第212話 覇王の号令

 俺は言われた通り、祭壇にあがりフレイヤの前に立った。


『我は、【火焔の大精霊フレイア】。試練をくぐり抜けし資格者に我の加護を与えん!』


 フレイヤは俺に両手を差し出し、そこに俺の手を重ねた。

 するとそこから魔力が注ぎ込まれてきた。


【スキル『火焔フランマ』が覚醒しました】


『これで加護は与えたわ…あら、ちょっと貴方面白い素質を持っているわね。せっかくだから、その素質を開花させてあげる。…あなたが持つ、扇動者インスティゲーター指揮者コンダクター司令コマンダー、そして各支配ルーラー系スキルを統合して『覇王』スキルの一つを解放しましょう。

 我、ここに"世界の管理者"の力を使い、汝ユートの力を解放する!!』


 有無を言わさずフレイヤがそう宣言すると、俺の中の魔力がうねり始める。

 ランクアップの時に感じた魂が変化する感覚が甦る。


「うおおおおおおおおおおおっ!!」


 堪らず声を上げるも、ニケもカルマも見ているだけという事であれば、問題ないと思っていいか。

 余計な事をすると、カルマはすぐに止めに入るしな。

 ふたりが止めに入らない事に安心し、そのままチカラを受け入れる。

 

 すると次の瞬間に俺の体が金色に輝いて、暫くするとアノ声が頭の中で聞こえた。


【いくつかのスキルが統合され、スキル『覇王の号令』を取得しました】


『はい、覇王のスキルを一つ解放してあげたわよ。これで前よりもスキルが強力になったはず。悔しいけど、オッタルを倒した褒美よ。さあ、それで満足したでしょう?』


 一体どんなスキルを獲得したというのか。

 だが、スキルを確認する前に大事な事を思い出す。


「ああ、そうだ!このパールをから、役目解いてもらっていいか?」


『はいはいいいわよ、好きにして。その代わり、暫くこの神殿を閉じるわ。貴方みたいな人が何人も来てもらっても困るし、オッタルがいないんじゃ私の身も危ないし。…さぁ、早く出てって頂戴。はい、では、さようならっ!』


 最初の威厳ある態度もかなぐり捨ててフレイヤはそう言うと、魔法陣を出現させたかと思うとそこにポータルゲートを召喚する。

 どうやら、本当にさっさと追い出したいらしい。


 取り敢えず、ここの用事もすべて終わったので素直にゲートに入り外に出た。

 出た場所は、神殿の入口前だった。


 俺ら全員が出るとすぐにゲートは閉じ、ゴゴゴゴゴと重い音がしたかと思うと神殿の入口のの扉が閉じていく。

 最後にゴオゥーーンと轟音がして、扉は完全に閉じられた。

 

 一応開くのか試してみたが、先ほどの宣言通り完全に閉じてしまったようだ。

 ビクともしなかった。


 これでパールの役目自体が意味を成さなくなった事になる。


「あの、先ほどフレイヤ様とお話していた内容って、どういう意味ですか?」


「あー、それはキャンプ場に戻ってから話をしよう。ここでは落ち着かないし」


 そう言って、パールをニケに乗る様に促す。

 もう3度目ともなれば、慣れたのか素直に乗ってくれた。



 ────数分後。


 文字通り、飛んで帰ってきた俺らを見たメンバー達は、若干ボロボロになった(主に装備が)俺を見てそんな激しい戦いになると思っていなかったためかとても驚いていた。


「なんにせよ、無事に帰ってこれて良かったです。流石にカルマとニケがいてユートさんに万が一は無いと思っていましたが、やはり、一筋縄ではいかないんですね」


「ああ、俺も驚いたよ。まさか、テイマーなのに今更仲間ペットは使うなと言われるとは…。"幻龍"と"覇王"の力が無かったら瞬殺されていたと思う」


はそれほどの相手だったんですか!?」


 俺の話を聞いて驚くカイト。

 無理も無いだろう、"幻龍"と"覇王"の力を使わなくても今のカイトより俺の方が強いのだ。


 まぁ、本来の守護者の末裔は目の前にいるのだが詳しい話は今度ゆっくりなと言って、とりあえず落ち着ける場所を作って貰う。


 パールと今後の話をしないといけない。


 しばらくすると呼ばれたので行ってみると、簡易テントの中にガントが用意してくれた木製のテーブルと椅子が設置してあった。

 急ごしらえにしては上出来だろう。


 さっそく待っていたパールを招き入れ一緒に中に入った。


「さっきの話の続きだけど、いいか?」


「はい、是非お願いします」


 パールが戻って来たと聞いて、メイア達と一緒にペルラも戻って来た。

 テントに入ってくるとパールの隣にちょこんと座り、興味津々にこちらを見ている。


 俺は交渉する姿勢でパールたちの対面に座り、話を始めた。

 メイアにも必要だからと隣に座らせた。


「まずは案内してくれた事を感謝する。 おかげで無事加護を得ることが出来たよ、ありがとう」


「いいえ、最後に一族の役目を一部でも果たせて…こちらこそ感謝の念が尽きません」

「そうかい?それは良かったよ。 それで、最初は君たちから商品を仕入れるだけだと考えていたんだが、現在の境遇や今後の事を考えて違う提案をしたいと思っている。 …うちの屋敷にきて、専属の職人として働かないか?」


 今は、この村からは冷遇されているせいでまともな生活がままならない二人。

 それでいて本来の"火焔の守護者"としての役目は降ろされた。

 

 それは後ろ盾を完全に無くしたことになるが、逆にいれば役目にも縛られなくなったという事にもなる。


 あとは本人たちがそれを由とするかどうかだ。

 どうかな?と俺はパールの返答を待つのだった。




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