第221話 カルマが知る者

 まずはこの街の中心から東側までを制圧する必要がある。

 東側には港があるからだ。


 うちのユニオンメンバーが到着したら、ギルドにいる冒険者達はもう一度戦闘に参加する事になった。

 逃げ遅れた住民や、他の地区で戦っている冒険者の救援に向かってもらうためだ。


 それまでには、ある程度片付けなければいけないな。

 特に、ここの冒険者では倒せないような大物を中心に討伐する必要があるだろう。


「ユートさん、私も行きます!」


 俺が外に出ようとすると、アリアネルが『待ってください!』と言って俺の腕をつかんだ。

 これから激戦地区に向かうのだ、彼女がいては存分に力を発揮することが出来ない。

 その為、ここに置いていく予定だったが…。


「アリアネル。正直に言うと戦闘の邪魔だ。せめて街を制圧するまでは、ここにいてくれないか?」


「しかし…」


「俺の仲間ペット達の攻撃に巻き込まれて死にたいのか?」


「これでも私もSランクのプリーストなんです!攻撃力は無くても、回復魔法でならかなり役に立つ筈です」


「んー、無理だろうな。俺らの戦闘に耐えれるなら逃げる必要なんてなかった筈だ。それに回復出来るのなら、ここにいる負傷者をどうにかしてくれ。彼らを復帰させてくれた方が幾分か助かる」


 大物は倒していっても、小物がうじゃうじゃいるので人手がいくらあっても足りない。

 小物とはいえ、一般人には脅威でしかないため、これらも討伐する必要があるが、俺らだけでは手が回らないだろう。

 それを考えると、復帰させて戦力を増やした方がいいのは明白だ。


「うう…分かりましたわ。それでしたら治療を施した後、他の冒険者達と一緒に出ます。それなら問題ないでしょう?」


「はぁー…、わかった。好きにしてくれ。但し、せっかく拾った命なんだから絶対死ぬんじゃないぞ?」


「はいっ!」


 俺の背中を見送るアリアネルを置いて、俺も戦場へと向かうのだった。


 ───


 カルマはその頃、上空を旋回している顔だけの悪魔達と対峙していた。

 広場に浮かんでいるやつよりも一回り小さいが、それなりの力を持っているようだった。


「──とは言っても、所詮は雑魚だな。我を前にして固まっているなど愚の骨頂よな…消えろ!〈深淵の門アビスゲート〉」


 空中に出した門は、ブラックホールかの如く全てを吸い込んでいく。

 吸い込まれた瞬間に圧縮され、瞬時に潰された悪魔達は塵になって消えた。


「こやつらは、あの魔物の眷属のようだな。あんなものは我が居た頃にはいなかった気がするが…」


 さすがに全部の魔物を把握してはいないかと自嘲気味に笑い、相変わらず無詠唱で魔法をどんどん繰り出しく。

 出現させた闇属性の槍で、次々に魔物達は串刺して絶命させる。


「そろそろ主も出てくるか…。その前にあの顔のヤツは仕留めなければなるまい」


 そう呟きながら、魔獣の姿のままで珍しく詠唱を始めるカルマ。

 力量では格下だと感じているが、何やら不気味な気配がするのだ。

 それなので、何かをしてくる前に一気にカタを付けようと考えた。


 だがしかし、カルマの詠唱に気が付いた魔物はすぐに攻撃を仕掛けてきた。


 見えない殺気が迫ってくるのを感じて、詠唱を止めて回避行動をとるカルマ。

 しかし…


「グッ?!」


 カルマの体が無数に刻まれる。

 その体のあちこちから血しぶきが飛び散った。


 すぐに"自己再生"を施し傷を塞ぐも、新たな攻撃が次々と襲って来た。


「これは…空間を切り裂く魔法か?…ちっ、まるで大魔王のスキルを食らっているかのようだな」


 そういいつつ、段々と相手の攻撃を把握しつつあるカルマ。

 ネタが分かればどうという事もないという風に、攻撃を躱すことに成功する。


『!??』


 自分の攻撃に耐えているだけでも驚きなのに、それを躱すなんて芸当をするものなど今までいなかったのであろう。

 その魔物は驚嘆の表情を浮かべた。


「気色悪い顔で、我に変な表情を見せるな。…お前はもう終わりだよ」


 そう言った瞬間に、魔物の周りを取り囲むように無数の魔法陣が現れた。

 そのすべてから赤黒い槍が飛び出し、次々に魔物を串刺しにする。


 そのうちの数本は見えない壁に弾かれたようだったが、全てを防ぐことは出来ないようで体(顔?)のあちこちに突き刺さった。


 さらに、そこから生命力が急激に吸い出されていく。


「ふん、我の実験台に成れたことを喜べ。これは〈吸命の魔槍ドレインランス〉、お前の命を吸い尽くすスキルだ」


 赤黒い槍にすべての生命力を奪われた魔物は、その場でそのまま息絶えた。


 刺さっていた槍は霧散したかと思うと、そのままカルマに吸い込まれていきカルマを回復させる。


「あらら~? 変な魔獣が私の"デビルヘッド"を倒しちゃった~?ねぇ、あんた何なの?」


 顔の魔物、"デビルヘッド"を倒したと思ったらその後ろに魔法陣が現れて、中から一人の魔族の女が出現した。

 その魔力に覚えがあったカルマは、すぐさま距離を取った。


「あれ?…もしかして私を知っている~?ふふふ…、じゃあ、逃げるなんて無駄だって分かるわよね?さあ、りあいましょうよ!!」


 狂気に彩られたその魔族から、カルマは一方的に宣戦布告を言い渡されるのだった。

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