第205話 絹織の親子
「店主、これはシルクじゃないか!なんでこんなものが?」
「おや、兄さんこの生地をしっているのかい?たまに物好きな人間が買う事があるが…そうか、人間なら破れないのかねぇ」
「店主、これはどこから仕入れたんだ?」
この世界のしかもこんな所で絹に出会うとは思ってもみなかった。
そういや、シルクの服や下着なんて王国の服飾店でも見かけなかったな。
生産量が少なすぎて、あっちにまで流通していないのか?
もしくは、貴族や王族しか使っていない程高級なのか、どちらかだろうな。
「これは…この村の外れに昔から住んでいる親子が持ってくるんだよ。耐久性が無いから、お祭りの衣装くらいにしかならないだよねぇ。だからあまり高い値段で買ってやれないので、忍びないんだよ」
村の外れに住む親子か。
何やら事情がありそうな気配だな。
「それにウチらと違う種族でね、しろっちくてあんまり喋らないし。このテカテカした服を着ているからさ、他の村人から気味悪がられているんだよねぇ」
「へぇ…その親子はサラマンドラ族じゃないのか?まぁとりあえず、その反物全部売ってくれ。いくらだ?」
「えっと、1本銀貨1枚ってところだから…10本で金貨1枚だ、買えるのかい?」
そういうオバちゃん店主は、値踏みするように俺を見る。
俺って、お金持って無さそうに見えるのかな?
「その親子から高く買ってあげれないって言ってた割には、結構な値段だな。まぁ、いいよ。はい、これね」
そう言って、躊躇なく金貨を1枚渡した。
まぁ、それでもかなり安価だと言える。
「本当に買うのかい?!いやぁ〜、ありがとうねぇ~。私も助かるよ」
ガハハと笑いながらバンバン背中を叩いてくる。
地味に痛いし、って俺にダメージを与えているだと?!
…恐るべしオバちゃん店主。
「イテテ…いやぁ、こちらこそいい物買えたわ。…それで、その親子の家は分かるかい?出来たら場所を教えてくれないかな?もし在庫を持っているなら、もっと欲しいからさ。出来るなら、ちょっと会ってみたいんだ」
どんな種族なのか想像もつかないが、生活がギリギリ出来るかどうかくらいの値段で絹を作っているなら、少し色を付けてあげるだけで、直接買い付けすることも可能かもしれない。
「あんた物好きだねぇ。まぁ、別に構わないけどさ。ほら、そこから森に向かう道が見えるだろう?あそこをずうっと進んでいくと、その親子が住んでいる小屋がある筈だよ。あんた強いらしいから心配はしないけど、大きな虫の魔物とか出るから気を付けるんだよ?」
「そうなのか。教えてくれてありがとうな!また、来るよ」
「まいどありがとうね~!」
大きな手を振って見送ってくれる店主を後にして、言われた道を進んでいった。
最初は徒歩で向かおうと思ったが、途中から面倒になったのでカルマに魔獣化してもらいニケと二人でカルマに乗って移動した。
「そう言えば、カルマに乗るのは初めてですね」
「ふん、主と一緒だから乗せてやるのだ。感謝するのだな」
そんな二人の会話を聞きながら、どんな人物が待っているのか一人わくわくしていた。
しばらくすると、森の中に入った。
言われていた虫の魔物は出てこなかったが、遠目で何かに見られている感覚があった。
「どうやら、我らを警戒して出てこないようです。格下なりに相手の力量を見計らえる事は褒めてやろう」
「いつも上からだなお前は。しかし、事実こっちの方が強いから出てこないだけなんだろうな」
ものの数分で店主が言っていた小屋に到着する。
小屋の前には、誰かがいるようだ。
近づくと、人間だろうか、少女がそこに立っていた。
しばらくするとこちらに気が付いたようで、その少女が驚いた顔でこちらを見たかと思うと。
「おかあさんっっっ!化け物が襲って来た~!!」
と叫び、小屋の中にバンザイポーズしたまま一目散に逃げ込んだ。
どうやらカルマを見て、魔獣が襲ってきたと勘違いしたのだろう。
少女は白い着物を着ていたので、間違いなく絹を作っている親子の子供の方だろうな。
小屋の中からどたばたと大きな音が聞こえて、しばらくするとしーんとなった。
こりゃあ、どこかに隠れてしまったかもしれないな。
取り敢えず中に声をかけてみようか。
「こんにちわ~!シルクを作っている方がいると聞いて来たんですが誰がいますか~」
白い少女を見たのに、わざと誰かいないかを確認する。
返事がなければ、今日は一旦諦めるしかないかもしれない。
しばらく待ってみると…
ギイイイイイっと鈍い音がして、中から真っ白い顔に真っ白い長い髪の女性少しだけドアを開けてこちらを覗いてきた。
一瞬雪女か?と思ったがちょっと違うようだ。
「あら…もしやニンゲンですか?珍しいですねぇ、ここに何の用事ですか?」
「突然訪問してすいません。私はユートと言います。下の村であなた方が織った布を買いまして。その素晴らしい布を織った方にどうしても会いたいと思い来てみたのです。あ、家は布を購入した店主に教えてもらいました」
俺がそう説明すると、今度はちゃんと扉を開けてこちらに出てきた。
ちなみに少女がドタバタしている間にカルマも人化しているので、どこにも魔獣はいない。
「もう、ペルラ!魔獣なんてどこにもいないじゃない。すみません、私の娘が大騒ぎしてしまって」
そう言いながら出てきた女性は、こちらを見てほっとした顔で謝って来た。
改めて見ると白い肌に白い髪、そして真紅の瞳に額の上には小さな白い突起…角が生えている。
この親子は鬼族か?ここらじゃ珍しいな。
「いえいえ、きっと私の馬を見て驚いたのでしょう。あ、改めまして私はユートと言います。下の村に立ち寄った際に貴女が織ったという布を見付けまして。是非とも良い値段で売って貰えないかと思いましてここまで足を運んだんです」
「なるほど、商人様でしょうか?にしては…いえ、なんでもございません。ですが折角足を運んでいただいたのに申し訳ないです。村に卸している布をあれ以上安く売ると私達も生活が難しくなるので…」
どうやら、村に卸しているよりも安く買いたいと言ってると思われたみたいだ。
うーむ、言葉って難しいよね。
「ああ、そうじゃないんです。どちらかというともっと高い値段で買いますよって話ですよ。その代わり、今ある布を全部買い取らせてもらえないかと思いまして」
これは本当だ。
大量の絹があるならそれで着物を作れるし、さらに女性の下着とかも作れるだろう。
コットン素材が悪いわけではないが、やはり絹製品というのは一度使うとなかなか離れられないものなのだ。
「ええ!?本当ですか…?それは願っても無いことですが…嘘じゃないんですよね?」
「もちろんです。信じられないのでしたら、その場でお支払いしても構わないですよ」
「…分かりました、では、お譲り出来る布をお見せしますので中へどうぞ」
そういうと、俺らを家の中に招き入れてくれた。
中には、所狭しと織り機や糸を紡ぐ機械などが置いてある。
その一角にもぞもぞと隠れようとして、お尻だけ隠れていない物体を見つけた。
それを見るや女性はぺしんっと軽く叩いた。
「いった〜い!お母さん、何するの!?あっ、さっきのコワイ奴!」
涙目になりながらお尻をさすり、俺等から隠れるように母親の後ろに隠れた。
名前は確かペルラと言っていたか。
「いつまでそうしているのっ!お客様なんだから、ちゃんとしなさい!」
あまり喋らないと聞いていたが、どこの世界もお母さんになると変わるもんだ…
早速いくつかの反物を出してくれた。
どれも色を染めていないので真っ白だが、艶がありとても綺麗な生地だ。
メイアとか見たら喜ぶだろうな…、今度一緒に連れてこよう。
「そういえば貴女は、もしかして鬼族ですか?」
「はい、そうですよ。あ、申し遅れて失礼しました!私はパールと言います。この子は娘のペルラです。私達は東大陸の魔王から逃れてきた、"白夜叉"一族の末裔なのです。夫が早くに亡くなってしまい、この村にもう私達だけなので珍しがられてますが100年以上前からいるんですよ」
それから少し昔話を聞かせてくれた。
───百年前の事。
"白夜叉"達がここに定住した理由。
そして、火焔の守護者と言われている事を…。
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