ石を抱えていた。
どうやらそれをユートに渡す様だ。
魔人と化した自分は、へカティとディアナとの戦いを始めたようだ。
その間にユートはその石を手にし、瞑想をするかのように目を閉じたのが分かった。
ユートから発せられる光が自分に向けて発せられる。
しかしそれを黒い自分がはじき返してしまった。
(ああ…、私が私を邪魔する?)
更なる絶望に落ちかけた時、突然黒い猫が現れた。
特に黒い猫に思い出もない私が不思議そうにしていると、突然その黒い猫の口がバカっと大きく開き、そのまま黒い私を食べてしまった。
(…ええええっ!?何アレ、怖いっっ!)
次は、自分も食べられるんだろうかと怯えていると、『にゃ~ん』と一鳴きしてすぅーっと消えてしまった。
(今のは一体何だったの??)
そうしていると、外の景色がまた映し出された。
より一層の光を放ち、ユートが温かい光を自分に向けて放ったのが分かった。
(ああ、あったかい・・・)
今度はその光が何にも隔たれる事無くリンに降り注ぐ。
心地よい光が、この心の世界に広がっていった。
すると、光の中からユートが現れる。
そのユートは、リンの前まで来るとそっと抱きしめた。
(パパ!パパッ!・・・)
真っ暗で冷たいこの世界で、一番求めていた愛する親の温もり。
求めていたその温もりをやっと感じる事が出来たリンは、玉粒の涙を流す。
そして、ユートの心の声を聞いた。
(俺の愛する娘、リン…。俺が全てを受け止める。だからさ、早く帰っておいで)
(ああっ、ありがとう…。ユートさんは、こんなになっても私を娘として愛してくれるのね…)
そして、リンは泣きながらユートをぎゅっと抱きしめ返した。
その時だ。
優しい声が自分の頭の中に響いた。
『心優しき少女よ、彼の者のチカラになりたいか?』
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