第206話 白き鬼の一族

 パールは俺に白夜叉族について昔話を聞かせてくれた。


 ───それは百年前の事だ。


 元々"白夜叉"達は、東の大陸【イーガス】にある山に住んでいたらしい。


 そこは気候も穏やかで自然豊かなところだったらしく、食料も豊富で外敵の魔獣等も少ない安全な場所だった。

 その為、その土地を狙って頻繁に種族同士の争いがあり、日々戦争状態だったらしい。


 "白夜叉族"は鬼族の中では華奢な方らしく、妖術には長けていたが肉弾戦にはめっぽう弱かったので、他の鬼族と闘いになると殆ど勝てなかったのだという。


 その為に人気の少ない安全な土地に住み着いていたのだが、魔族同士の戦争が激化したせいで他の鬼族が土地を追いやられてしまい、白夜叉族の土地に流れ着いた他の鬼族が土地を奪う為に、戦争を仕掛けてくる事が多々あったようだ。


 そんな事が何年、何十年も続き、ついには一族が暮らす本里まで襲われ滅亡の危機に陥った。

 一部の白夜叉族がなんとか命からがら逃げのびて、この南大陸に渡ることが出来たらしい。


 当時はまだこの南大陸は人間領でも魔族領でもなかったらしく、昔から住んでいる各種族が縄張りを決めて住み分けしていたという。


 そんな中にいきなりやってきた彼らを、この地に住むサラマンドラ族は当然許すことは出来ずにまた争いとなった。


 元々非力な上に、強靭な肉体と多くの戦士がいたサラマンドラ族に数と力で負けた白夜叉達は、近くにあった【火の神殿】に逃げ込んだ。

 

 反撃することもままならず、一人また一人で倒れていく中でついに最奥の祭壇まで追い詰められた白夜叉達は、名も分からない者に祈りを捧げた。


『誰でもいい、なんでもします。どうか一族を助けてください!』


 すると祭壇に、思いを聞き届けた一人の女神の如く美しい精霊が現れる。


 その名を【フレイヤ】と言った。


 彼女は彼らにこう言った。


『この神殿の守り人になり、永遠に我を称えるのであれば、お前たちとサラマンドラ族の中を取り持ってあげましょう』と。

 

 当時の長は考えるまでもなく、それを承諾する。


 すると不思議な事に、彼等を追いかけてきた筈のサラマンドラ族は、何を追いかけてきたか忘れたようにふらりと村へ戻っていったという。


『彼等には、私の魔法で一時的にそなたたちの事を忘れさせた。そして今、我から彼らの長に使者を送った。これでお前たちは襲われる事は無くなるだろう。これからはこの神殿がある山に住み、我に祈りを捧げ続けるが良い。…もし我への祈りを辞めた時は…我の庇護が消えると思え』


 それから白夜叉族はこの山に集落を作り、日々フレイヤに祈りをささげて慎ましく暮らすのだった。


 白夜叉族は、そのときからフレイヤの眷属となり"火焔の術"というものを使えるようになった。

 その力を使い、神殿に侵入して荒そうとするものや壊そうとするもの達を追い払う役目も授かった。


 また、フレイヤに選ばれし者が現れた場合は、その者を神殿に案内する役目も担っていた。


 それらの事が知れ渡っていき、いつしか白夜叉族は"火焔の守護者"と言われる様になったのだと言う。


「ですが…、数年前に勇者様が訪れた際に魔王軍に見つかってしまい。私達"白夜叉"の殆どの者が斃されてしまいました。…当時身重だった私は麓の村に匿っていただいたおかげで難を逃れましたが、私の夫も父も母も…集落の者の殆どがその命を絶たれてしまったのです」


 お、数年前までは勇者はいたのか。

 ペルラの歳を考えると、5年くらい前ってとこか?

 それは面白い情報を聞いたな、LBOの世界とは少し違うみたいだ。


 しかし、なんとも壮絶な人生だな。

 いや、鬼だから鬼生なのか?


 昔話を聞くだけのつもりが、パールの身の上話まで聞いてしまったのだが、それにしても村のおばちゃんの感じだと"火焔の守護者"って思っている感じじゃなかったよな。


「村の人から疎外されている感じがしたけど、最近仲が悪いのか?」


「いいえ、そうではないんです。私達の集落が壊滅したせいでフレイヤ様との約束を守ることが出来なくなったので、村の人々から私達の記憶が消えてしまったみたいなのです。なので、いつの間にか住んでいる不気味な親子と言われるようになったようで…」


「なるほど、からというわけか。なんとも厳しいな…」


「いえ、役目を果たせない私達が悪いのです。せめて、ペルラがもっと大きくなれば守護者としても働くことが出来るんですが…」


 なるほど、授かった"火焔の術"はそのまま残っているのか。

 だとしたら、他の街へと移住するとかダメなんだろうか?


「他の土地へ移るわけにはいかないのか?もう、フレイヤは一族を護ってくれないんだろ?」


「そうですね、そういう手もあるかもしれないです。ですが生まれてからこの土地から出たことが無い私は他の土地の事も分からないので、正直どこへ行ったら良いのかも分からないのです。それに違う土地へ行っても私達を受け入れてくれるかどうか…」


 うーん、尤もな話だな。

 今まで迫害されてきた歴史を持っている上に、今は村人からも冷たくされている状況では他の場所に希望を持てるわけはないか。

 かと言ってこのままここに住んでいても、この事態が好転するようにも思えないしなぁ。


 鬼族か…。


 ん、うちの使用人達って一応鬼族になるのか?

 だったら…。


 そこで、俺は一つの提案を思いつくのだった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る