第211話 激高のフレイヤ

 『な、お、お前たち。眷属かと思ったが大精霊の本体だと!?ど、どういうことなのだ!どうしてここにいる?!』


 困惑しながら慄くフレイヤ。

 だがそれは次第に怒りの表情を取り戻していく。


『ええい!私の可愛いオッタルを倒してしまうなんて!元の魔力を蓄えるのにどれだけ時間が掛かると思っているのよ!』


 あれ、なんか雰囲気が変わった?


『このまま帰すものか!いでよ私の可愛い子、ヒュドラ!』


 その乱れぶりは先程までの威厳ある姿はなく怒り狂う女そのものだ。

 その怒りのままに新しい眷属を召喚した。


 それは、巨大な炎の蛇の集合体と言えばいいだろうか?


 一匹一匹が巨木程の胴を持っており、それが巨大な六本足の身体から計5本ニョキッと生えている。


「ヒ、ヒュドラ…」


 神殿に所狭しと現れたヒュドラに睨まれ、恐怖に耐えれなかったパールは気を失ってしまった。


 倒れた彼女を守るようにしていると、俺の前に魔獣化したニケとカルマがいた。


「ここからは我らがやりましょう」

『主様は、指揮をお願いします』


 分かったと言う前に、すぐにスキルを発動する。


「アニマブーストV!ビーストコマンダーⅤ!デーモンコマンダーⅤスピリチュアルコマンダーⅤ!…彼の者に力を!〈天啓〉!」


 掛けれる補助効果を全て掛けていく。

 最大にブーストされたカルマとニケは金色に光っている。


 さっきの戦いで俺は"幻体龍神"を使ってしまったため、暫くは発動出来ない。

 ここは二人に任せる他は無いだろう。


 念のためSPポーションを使い、補助するスキルを使えるように備えておく。

 ついでに、スキル〈祝光〉を使って俺の疲労と<聖浄>を使ってパールの気絶を回復しておいた。


「わ、私は…あ、ヒ、ヒュドラが…」


「落ち着けパール。俺の仲間ペットの二人が倒してくれる。安心して見ていろ」


「は、はい。…分かりました、せめて邪魔にならないように下がっていますね」


 足手纏いになることを理解して、恐怖で体を震えさせながらも相手の攻撃範囲に入らないように下がってくれるパール。

 理解が早くて助かる。


 カルマが早速攻撃を仕掛けていく。

 重力魔法を操る事で空中を自在に移動出来るカルマは、ヒュドラの吐く炎を易々と回避してみせた。


 更に回避するタイミングに合わせて、エビルジャベリンを何発も同時に放つ。


 よく見るとヒュドラの頭上と足元にそれぞれ大きな魔法陣が出現している。


「そのまま、黙っているがいい。グラビティフィールド!」


 上下から強力な重力が発生して、ヒュドラの巨体が空中に固定される。


『何あれ、あの巨体を浮かせるだなんて!なんて常識外れな魔法なのよ?!これだから"原初の魔法"を使えるヤツは…!』


 10Mあろうかという巨体を持ちあげられた姿を見て、驚愕の表情を浮かべるフレイヤ。

 それにしても、原初の魔法ってなんだろう?

 今まで耳にした事が無いな。


「ふん、我らよりも遥かに長く存在するお前の研鑽が足りぬのだ、ニケ!」


『もう準備は終わっています。〈天嵐(てんらん)〉!…〈天雷・閃〉!!」


 複数の竜巻と強力な雷がヒュドラを巻き込みダメージを与え続け、更に極大の青い稲妻を纏った光閃が何本もあるヒュドラの首を貫いてはじけ飛ばした。

 たったの数分でヒュドラの首は残り2本となった。


『ああ!私の可愛いヒュドラがっ!!』


 残った首で凄まじい量の炎のブレスを吐きだすも、ニケの風の防壁がすべてを弾き返す。

 こちらには僅かな熱気を届けるだけで、なんのダメージもない。

 能力UPのスキルを使っているとはいえ流石だな。


『それで終わりですか?主様と違い、お前の主人は育成が得意ではないようですね。それでは、さようならです…ミラージュエクリプス!!』



 ニケが使う大魔法により出現した電磁波のような細かい雷に覆われ七色の光に包まれ、その光の中で七色の雷に焼かれヒュドラは消滅した。


『な、な、私の可愛いヒュドラが!!』


「こんな図体だけの雑魚を何匹出しても、我らには敵わないぞ?まして、我らの主に強化されている我らは、本気を出したお主自体が戦いに参加しても、倒すのに数分も掛かるまいよ。やってみるか?」


 眼前にまで迫るカルマに気圧されて、後ずさるフレイヤ。

 それを見下ろすように睨みつける黒いオーラを纏うカルマ。


 うーん。

 いつ見てもこの光景は、こっちが悪者に見えるな。


 だが、オッタルをけしかけてきた時点で、俺も死ぬかも知れなかったのだ。

 フレイヤには同情の余地はないだろう。

 せめて素直に負けを認めて欲しい所だな。


『あなたは大精霊の試練であることを忘れて、主様の命を危ぶもうとした。その行為を断罪し、ここで代変わりさせてもいいんですよ?』


『ま、まって!わ、分かったわ。分かりましたよ…。愛しのオッタルもヒュドラも倒されたんじゃ、もう打つ手はないし。それに確かにあの男は、『覇王』たる資質を見せたわ。だからもう、私の加護を与えるのに異論はないわよ。はぁ、分かったわよ、すぐにやらせてもらうわよ…』


 そう言うと、そそくさと祭壇に向かうフレイヤ。

 ムシャクシャしているのか、髪を無茶苦茶に掻きむしっている。


「ふ、、初めからそうすればいいものを…。だが妙な真似をしてみろ。…この世界から消すぞ」


『!? もう、分かってるわよ。…だから原初の大精霊はキライなのよ!さあ、そこの男…ええと、ユートと言ったかしら?すぐに儀式をするからそこの祭壇に立ってくれる?』


 すっかり自棄になっているフレイヤだが、ちゃんと仕事はしてくれるようだ。

 やっとこれで、フレイヤからも加護を受けれるようだ。

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