第222話 ヘラ・マデウス
「あれ?…もしかして私を知っている~?ふふふ…、じゃあ、逃げるなんて無駄だって分かるわよね?さあ、
狂気に彩られたその魔族から、カルマは一方的に戦闘開始を言い渡されたカルマは既に臨戦態勢だ。
この魔族の女は知っている。
何せ、自分が魔族側に居た頃、既に魔族の幹部だった者一人だからだ。
名前を"ヘラ"という。
自称、”大魔王の愛人”だと嘯いているが、その本当の肩書は、なんと宰相だ。
そんな彼女が前線に出てくるなど、ここ数十年無かった事だ。
だが、それは戦闘能力が無いわけではなく、ただ職務が忙しいのと、彼女自身が大魔王から離れたくないからだと言われている。
その証拠に、魔族の女性の中で一番の魔法の使い手と名高い彼女は、その褒美として大魔王と同じ力を一部与えられている。
それは『空間操作術』というスキルだ。
どの属性にも当てはまらないそのスキルは、空間そのものに干渉する力を持っているため、空間自体を遮断したり、空間と空間を繋げて飛び越えたり出来る強力なスキルだ。
どうやら大魔王は、任意のスキルを与える事も出来るようだ。
あのアモンもそのスキルを授かっていたのが、その証拠だ。
「もう、魔物に私のスキルを使わせるのは色々と大変なのよ?いくら大魔王様が作った魔物だからって、あんなに安定してスキルを使える個体は少ないんだから!」
「それは大変そうだな"ヘラ"。そんなにヒステリックにしているとシワが更に増えるぞ?」
「なぁ~んですって!?秘薬を使っているから、そんなもの無いわよっ!!……その口ぶり、その魔力。なるほど、前とかなり姿も魂も違うけど、やはりカルマなのね?まさか人間のペットになってるだなんてっ!フフフ…なんと滑稽な事でしょうね?」
お互いの口撃が飛び交う。
互いにイライラが募っているようだが、決定打にはなりえていないかに思えたが…。
「ふん、お前の小さき脳みそでは我が主の偉大さを理解することは出来まいよ。…あの愚鈍な王に隷属されているお前ではな」
「なああんですって!?あの方に拾われて力を授かったくせになんと恩知らずなの?この場で、貴様の首を跳ね飛ばしてあげるわ!」
愚弄されて完全に頭に血が上ったのは"ヘラ"の方だった。
相変わらずキレやすい性格の様だと、カルマはほくそ笑んだ。
───彼女の名前は、ヘラ·マデウス。
魔王軍最高幹部のひとりである彼女は、大魔王軍の宰相であり、愛人(自称)である。
まだ力無き頃に大魔王と出合い、その力に魅了された彼女は彼に取り入ろうと様々な事をし、そこまでのし上がってきた者。
彼女の家系は由緒正しき魔族領の大貴族であり、その財力と権力をフルに活用している。
特段の強さを持ち合わせていた訳ではないが、生来の魔術のセンスと魔力の高さを活かした魔法による戦闘では、他の追随を許さぬ程となっていた。
だが、ある時に大魔王が拾ってきた幼子達を見た時に衝撃を受けた。
幼子でありながら、既に自分よりも魔力の高い者がいたのだ。
彼女は嫉妬した。
自分の努力を存在自体が否定してきたのだ。
『お前の努力などその程度なのだ』と。
彼女は数百年も掛けて彼等の追放を計画した。
大魔王が気づかぬように、ゆっくりゆっくりと。
嫉妬の炎を焚べらせ続けながら。
そして、ついにその時は来た。
数年前の事。
彼女の策略が功を奏し、一人の魔族幹部候補が追放された。
その内容はどうでもいいものばかりだったが、誰もがその事を気にする事は無かった。
"ヘラ様が言うのだから、間違いは無い"と。
既に上層部の幹部達は、彼女の傀儡に成り果てていた。
しかし、彼女はその時は自分が最大の失策を犯したのだとその時は気が付かなかった。
彼女は知らなかったのだ。
ソレが彼の寵愛を受けているのでは無く、
そして最後まで気が付かなったのだ。
彼の大事なおもちゃの一つを勝手に捨ててしまった為に、失望されていたのだと。
彼──大魔王ルキデウスの寵愛を失ったのは自分の行いのせいなのだと。
本来なら、こんな最前線に送り込まれる事はありえない地位にいたが、ルキデウスの勅令で王都侵攻を任されたヘラは、そうとも知らず嬉々として指揮陣頭にいるのだった。
「お前如きに、私の魔法に勝てるのかしら?」
ヘラの魔法は、無属性であり防御する事ができない。
受けた瞬間に普通なら体が二分されてしまうほど強力なものだ。
それは、カルマだとしても同じだ。
だからカルマはその全てを回避してみせた。
「はははっ!いつまで逃げれるかな?ほーらほらっ!」
縦横無尽に空間を切り裂くヘラ。
涼し気な顔で(魔獣の姿なので傍からは分からないが)回避するカルマ。
カルマが回避する度に、街の建物がどんどん瓦解していく。
「このままだと、街がなくなるわよ?中に逃げ込んだ人間共は生きているかしらね?」
安い脅しを掛けてくるなと思いつつも、スルーを決め込むカルマ。
悪魔の眷属でもあるカルマならば、魂のある者の検知など容易いのだ。
そこに生きている者はいないのは確認済なのである。
「燃えろ…ヘルファイヤ!イビルフレイム!」
黒い炎がヘラを包み込む。
純粋に高魔力のカルマが放ったことで、かなりの大ダメージを与える。
「くぅっ!小癪なヤツ!…昔からあんたの事はキライだったのよ!すべて切り裂け、〈次元断〉」
ヘラが飛ぶその場所から、カルマに向かって真一文字に空間が斬られた。
発動したそれを、すぐさま回避するカルマ。
さすがのカルマでも、食らえば真っ二つだ。
だが頭に血が上っているヘラの狙いが甘いのもあり、回避には苦労しない。
それどころか、更に追撃をするカルマ。
「そろそろ地に降りて貰おう。そして、地に伏せろ。グラビティフォール!」
相手のスキルを使っている隙を狙い、ヘラの真上に魔法陣を呼び出したカルマ。
そこから抗う事が困難な重力の滝がヘラを押し流す。
「ああああああああああああっ!?」
油断していたヘラは、一瞬にして空中から落とされ地面に叩きつけられた。
「こんな程度も躱せないとは、腕が鈍っているのではないか?昔はもっと腕の良いウィザードだったはずだが」
「が、はっ。人を地面に落としておいて言うセリフがそれなの?お前と違って、もう成長期はとっくに終わったのよ。ただでさえ最近前線に出ていなかったのに、お前を狩りに行けだなんて、ルキ様は…」
ヘラはもう戦意を失ったかのように啜り泣き始める。
戦場でそんな事をしたら、普通に殺されるのがオチだが、相手がカルマなら油断をすると思っていた。
実際、カルマは思ったよりも脅威と感じないヘラを相手に
──そう、まだ戦闘中だというのにだ。
なぜか、相手に興味が湧かなくなっていた。
「んん!?これは…」
「ははは、掛かったわね!まだこんな所でやられるわけにはいかないのよ。せいぜい私の可愛い子達と遊んでらっしゃい」
意識を強制的に誘導するスキル『意識操作』スキルをカルマに掛けることに成功したヘラは、空間操作魔法でワープすることで逃亡を成功させた。
それと同時に、新たな敵がそこに現れた。
「「「グオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオォォ!!!」」」
そこに現れたのは、3体の巨人の"タイタン"だった。
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