第240話 堕ちた英雄
カルマは一人王宮の奥へ進んでいく。
目指しているのは、王の間。
目的である人物はそこにいるはずだ。
リンの事は主であるユートとニケに任せれば問題は無いだろう。
少なくとも、今のユートであれば負ける事は無いはずだ。
それに先ほど竜姫の双子の魔力が近づくのを感知した。
なぜか聖女の魔力も感知したが、まぁ問題という程ではない。
それよりも、ユートの精神を乱すヘルの存在を許すわけにはいかない。
あの女は
本人の戦闘力は幹部の中でも大したことはないが、計略や姦計に優れていて放っておくとこの先も邪魔をして来る事が容易に想像できた。
(しかし、人質に使えばもっと厄介だったはずなのに使わなかった。何か他の手札を持っているのか?もしや、あれは時間稼ぎ?もしくは陽動か)
ユートを討ち取る事が目的なら、リンを人質にすればもっと容易かった筈だ。
(もしくは単なる嫌がらせ?まさかな…)
途中に魔族の騎士らしき者達が巡回していたが、カルマに気が付くものは居なかった。
さすが幻惑の使い手である幻龍のスキル。
格下の魔族では感知すら出来ないらしい。
しかしこの大広間を抜ければ王の間というところで、スムーズに歩み進めるカルマを待ち受ける者がいた。
「やっときたかカルマとやらよ。ヘル様の主命によりお前の命をここでいただく」
(隠蔽スキルを看過した?どうやら雑魚ではないようだな)
真っ直ぐこちらを見てそう宣言する白銀の騎士。
カルマはすぐに隠蔽を解き、その姿を現した。
「ほう、我を発見出来るとは少なくともそこら辺の雑魚というわけではなさそうだな」
「私はヘラ様の下僕ロイド。私と、コイツがお前の命を奪うものだ」
するとロイドは小さな箱を開いた。
中から出てきたのは、リンを攫った時に現れたという竜の顔を持つ大亀の魔獣タラスクだった。
「なるほど、お前がリンを攫った張本人というわけか」
「ほう、頭が悪いわけではないようだな。だが、既に遅いのだ。…さあ行けタラスク!」
タラスクを1つ咆哮を上げると、どす黒いブレスを吐きだした。
あたりの物がそのブレスに触れた途端に腐食していく。
「なるほど、腐食ブレスか。だが我には届かないな」
カルマは自身の周りに魔力障壁を展開した。
この手のブレスは触れなければダメージはない。
ビュウッン!!
ブレスを煙幕替わりに死角から銀の槍が降ってくる。
「聖銀の槍…?」
「ほう、躱したか?ククク、そうだこれはお前たち悪魔族が嫌う聖銀の槍だ。当たればその傷は治らないぞ?」
ビュウッン!!ビュウッン!!ビュウッン!!
言いながらも、あちこちから槍を飛ばしてくる。
どこから出現させているのか分からないくらいの数がカルマに襲い掛かった。
更に、ブレスを吐きながらタラスクがその巨大な前足で攻撃をしかけてきた。
ドゴーン!と轟音を鳴らしながら地面の大きな穴を開けつつ執拗に攻撃を仕掛けてくるタラスク。
カルマはどちらも回避しながら、魔法で応戦した。
───シャドウジャベリン、───ダークブラスト、───インフェルノ。
無詠唱で魔法を発動させタラスクにすべて命中させるも、すべてタラスクが背負う甲羅にすべて弾かれる。
なるほど、防御力だけを見ればこちらを上回っているようだ。
だが攻撃が通らないのは、向こうも同じこと。
白銀の騎士は、あの槍の攻撃くらいしかしてこない。
そもそも白銀の騎士など魔王軍にいただろうか?
自分が魔王軍を追い出されてからかなりの年月が経っているらしいが、それでも苦手とする神聖魔法や光魔法を扱う魔族は殆ど見たことが無い。
だとすると、目の前の騎士はもしやニンゲンか?
「ふむ、思ったよりも賢く無いようだな。所詮は獣に化けた悪魔ってところだな。期待外れだよ───ではさようなら、消え去れ〈
しまった!
いつの間にか、無数に投げられていた槍が結界を象る魔法陣を描いていたのだ。
気が付いた時には既に遅く、範囲浄化スキルが発動する。
「グオオオオオオオオオオォォ!!」
「ふん、獣にはお似合いの最期だな!」
迂闊にもタラスクに気を取られ過ぎて、白銀の騎士の事を過少評価しすぎていたようだ。
このままでは流石に
そんな時だった。
頭の中でカチリと音がした、気がした。
すると思い出せなかったある事が鮮明に思い出される。
「なぜ…今まで思い出せなかったのか…そうか、そう言う事だったのか…クックック、あの者は随分と面白い事をしてくれたようだなっ!」
全然面白そうじゃない声でカルマが一人呟く。
「はんっ!諦めたか獣め…ん、なんだと、姿が変わった!?」
いつの間にか大精霊の姿になったカルマ。
それと同時に魔法陣を自身の魔力だけで吹き飛ばした。
「なっ、馬鹿な!?タラスク、奴を押し潰せ!!」
グオオオオオッ!と咆哮を上げながら迫りくるタラスク。
しかしそれをカルマは右手だけで抑えた。
いや実際は、重力魔法で押し返しているようだ。
「図体がデカいだけの亀に、我が本当に負けるとでも?だが折角だ、我の本気のスキルを見せてやろう。…我にその力を見せよ【ティターン】!」
タラスクの頭上に大きな魔法陣が現れ、そこから巨大な足だけが現れる。
なんと、そのままタラスクを押し潰してしまう。
グギャアアアアアアッ!!と悲鳴を上げながら逃れようとするも、カルマの重力魔法で身動きが取れず、逃げる事すら叶わない。
背中の甲羅が砕け散ると、そのままグチャっと体が押し潰された。
「なんだとっ!あのタラスクがたったの一撃で潰された!?」
「どこを見ている?」
「なっ!?がぁっ!!」
カルマはロイドの顔をがしりと掴むと、そのまま〈吸魂〉を発動して躊躇なく相手の生命を奪っていく。
もし主のユートがいたら止めていたかもしれないが、この男の場合はそうもいかない。
王国騎士団長ロイド。
かつて、国の英雄として称えられたもの。
それがこの男の正体だからだ。
いつから内通していたか分からないが、リンのように今さっき配下になったわけではないだろう。
そんなヤツにあの希少な魔獣である、タラスクを預けるわけが無い。
それなりに魔族に信頼されている証拠であろう。
なので、ここで生き延びても死罪は免れないだろう。
それならばこの場で処分するのも変わらないし、我が魔力の回復に役立つのだし光栄に思うがいいと自己解決するカルマ。
ロイドは完全に生命力を失い、その場に崩れ落ちた。
しかもニンゲンのはずなのに、肉体が崩れ落ちて灰となっていく。
全てが灰になったあとには、ロイドが装着していた白銀の鎧がガランと音を立てて転がるだけだった。
「既にニンゲンをやめていたか。…哀れな男だ」
ちなみにタラスクの方だが、一応素材となりそうなものは自分のストレージに入れておく。
ユート程ではないが、このくらいの量なら仕舞っておけるだろう。
ロイドの鎧はそのまま放置することにした。
ちなみにストレージは、本体を取り戻した時に習得した。
というよりも、元々持っていたスキルが復活したと言った方が正しいだろう。
しかし…さっきの鍵が開くような感覚だが、あれはきっと主に起因するものに違いない。
前にフレイアが主の『覇王』スキルを解放したときにも、同じような感覚を覚えた気がする。
その時は自身にそれほどの変化を感じなかったが、今回は急に今まで思い出せなかった事が思い出せた。
そして、そのおかげでなぜ記憶に曖昧な部分があったのか判明することになったのだが…。
「ふん、まぁいい。まずは先にヘルを仕留めなくては。考えるのはその後でも遅くないだろう。それにあの女も知りたいだろうからな…」
そんな事を呟きながら、カルマは奥にある王の間へと続く扉へを歩き出すのであった。
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