第213話 職人のお給金
「ありがたいお言葉ですが、私達がお役に立てるんでしょうか?あの布を織るくらいしか出来ませんが…」
「そうだ。そして、その布…シルク生地が欲しいんだ。しかも結構沢山な。あれは知る人からみれば高級な素材なんだ。それを自分の所で生産出来れば、色々と助かるんだ。もちろん、一度雇ったら本人が希望しない限り解雇はしないと約束する。手を貸してくれないだろうか?」
シルク商品なんて思いつくだけでも無限に存在する。
そして、その特殊性だけに一生の職にしても問題ないだろう。
もちろん無理強いするつもりはないが。
「材料となる糸が特殊な蛾の繭から取り出すので、それの環境を作って貰わないといけませんが、それが可能であればどこへでも行きます。 その…ペルラも連れていけるんですよね?」
「子供を置いて行けと言う奴がどこにいる?当たり前だろう? 大丈夫、親子二人分の部屋くらい用意は出来るから。あとは、衣・食・住はこちらですべて保証する。それに、ちゃんと給金も出すから心配しなくていいよ」
ちなみにゼフ達の給金は、ゼフに任せている。
なので実際どのくらい貰っているかは俺は知らないが、特に困っている感じは無かったので大丈夫だろう。
しかし、今回は職人として雇うので使用人とは扱いは別になる。
「こんなの事を聞くのは失礼かもしれませんが、どのくらい貰えるんでしょうか?」
「んー、最低月金貨2枚ってところかな」
「えええっ!?そ、そんなに貰えるんですか!?」
え、結構最低限の給金だと思ったけど、こっちの世界だと意外と貰えてる方になるのかな?
感覚的には、1銀貨1万円なので、1金貨は10銀貨相当らしいので金貨2枚なら20万円ほどだと計算していたんだが…。
衣食住もついてるから、これくらいで十分だとは思っていたけど。
思ったよりも好感触だな。
「あとは、シルク商品を売った場合にでた利益を一部還元するつもりだ。だから頑張ればもっともっと稼げるから、頑張ってくれよ?」
「本当ですか!?それならペルラに苦労を掛けないで済みます…。ありがとうございます。今後ともよろしくお願いいたします」
パールを立ち上がってから、お辞儀をしながら礼をしてきたので驚いた。
こっち生まれでお辞儀する人は初めてみたかも。
後日聞いたら"白夜叉"族の礼の仕方なのだそうで、鬼族の一部はそうするらしい。
「それでいつからそちらで働けばよろしいのでしょうか?そもそも、お住まいはどちらに?」
「ああ、俺は西の大陸のサニアってところに居を構えている。だから、そこへ来てもらうよ。で、いつからかと言えば、明日すぐにでもって感じかな」
「ええ!?明日ですか?というか、西の大陸ですか?!どうやって行けばよろしいのでしょうか?」
「そこもすべてこちらで準備する。取り合えず、今日は小屋に帰って貰って、明日は道具の整理とかしておいてくれ」
「分かりました、では道具の整理はしておきます…。あの、原材料の虫についてなんですが…」
「そこは、明日飼育環境を見させてもらうよ。説明はその時がいいかな」
「わかりました。では準備しつつ、明日小屋でお待ちしております」
ペルラは、『おしごと、もらえたの?良かったね、おかあさん!』と自分なりに理解したようだった。
そんな風に喜ぶ娘を見て、パールは目の端に涙を浮かべて微笑むのだった。
二人はニケに小屋まで送り届けさせ、メイアと今後の事について打ち合わせをしていた。
明日の準備の事や、移動する際の二人をどれに乗せるかなどだ。
「メイア、これからあの親子の事も頼むな」
「勿論です旦那様。旦那様が選んだ方に間違いはないでしょうから。…それにペルラは可愛いです」
おや、意外と子供好きだったみたいだ。
ふふふと微笑みながら、私も産みたかったなと小さな声で言っていたのは聞こえていない事にしておいた。
────ユート達が出ていった直ぐ後。
『はぁ…、やっと出てってくれた。数年ぶりに人がやってきたと思ったら、いきなり覇王の資格者が来るなんて嫌になっちゃうわ。本当は、オッタルの全ての技を受けきれたら合格にするはずが、全部の技を出し切る前に倒されるだなんて、誰が思うものですか…。それにしても、大精霊を2体も引き連れたテイマーねぇ。これは面白いものが見れそうだわ~』
ふふふふ、と笑うフレイヤ。
その傍らには蘇生して魔力回復中の子供の姿のオッタルと、子犬ほどまで小さくなったヒュドラの姿があった。
ひとりと一匹は主を心配そうに見上げるのだった。
フレイヤは神殿中の眷属の力をすべてオッタルに注ぎ込み始めた。
オッタルはマグマの様に真っ赤に燃え上がり、体がどんどん膨れ上がっていく。
ついには太陽の光かのように眩く光り辺りを熱で溶かす勢いだ。
その光を吸収し、ヒュドラもどんどん大きくなっていった。
『ふう、ここにいる眷属はこれで終わりね。数百年分の精霊達をこれだけ注いでも半分くらいね。あとは外の世界で精霊を集めましょうね。あいつらが何を仕出かすか見物でもしながら、あなた達を元に戻してあげるわね?』
愛しそうにオッタルとヒュドラを撫でつつ、今度は楽しそうに笑うフレイヤ。
そして更に呟く。
『さーて、"覇王"ね…。あの"白の女神"の忘れ形見が、この世界にどんな影響を与えるのかは今から楽しみね…』
しばらく神殿に、フレイヤの笑い声が響き渡るのだった。
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